投稿日:2018年02月20日 (火) 19時03分
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2月18日「松風」を鑑賞しましたが、週末まで本文中に書けないので、とりあえず掲示板に感想をアップします。
2018年2月18日 D席、2FL2列4番 2916円 新国立劇場開場20周年記念公演 主催:新国立劇場 新制作/日本初演
全1幕日本語字幕付きドイツ語上演 細川俊夫作曲松風 台本:ハンナ・デュプケン 同名の能に基づく
スタッフ 指揮:デヴィット・ロバート・コールマン オーケストラ:東京交響楽団 ボーカルアンサンブル:新国立劇場合唱団 ダンス:サシャ・ヴァルツ&ゲスト 演出・振付:サシャ・ヴァルツ 美術:ピア・マイヤー=シュリーヴァー/塩田千春 衣裳:クリスティーネ・ビルクレ 照明:マルティン・ハルク ドラマトゥルグ:イルカ・ザエフェルト 音楽補:富平恭平
キャスト 松風:イルゼ・エーレンス 村雨:シャルロッテ・ヘッレカント 旅の僧:グレゴリー・シュカルバ 須磨の海人:萩原潤
感想:知識のなさを痛感する。
百人一首の16番目が中納言行平の「立ち別れ いなばの山の みねにおふる まつとし聞かば 今帰り来む」であることは知っています。この歌は元々古今和歌集にあって、855年在原行平が因幡守に任じられ、任国への下向に際して詠まれた歌だそうです。
一方、神戸の須磨には「松風・村雨伝承」というお話が伝わっていて、松風・村雨は姉妹で多井畑の村長の娘。本来の名は「もしほ」と「こふじ」であった。須磨に汐汲みに出たところ、天皇の勘気を蒙り須磨に流されていた在原行平と出会い、「松風」「村雨」と名づけられて愛された。ということで、上記の百人一首もこの時の別れに際して詠まれたとか。
この伝承は色々な芸術作品に取り上げられているそうですが、その代表が能の「松風」で、謡曲としては最も人気のある作品の一つだそうです。
私自身「能」という舞台芸術があることは知っておりますが、見たことはこれまで一度も無く、どういう約束事があるかも知りません。Wikipediaで調べてみると、「能楽は、俳優(「シテ(仕手/為手)」)の歌舞を中心に、ツレやワキ、アイ狂言を配役として、伴奏である地謡や囃子などを伴って構成された音楽劇・仮面劇である。舞と謡を担当し、実際に演技を行うのがシテ方、ワキ方および狂言方であり、伴奏音楽を担当するのが囃子方(笛方、小鼓方、大鼓方、太鼓方)である。」であるそうです。また、謡については、「能における声楽部分である謡を謡曲と言い、大別するとシテ、ワキ、ツレなど劇中の登場人物と、「地謡(じうたい)」と呼ばれる8名(が標準だが、2名以上10名程度まで)のバックコーラスの人々である。」と説明がありました。
ちなみに、能「松風」では、シテ:海人松風の霊、ツレ:海人村雨(松風の妹)の霊、ワキ:旅の僧、アイ:里の男。であり、他に地謡が入ります。
オペラ「松風」は能「松風」を完全に踏まえており、登場人物も一緒であれば、合唱は能の地謡の代替で人数も8人(一人は須磨の海人が兼務)です。オーケストラは能の囃子方とはもちろん違いますが、基本一管の小編成で、打楽器だけは数多く使用されるという、能を意識したものです。
しかしながら音楽は謡曲とは当然全然違うものです。謡曲が形式的で静的な音楽であるのに対し、オペラはもっとダイナミックだし、劇的な表情もより強く出ています。ただ、元の謡曲の影響は例えば打楽器の和楽器的な使用や、無音部分の多さ、ミニマル音楽的な繰り返しなどに出ているのかな、とは思いました。日本のオペラ作品は総じて民謡的な響きなどを利用することが多いですが、「松風」は元が謡曲だけにそのような日本ぽさはなく、和楽器を使用した武満徹の音楽とどこか通ずるものがあるのかな、という気がしました。
とはいえ、一度聴いただけですっと入ってくるような音楽ではもちろんなく、その響きに感情を揺さぶられるところはあまり多くなく、個人的には腑に落ちているわけではありません。再演された時聴ければ、また違った感想が出るかもしれません。
さて、能において重要なのは謡とともに舞です。今回のオペラ「松風」においては、舞はサシャ・ヴァルツによる踊りで換わられました。ヴァルツはコンテンポラリーダンスを代表する振付師、ダンサーの一人であり、松風で踊られるダンスもコンテンポラリーダンスの範疇に入るものだと思います。その動きはアクロバチックであったり、あるいは静的であったり目まぐるしいですが、コンテンポラリーダンスにほとんど親しみも知識もないものにとって、「ほおっ」と思うだけです。ただ、ヴァルツは舞台を立体的に使用するという意識が濃厚なようで、塩田千春のクモの巣のような無数の紐を用いたインスタレ−ションを使って、歌手もダンサーも空中に浮かせます。照明とのバランスで、全体が幻想的ではあり、松風の主人公が亡霊であることを踏まえると、それはそれでいいのかな、と思いました。 |
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