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タイトル:みんなでドタバタ、七夕祭り! コメディ

――こんな祭りの日を、彼女たちが黙って見過ごすはずがない! 彦星(志貴)の元に集う織姫たちの、血で血を洗う壮絶なサバイバルゲームが、今幕を上げる!? 月姫ヒロイン大集合! 人知を越えたお祭り騒ぎを繰り広げるアトリエ短編第七作目!

月夜 2010年07月02日 (金) 00時32分(104)
 
題名:みんなでドタバタ、七夕祭り!(第一章)

――コンコン。

ドアがノックされる乾いた音。
「う……ん……」
それを耳にしながら、シオンは軽いまどろみの中を漂っていた。

――……誰だろう?

現実と夢の狭間をさまよっている時の、心地良さと憂鬱の入り混じった、独特の気だるい虚脱感。
「シオン? 起きてるか?」
だが、そんなものは、扉の向こう側から聞こえてきた、聞き慣れた彼の声によって、瞬時の内にかき消された。

――……志貴!?

閉じられていた瞼が持ち上がり、その奥から明紫色の瞳が覗く。
机の上を埋め尽くさんばかりに山積みにされた本が、寝起きの眼に映し出される。
枕代わりにしていた腕の下には、古ぼけた分厚い一冊の本が、あるページを広げたまま敷かれていた。

――昨日は、確か夜更け近くまで、眠り目を擦りながら調べものをしていたはずなのだけれど……。

ふと背後を振り返ってみる。
窓から差し込む明るい陽光が、締め切られたレースのカーテンを透過して、部屋中に朝の訪れを知らせていた。
どうやら、自分でも気付かない内に、いつの間にか眠り込んでしまっていたようだ。
「……入るぞ?」
「ち、ちょっと待って下さい!」
シオンは慌てて言葉を返すと、素早く椅子から立ち上がった。
寝起きそのままな姿を志貴に見られるのは、さすがにかなり恥ずかしい。
シオンは広げられていた資料を閉じ、それを乱雑に積まれた資料の山の中に適当に置くと、自分の頭に手をやった。
撫でるように髪を手櫛ですいていく。
良かった。
髪型が乱れているということは無さそうだ。
「シオン、もういいか?」
「えぇ、どうぞ」

――ガチャッ。

扉が開かれ、その向こう側には、私服姿の志貴が見えた。
「おはよう、シオン」
「おはようございます、志貴」
毎朝恒例の手短な挨拶を交わす。

――おはようございます……ですか……。

そう言いながら、シオンは表情に出すことなく、心の中で溜め息を付いた。
〈おはようございます〉とは、何と型にはまった挨拶だろう。
そんなに形式ばった言葉など、志貴と話す時には使いたく無かった。
だけど、こういう言葉無しでは、どのように話せばいいのか分からない。
昔から、このような礼儀正しい言葉遣いを続けてきたからだろうか。
これは、もはや自分という存在の一部に他ならなかった。
志貴は、こんな自分のことをどう思っているのだろう?
堅苦しい女だと思われているのだろうか?
せめて、可愛らしく笑うぐらいの技能があれば良かったのだが……。
「……シオン?」
「えっ!?」
すぐ近くで自分の名を呼ばれ、シオンの瞳が焦点を取り戻した。
「どうしたんだ? 突然ぼーっとして」
「い、いえ、何でもありませんよ」
怪訝そうに尋ねる志貴に、シオンは出来る限りの平静さを保って言った。
「そうか? ならいいんだが……変に気を遣ったり、無理をする必要は無いからな」
不安そうな表情を浮かべながら、志貴が優しい言葉を投げ掛けてくれる。
「えぇ、心得ています。気遣いありがとうございます」
そんな志貴の優しさに、シオンは素直に感謝の念を告げた。
自然と口元が綻ぶ。
「ところで、シオンは今日が何の日か知ってるか?」
「え? 今日ですか?」
シオンが何気なく壁に掛かったカレンダーへと目を向ける。

――今日は……確か七月の最初の日曜日……。

そのことを確認してから、

――……何か、特別な日でしたっけ?

シオンは首を傾げた。
自分の知る限りでは、誰かの記念日という訳では無かったはず……。
「……知らないみたいだな」
志貴がちょっと得意気な笑みを浮かべる。
……何だか、少し悔しい。

月夜 2010年07月02日 (金) 00時35分(105)
題名:みんなでドタバタ、七夕祭り!(第二章)

「今日は、日本の記念日で、七夕ってやつだよ」
「七夕……ですか?」
「聞いたことないか?」
「いえ、名前くらいなら……」
シオンは下顎に指を添えながら、少し上方へと目線を上げて、日本に関する数少ない知識を、記憶の中からひっかき回す。
「ですが、具体的にどういう日なのかまでは……」
だが、その内容までは分からなかった。
「七夕っていうのは、織女星と彦星とが、年に一度だけ出会えるっていう伝説を基にした、云わばお祭りみたいなものさ」
「あぁ、何か特別な紙に願い事を書けば、その願いを叶えてくれるという、日本古来からの風習ですか」
志貴の説明を聞いて、シオンはようやく思い出した。
日本の記念日というのはややこしくて、いつも何かと何かが混ぜこぜになってしまう。
「そうそう。でも元々は、女性の手芸の上達を祈るためのものだったらしいけどね。それが、いつからか願い事を短冊に書いて、笹の木の枝にくくり付ければ、その願いが叶うっていう今のスタイルになったらしいよ」
志貴が更に詳しく補足説明してくれる。
そんな志貴の言葉を聞きながら、シオンはある別のことを考えていた。
天の川によって離別させられた織女星と彦星が、年に一度だけ出会える特別な日。
ちょっとした出来心から、ふと自分と織女星を重ねてみる。
自分なら、彦星と出会うその一日のためだけに、一年という長い歳月を独りで過ごすことが出来るだろうか?
自分は、そこまで我慢強い性質だとは思えない。
……でも、彦星が彼なら、もしかしたら出会えるその一瞬のためだけでも、一年くらいなら耐えられるかもしれない。
それは、多分永久とも感じられるくらいに長い刻なのだろう。
相手が誰より大切な想い人であるなら尚更だ。
だとしても、それほどの強い想いがあるのなら、その一時のためだけでも……身を裂くような孤独の中、独り耐え忍ぶことが出来るやもしれない。
そんな、彦星役の人はもちろん……。
「……シオン?」
「っ!?」
妄想の世界へと誘われかけていたシオンの意識を、聞き慣れた声がすんでのところで呼び戻す。
その視界に映った彦星、もとい、志貴の不思議そうな顔に、シオンは頬を紅潮させた。
「またぼーっとしてたけど、どうかしたのか?」
「い、いえ、何でもありません。ちょっと寝不足なだけでしょう」
シオンは必死に動揺を押し殺して答えた。
「また調べものか? 研究も大事なのかもしれないけど、身体は壊さないようにしてくれよ」
「はい。大丈夫ですよ、志貴」
これでもかと言わんばかりの量の資料が積まれた机を見つめ、心配そうに忠告をしてくれる志貴に、シオンは小さく微笑んだ。
「じゃあ、ちょっと広間まで来てくれないか? 皆、色々と用意してるからさ」
「はい。分かりました」
そう言って、部屋を後にした志貴に追従するように、シオンも広間へと足を運んで行った。

月夜 2010年07月02日 (金) 00時36分(106)
題名:みんなでドタバタ、七夕祭り!(第三章)

「さて、と。これで、大体の準備は整ったかな」
そう呟きながら、背の高い鉄製の梯子の傍で、志貴は大きく伸びをした。
今や広間は、横壁から二階へと続く階段の手摺、更には天井に至るまで全てが、艶やかなレースの装飾を施されている。
その飾り付けにおける、天井部分のほぼ全てが志貴の担当だった。
梯子の足を秋葉に支えてもらいながら、恐る恐るといった手付きで天井にレースを取り付けていくのは、当初の想像以上に恐怖だった。
「兄さん、大丈夫ですか?」と、時折下から掛けられる声にも、恐怖を堪えて、「大丈夫」としか答えられず、しかも下を見ることも出来ないという、何だか怖さ以外にも妙な孤独感を伴う作業から解放され、やっと一息といった感じだ。
ちなみに、翡翠は買い出しのために屋敷を空けており、琥珀とシオンは台所でパーティー用の料理中だ。
「兄さん、お疲れさま」
台所の方から出てきた秋葉が、そう言いながら志貴の側へと歩み寄る。
その手から、暖かい紅茶のカップが差し出される。
「あぁ、ありがとう、秋葉」
志貴は感謝を告げながらカップを受け取ると、その縁に口を付けた。
ほろ苦さの中にも、リンゴのフルーティな風味の含まれた、ストレートのアップルティーだ。
少し口にしただけでも、ちょっとは疲れが取れた気がした。
「しかし……」
紅茶から口を離し、玄関先の方へと視線を送った。
その視界に映る、何か巨大な物体。
それを見つめながら、志貴が感嘆と呆れ混じりに口を開く。
「……琥珀さん、あんな大きな笹の木、一体どこから持って来たんだろうな」
そう、その先に置かれていたのは、この屋敷に置いても見劣りしない程に立派な笹の木だった。
いつの間にか……というより、朝起きて広間に行ってみたら、その時には既に置いてあったのだ。
どうやら、琥珀がどこかから持ってきたらしい。
だが、何処から持ってきたのか、そして、どうやってここまで持ってきたのかは、いくら聞いても教えてはくれず、満面に明るい笑顔を浮かべ、「それは、乙女の秘密ですよ〜♪」などと、いつもの調子で返してくるだけだった。
琥珀が一度誤魔化したということは、つまり、教えてくれる気は無いということだ。
「えぇ……琥珀に聞いても、一向に答えてはくれませんし……」
秋葉も、志貴と同じような口調で呟く。
違うところと言えば、こちらの方が志貴より呆れの濃度が圧倒的に高いところぐらいだろう。
「まぁ、七夕に笹は欠かせないから、良かったと言えば良かったんだけどな」
「それは、そうですけど……」
教えてくれないなら、別にそれはそれで良いかと諦め始めた志貴に対し、秋葉は未だ釈然としないといった様子だ。
志貴が再び紅茶の入ったカップを持ち上げ、それを口元へと運ぼうとした……その時。

――ドオォォン!

