さえない年の、沈んだ空気を引きずったまま、０２年が始まりました。失業、倒産、テロに不審船と、身の回りも国の周りも心配なことばかり。日本人が自らを鼓舞して歌ったように、明日は本当にあるのでしょうか。日ごろ経済ニュースにはなじみの薄い異分野の面々に、「不安からの出発」を聞きます。
　
　――八方ふさがりのような日本で、つんくさんの周りは０１年も元気でした。「モーニング娘。」のエネルギーはどこからくるのでしょう。
　
　「何人か集まると個性のつぶし合いになるんですが、逆に集団として放つエネルギーがあります。喫茶店で女の子が４、５人いたら、間に入っていかれへんような威圧感があるじゃないですか。モーニングもノイジー（騒々しい）なんやけど、ある意味、キャーキャー騒いでるのが、いやしになっている。お年寄りが見ても『いいなあ、若いなあ』と思えるエネルギーです。それにお茶の間が引っ張られたんやと思います」
　
　「彼女ら『ＬＯＶＥマシーン』という曲で全国区になったんですが、作った僕も元気をもらいました。うまいへた関係なく、聴くほうに『そうやな、いまヤアヤア言うてもしゃあないか』という空気が出てくれた」
　　　　
――「モー娘。」の初期メンバーは、オーディションの落選者たちでした。負け組にもチャンスがあったわけです。
　
　「歌だけなら、もっと上手な子がいっぱいいると思うけど、モーニングには名前通り朝市か、デパートの地下食品売り場みたいな魅力があります。さあ何買おうか、と思うワクワク感です。高級な骨とう屋じゃなく、１００円ショップ。入りやすくて、知らん間に千円、２千円こうてる」
　
　「初めは、即席で１年もてばという感覚でした。だから、安倍（なつみ）とか北海道出身の連中が少々なまってても、中澤（裕子）が大阪弁でも、ええんちゃうとなった。あとで入った後藤（真希）も、金髪のままでええんちゃうって」
　
――それで潜在能力が引き出せたと。
　
　「音程がはずれても、すごいエネルギーを感じることがあるんです。美空ひばりさんが生きていても、こんなニュアンスもう出えへん、というくらい新鮮なものがゴンと出る時がある」「１等賞をとるのは、強運を持っている人間のみやと思う。だから、クラス５０人の５番か４番を目指したらいい。どんなやつでもそこまではいけます。それを自分の中の１位だと思えばいい」
　
――「モー娘。」は出入りが激しいうえ、内部に小グループを作ったり、他の歌手と組んだり、いつも変化しています。柔らかい組織を意識しているのでしょうか。
　
　「売れると、安全圏を求めるようになります。『こんなキャラ（個性）で見られてたらいいんや』とか『私、ボケる役やねん』とか、定位置ができちゃう。２番手でいいという空気も出ます。小さなユニットやシャッフル（入れ替え）によって、そんな気持ちが散っていく。全体での位置どりが変わり、自分にいろんな可能性を見られる。慣れたら、また違う個性をぶつけて違うエネルギーを引き出します」　　　　
　
――不安定さが活力を生み出す？

　「ジェットコースターって、心臓に悪いのに金払って乗るでしょ。モーニングには常に『なんかある』というドキドキ感があって、見ている側が引っ張られる。本人たちが一番ドキドキしている。それが何よりのエネルギーじゃないですか」
　
　「僕自身、自分を定番に乗せないよう気をつけています。間違えた歌詞を正解にしちゃうとか、あえてハプニングを拾っている。『ＬＯＶＥマシーン』にはハハハという笑い声が入ってますが、あれはＮＧテーク（失敗録音）をそのまま張り付けました。そういう、こぼれてくるものが大事なんです。ただ、最初からそれを狙うと面白くないので、常に緊張感は持っています」
　
――元気のモトはドキドキ感なんですか。
　
　「例えば、いい曲に出あったときの驚き。別れ歌でもハッピーな曲でも、広く浸透していく歌は歌詞が強いんです。１行がズドーンと胸に刺さってくる。夜中に１人でラーメン食ってる時に有線で流れて、思わずハシを止める。そんなドキドキ感が大切ですよ」
　
　「日本の元気も同じでしょう。やってることを止めたくなるようなドキドキがあるか。その点、サッカーのＷ杯は期待大かな。日本がいいとこまでいけば、みんなハシ置くでしょう。その瞬間、ちょっと時代が変わりますよね」（聞き手＝山川一基）