| おじさん記者の感謝を込めた大研究 「モーニング娘。」居酒屋論 |
毎日新聞
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国民的アイドルグループ「モーニング娘。」初のベストアルバムが31日、発売された。題して「ベスト! モーニング娘。1」。デビューから3年、モー娘のすべてが詰まった15曲、彼女たちのはじける歌声は、世の不況風を吹き飛ばし、おやじ世代まで元気にしてくれた。モー娘。よ、ありがとう。これは感謝を込めた大研究――。【鈴木琢磨】
□女子高の休み時間□ ♪超超超いい感じ 超超超超いい感じ……。新曲「恋愛レボリューション21」は、従来にも増して作詞・作曲のつんく=写真=のセンスがさえるゴキゲンな仕上がりだ。テレビ東京天王洲スタジオで、モー娘がレギュラー出演中の「MUSIX!」の収録を見た。歌もダンスもサマになっているオン・ステージ。本番が終わると、総立ちの観客は「なっち、かわいい!」「かおりん、すてきだよ!」。モー娘はモー娘で、互いにじゃれあったり、たわいのないギャグや会話をポンポン飛ばしたり。女子高の休み時間、そんな空気である。
「あ、こんなタイプ、クラスにいたよなって女の子がズラッとそろってる。いきのいいクラスですよ(笑い)。互いにライバル意識もあって、指先の動きひとつひとつまで緊張感を持ってやってるのがすごい。こだわりもある」(担当の只野研治プロデューサー)
□つんくソースの味□
モー娘。には不思議なパワーがある。1997年にテレビ東京系の「ASAYAN」のオーディション企画で落選した5人組(中澤裕子、石黒彩、安倍なつみ、飯田圭織、福田明日香)でスタート。いわば敗者復活だった。その後、8人組(保田圭、矢口真里、市井紗耶香が加わる)→7人組(福田が抜ける)→8人組(後藤真希が加わる)→7人組(石黒が抜ける)→11人組(石川梨華、吉澤ひとみ、辻希美、加護亜依が加わる)→10人組(市井が抜ける)と目まぐるしく編成は変わったが、お好み焼きの具を選んで楽しむ感じで、モー娘の味の基本は変わらない。つんくソースがしっかり利いている。 そのつんくソース、奇をてらった味ではない。彼は言った。「自己陶酔型の音楽ってすごく嫌いでね。おれだけが楽しめればいいというんやったら一生、家で弾いとけ、ギャーギャーうるさいねんって感じ。歌手として、アーティストとして、ひとりでも多くの人に聴いてもらいたいし、感動してもらいたい」(2000年1月26日付特集ワイド)。つんくのターゲットはあくまでも大衆。庶民が普段、口にしているよりちょっと上のランクの味あたりだろうか。 □「お得感」いっぱい□
だが、いくらつんくソースの味がよくても、それだけで、ここまでの人気の説明にはならない。なにせNHKの「好きなタレント2000」の女性部門で堂々の7位である(ちなみに6位は吉永小百合、8位は中村玉緒)。それも前年の59位からいきなりのベスト10入りとなれば、時代そのものがモー娘を求めているとしか考えられない。それはなんだろう――。 たとえば、時代に敏感なCM界で、モー娘はちょっとした事件を引き起こしたことがある。江崎グリコが新商品「ムースポッキー」のキャラクターにモー娘を起用したところ、売れに売れ、販売休止の大騒ぎになった。10人のメンバーそれぞれのバージョンのCMがあり、さらにそれをまとめたロングバージョンCMは、その予告CMまで流して話題をさらった。
モー娘メンバーは、12〜27歳、ひと回り以上もの年齢差だ。しかも個性を前面に押し出して「中澤ゆうこ」「タンポポ」「プッチモニ」「ミニモニ。」……。バラ売りOKだ。そもそもモー娘の名の由来は喫茶店のモーニングセット。「お得感」が身上だ。そこが大阪出身のつんくらしい。そういえば、キャラメルにおまけをつけたグリコも大阪の会社だった。
◇斬新だけど、安心できる
□仮想「ASAYAN」□
もうひとつ、モー娘人気の秘密を解くカギがテレビゲーム「プレイステーション2」(PS2)の新ソフト「スペースヴィーナス」だ。ソニー・ミュージックエンタテインメントが開発したこのソフト、なんと手元のコントローラーで、モー娘のプロモーションビデオやライブ映像を360度カメラを右に左にパン、あるいはズームアップさせながら「自分だけのモー娘」を演出できる。「ASAYAN」さながら、バーチャルでつんく気分が味わえるわけだ。