何やら盛大な破壊音が、屋敷の外から聞こえてきた。
思わず紅茶を溢しそうになるところを、何とか持ち堪える。

――ドゴッ! ガシャッ! バキバキッ!!

絶え間なく響き続ける、何かしらの物が壊れる鈍い崩壊の音。

――ま、まさか……。

そんな気味の悪い音を聞きながら、志貴は冷や汗を浮かべる。
「……」
「……」
志貴と秋葉は暫し互いに見つめ合った後、近くのテーブルに紅茶のカップを置くと、どちらともなくその音源へと早足で向かった。

月夜 2010年07月02日 (金) 00時38分(107)
題名:みんなでドタバタ、七夕祭り!(第四章)

果たしてそこでは、不幸にも志貴の予想した通りの事が起きていた。
壁の所々が欠けていたり、凹んでいたり、その一部に至っては、穴が空いていたり、鋭い剣が突き刺さったりしている。
そんな破損した屋敷を尻目に、未だに暴れている二つの影。
一人はハイネックの白いセーターに、紫のロングスカートといういでたちで、もう一人は、休日だというのに何故か制服姿である。
非常に残念ながら、その両名どちらも良く見知った顔だ。

――ガキィィン!

立ち尽くす秋葉と志貴の見ているその目の前で、投擲された黒い剣が、またしても壁に突き立てられる。

――ボゴォォン!

更には、既にボロボロだった壁が、度重なる衝撃に耐えきれず、その一部を結構派手に倒壊させた。

――……ピシッ。

……気のせいだろうか。
今、微かに何かにヒビが入ったかのような、乾いた音が聞こえた気がする。
しかも、すぐ近くから。
……気のせいであろうはずがない。
今のは、空気の割れた音だ。
志貴は自分の隣へと目線を流した。
そこに居たのは、怒りでは収まらないほどの勁烈な激怒を言外に湛え、そのオーラで周囲を歪曲させ始めている妹の恐ろしき姿だった。
まずい。
非常にまずい。
このままだと、ここは本格的な修羅場と化す。
そうなれば、あそこで暴れている二人はもちろんのこと、自分の身だってただでは済まない。
「お、おい! 二人とも何やってるんだよ!?」
そう思った志貴は、秋葉の怒りが臨界点を突破する前に、その二人を止めにかかった。
「あ、志貴だ〜♪」
そんな志貴の存在にいち早く気付いたアルクェイドが、戦闘を勝手に中断し、無邪気な笑みを浮かべてこちらへと走り寄ってくる。
そして、その勢いそのままに、志貴の体に抱きついてきた。

――ピシシッ!

秋葉の頭上で、激しい音と共に空気が悲鳴を上げる。
「お、おい! 離れろよ! アルクェイド!」
志貴は本気で慌てて、無理矢理アルクェイドの体を引き離した。
嬉しくないと言えば嘘になったが、とりあえず、さすがにまだ死にたくはない。
「こんにちは、遠野君。それに、秋葉さんも」
その向こう側で、手に持った黒鍵をしまいながら、今更な感じでシエルが頭を下げる。
「シエル先輩、これは一体何の騒ぎですか!」
そんなシエルに、志貴は焦りを露わに問いかけた。
「いえ、たまたま遠野君の家の前を通りがかったら、またもや例によって例の如く、そこのアーパー吸血鬼が、人様の屋敷に窓から不法侵入しようとしていたので、ちょちょいと撃ち墜として差し上げただけです」
「何言ってるのよ。私にとって志貴の部屋は窓=玄関なんだから、あそこから入るのは当然のことじゃない」
あっけらかんと言い放つシエルに、アルクェイドが無茶苦茶な理屈で返す。
俺の部屋の窓は、いつから玄関になったと言うのだろう?
「遠野君の部屋を、そんじょそこらの公共の場と一緒にしないで下さい」
「してないわよ? 私にとって志貴の部屋は、もう自分の部屋も同然なんだから。自分の部屋に窓から入ろうと何しようと、本人の勝手でしょ?」
「いつから遠野君の部屋は、あなたのものになったと言うのです?」
「そんなのずうっと前からよ。私と志貴が愛し合った時からね♪」
「だ、だから止めろって!」
そう言って、再び腕を絡めようとしてきたアルクェイドを、志貴が冷や汗混じりに追い払う。
これ以上秋葉を怒らせたら、後々自分の身にどんな災難となって振りかかってくるとも分からない。
「あなたという人は……どういう神経回路をしていたら、そこまで自分勝手な理論を打ち立てられるんですか!」
「分かってないわね〜。自分勝手なんかじゃないわよ。志貴と私の意思を統合した結果なんだって、さっきから言ってるじゃない」

月夜 2010年07月02日 (金) 00時39分(108)
題名:みんなでドタバタ、七夕祭り!(第五章)

「意思統合なんて欠片も行われていないじゃないですか!それを世間一般的に自分勝手というんです!」
「世間なんて関係無いし。あなたが醜い嫉妬心から何をほざいたところで、私と志貴が愛し合っているというこの事実だけは、到底覆しようが無いわ」
その言葉に、シエルのフラストレーションは早くも頂点に達した。
「……どうやら、いくら口で言っても無駄なようですね」
「あら、だったらどうする気なのかしら?」
「そのとち狂った頭の中ごと、どこまでもご都合主義なあなたの性根を、一度徹底的に叩き直して差し上げましょう」
暗い声音でそう言うと、シエルは殺意を孕んだ視線でアルクェイドを見据える。
その言葉がただの脅しでは無いことは、いつの間にか両手に握られていた、数本の黒鍵が証明していた。
「上等じゃない。やれるもんならやってみなさいよ」
そんなシエルの殺気を真正面から受け止め、尚且つその怒りを逆撫でするかのように、口元に挑発的な笑みを浮かべるアルクェイド。
二人の間に充満する重苦しい空気が、臨戦時の緊張感で満たされていく。
それを、恐る恐る見つめる志貴の隣では、我慢の限界値を超越し、今にも反転しそうな秋葉の姿。
冗談じゃない。
こんなところで三つ巴のサバイバルが始まろうものなら、軽く巻き込まれただけでも、死か幸運でも瀕死の重傷を負うことは免れない。
この二人はいつものこととしても、何で秋葉まで……。
何も、こんな日にまで屋敷で暴れなくてもいいじゃないか。
俺は何か、神様に特別恨まれるようなことでもしでかしたのだろうか。
くそぅ、何だか泣きたくなってきた……。
と、志貴がそんなことを考えている内にも、二人は全身の構えを臨戦状態へと移行させて行く。
「……」
「……」
無言の内に二人が距離を詰め始める。
そして、二人ともが今まさに跳躍せんばかりに身を屈めたところで、
「……お二人とも、その辺でお止め頂けますか」
ようやく秋葉が口を開いた。
その口調は、他人が聞いたら冷静そのものなように聞こえたのかもしれないが、常日頃から聞き慣れている志貴の耳は、その声色の中に含まれた怒りを敏感に感じ取っていた。
『っ!?』
そしてそれは、恒久の刻を生きる新祖の吸血姫と、埋葬機関第七位の代行者の動きを、同時に停止せしめるだけの迫力があった。
「貴女方は、毎度毎度他人の屋敷をここまで破壊しながら、よくもまあ謝罪の一つも無しでいられるものですね」
秋葉がこめかみをひくつかせながら、釣り上がった眼差しで招かれざる来訪者達を凝視する。
「破壊って……私はこの屋敷を破壊するつもりなんか全然無いわよ。ただ、ことあるごとに因縁付けてくるそこのバカがいけないのよ」
“そこのバカ”の部分をやけに強調しながら、アルクェイドがシエルを指差す。
「貴女のような世間知らずに、バカ呼ばわりされる覚えはありません」
シエルが淡々と言い返す。
未だにしまわれることのない、その両の手に握られた黒鍵の刃が、陽光を反射して眩く輝いている。
「バカじゃなくても、惨めなことには違いないわね。人の恋人に未練がましく横恋慕してる、こんな女」

月夜 2010年07月02日 (金) 00時40分(109)
題名:みんなでドタバタ、七夕祭り!(第六章)

「なっ! ……貴女、今何と言いましたか!!」
「未練がましい横恋慕女って言ったのよ。なんなら、リピートして差し上げましょうか?横恋慕、横恋慕、横恋慕、横恋慕……」
反省する気配など欠片も見せず、横恋慕コールを連呼するアルクェイド。
そのワードが一度放たれるその度に、シエルの中に渦巻く殺意の波が、激しいうねりを上げて高揚していくのが分かった。
「お、おい、アルクェイド……お前、そりゃいくらなんでも言い過ぎ……」
未だかつてない命の危機を感じ、口を挟もうとした志貴を、
「志貴は黙ってて!」
アルクェイドが強い語気で一喝した。
「これは女と女の闘いよ! 生死を掛けたこのサバイバルに、貴方は口を挟んじゃいけないの!」
真剣な表情で志貴を睨み、声を荒げてはっきりと言い放つ。
……なら、せめて別の所でやってくれ……。
「だからってお前……今のはさすがに……」
と、反論しようとした志貴の目の前を、黒光りする棒状の何かが、凄まじい速度で駆け抜けた。
辺りに微かな風圧を残し、近場の木に勢い良く突き刺さる。
幹を貫き、反対側にまで突き出たそれが、投擲者の力量とその刃の鋭さを、何よりも忠実に物語っていた。
「……そこまで言ったからには、覚悟は出来てますね?」
黒鍵を投げた時の体勢そのままに、シエルが底冷えのする声で問う。
「望むところよ。今日こそ白黒はっきりさせてやるわ」
アルクェイドも口の端に挑戦的な笑みを浮かべ、シエルと真っ直ぐに対峙する。
「……」
言葉を失い、全身から薄気味悪い冷や汗を流す志貴。
何故だ?
どうしていつもこうなる?
何でこの二人は、こうもことあるごとにケンカをするのだろう?
そのケンカだって、一般人のスケールならまだ構わない。
だが、この二人が本気になれば、それは常人の域を遥かに超越した、文字通り戦争に近いものがある。
好き勝手させておけば、遠野邸が完全に崩壊しかねない。

