「静寂に包まれた真っ白な大地で、犬とぴったり呼吸を合わせて走ると、周りの美しい自然と一体になれて、最高に気持ちいいの」。あどけなさが残る顔に満面の笑みが弾けた。
　
　中学一年だった一九九七年の冬休みから、毎年冬になるとタレント田中義剛さん経営の十勝管内中札内村の花畑牧場にびっちり通い、趣味の犬ぞりを満喫した。そりの腕を磨き、犬の調教師になるのが夢。それを実現させるために、二〇〇〇年春、中学卒業と同時に生まれ育った苫小牧を離れ、同牧場で住み込みで働き始めた。
　
　転機が訪れたのは同年五月。田中さんプロデュースの同牧場を拠点に、酪農と芸能活動の両立を目指す「カントリー娘。」の追加メンバー募集のオーディションだった。同僚に勧められて受けたところ、約四百人の応募の中からただ一人選ばれた。メンバーの事故死など不運続きだった「カントリー娘。」は、発足時からのメンバーりんね（戸田鈴音）との二人組となった。
　
　中学校の学校祭でジャズダンスを披露するなど、もともと踊りや歌が得意。「りんねちゃんが家畜の世話とテレビのお仕事を両立しているのを見て、ちょっぴり芸能界にもあこがれてた。でも、受かるとは思わなかった」
　
　六月、同牧場が舞台の映画「カントリー・ガール北海道牧場物語」で、獣医の娘役を演じたのが芸能界の初仕事。せりふが棒読みで感情も上手に表現できなかったと反省するが、「毎日、新しい発見と経験ばかりで楽しかった」と、手ごたえをつかんだ。
　
　その後も、犬の世話や観光客相手のショーなど牧場の仕事の傍ら、レコードデビューも果たし、道内外のテレビとラジオのレギュラー番組を計五本も抱える人気者に。北海道と東京を往復する慌ただしい生活が続いたが、牧場の仕事を通じて体力がついたため、疲れや風邪とは無縁だ。
　
　新年早々、同じ所属事務所の「モーニング娘。」らと共演する全国ツアーが始まるため、十一月末から牧場を離れ、東京でホテル暮らし。連日、発声やダンスの練習でスケジュールはびっちりだが、「東京はビルばかりで、空気がまずい。北海道の大自然は本当にいいなとしみじみ思う。牧場に戻って犬たちと遊びたいな」と本音を漏らす。
　
最近では、苫小牧に帰る機会はめっきり減ったが、地元の友人との長電話が仕事以外で一番の楽しみ。「十五年間暮らした苫小牧のことを思い出すと、『がんばろう』という気持ちになれるの」
　
今の目標は、苫小牧の夏の一大イベント、港まつりのステージに立つこと。「私を育ててくれた古里にお礼がしたい」。夢の実現に向け、日本初の“半農半芸”アイドルは、着実にスターへの道を歩んでいる。（苫小牧報道部）