僕の家の玄関には、白い額縁に入った小さな絵が掛けられています。
これは僕がまだ小さかった頃の思い出の一つです。
この絵を見るといつも、僕はあの人を思い出すのです。
あれはもう10年以上前の話になります・・・・・・・
僕が幼稚園年中の時、ある人に出会いました。その人はハナオさん。
ハナオさんは僕の両親の友人で、よく家に遊びに来ていました。
とても優しくて、笑顔が綺麗で、僕は一目惚れしました。初恋でした。
このあたりの記憶はアヤフヤですが、親にもハナオさんにも
好きという気持ちをうち明けているようです。
さて夏休みのある日の晩、僕はハナオさんに初めて電話をかけました。
「もしもし、こんばんは」
「あら、マモルくん?こんばんは」
「おげんきですか?」
「ええ。今、マモルくんは夏休み中?」
「はい。もうすぐおわりますけど」
「あのね、マモルくん。私、今日誕生日なの」
「え!おめでとうございます」
「すごい偶然ね」
多分偶然では無かったのでしょう。
父が、僕やハナオさんを喜ばせる為にやったんだろうと今では思います。
夏が終わり、秋と冬が過ぎ、春になった頃、母は僕に話しました。
「ハナちゃん、ね。結婚するんだって」
それを聞いても僕は泣かなかった(らしいです)。
そして結婚式を間近に控えたある日
「マモルくん。一緒に写真撮りましょ」
残念な事にその写真は僕の手元には残っていないのですが、
窓から差し込む光の眩しさと、前歯の抜けた顔で笑った事は良く覚えています。
そして結婚式当日。
父は僕を教会に連れていってくれました。
聞いたことも無い賛美歌を一生懸命覚えようとしていた時に
ウェディングドレスに身を包んだハナオさんが入ってきたのです。
その美しい姿を見た為に、僕は結婚に特別な思いを抱いたのでしょう。
そしてハナオさんは遠い街へ行き、それっきり会っていません。
小さな絵はこの結婚式の時、ハナオさんが僕に贈ってくれた物です。
今までに気づいた人は少ないでしょうが、この絵の裏にはメモが貼ってあるのです。
〜きょうはきょうかいで 〜
〜ハナオさんの花よめすがたをみました。〜
〜白いウェディングドレスをきてました。〜
〜ぼくはかわいいとおもいました。 〜
〜 〜
〜 199X年5月15日 〜
きっと僕も結婚の日が来るのでしょう。
その日にはこんな風に周りの人たちに思い出を残せるようにしたいです。
僕の思い出は以上です。
<コメント>
ジューンブライドには早いですね。
でも今日でなければ書けなかったんです。
偶然、一昨日思い出し,小説にしようと思い立ち・・・・
事実は小説よりも奇なり、ですよ。
絵はいわさきちひろさんが描いた絵で、
「窓ぎわのトットちゃん」の挿絵でした。