――……。

隣の秋葉を、横目でちらっと伺い見る。
「……」
胸の前で腕組みをし、瞳を閉じたまま無言を決め込みながらも、周囲の空間を、溢れんばかりの激怒で歪曲させている。
そのフラストレーションは、今にも臨界点を突破しそうだ。

――うわ〜……。

内心密かに嘆く志貴。
そんな志貴を無視して、アルクェイドとシエルは既に全身臨戦体勢だ。
「では……行きますよ!」
「……来いっ!」
そう言い合うと同時に、二人は力強く大地を蹴り、瞬時の内に前方へと跳躍した。
シエルとアルクェイド。
二人の影が互いに交錯する……かと思われた、その時。
「いい加減になさい!!」
遂に我慢の限界に到達したのか、今までずっと寡黙に徹していた秋葉が、大声で怒鳴りながら二人の間に割って入った。
刹那、彼女の中の混血が目覚める。
反転、即解放。
彼女の目が、今にも衝突せんばかりのシエルとアルクェイドの姿を捕らえる。
その時にはもう、彼女の紅の如き灼髪が、前へと突き出された二人の手首に絡み付いていた。
『えっ!?』
シエルとアルクェイド、二人の口から同時に驚愕の声が漏れる。
と共に、空中で一回転した二人の体は、抵抗することすら出来ずに地面へと落下した。
『いたっ!』
再び、二人の声が一つに重なる。
「お二方共、どこまで屋敷を破壊すれば、気がお済みになるのですか?」
腰の辺りを擦りながら、顔をしかめて立ち上がった二人の間に立って、静かな怒りを湛えた声音で秋葉が呟く。
その髪は、既にいつも通りの黒い艶やかさを取り戻していた。

月夜 2010年07月02日 (金) 00時42分(110)
題名:みんなでドタバタ、七夕祭り!(第七章)

「これ以上の無礼を働くのならば、この屋敷の当主として、それ相応の礼をさせてもらうことになりますが?」
二人の表情を見比べながら、秋葉が淡々とした口調で言う。
「……」
「……」
その言外に含まれた、明確とも表現できる程に明らかな殺意を感じ取り、互いに顔を見合わせるアルクェイドとシエル。
「……」
そんな彼女達とは少し離れた所から、はらはらとその状況を見つめることしか出来ない志貴。
「秋葉様。遠野家の当主たる者、そんなはしたない事を言っちゃあダメですよ〜♪」
と、突如として、今にも三つ巴の乱戦になろうかという、緊迫して張り詰めたこの空気の中に、のほほんとした楽観極まりない声がこだました。
その声が聞こえた方、屋敷の表玄関の方へと目を向ける。
そこにいたのは、笑顔満面にこちらへと歩み寄ってくる、茶色をメインとした割烹着の上に、純白のエプロンを身に纏った琥珀の姿だった。
「今から、私達は七夕祭りをやる予定なのですけれど、どうです?アルクェイドさんとシエルさんも、ご一緒しませんか?」
「なっ!?」
琥珀がさも当たり前のように言い放った言葉に、秋葉が動揺を露わに振り返る。
「こ、琥珀!? 貴女、何をバカな……」
「えっ! 本当!? 私もご馳走になっちゃって良いの!?」
そんな秋葉の言葉を遮って、アルクェイドが喜色を前面に問い返す。
「えぇ。もちろんですよ〜。お祭りは大人数の方が楽しいですから♪」
あっけらかんとした口調で答える琥珀。
「やったぁ! それじゃあ、遠慮なくお言葉に甘えさせてもらうわね」
その言葉を聞き終えるかどうかというところで、アルクェイドは無邪気な子供のように瞳を輝かせながら、意気揚々と屋敷の中へ駆け込んでいった。
「あっ! ち、ちょっと待ちなさい、アルクェイド!」
その後ろ姿を追いかけるようにして、シエルも同様に屋敷の中へと姿を消した。
そして、部分的に崩壊した屋敷を傍らに、志貴と秋葉、それに琥珀の三人だけが、その場に取り残される。
「……琥珀。貴女、一体どういうつもりなの?」
秋葉が、表向きは冷静さを装いながらも、その内に辛辣たる怒りを孕んだ声音で、琥珀に問いかけた。
その眼差しは、屋敷内へと消えて行った二人の来訪客を捕らえていたが、怒りの矛先は明らかに別方向へと向けられている。
「あらあら。秋葉様、そんなに怒ってらっしゃっては、その玉のような肌に毒ですよ〜?」
そんな秋葉の怒りを感じているのかいないのか、琥珀は依然としてにこやかな笑みを崩すことなく言った。
「そんなことは関係ありません。それよりも、先ほどの私の質問に答えなさい」
「先にも述べた通りですよ。お祭りは、大人数の方が盛り上がりますから♪」
詰問口調の秋葉に、琥珀がさも楽しそうな声音で返す。
いや、多分、本当に楽しんでいるのだろう。
秋葉を困らせるというこの行為に対し、純粋極まりない意味で。
今考えてみれば、さっきアルクェイドとシエルをパーティーに誘ったのも、もしかするとこれが目的だったのかもしれない。
「……何かあったら、貴女に責任を取ってもらいますからね」
秋葉は苦々しげにそう言うと、踵を返して屋敷へと歩みを戻していった。

――さ、さすがは琥珀さん……。

そんな後ろ姿を見つめながら、この緊迫した状況を無血開城させた琥珀に、志貴は心の底から賞賛の念を抱いたのだった。

月夜 2010年07月02日 (金) 00時43分(111)
題名:みんなでドタバタ、七夕祭り!(第八章)

「うわぁ〜、すごい豪華な飾り付けね〜」
屋敷の天井付近を仰ぎながら、アルクェイドが感嘆を露わに呟く。
「確かに……これ、全部遠野君が一人でやったんですか?」
その隣で、物珍しそうに周囲を見回すシエルが、同じく感心したような口調で志貴に尋ねた。
「いえ、秋葉にも協力してもらって、二人でやったんですよ」
そう答えながら、志貴は自分の隣に佇む秋葉へと目線を流す。
「……えぇ」
……しかめっ面のまま、何とも無愛想極まりない口調で頷く秋葉。
アルクェイドとシエルの二人が来てからというもの、ずっとこんな調子だ。
屋敷の中では決して暴れないということと、絶対に破壊行為を行わないという条件付きで、渋々二人の参加を認めはしたものの、その表情には明らかな拒絶な意思で満ち溢れていた。

――はぁ……秋葉、まだ怒ってるみたいだな……。

相も変わらず不機嫌そうな秋葉を見つめながら、志貴は心の中で溜め息を付いた。
……そのすぐ後に、更に彼女を不機嫌にさせるような出来事が起きるなど、露とも知らずに。

――ピンポーン。

「ん?」
不意に鳴った呼び鈴に、志貴が扉の方を振り返る。
「誰かしら?」
秋葉も、不思議そうな面持ちで、玄関の方向へと目を向ける。
いつもならば、来客を迎えるのは翡翠か琥珀の仕事なのだが、翡翠はまだ買い出しから戻っていないし、琥珀はシオンと共にパーティー用の料理作りに追われている。
そして、今の秋葉は酷く不機嫌だ。
よって、志貴が率先して門前へと対応に向かったのは、当然の成り行きだった。
存在自体が正気の沙汰とは思えない程に物々しい扉を開き、その奥に認められたものは、見慣れた人物達の姿だった。
「こんに……」
「お兄ちゃーーん!!」
その内の一人が、挨拶をしようと口を開いたのを遮って、どこかで聞いたことのある懐かしい声が屋敷中に響き渡った。

――ガシッ!

次いで襲ってきた、腰の辺りへのタックルにも似た衝撃。
「うわっ!?」
死角からの急な攻撃に、バランスを保つことが出来ず、志貴は玄関先に激しく倒れ込んだ。

――ドンッ!

「いてっ!」
強かに背中を打ち付ける。
反射的に顔を持ち上げ、後頭部をぶつけることは免れたが、全身を電撃のような痺れが走った。
「あいたたた……」
床に手を付き、痺れを堪えながら、志貴が重々しく上体を起こす。
その目に映る、緩やかに伸びた茶色の長髪と、その両側に付けられた赤いリボン。
それから、上に覆い被さる小さな体で、彼女が誰なのかは十分に知ることが出来た。
「み、都古ちゃん!? 一体何しに来たんだ?」
その体を押し退けながら、志貴は少々戸惑い気味に立ち上がった。
「今日は七夕だから、あたしの彦星様に会いに来たんだよ♪」
都古がさも嬉しそうに言う。
昔の事とは言え、一時は兄妹として一緒に暮らした仲だ。
遠野の家に来て以来、彼女とはほとんど会っていなかったので、そんな彼女がわざわざ会いに来てくれたという事自体は、とても嬉しいことではある。
ただ、時と場合とタイミングが少々悪過ぎた。
「は、ははは……な、何を言ってるんだよ……」
ちょっと引き釣り気味の愛想笑いを浮かべながら、志貴は恐る恐る視線を自らの背後へと泳がせた。
「……」
その視界に映る、ともすれば瞬時の内にでも反転してしまいそうなほど、烈々たる闘気を身に纏ったもう一人の妹の姿。
「そ、そういえば、弓塚さんはどうしてここへ?」
これ以上秋葉を刺激するまいと思い、扉付近で立ち尽くしたままのさつきへと、志貴は言葉を投げ掛けた。

月夜 2010年07月02日 (金) 00時44分(112)
題名:みんなでドタバタ、七夕祭り!(第九章)

