| [10] 一つの赤い物語 |
- マロン - 2006年06月01日 (木) 20時32分
1 前編
昔々、都市はずれに一つの村があった。 名を「赤原村」といい、都市へ出稼ぎに行くものもいれば、村へ 残り農作業をする者もいる。 そこには「赤神様」と呼ばれる山の神が祭られていた。
ある日、その村で男が死んだ。 洋子の夫、竹男だった。 おそらく働き詰めによる疲労だろう、という意味の言葉を医者は言っていた。 洋子は朝から晩まで家へ閉じこもり、竹男を使った。 仕事をまったくせず、ただ毎日を飄々と生きている人間だった。 そんな妻とは正反対に、竹男は腕がちぎれる程によく働いた。 朝から晩まで畑や水田で汗を流し、夜になれば就寝までずっと縄をなった。 しかし、その姿を毎日見ていても洋子は何もしようとしなかった。竹男の稼いだ金で、ただただ毎日酒飲みに入り浸っていた。
その矢先、2人の間に一人の子供が生まれた。 名を「彩」といい、竹男の愛を全身に受け、懸命に育っていった。 しかし連日の喧嘩は絶えず続いた。 洋子は何かと因縁をつけ、竹男から金を奪っていった。 彩はそれだけを見て育った。
父が死んだ。その事実が彩の全身を貫いた。 実質彩を育てていたのは竹男だけだった。その事実がさらに彩へ 現実となって立ちはだかった。
泣いた。目から水分が流れきるまで、声がかすれ、出なくなるまで泣いた。 そして母を見た。娘が泣いているのだ。きっとその暖かい腕で抱きしめてくれるであろう、そんな淡い期待を持っていた。 そこには煙草をふかし、不快そうな眼差しでこちらを見る洋子があった。
「うるさいから、黙ってなさい」
母から出た言葉はそれだけだった。 その言葉はやけに静かだったせいか、妙に重く彩に圧し掛かった。 彩はそれ以上しゃべらず、床についた。 一つの決心をした。その心を胸に秘め、静かに瞼を閉じた。 次第に意識が遠のいていった。
〜〜〜〜〜 1話前編です。 いつ全部終わるかわかりませんががんばって書ききろうかと思います^^;
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