投稿日:2010年01月03日 (日) 23時36分
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この番組はここ数年高水準の歌唱を聴かせてくれ、日本のオペラ歌手の高い水準を示しておりました。 本年も同様の期待で、テレビの前に座ったのですが、今年ははっきり期待外れでした。それもはっきり申し上げて最低レベルのコンサートでした。
まずはプログラムの紹介: 第53回 NHKニューイヤーオペラコンサート「歌の起源、オペラを超える劇空間」
【合唱】藤原歌劇団合唱部・二期会合唱団・新国立劇場合唱団 【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団 【指揮】沼尻竜典 【バレエ】吉田都/ロバート・テューズリー 【司会】寺田農 当初出演予定だった藤村実穂子はキャンセル。
01. 混沌の序奏(野見祐二) 02. 【合唱】オラトリオ「天地創造」から合唱「リラをとって」(ハイドン) 03. 【波多野睦美】歌劇「妖精の女王」から「聴け、いかにすべてのものが」(パーセル) 04. 【岡本知高】歌劇「アルタセルセ」から「わたしは揺れる船のように」(ブロスキ) 05. 【望月哲也】歌劇「後宮からの誘拐」から「お前とここで会わねばならぬ」(モーツァルト) 06. 【幸田浩子】歌劇「後宮からの誘拐」から「あらゆる苦しみが」(モーツァルト) 07. 【合唱】歌劇「後宮からの誘拐」から「近衛兵の合唱」(モーツァルト) 08. 【大村博美・合唱】歌劇「ノルマ」から「清らかな女神よ」「わたしの胸に帰れ」(ベルリーニ) 09. 【合唱】歌劇「魔弾の射手」から「狩人の合唱」(ウェーバー) 10. 【松位浩】歌劇「魔弾の射手」から「だれも気がつかないように」(ウェーバー) 11. 【二階谷洋右・与那城敬・合唱】劇的物語「ファウストの業罰」から「地獄への騎行と悪魔の合唱」(ベルリオーズ) 12. 【吉田都・Rテューズリー】バレエ「ロメオとジュリエット」から「バルコニーのパ・ド・ドゥ」(プロコフィエフ) 13. 【合唱】「カルミナ・ブラーナ」から「運命よ、世界の王妃よ」(オルフ) 14. 【緑川まり・小山由美】歌劇「ローエングリン」から「わたしを呼ぶのはどなた」〜「あの方の妻となるために」(ヴァーグナー) 15. 【福井敬・堀内康雄】歌劇「オテロ」から「清らかな思い出は、遠いかなたに」〜「神かけて誓う」(ヴェルディ) 16. 【木下美穂子】歌劇「運命の力」から「神よ、平和を与えたまえ」(ヴェルディ) 17. 【佐野成宏】歌劇「トスカ」から「たえなる調和」(プッチーニ) 18. 【佐野成宏】歌劇「トスカ」から「星はきらめき」(プッチーニ) 19. 【佐々木典子・森麻季・林美智子】歌劇「ばらの騎士」から「あれはほんの笑い話」〜「心から愛しています」(Rシュトラウス) 20. 【合唱】オラトリオ「天地創造」から合唱「大いなるみわざは成就し」(ハイドン)
一言で申し上げれば、演出がひどすぎる。最低。論外。演出家は宮崎研介という方のようですが、この方を含め今回のスタッフは本質的にガラ・コンサートがどういうものかわかっていないような気がします。
NHKのニューイヤー・オペラコンサートは本来お正月のお屠蘇気分をオペラアリアで楽しもうというガラコンサートのはずです。ガラコンサートである以上基本は華やかなものでなければいけません。もちろん、オペラの歴史を2時間で見せるというコンセプトは悪いものではないけれども、選曲の趣味、舞台の趣味、衣装の趣味、どれをとっても悪趣味の極限でしょう。