「え? あ……えと……」
いきなり話を振られ、呆気に取られていたさつきが、ハッとなったように我を取り戻す。
「……あ、そうそう、遠野君、昨日早退したでしょ?」
しばらくの間、返す言葉に迷った後、さつきはそう言って、肩から下げた鞄の口を開き、その中へと手を差し込む。
「え〜と……あ、あった。はい、これ。昨日のHRの時に配られたプリント」
そこから数枚のプリントを取り出し、それらを志貴へと差し出した。
「ありがとう。でも、何で昨日のプリントを、わざわざ今日届けてくれたの?」
受け取りながら、志貴が怪訝そうに尋ねる。
「それは……今日、部活終わって帰ろうとした時に、先生から「昨日、乾に頼むの忘れてたから」って渡されて……」
さつきが、どこかしどろもどろな様子で、ちょっと居心地悪そうに答えた。
その目線は、時折志貴の傍を通過して、その向かい側にて腕組みをしている秋葉へと向けられている。
……何だか、無性に可哀想だ。
彼女は何にも悪いことはしていないというのに。
「そっか。わざわざごめんね。面倒なことをやらせちゃって」
そんなさつきを労おうと、志貴が優しい笑顔で応える。
「あ、ううん。面倒なんて、そんなこと全然無いから」
そう言いながら、さつきが慌てて首を振る。
その表情を見る限り、多少ではあるけれど、少しは居心地の悪さが取り除かれたように感じられた。
「……ところで……」
志貴は一度、傍らの都古へと目線を落としてから、
「……何で弓塚さんと都古が一緒に?」
不思議そうな面持ちでさつきに尋ねた。
自分の知る限り、この二人の間には何ら関連性が見い出せない。
「あぁ、それは、この前遠野君の家の近くを通った時、たまたま見かけて……」
「家の近く?」
志貴は首を傾げた。
都古が?
一体いつ?
いや、それよりも何故?
「うん。何だか、塀を乗り越えて不法侵入しようとしてたから……」
「あ! ち、ちょっと!その事は言わない約束でしょ!」
少々戸惑い気味に呟いたさつきの言葉に、焦りからか都古が声を荒げる。
『……不法侵入?』
志貴と秋葉の声が重なった。
「あは、あははは……」
二人分の視線が、ぎこちない笑みを浮かべる傍らの都古へと注がれる。
違うところと言えば、志貴の眼差しは訝しげなのに対し、秋葉は今現在の不機嫌さも祟ってか、その眼差しはまさに凝視するかの如く、凄まじい怒りが湛えられているというところだろう。
「都古ちゃん……何だってそんな真似を……」
「だってぇ……あたし、お兄ちゃんに会いたかったんだもん……」
半ば呆れて尋ねる志貴に、都古が肩を落として答える。
「……お兄ちゃんは、あたしに会いたくないの?」
都古が上目遣いに問い返す。
微かに涙ぐんだ、純真無垢でいたいけな彼女の瞳。

――う……。

志貴が僅かにたじろぐ。
そんな目で見つめられては、否定的な発言など出来ようはずがない。
「い、いや、会いに来てくれるのは嬉しいんだけど……」
「本当に!?」
口ごもりながら言った、志貴の“嬉しい”という言葉に、都古が瞳を輝かせる。
「あ、あぁ……」
なあなあに頷く志貴。
「わーい!」
そんな志貴に、都古が満面の笑みを浮かべながら、再度抱きつこうとした。

――バシッ!

……が、何やら乾いた衝突音のような音と共に、都古の体が空中で停止する。
「……」
そのすぐ眼前に佇むのは、彼女と志貴の間に割って入っている、依然として不機嫌そうな秋葉の姿だった。

月夜 2010年07月02日 (金) 00時46分(113)
題名:みんなでドタバタ、七夕祭り!(第十章)

腕を前に突き出し、その掌底で都古の体を押し返している。
「……」
「……」
しばしの無言の空間が形成される。
「……痛いよ?」
その沈黙を破って、都古が何故か語尾上がりに口を開く。
「そうですか」
秋葉が、何事も無いかのように返す。
「……」
「……」
再び周囲を満たす、一種独特の重苦しい沈黙。
「……あ、秋葉……何……やってるんだ?」
そんな沈黙の時間に気まずさを覚えた志貴は、困惑気味な様子で秋葉に声を掛けた。
「何となく……体が勝手に……」
勝手にとは言いつつも、その掌底は都古を押し止めるという、明確な意思を併せ持っているように感じられた。
ふと後ろを振り返ってみる。
そこには、玄関前にて靴も脱がずに、唖然と立ち尽くすさつきの姿。
目の前の光景を、恐々とした眼差しで見つめている。
心なしか、表情に怯えの色が伺い知れた。
……やっぱりかなり可哀想だ。
そんなことを考えながらも、志貴は再び前方へと目線を戻す。
互いに眼光鋭く睨み合う二人の妹。
まだ、状況は一向に改善の様子を見せていない。
どうにかして、この張り詰めた空気を和らげたいのはやまやまだったが、今志貴が仲裁に入れば、余計にややこしいことになりそうだ。
従って志貴には、この状況をただ見守ることしか出来ないのだった。
「ただいま帰りました……あら?」
と、そんな折、後方から聞き慣れた声が聞こえてきた。
助けを求める小動物のような瞳で、志貴が自らの背後を振り返る。
その瞳に映る、両手いっぱいに荷物を抱えた翡翠の姿は、今の彼の目には、さながら救いをもたらす女神のように見えた。
「……秋葉様? 一体何をなされているのです?」
そんな救いの女神様も、目の前の奇怪極まりない光景に、些か戸惑い気味な様子だ。
まぁ、買い出しに出掛けて帰ってみたら、いつの間にか数人の客人が来訪しており、しかも屋敷の当主がその来客に掌底を叩き込んだままの体勢で、何やら互いに睨み合っているのだから、無理もないと言えばその通りだろう。
「あら、翡翠ちゃん。やっとお帰りですか〜」
今度は、台所の方から琥珀の柔和な声が聞こえてきた。
「あらあら。何だか賑やかだと思ったら、また新しいお客さんですね〜」
こちらへと歩み寄りつつ、手ぬぐい片手にその両手を拭きながら、琥珀がにこやかな笑みを浮かべて言う。
「お、お邪魔してます……」
何故か未だに扉付近に突っ立ったままのさつきが、控え目な挨拶と共に小さく頭を下げる。
「これはこれは、わざわざご丁寧にどうも」
それに呼応して、琥珀も軽く頭を垂れた。
「それはともかくとして、今日はこの屋敷で七夕祭りをやる予定なのですけれど、いかがです? お二人も参加いたしませんか?」
「お祭り!? あたしも一緒していいの?」
“祭り”という二文字の言葉に、都古が秋葉の掌を押し退けて、とても嬉しそうな口調で問い返す。
その瞳は、先ほどのアルクェイド同様、無邪気な好奇心にキラキラと輝いていた。
「もちろんですよ〜。よろしいですよね?秋葉様?」
琥珀が、わざとらしく秋葉に尋ねる。
無論、断りたいのは山々だろう。
だが、今ここで彼女らを追い返してしまっては、あの招かれざる二人の客人も追放せねばならない。

月夜 2010年07月02日 (金) 00時47分(114)
題名:みんなでドタバタ、七夕祭り!(第十一章)

一度立ち入りを許可してしまった以上、今更追い出すのも、どことなく気が引ける。
それに何より、そんなことをすれば、きっとアルクェイドがうるさいであろうことは間違いない。
「……えぇ」
よって、秋葉は仕方なく頷くしかなかったのだった。
「やったぁ! コハク、ありがとう!」
元気な声で礼を言うと、都古は琥珀に飛び付いた。
「……ということですから、弓塚さんも、いつまでもそんなとこにお立たちになさらずに、どうぞお上がり下さい」
都古に抱きつかれたままの体勢で、彼女の頭を撫でながら、やっぱり未だ玄関にて立ち尽くしているさつきを、琥珀が親切な口調で促す。
「……で、でも……」
「えぇ、弓塚さんは構いません。わざわざ兄のためにありがとうございました。是非ともお上がりになって下さい」
それでもどこか煮えきらない様子のさつきに、秋葉が軽く頭を下げ、無表情の中にも小さな笑みを浮かべる。
「そうだよ、弓塚さん。上がっていってよ」
志貴も、さつきの方を見つめて微笑みかける。
「……そ、それじゃあ……お邪魔します……」
そんな三人分の誘いを受けて、さつきはおずおずと靴を脱いだ。
どこかぎこちなく見えるのは、この屋敷に足を踏み入れるということに対して、まだ多少なりとも気が引けている証拠だろう。
そんなに遠慮しなくてもいいのに……。
「それじゃあ志貴さん。翡翠ちゃんが買ってきてくれた材料を、台所まで運んじゃって下さい」
「了解」
やっと和んだその場の空気に、志貴は内心安堵の溜め息を付いてから、玄関先に置かれたいくつもの袋を両腕にぶら下げて、それらを台所へと運んで行った。

月夜 2010年07月02日 (金) 00時48分(115)
題名:みんなでドタバタ、七夕祭り!(第十二章)

――ピンポーン。

祭りの準備も滞りなく進んで行き、後は琥珀とシオンの料理を待つだけとなった屋敷内に、呼び鈴の高い音が鳴り響く。

――? 誰だろう?