「モー娘のファンは、彼女たちのパフォーマンスのすべてが欲しくなるんです。音楽と映像の融合では、日本一でしょう。最新のPS2の技術を駆使して完成したソフトですが、モー娘でしか実現できなかったソフトだともいえます」(プロモーション部)
若者の町・原宿にモー娘グッズショップができたと聞いて、出かけた。壁という壁、天井までモー娘のナマ写真。お気に入りの写真を買っている。異様な熱気。コントローラーをいじっているだけでイライラしてくるおやじ世代はお呼びじゃない世界だったが、モー娘はおやじの活力源、栄養ドリンクでもある。いや、モー娘もおやじをチラッと意識している。
□錯覚でもうれしい□
思えば、モー娘デビューからの3年、日本はさえない。サラリーマンは冬の時代が続いている。小遣いは減らされ、銀座は夢のまた夢。飲むのはたいてい居酒屋。忘年会で、大ヒット曲「LOVEマシーン」の一節<日本の未来は>の<日本>を自分の会社の名前に替え、<世界がうらやむ>の<世界>をライバル会社の名前に替えた宴会ソングがはやった。「ハッピーサマーウェディング」は、嫁ぐ娘の歌だ。<一生懸命親孝行したい>。ストレートな歌詞、おやじはジンとくる。たまに、おやじの方を振り向いてくれる。それが錯覚であってもうれしいのだ。
つんくに聞いたことがある。根っからのおやじっぽいけど、ちっちゃいころから居酒屋で飲んでいた? 「別に居酒屋に出入りしてはいませんけどね。ずっと、じいちゃん、ばあちゃんと住んでいたんで、たぶん、じいちゃん、ばあちゃんの持っている徳とかモラルをたたきこまれてきて、ちょっと目線が年寄りくさくなってるのかもしれません」。斬新(ざんしん)な音楽でありながら、おやじも安心できる理由が、ここらにありそうだ。
さて、21世紀のモー娘は、まだまだ伸び盛りだ。縄のれんよりおしゃれで、安くてうまい、しかもマスターの気さくなおしゃべりも最高――、そんな居酒屋はつぶれない。モー娘はどこまでも居酒屋路線で行くがいい。そして、おやじの応援団でいてほしいのだ。
◇曲が時代にハマッた−−中澤裕子さんインタビュー
――大変な人気です。
◆ひとごとのように聞こえるかもしれないけど、すごいなって思う。来年は消えるだろうタレントナンバーワンだったりもしたのにね(笑い)。私たちって誰かの後に出てきたグループじゃなかったでしょ。それがよかったのかな。おニャン子クラブに比べられたりもしたけど、違うし。でも、つんくさんの曲がうまく時代にハマッたっていうのが一番、大きいな。
――つんく評を聞かせて。
◆「恋愛レボリューション」に<この星は美しい2人出会った地球>って歌詞があるんだけど、それって、言葉にできそうでできない。さらっと書いたのか、悩んで書いたのか。つんくさん、言葉の天才ですよ。モー娘の狙いは「ダサかっこいい」。振り付けだって「うそよー」みたいなのあるんだけど、かっこ悪いことでも真剣にやればかっこいいって教えてくれた。つんくさん、いくつ顔を持ってるんですかって聞いたことがある。「いっぱいあるで」って。だから魅力的なんやと思います。
――ベストアルバム15曲の中の中澤ベスト1を教えて。
◆うーん、選べない。あえて選ぶとすれば、デビュー曲「モーニングコーヒー」。デビューできるかできないかって状況で、夢が果たせた曲ですからね。復活組に入ってなかったら、つんくさんに「おまえ、できるかあ」って言われて断ってたら……。出会いや別れを繰り返してきたけど「毎日、歌が歌えて、テレビに出られて、いいよね、私たち」だけでやってるんじゃない。目指すものがここにあると信じてるからやれる。それは歌。もっと質のいいモーニングセットになりたい。トーストにしてもサラダにしても卵にしても。
――モー娘居酒屋論は?
◆ハハハ。当たってると思います。私もお酒、飲みます。ビールが好きで、居酒屋にも行く。量は減らしたけど、中澤は減らして普通だって(笑い)。そうそう、つんくさんって、すごく普通のおっさんみたいなとこある。ご飯食べてるときとか、テレビをボーッと見てるときとか。これまで、たくさんのびっくりすることを経験したけど、最終的にそれを楽しんでいる。それがモー娘。また無理そうなこと、できなそうなこと与えられるかもしれないけど、きっと私たちは乗り越えていく。つんくさん、かかってこいって感じ!
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掲載日:01/01/31 |
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