まず選曲が良くない。ガラコンサートはお祭りなのですから、基本はメジャーな華やかな作品を中心に選曲します。ところが今回はマイナーな線に走りすぎています。オペラの歴史を概観する時、バロックオペラ、モーツァルト、ベルカントオペラ、ヴェルディ&ワーグナー、プッチーニ&シュトラウスという流れは、妥当ではありますが、それぞれで有名な作品を選択すべきでしょう。
バロックオペラであればモンテヴェルディやヘンデルを選ぶのが普通だと思います。たとえば、ヘンデルであれば、「セルセ」の「オンブラ・マイフ」であるとか、「リナルド」の「涙流れるままに」といった名曲中の名曲があるわけですから。
その上、あの岡本何とかという歌手は何ですか、確かに高音は出ていますが、アジリダは全然できていないし、歌が詰まっていて余裕がない。アクロバチックな見世物以上のものではありません。あんな歌手を出演させるNHKの見識を疑います。普通のメゾソプラノの歌手で、もっと上手に歌える方は山のようにいらっしゃいます。テレビ番組ですから、派手な話題は考えるのでしょうが、それにしても、悪趣味です。
モーツァルトで「後宮」を選ぶのもディレッタント趣味ですね。モーツァルトの代表作はやはり、「フィガロの結婚」、「ドン・ジョヴァンニ」、「魔笛」なわけですからそこから選ぶのが本当でしょう。私は「後宮」は大好きなオペラですし、幸田浩子の歌った「あらゆる苦しみが」は好きなアリアですが、今回のプログラムの趣旨には合わないように思います。
ベル・カントを代表する作品として「ノルマ」を選ぶのもどうかと思います。「ノルマ」は確かにベルカント時代の作品には違いありませんが、ベルカントの典型からもっと劇的な表現への過渡期に位置づけられる作品で(だからこそノルマ役はドラマチックな表現を得意とするソプラノが歌うのです)、普通であれば装飾歌唱の魅力を味わえるロッシーニかドニゼッティを選ぶべきでしょう。
ヴェルディも玄人趣味。オテロとイヤーゴの二重唱は名曲ですがどう見ても華やかな曲ではありません。「オテロ」はヴェルディの最高の傑作のひとつですが、渋い作品で、ガラコンサート向きとは思えません。「運命の力」の「神よ、平和を与えたまえ」はいい選曲だと思いますが。ワーグナーだって、「ローエングリーン」を選ぶのもどうかしら。「指輪」か「名歌手」あるいは「タンホイザー」、「オランダ人」などにはガラ・コンサート向けの曲が色々あると思います。
プッチーニとシュトラウスはまあいいと思います。
こういうコンサートでは初心者向けの曲を半分かそれ以上、そうでない曲は半分以下にするのが常道なのですが、今回そこそこオペラを楽しむ人でよく知っているのは、「トスカ」の「妙なる調和」と「星は光ぬ」だけではないでしょうか。
更に衣装の趣味の悪さはどうしようもありません。ガラ・コンサートなんだから下手に演出など考えずに、普通に燕尾とロングドレスで歌えば良いと思うのですが、困ったものです。
歌唱は2,3の例外を別にすればまあ良好の内でしょう。個人的に一番気に入ったのは、福井敬と堀内康雄の「オテロ」の二重唱。全体的にみて、男声のほうが良かったと思います。佐野成宏のトスカのアリアなど。二階堂洋右と与那城敬の「ファウストの業罰」の二重唱も良かったです。女声はどれもこれも悪くはないが今一つ。大村博美のノルマはミスキャストだと思いますし、よく合っているはずの幸田浩子のコンスタンツェも伸びやかさが今一つ足りない感じでした。木下美穂子の「運命の力」のアリアは、最盛期の佐藤しのぶの歌と比較すると艶やかさに難があります。「ばらの騎士」の終幕の三重唱は個人個人は皆とても上手なのですが、この作品に流れている爛熟の雰囲気に乏しく、もう少し何とかならないものかと思いました。 |
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