琥珀は料理中で、翡翠も買い出しで疲れているだろうと思った志貴は、ちょうど玄関近くに居たこともあって、自ら進んで来客の対応へと向かった。

――それにしても、今日は客の多い日だな。

そんなことを考えながら、玄関先まで来た志貴は、足下へと視線を落とした。
その目に映る、綺麗に整列された沢山の靴。
恐らくは、翡翠が帰って来た時に整えてくれたのだろう。
彼女の几帳面な性格が良く表れている。

――ピンポーン。

もう一度、扉越しに呼び鈴が押される。
「は〜い。ちょっと待ってて下さい」
適当に靴を履いて、志貴は扉の向こう側に語り掛けながら、それをゆっくりと押し開いた。
その奥、赤く染まった西日を背に浴び、トランク片手に佇んでいる一人の女性の姿。
夕焼けの赤に負けない位に鮮やかで、長く緩やかなその赤髪が、見る者の心を捕えて離さない、鮮烈なイメージを湛えている。
「ハ〜イ、志貴♪」
大人びた雰囲気を漂わせつつも、それでいてどこか無邪気な感じもする懐かしい声。
最初は、逆光のせいで良く分からなかったけれど、その声を聞いた瞬間、志貴の中で昔の景色がフィードバックしてきた。
ひび割れた世界。
軽く触れれば、それだけで崩壊してしまう、まるで脆い玩具のような綻びだらけの世界。
そこから逃げたくて、無我夢中の内に辿り着いた、若草色の短草で覆われた広大な草原。
そこで出会った、魔法使いと名乗る一人の不思議な女性。
彼女は、自分に力を与えてくれた。
全てのモノを殺すことが出来るという、理性を掻き乱すばかりの忌まわしいこの能力。
それを抑え付けられるだけの力を。
今、自分がこの世界で生きていられること。
それは、間違いなく彼女のおかげに他ならなかった。
名前は知らない。
だけど、自分は彼女をこう呼んでいた。
「先……生?」
志貴の口から呟きが漏れる。
まるで夢幻を見ているかのような、弱々しく頼りない声音だ。
「久しぶりね。元気にしてたかしら?」
そんな志貴に対して、彼女――蒼崎青子――は、そう言ってにこやかに微笑んだ。
「先生……本当に先生なんですか!?」
「あら、失礼な子ね。幻か幽霊にでも見える?」
未だに信じられないといった様子の志貴に、青子がからかうように尋ね返す。
「と、とりあえず、こんなところで立ち話も何なんで、上がって下さい」
「お邪魔しま〜す」
急なことに少々慌て気味の志貴が促すのに任せて、青子は屋敷内へと足を踏み入れた。
「それにしても、急にどうしたんですか?」
「ん〜、ちょっと野暮用があってね〜。近くを通ったもんだから、久しぶりに貴方の顔を見ておこうと思ってね」
「野暮用?」
「あ〜、例え志貴と言えども、残念ながらそれは内緒よ」
不思議そうに首を傾げる志貴に、青子が両手を胸の前で交差させてバツ印を作る。
「そんなことより……」
話を逸らすためなのかどうなのか、青子はそう言いつつ志貴から視線を外すと、すぐ傍にある一本の笹の木へと歩み寄った。
「この立派な笹。一体どこから持って来たの?」
その幹を掌で撫でながら、不思議そうに問いかける。
「あぁ、それは、朝起きた時にはもう既にそこにあったんですよ。どうやら、琥珀さんがいつの間にか持って来てたらしいんですけど……」
「あれ?」
と、口ごもる志貴の言葉を横切って、どこかから声が聞こえてきた。
「あら?」
一足先にその音源の方へと向き直った青子の口からも、同じように軽い驚きの声が漏れる。

月夜 2010年07月02日 (金) 00時49分(116)
題名:みんなでドタバタ、七夕祭り!(第十三章)

遅れて背後を振り返った志貴の視界に、二階から広間へと下りてくるアルクェイドの姿が映った。
「ブルーじゃない。どうしてここに?」
「それはこっちの台詞よ。真祖のお姫様こそ、何でこんな所にいるのかしら?」
こちらへと歩み寄るアルクェイドに、青子が怪訝そうに尋ね返す。
「ブルーですって!?」
今度は、大声でそう叫びながら、シエルが階段全段を丸ごとすっ飛ばして二階から飛び下りてきた。
足の筋肉のバネを上手く利用し、最小限の音を立てただけで、鮮やかに一階広間へと着地する。
その眼差しは、アルクェイドや青子とは違い、爛々たる闘志を帯びていた。
「あらあら、教会の代行者まで一緒なの?何とも危険な組み合わせね」
「貴女にだけは言われたくありません! マジックガンナー・ミス・ブルー!」
シエルが睨み付け、その眼差しを受けて青子もその表情を見つめ返す。
次第に二人の間に漂い始める、臨戦時独特の緊迫した空気。
「……えっと……先生とシエル先輩、それにアルクェイドって、知り合いなんですか?」
少しでもその空気を和らげようと、志貴が控え目に口を開く。
「ん〜、知り合いってのはちょっと微妙ね。まぁ、簡潔に言い表すなら、天敵同士ってところかな?」
「て、天敵!?」
青子の口から飛び出した言葉に、志貴が驚愕を露わに彼女と対峙する二人の方を見つめた。
「天敵って程じゃあないと思うけど、まぁ、敵であるってことには変わりないわね」
と、アルクェイド。
「いいえ、その女の言う通りです。私達は互いに敵対する存在。それ以上でもなければ、それ以下でもありません」
と、シエル。
「さぁ、構えなさい! 今日という今日こそ、引導を渡して差し上げます!」
眼光鋭く凝視しながら、シエルが豪語する。
気付かぬ内にその手に握られていた数本の黒鍵が、彼女の言葉が虚勢ではないことを示していた。
「全く……己の使命に忠実っていうのも、ここまでくると少し困りものね。教会の連中は皆こうなのかしら?」
青子が面倒そうにぼやきながら、呆れ顔で後頭部を掻きむしる。
しかし、その瞳の輝きからは、先ほどまでの志貴に話しかけていた時のような優しさは、きれいに消え去っていた。
その代わりに放たれ始める、相手を威嚇するかのような強い威圧感。
「ち、ちょっと! 二人とも止め……」
そんな二人の鬼々迫る様子に、志貴は慌てて止めに入ろうとしたが……。
「……良い加減になさい!!」
その声は、それ以上に大きな怒声にかき消された。
その場にいた全員が、声の主の方へと視線を送る。
広間の中央で腕組みをし、静かなたたずまいを見せる秋葉の姿が、そこにはあった。
「お二方とも、これ以上屋敷の中で暴れないようにと、何度も釘を差しておいたはずですが?」
あくまでも口調は物静かに、けれど、その中には確かに相手に対する咎めを含んだ声音で呟きながら、アルクェイドとシエル、二人の顔を交互に見比べる。
「私は別に暴れてないし、暴れるつもりもないんだけどな」
頭の後ろで手を組んだアルクェイドが、さも楽観的な様子で答える。
「くっ……」

月夜 2010年07月02日 (金) 00時50分(117)
題名:みんなでドタバタ、七夕祭り!(第十四章)

それとは対照的に、苦々しく顔をしかめるシエル。
「これ以上の無作法を働く気なら、この屋敷の当主としても一住民としても、貴女方を放っておく訳には……」
と、今にも追い出さんばかりに二人を睨み据える秋葉の眼差しが、不意に彼女の知らない新たな来客へと向けられた。
「……えぇっと…………どなたでしょうか?」
秋葉が不思議そうに尋ねる。
「私?私はさすらいの魔法使いよ」
「……はい?」
あっけらかんと答える青子に、秋葉が間の抜けた声で問い返す。
「なになに? 何かあったの?」
そんな秋葉越しに、二階から手すりを滑り降りてくる都古の姿が見えた。
「な、何? どうしたの?」
何だか怯えた小動物のような眼差しで、肩身狭そうに台所から出てくるさつきの姿も。
「またまた新しいお客様ですか〜?」
更にその後ろから、にこやかな笑顔の琥珀が姿を現す。
「あら? 初めて見る方ですね〜。どちら様でしょうか?」
「初めまして、侍女のお嬢さん。私は志貴の先生で、さすらいの魔法使いよ」
軽く頭を下げながら、青子が一般人からしてみれば意味不明な自己紹介をする。
「なるほど、志貴さんの憧れの方で、住所不定の魔法使いさんですか〜」
だが、彼女もさすがは遠野家の侍女だ。
不可解なその自己紹介にも、琥珀なりになかなかピントのずれた、素晴らしい解釈を繰り広げている。
前半部はともかくとして、後半部は少々おかしい気がしなくもない。
「ところで魔法使いさん。今夜はこの屋敷にて、ここにいる皆さん総出の七夕祭りを開催予定なのですけれど、魔法使いさんもいかがです?」
そんな志貴の疑問などそっちのけで、琥珀は相も変わらずの朗らかな笑みを浮かべたまま、青子に祭りの席への参加を促した。
「へぇ〜、お祭りかぁ。随分久しぶりな気がするわね。私も参加していいのかしら?」
そう青子が問いかけた対象は、琥珀ではなく秋葉だった。
「え? あ、えぇ、構いませんが……」
不意に掛けられたその言葉に、秋葉は戸惑いながらも頷いた。
琥珀の「志貴さんの憧れの方」という言葉を聞いてから、またしても少しばかり不機嫌さが増したご様子だ。

――全く……琥珀さんも余計なことを……。

「さつき〜、琥珀〜、少し手伝ってもらえますか〜?」
そんな折、唐突に台所の方から、シオンの声が聞こえてきた。
その方へと目線を向けてみると、幾つかの料理を金属製の台車に乗せて、台所から出てくる翡翠の姿が見えた。
「あ、うん」
「は〜い、ただいま♪」
その声に呼応して、さつきと琥珀が急ぎ足で台所へと戻ってゆく。
そろそろ、会食が始まる頃合いだ。

――……これ以上、何も起きませんように……。

志貴は心の中で手を合わせ、内心密かにそう願うのだった。

月夜 2010年07月02日 (金) 00時51分(118)
題名:みんなでドタバタ、七夕祭り!(第十五章)

「あぁ〜っ!」
自らの取り皿の上へと視線を落としたまま、唐突にアルクェイドが大声を上げる。
「ちょっとシエル! あんた、何勝手に人のものに手ぇ出してんのよ!」
彼女が目線を持ち上げたその先。
そこにいる、口から溢れんばかりに食べ物を詰め込んだシエルの姿を、眦を釣り上げて睨み据える。
「ふも? もふももふもふふ? (はい?何を言ってるんですか?)」
シエルがもふもふと言い返す(?)
「あんたこそ何言ってんのよ! あれは、私が取っておいた生ハムメロンでしょ!? 返しなさいよ! ……ってゆーかあんた、口ん中に一体どんだけのカレーパン詰め込んでんのよっ!!」
アルクェイドも負けじと反論する。
「もふもっふもふふも、もふもふももふも! ふもふ、もふもふももふ。ふもふもふふもふ、もふふもふもふも(奪い取ったからには、これは私の物です! それに、仕方ないじゃないですか。このカレーパン、すごい美味しいんですもん)」
「ぬぁんですって〜! あれ、最後の生ハムメロンだったのよ!? せっかく最後のお楽しみに取っておいたのに…………もう許さない!!」
……片方はもふもふとしか言わないこの状況で、何故だか会話は成り立っている。
「ふもふ? もふもふもふも? (何です? やる気ですか?)」

