 優良家庭犬普及協会主催による「07冬のセミナー」が、このほど東京にて開催されました。 昨年秋のAMCJ研修会でも少々触れたものです。 講演の題目は「犬のブリーディング、ブリーダー、譲渡にまつわる考察」でした。 講師として、AMCJの前田が約4時間にわたりお話させていただきました。前田は、AMCJ主宰およびアラスカンマラミュート専門育成舎ザベリワンの代表として機会をいただきました。 優良家庭犬普及協会の許可を得まして、当日の主な講義内容を簡単にご報告します。
犬のブリーディング、ブリーダー、譲渡にまつわる考察
@ 私たちは何を目指して犬を“創る”のか? ◎ 犬は人工的動物 犬が人間社会に入ってきて繁殖に人が手を出すまで ○ 自然選択による変化〜人為的な変貌 ○ 犬の多形化@スポーティング&ノン・スポーティング〜更に細分化 ドッグショーが活発化する⇒ショーは能力や形態を競う場 ショーとはスタンダードに沿って審査と評価が行なわれる「犬種育成上の物差し」 ◎ 犬種育成者の究極の目的とは?〜理想の犬像 ○ それぞれの犬種の心身の特徴と能力が固定化され、更にその増強をはかる =劣った形質や不健全な部分を排除する行為 ○ 犬種ごとに理想像が異なるため一般的な「良い犬」の定義は難しい =用途に即した理想の構成と外観、社会的な好ましい性質、健全性など多角的な総合評価 ◎ 優秀な個体とはどういうものか? ○ 形質が犬種標準に限りなく近く健全で能力が優れていること ○ 家系的に繁殖成績が良く、繁殖法が明確であるもの ○ 環境面からの優位性 ◎ ベークウェル「家畜の改良繁殖は、近交と淘汰による」 ◎ 繁殖法〜オスメスの血統配合形式について ◎ 近交退化について〜人為的な改良・固定化の過程で行なわれる近親交配で発現する種の保存に不利な形質とは
@ 犬舎作業24時間と周辺環境〜ザベリワンにて
@ ある問い合わせ「私はブリーダーになりたい」 ◎ 非営利勉強会AMCJの紹介 ◎ ブリーダーにも目的によって色々なタイプがある ◎ 「犬の福祉を重んじる」と生業としてのブリーダーは両立可能か? ◎ ブリーダーのしなければならないこと ◎ 伴侶動物と経済動物の繁殖観は異なる
@誰かが「ある犬種を飼ってみたい」と言い出したら何てアドバイスしますか? 利殖繁殖家について/犬の価格のからくり/犬の仕入れはプロのお仕事?/まずは自分が抑えるべきポイントを学ぶ/倫理観ある繁殖者の活動原動力とは/社会から求められなければ繁殖活動は継続できない/
@誰かが「愛犬の子どもを産ませてあげたい」と言い出したら何てアドバイスしますか? ◎ 頭ごなしに禁止の言葉を投げかけない ◎ 現実的・具体的な話をして考えさせる ◎ 犬は人が目的に沿って作り出した人工動物。目的を見失った時点でその犬種は滅びる ◎ 一人の行為が全体に波及する? ◎ 良い繁殖者=理論+実践+少しのセンス
@仔犬を譲渡したい理想的な相手とは〜譲渡先の選別基準について
◎ 誠実な家庭を探す手段〜広告媒体のお話 ◎ 問い合わせのパターン ◎ どうやって相手の事情、周辺、希望の底にあることを判断する? 過去の犬経験/前の犬の死亡原因と年齢/マラミュートの接触経験有無とイメージ/犬と何をしたいか/今どちらから?/住宅街か郊外か周辺環境/犬の生活予定場所と柵や庭の状態/家族構成と大型犬への意見/同居予定の他ペット/家族の勤務形態と在宅時間/マラミュートの具体的希望と予算 ◎ 勝手ながら・・・具体的な「理想的飼い主」とは? マラミュートなら何でもいいの?〜こだわりの有無/学習意欲が強くて柔軟/実践の意欲がある/家族全員賛成/経済的窮屈さは少ないほうがいい/一緒に過ごす時間の長短より中身の密度/過去の犬経験は無くても良いけれど/頭デッカチは困ります/浮気はイヤだよ=結局は誠実さがモノを言う @譲渡契約書を作成してみよう〜自分の愛犬を人に託すなら
@まとめ〜犬籍登録団体+獣医師会+マスコミが一体となって指導体制を確立できれば・・・
以上の講義は午前10時に開始、途中少しの昼休憩をはさみ午後2時半終了しました。 次に獣医師・調査員による山口千津子氏による「電話相談にみる犬の購入の訴訟事例」のお話がありました。 多くはショップやブリーダーで購入した子犬の購入直後の病気などのトラブルの件でしたが、具体的な例を挙げられながらの興味深いお話でした。 その後、山口氏、企画・進行役で同協会常任理事・ペット問題研究家の山崎恵子氏、同協会常任理事のAFC・佐良直美氏および前田によるパネルディスカッションがありました。佐良氏は急遽TVの撮影が入り欠席となりましたが、会場の皆さんから出される質問に関して3者でマイクを交替しながらの熱い討論が繰り広げられました。 しかしながら前田への名指し質問〜主に犬の譲渡や保証条件の作り方について、また引渡し後の仔犬の社会化について〜が集中したので、最初の4時間にプラスして更にしゃべりとおしと相成りました(苦笑)。