――ゴックン。

喉を大きく鳴らし、シエルは口の中のものを一気に飲み込んだ。
「……ならば、お相手しますよ」
「良い度胸じゃない。あんたの死の価値は、一個の生ハムメロン以下よ!!」
激昂したアルクェイドが、今にも飛び掛からんばかりに立ち上がろうとした、ちょうどその時。
「お二方共! お止め下さい!!」
秋葉の呆れ混じりの怒声が、食卓を包み込んだ。
「私としましては、今すぐこの屋敷から出ていってもらっても、全っ然構いませんよ!?」
「う……」
秋葉のその言葉に、席を立とうとしたアルクェイドが、苦々しく顔をしかめて再び椅子に腰を下ろす。
「そうですよ〜♪ せっかくの宴の席なんですから、楽しくいきましょう。生ハムメロンでしたら、お台所にまだありますから」
見るからに落胆しきったアルクェイドを、琥珀が優しい口調でなだめる。
「本当!?」
「えぇ、ストックならまだまだありますよ〜♪」
琥珀の言葉に、アルクェイドがとても嬉しそうに瞳を輝かせる。
「なんだ〜、仲居さん、それを早く言ってよ〜。そしたらこんなカレーバカ、相手にする必要も無かったのに」
そう言って、カレーバカこと、今もリアルタイムでカレーパンを頬張っているシエルを、皮肉な眼差しで見つめる。
「……現金な女ですね……こんな女にまとわりつかれている遠野君が、可哀想で仕方ありません」
そんなアルクェイドを、今度はシエルが軽蔑的な眼差しで見つめ返す。
「あら? 心外ね。私と志貴は愛し合っているのよ? 私からしてみれば、こんな女々しい女につきまとわれている方が、よっぽど可哀想だと思うけど」
無論、アルクェイドも黙ってはいない。
「……何ですって?」
「……何よ?」
二人の間に、またしても険悪な空気が漂い始める。
「いい加減にお止めなさい!! 見苦しいですよ!!」
秋葉は呆れを超越した絶対的な怒りを胸に、二人に向かって大声で怒鳴った。

月夜 2010年07月02日 (金) 00時52分(119)
題名:みんなでドタバタ、七夕祭り!(第十六章)

「はい、お兄ちゃん、あ〜ん♪」
そう言って、都古が先端に一切れの肉を突き刺したフォークを、志貴の口元へと持ってくる。
「な、何をやってるんだよ! 都古ちゃん!?」
志貴は声のトーンを上げながら、慌てて体を退いた。
「何って、見たら分かるでしょ? あたしが、お兄ちゃんに食べさせてあげる♪」
都古が顔に満面の笑みを浮かべる。
「い、いいよ! 自分で食べるって!」
志貴がどぎまぎとした口調で拒絶する。
「えぇ〜……お兄ちゃん、あたしのは食べたくないの?」
都古が辛そうに志貴を見上げる。

――うっ……。

またしても微妙に潤んだその瞳に、志貴の中で罪悪感が芽生え始めた。
「い、いや、そういう訳じゃ……」
「本当? じゃあ、はい♪」
再び、志貴の口元に一切れの肉が差し出される。
「だ、だけど……」
恥ずかしさに顔を赤らめながら、キョロキョロと周囲を見回す志貴。
ふと、ナイフ片手に肉を切っていた青子と目が合った。
「いいじゃないの。食べて上げたら?」
青子がからかうかのような、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「せ、先生〜……」
志貴が情けない呟きを漏らす。
「ねぇ〜、お兄ちゃん。ほら、あ〜ん♪」

――……あぁっ!もう、どうにでもなれっ!

「あ、あ〜ん……」
意を決して……と言うか、ある意味開き直って、志貴はゆっくりと口を開いた。

――パクッ。

途端、口の中全体に広がる肉の味わい。
ちゃんと火が通っており、かといって焼きすぎという訳でもなく、肉の旨味が閉じ込められた、程良い焼き加減だった。
流石は琥珀さんだ。
「美味しい?」
都古が尋ねる。
「あ、あぁ……お、美味しいよ」
その問いに、志貴は恥ずかしさを押し殺して答えた。
「麗しき兄妹愛ね〜。うむうむ。仲良き事は美しき事かな」
そんな二人を見つめたまま、青子が感慨深そうに頷く。
「や、止めて下さいよ〜……ん?」
と、不意に足下に何かを感じ、志貴は目線をそこへと落とす。
そこにいたのは、低い所から志貴を見上げる、黒猫姿のレンだった。
そのたたずまいは、どこか不機嫌そうにも見える。
「あっ!」
そして、その理由はすぐに分かった。
「ご、ごめんよ、レン……呼ぶの忘れてたよ……」
忘れられていたせいで、ちょっとご機嫌ナナメなレンを抱え上げると、志貴は彼女を自分の膝の上に乗せる。
「翡翠、レンにミルクを……え? 何?」
と、何を思ったのか、志貴は急に言おうとしていた言葉を途中で区切り、再びレンの顔へと目を向けた。
「……そっか。分かったよ」
志貴は軽く頷くと、レンの頭を優しく撫でながら再び顔を持ち上げ、その目線を翡翠へと向けた。
「翡翠。悪いんだけど、ミルクと一緒に、レンの分だけ先にケーキも持って来てあげてくれないか?」
「かしこまりました」
翡翠は二つ返事で立ち上がると、台所の方へと向かった。
「……お兄ちゃん」
「うん?」
隣から掛けられた声に、志貴が其の方へと首を捻る。
「お兄ちゃんって、黒猫さんの言葉が分かるの?」
「分かるよ。レンは特別な猫だからね」
不思議そうに尋ねる都古に、志貴はにこやかに微笑んだ。
台所から出てくる翡翠の姿。
それと同時に視界に映ったケーキの姿に、レンは機嫌を直してくれたようだった。

月夜 2010年07月02日 (金) 00時53分(120)
題名:みんなでドタバタ、七夕祭り!(第十七章)

「……」
こんなにも賑やかで、こんなにも明るい食卓は、一体いつ以来だろうか?
テーブルの上に並べられた豪勢な料理を口に運びながら、シオンはそんなことを考えた。
このような暖かい食事の場に、今自分がいることなど、この国に来た当初の私からしてみれば、到底信じられないことだったろう。
この街を襲っていた騒ぎの根源。
そこに存在するタタリを消滅させるために、私はこの国を訪れた。
そして、その任を全うし、タタリを滅ぼすことが出来たら、直ぐにでもここを去るつもりだった。
……そう、そのはずだった。
けれど、今の私には、この地を去ろうという気は、ほんの一欠片すら芽生えていなかった。
そこに、事象的な理由が無いということはない。
確かに、この街を蝕んでいたタタリは滅んだ。
だが、その代わりの問題も浮かび上がってきたのだから。
それは、私という存在そのものの吸血鬼化だ。
これは、完全に私の不注意が招いた事。
そのことが原因となって、ここの人達に迷惑を掛けるなどということ、とてもじゃないが出来ようはずがない。
だからといって、こんな姿のまま国へと帰る訳にもいかない。
そんな堂々巡りの最中、自分を見失いかけていた私に声を掛けてくれたのは、この屋敷の当主である秋葉だった。
彼女は、私にこの屋敷の一室を貸し与えてくれた。
更には、そこにある膨大な量の文献の全てまでをも。
私は、そんな彼女の提案に甘えることにした。
確かに、この吸血鬼化を治すための知識、それを得やすいという理由が無かったかのと問われれば、それには首を横へと振らざるを得ない。
だけど、それ以上の理由はあった。
安息にも似た、暖かく落ち着けるこの環境。
今まで、一度も味わったことのないこの暖かさに、私は心の底から安らぎを覚えてしまった。

――何より……。

私は向かい側の席へと目線を投げかける。
そこに居る彼の姿。
私の心を捕えて離さない、誰よりも愛しいあの人……。
そう、彼がここにいる限り、私は……。
「シオン?」
「?」
不意に隣から掛けられた声に、シオンは反射的にその声の方へと向き直った。
「何ですか? さつき」
シオンは内心の動揺を見抜かれぬよう、出来る限りの無表情を装って、隣のさつきに問い返す。
「……ううん。何となく呼んでみただけ」
そんなシオンに対して、さつきは首を横に振った。
その表情は、何故だかとても嬉しそうに見える。
「?」
小首を傾げるシオン。

――多分、シオンは気付いてないんだろうな。

その様子を見つめながら、さつきはそう思った。
友人として、そこまでの長い付き合いではないけれど、彼女のことはそれなりに分かってるつもりだ。
余り喋る方では無いし、表情だっていつも引き締まってて、そんなに喜怒哀楽を豊かに表す女じゃない。
だからこそさつきは、彼女に教えて上げたいと思った。
ついさっきまでの彼女が……貴女が、どれほど良い笑顔をしていたのかを。
「さつき? どうかしたんですか? さっきからおかしいですよ」
ジロジロと見つめてくるさつきに、シオンが不思議そうに尋ねる。
「ねぇ、シオン……」
「はい?」
「……楽しいね♪」
さつきは溢れんばかりの笑顔を向けて、本当に楽しそうに微笑んだ。
「……えぇ」
さつきの言わんとしていることを理解してか、シオンは口元に柔らかな笑みを浮かべた。

月夜 2010年07月02日 (金) 00時54分(121)
題名:みんなでドタバタ、七夕祭り!(第十八章)

「さて……だんだんと夜も更けてきたし、そろそろお祭りらしいことでもやらない?」
唐突に、アルクェイドがそんなことを言い出した。
「はい? 急に何を言い出すんですか?貴女は」
そんなアルクェイドを、シエル先輩が軽くあしらう。
「あら、形式ばったことしか出来ないような、融通の効かない唐変木女には参加していただかなくて結構よ」
「全世界が自分中心に回ってると思ってるような、自己中心的な勘違い女に、そのような扱いを受けたくはありませんね」
互いに睨み合うアルクェイドとシエル先輩。
見慣れた絵図ではあるけれど、いつまで経ってもやっぱり冷や汗ものだ。
「おいおい……二人共よしてくれよ……ところで、祭りらしいことと言っても、一体何をするつもりなんだ? アルクェイド」
これ以上話がこじれないようにと思い、俺は仕方なくアルクェイドへと声を掛けた。
「そうね〜…………そうだ! “この中で一番酒に強い奴は誰だ! 大酒豪決定戦!!”……なんてのはどう?」

――……シ〜〜〜ン。

しばしの無言の空間が、その場にいた全員を包み込む。
……余り反応は無いようだ。
「……ダメ?」
アルクェイドが、気まずそうな様子で周囲に問いかける。
「当たり前でしょう! そんなこと……」
「それです! 是非やりましょう!!」
シエル先輩が強く拒絶の意思を表そうとしたその時、それよりも一段と気迫の込もった賛同の声が、シエル先輩の怒声を呑み込む。
……無論、この中でそんな事に賛成するような輩は一人しかいない。
「ではでは、私は早速倉庫からありったけのワインをば……」
「あ、私も手伝う〜」
「あら。アルクェイドさん、ご協力感謝致します♪」
「ち、ちょっと待ってよ!」
他人の意見などそっちのけで、勝手に話を進めていく琥珀さんとアルクェイドに対し、俺は慌てて口を挟んだ。
「何ですか? 志貴さん」
「何よ? 志貴」
意気揚々と席から立ち上がった琥珀さんとアルクェイドが、ちょっと不満そうな眼差しでこちらを見つめる。
「何って……ここにいるメンバーの大半はまだ未成年だろ?そんな中で酒豪決定戦なんかおかしいよ」
俺は今日の宴の参加者達を見回しながら問いかけた。
だが、そんな法律如きで止まってくれる二人ではない。
第一、法律を振りかざした位で諦めてくれるようなら、俺だってここまでの苦労はしないだろう。
「志貴さんはお固いですね〜」
琥珀さんが口元に指先を持ってきて、チッチッとあしらう。
「そうそう。せっかくの宴の席なんだから、酒は必須アイテムよ」
アルクェイドも、「分かってないわね〜」的な表情を浮かべている。
「そんなこと言ったって……なぁ、シオンからも何とか言ってくれよ」
俺は助け船を求めて、シオンへと話を振ったのだが……。
「別に良いのではないですか?私の国では、子どもの飲酒も全然認められていますし」
シオンが何事もないかのように答える。
……どうやら、パスを出す相手を激しく間違えたようだ。
「決定ね。それじゃあ……」
「けどさ〜、お姫様」
立ち上がろうとしたアルクェイドを、再び誰かの声が引き止める。
「何? なんか文句でもあるの?ブルー」
いい加減不機嫌そうな口調で、アルクェイドが其方、先生の方へと向き直る。
さすがは先生!
この場を収められるのは、先生しかいません!
俺は心の中で強く願った。
……けれど、
「ただ酒飲みまくるのも、それはそれで良いんだけど……」
その言葉に、俺は一瞬耳を疑った。
……はい?
今、何とおっしゃった?
「それじゃあ今一つ盛り上がりに欠けない?」
その口から出た言葉は、俺の期待するところとは明らかに正反対なものだった。

――ガタン!

マンガさながらに、俺は椅子ごと後ろへと転倒した。

月夜 2010年07月02日 (金) 00時54分(122)
題名:みんなでドタバタ、七夕祭り!(第十九章)

「……志貴様? 一体何をなさっておられるのです?」
そんな俺に、翡翠の怪訝そうな眼差しが向けられる。
「い、いや、何でもないよ……」

――もう好きにしてくれ……。

俺は心の中で大きな溜め息を付きながら、疲弊しきった笑顔で翡翠に微笑みかけた。
「大丈夫よ。景品ならちゃ〜んと用意してあるから」
『……景品?』
周囲の声が重なる。
「景品って……そんなものあるんですか?」
シエル先輩が疑心暗鬼な面持ちで尋ねる。
「もちろんよ。多分、この場に居る皆が納得するんじゃないかしら?」
アルクェイドが胸を張って答える。
何かは知らないが、よっぽど自信があるようだ。
「へぇ〜、それで、その景品って何なんだ?」
「ふふん、それは、もう皆暗黙の内に悟ってるんじゃないかな〜」
椅子を立て直しながら、気になって尋ねた俺を、アルクェイドが怪しげな笑みを浮かべて見つめる。
「え?」
そんなアルクェイドの言葉に、俺は眉をひそめた。
皆が納得するような物で、且つ言葉にしなくても皆分かるような景品?
……なんだろう?
皆目見当も付かない。
と、そんな時、俺はあることに気付いた。
……何だか、妙な視線を感じるな。
不思議に思って辺りを見回す。
その視界に映る、皆の眼差し。
秋葉、翡翠、琥珀さん、シオン、アルクェイド、シエル先輩、弓塚さん、都古、それに先生。
一人の例外もなく、全員の視線は俺に一点集中していた。
「え? えっ!?」
慌てて目線を下に下ろす。
そこに居る、いつの間にか人の形態になっていたレンも、無垢なその瞳で俺を見上げている。
そこで、俺は初めて悟った。
「ア、アルクェイド……お前の言う景品って、まさか……」
「そう!今回は七夕スペシャルということで、景品は“志貴に願いを叶えてもらっちゃおう券”よ!」
恐る恐る尋ねた俺に、アルクェイドの口から完全に人権無視な今回の景品名が発表された。
「優勝者に対しては、どんな願い事だって志貴は聞いてくれるわ! それこそ、お子様な感じにバードキスから、アダルティックにベッドインまで、何でもありよ!!」
『っ!!?』
周囲に衝撃が走った。
刹那、こちらに向けられる眼差しの全てに、紛れもない本気の光が漂い始める。
ただ唯一、先生の視線だけはちょっと違ったけど。
「貴方も大変ね〜」
先生が他人事のように呟く。
そんな呑気な事言ってないで、助けて下さい。
俺は心の底からそう願った。
だけど、声にならない。
多分、恐怖の余り声さえ出ないとは、きっとこういうことなのだろう(少々違う気がしなくもないが……)
「ダメです!!」
そんな折、周囲の沈黙を引き裂いて、秋葉が大声を上げた。
「兄さんは物じゃありません! 景品なんてもっての他です!!」
秋葉がもの凄い剣幕でまくしたてる。
その勢いの凄まじさに、多少たじろぐアルクェイド。
だが、彼女とて黙っていてはくれない。
「あら? 私は志貴を景品にした覚えは無いわよ。あくまでも、志貴に願いを叶えてもらうということが景品なのであって、それは志貴の存在そのものとは同義じゃないわ」
「そ、それは……ですが、それでは兄さんの意思を完全に無視してます! 兄さんの意思を尊重しないと……」
「分かっちゃないわね〜妹さん」
秋葉の言葉を途中で断ち切って、アルクェイドが呆れ混じりに溜め息を付く。
「ここには志貴が居て、私が居て、貴女が居て、そして皆が居る。その望みは、たったの一つにして絶対的な同一の欲望。そして、それを手にすることが出来るのは、この中の誰か一人だけよ」
アルクェイドが周囲を見渡しながら、まるで講演者のような口調でその場にいる全員へと語り掛ける。
「もう一度言うけど、ここには志貴が居て、そして私達が居る。ならば、私達に出来ることは一つ。互いに闘い合い、奪い合うことだけ」
『……』
その演説を、秋葉を含め全員が、何故か誰一人反論することなく清聴している。
「行き着く先は、闇に満ちた捕囚所か光溢れる聖地か。どちらか二つしかないはずよ……反論は?」
一通り語り終えてから、アルクェイドが再び周囲を見回す。
「……で、ですが、それでは兄さんが余りに……」
「あら? いいのよ。潔く身を引くというのなら、私は止めたりしない。弱者はこの戦場にふさわしくないもの」
「なっ!?」
その言葉に、秋葉の中のリミッターが弾け飛んだ。
「兄さんは貴女なんかの物ではありません!!」
秋葉が豪語しながら勢い良く立ち上がった。
その反動で、椅子が後ろへと倒れ込む。
「ふふん」
そんな秋葉の様子を見て、アルクェイドは口元に不敵な笑みを浮かべた。
「貴女にもその気持ちがあって安心したわ。それじゃあ皆さん、ハレルヤの叫びを聞くまで終わらない、愉快な狂宴の宴を始めましょうか?」

月夜 2010年07月02日 (金) 00時57分(123)
題名:みんなでドタバタ、七夕祭り!(第二十章)

「よいしょっと……」
穏やかな寝息を立てる都古の小さな体を、ゆっくりと応接室のソファーに横たえる。
その隣では同じように、アルクェイドとシエル、それにさつきが、ソファーの上で各々爆睡していた。
アルクェイドの提案した大酒豪決定戦は、最初の方こそ盛り上がったものの、言い出した本人が真っ先に酔っ払い、本来の目的を忘れて無差別に絡みまくってきたため、敢えなく中断ということになったのだった。
シエルとさつきは、そんな絡みまくりアルクェイドの被害者だ。
ちなみに、都古には酒は飲ませていない。
ただ単に、疲れて眠ってしまっただけだ。
後、翡翠や琥珀、それに秋葉やシオンは、なかなかに酒に強いようだった。
中でも、秋葉のアルコールに対するあの強さは、もはや尋常では無かった。
顔色一つ変えずに、凄まじい勢いでワインを飲み尽くしていくあの勇姿。
あれこそまさに、うわばみ娘の称号にふさわしい飲みっぷりだった。
「ほらほら二人共〜!もっと飲みらさいよ〜!」
「もう飲めませんよ〜……」
「私も……もう無理……」