感 想: 優良家庭犬普及協会といえば、犬のグッド・シチズンシップ・テストの実施で有名ですが、非常に基準が高くて厳しく、お堅い会というイメージが勝手ながら私のなかにはありました。AMCJ会報のバックナンバーにGCテストの内容が具体的に紹介され、会員さんの挑戦記も掲載されています。 ですが、このような会でのセミナーは、お互いにとって「動物関係は動物関係でも今までとは違う」層が相手でしたので、新鮮な話で非常に興味深かったと好評を得ることが出来ました。 当初、聴講者は動物関係の学生さんが多いと聞いていたので、それなりの内容を、と思って準備していたのですが、実際には犬のベテランのかたがた〜しつけインストラクター養成者や愛護団体員として既に幅広く活動されている〜の面々が多く見受けられました。また、開業獣医師、各地の動物関連専門学校講師、ペットグッズ業界のかた、ペット関連誌編集者などもお見えになっていました。 しかしながら、私がこの内容でお話したことは、どの方面のかたにもっと聞いていただきたかったかというと、これから犬関係で実社会に出るであろう若い人たちです。たとえば、動物専門学校や獣医学部で、今まさに勉強中の人々。それから獣医学部で教えている先生方。それにマスコミの人たち。これは、討論した上記3氏ともに同意見でした。 今回、四国や岡山、新潟など遠方から足を運んでくださった積極的な参加者らが多かったことは大変嬉しく思いました。しかし考えたいことは、こういう話にも耳を傾けてくれる気持ちを持たない犬関係者(個人ブリーダー、繁殖業者、ペットショップ)が業界には大多数だ、ということでは、と思います。 また、後ほど事務局から聞いた話ですが、広報の方法に反省すべき点があってこの講演会開催を知っている人が少なかったということでした。 (すみません、一般参加も可でしたので私も早くにAMCJ掲示板でご案内しようと思っていたのですが忙殺されてました)
討論で会場の聴講者から出された質問で、信頼できる繁殖者というものはどのように判断できるだろうか、ということがありました。 (正直なところ、私もマラミュート育成者=繁殖者=ですので、あまり手前勝手なことも言えず少々困ってしまい、他の2氏にご意見はお任せしてしまいましたが) これについては結局、「今後の課題」として、健全な繁殖と倫理的な譲渡について”最低限の守られるべき事項が明記された基準のようなもの”を作成し、繁殖活動にあたってそれを満たしているか、に照らす制度があってはどうか、という話になりました。
何はともあれ、今回の講演会は一人の持ち時間がかなり長く、講義内容練るのにかなり苦労しました(笑)。 余談ですが、AMCJの研修会が屋内・外で半日にわたり複数のテーマでバラエティーのある内容が組まれるのに比して、今回のはテーマは1〜2です。AMCJ研修会の参加費は格安だと思いますが、今回は聴講料だけで1名6300円でした。オフのおしゃべりでAMCJ研修会の話が出たのですが、研修会開催するごとにAMCJが赤字になってしまっては続けられません(06秋の研修会ではその点で失敗がありました)。どうやらAMCJにとってはこの点少し再考を要するかも、と思いました。 上記の講義内容ですが、協会の許可を得て、もう少し具体的な内容を会報にてご紹介するつもりです。
2007年02月24日 (土) 22時42分
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| [955] 投稿者:JC - 拝聴したかったです
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 そんな研修会があったのですか。内容を見させていただき、拝聴できなかったことをとても残念に思っています。誠実な飼主には程遠いのが現状です。犬との共同生活を再考する機会になったのになあと思っています。
500円玉貯金が着々と進んでいます。そうですねえ、折り返し点あたりでしょうか。子犬の名前は家族会議ですでに決定済みです。今度こそ理想的な飼主を目標にします。会報を首を長くして待っています。
2007年02月25日 (日) 05時20分
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