――まだこんなこと言ってるよ。

志貴は呆れ半分に微笑みながら、眠りこける彼女達の体に優しく毛布を掛け、電気を消してから、そっと部屋を後にした。
「貴方も大変ね〜」
不意に掛けられた声に、志貴が後ろを振り返る。
「あ、先生……って、どうしたんです? こんな時間に、トランクなんか持って」
そこに佇む青子の姿に、志貴は首を傾げた。
その手にぶら下がった薄茶色のトランクに、志貴の目線が否応なしに引き付けられる。
「あぁ、美味しい料理やワインもご馳走になったし、そろそろおいとましようかと思ってね」
「えぇっ!?」
青子の予期せぬ言葉に、志貴が驚愕の声を上げる。
「もう真夜中ですよ!? 今日くらい泊まっていったらどうですか?」
「あらあら? それは、私と同じベッドで一緒に夜を過ごしたいということかしら?」
青子がいつになく真剣な口調でそう言いながら、妖しげな笑みを浮かべる。
「えっ!? あ、いや、そ、そういうつもりじゃ……」
「冗談よ、冗談。ちょっとからかっただけだって」
頬を赤らめ、しどろもどろに口ごもる志貴を見て、今度は打って変わったように無邪気に笑う。
「……悪い冗談はよして下さいよ〜……」
志貴は額に浮かんだ気味の悪い冷や汗を拭いながら、重い溜め息を付いた。
「それはともかくとして、何でこんな夜遅くに?一日くらい休んでいって下さいよ」
「う〜ん……気持ちは嬉しいんだけど、あんまりのんびりもしてらんないのよね〜」
どこか遠くを見るような眼差しで、青子が天井の方を見上げる。
「あぁ、そういえば、何か野暮用があるんでしたっけ。でも、そんなに急ぎの用事なんですか?」
「まぁね〜。だから、今回は気持ちだけ頂いておくわ」
そう言って、青子は壁から背を離すと、ゆったりとした足取りで玄関へと向かった。
「あ、そこまで持ちますよ」
その手から、さりげなくトランクを受け取る。
「そう? ありがと」
青子が礼を告げる。
二人で肩を並べ、今となっては静まり返った広間を抜ける。
「あら? 二人共、どうしたんですか?」
そんな二人に、驚異のうわばみ娘こと秋葉が、不思議そうに首を傾げながら近づいてきた。
「あぁ、秋葉か。先生が……」
もう帰るらしいと伝えようとした、ちょうどその時。
「あら? 妹さん、悪いわね。私と志貴は、今から二人で夜の世界へと愛の逃避行よ」
「何か用事があるらしくて……って…………え?」
ほとんど時を同じくして、青子の口から何気なく出てきた言葉に、志貴の思考回路が停止する。
「……は?」
秋葉もその場に立ち尽くし、間の抜けた声を上げる。

――……。

時が止まったかのような、重苦しい沈黙が広間を満たす。
そして、その無言の空間を破ったのは、無論怒り心頭に殺気を放つ秋葉だった。
「……兄さん?それはどういうことですか?」
ゆっくりと距離を詰めてくる秋葉。
静かなその口調とは対照的に、彼女の長く艶やかだった黒髪は、次第に色を紅へと染めてゆく。
「い、いや、そ、そんな訳無いだろ? 先生も、一体何を言ってるんですか!?」
志貴が焦りを露わに後退る。
すがるような眼差しで青子を見つめるものの、彼女はにこやかに微笑んでいるだけで、助けてくれる気は微塵も無さそうだった。
「……兄さああぁんっ!!?」
「うわぁっ!? だから、勘違いだって言ってるだろ〜っ!!」
そう言って駆け回る二人の怒声と絶叫が、夜の静寂に包まれていた屋敷内に反響する。
「うむうむ。仲良き事は美しき事かな……ってね」
以前にも聞いたような事を言いつつ、青子はそんな二人の姿を見つめながら、志貴が落としたトランクを拾い上げた。
「素敵な男の子になるのはもうちょっと先かな。バイ志貴。どっかの片田舎で出会える日を楽しみにしているわ」
そう告げると、青子は騒がしい二人に背を向け、トランク片手に屋敷を後にした。

月夜 2010年07月02日 (金) 00時58分(124)
題名:みんなでドタバタ、七夕祭り!(あとがき)

はい!
皆さんお久しぶりです。
管理人兼小説家の月夜です。
度重なる更新の滞り、真に申し訳ございません……ory
言い訳は申しません。
全ては私の責任。
全ての罪は、この私にあるのです!
次の作品予定として、シエル先輩メインの作品と、琥珀さんメインの作品製作予定が詰まっているこの状況下において、尚且つこの遅さ。
申し訳無さの余り、皆さんに顔向けが出来ませぬ……(ToT)
それでも見守ってくれた方々には、もう涙、涙で、言葉では到底言い表せません!(感涙)
出来る限り頑張っていくつもりなんで、これからもどうぞよろしくお願いしますm(__)m


さて、七夕も近いということで、今回は七夕祭りをテーマに、皆さんに大集合して頂きました。
如何でしたでしょうか?
少しでも多くの方に、良かったと思ってもらえたのでしたら、私としてはそれだけで感謝感激です♪o(^-^)o
後、翡翠を買い出しとかに行かせはしたものの、本来ならそんなことは絶対に起こり得ません。
……が、そこらへんはどうかご勘弁を(^_^;)
ところで皆さんは“七夕”を、どうして“たなばた”と読むのか、不思議に思ったことはございませんか?
そう、実は“七夕”という字は、普通に“しちせき”と読み、これは日本のものではなく、中国に伝わる故事の一つなのです。
これこそが、織姫星と彦星が年に一度だけ出会えるという、現代の七夕のルーツです。
では、いつから“七夕”を“たなばた”と読むようになったのでしょう?
実はこれ、元は“棚機”と書いて“たなばた”と読んでいたんですよ。
棚機とは、機織つ女(ここの“つ”は同格の意味で、“の”と訳します)のこと、つまり、機を織る女性のことを表しているのです。
その機織つ女が、いつの頃からか七夕の中に出てくる織姫星と重ね合わせられるようになり、中国の故事に合わせて、“七夕”のことを“たなばた”と呼ぶようになったのだそうです。
本編でも志貴が言っていたように、この七夕祭りが、元は女性の手芸上達を祝っての祭りであったことも、ここに根源があるのですよ。
……え?
そんなことより、七夕祭りのくせに、誰も短冊に願い事を書いてないのか?
はっはっは。
そんな訳無いじゃないですか。
実は酒を飲み始める少し前に、皆さん短冊に願掛けをして、琥珀さんが何処からか持って来た笹の枝にくくりつけてありますよ♪
……はい?
結局、あの笹の木はどこから持ってきたのか?
いやいや、そこは乙女の秘密ですから。
うっかり口を滑らせようものなら、私が琥珀さんに処刑されてしまいますよ(^_^;)

……ん?
皆がどんな願い事を書いたのか知りたい?
……ふっふっふ。
無論です!
次の後書きその2では、私と志貴君の二人で、皆の短冊を見て回りたいと思っておりますよ〜♪


さて、ではでは、とりあえずは一旦、ここで一区切りと致しましょう。
この作品についてのご感想等ございましたら、是非とも下の「小説感想アンケート板」または「小説感想掲示板」、「月夜に吠えろ」の方に、どしどしとカキコしちゃって下さいね♪
それではもうしばしの間、この素人の戯言的あとがき小説にお付き合い願います♪o(^-^)o

月夜 2010年07月02日 (金) 00時59分(125)
題名:みんなでドタバタ、七夕祭り!(オマケその一)

さて、志貴君。
それでは、今日この七夕の日に皆がどのような願いを掛けたのか、ちょちょいと見て回ろうか。

「なぁ、やっぱり止めないか? こんなこと秋葉に見つかったら、きっとタダじゃ済まないぞ?」

む!?
何を言うか!
いいかね、志貴君!
今回のこれは、読者さんからの意見。
決して己の自己満足のためなどではない、神聖な調査なのだよ。

「けど……」

大丈夫。
君も私も、秋葉の赤主檻髪なら体験済み。
あれを喰らったにもかかわらず、今こうして生きている以上、次に万が一が起きても死にはしないだろう。

「はぁ……もういいよ。どうせ引かないことは分かってたし……」

さすがは志貴君。
物分かりが良くて助かるよ。
ではでは、早速一枚目を。


“志貴の周りから、目障りな虫共が消えてくれますように”


……。

「……」

……明らか、短冊に掛けるような願い事じゃないよな。

「……そうだな」

つ、次行ってみようか。

「……あぁ。この願い事には、これ以上ツッコミを入れない方が無難そうだ」

で、ではでは、二枚目を見てみましょう。


“遠野君が、私の方を振り返ってくれますように”


お♪
今回のは七夕らしい願い事だな。
志貴ってば、相も変わらずモテモテじゃん♪

――バキッ!

(゜Д(O―(゜∀゜)

「いてっ!? いきなり何するんだよ!?」

いえいえ、何故だかそこはかとなく怒りが込み上げてきたものですから♪
まぁ、つい♪

「……」
(志貴がおもむろに眼鏡を外す)

……ごめんなさい。
(作者、あっさりと平謝り)

ってゆーか、これ、誰が書いたんだろうね?

「そうだなぁ……まぁ、文面から考えるなら、シエル先輩か弓塚さんのどっちかかな?」

……ん?

「何だ? どうかしたのか?」

何か裏にも書いてあるぞ。
なになに……。


“今年こそ、素晴らしいカレーに巡り逢えますように”


「……」

……さすがはカレー先輩。

「……そうだな」

誰が書いたかはっきりしたところで、三枚目を見てみようか。


“遠野君に、私の想いが伝わりますように”


あらあら♪
これまた恋する乙女の純な気持ちが、端的な言葉で良く示されてますね♪

「……殴らないでくれよ?」

まさか♪
私、二度同じようなことをするほど、興冷めな人間ではありませんから。
第一、その程度のことで逐一殴っていたら、全部見終わるまでに私の拳が壊れちゃいますよ♪

「……つまり、かなりの激怒状態ってことだな」

まぁ、そう解釈して頂けたら結構です。
さて、私のリミッターが弾け飛ぶ前に、四枚目行きましょうか♪


“お兄ちゃんが、あたしの元に帰ってきてくれますように”


だってさ。
そういや、志貴は有間の家に帰る気は無いのか?

「あ、あぁ……まぁね。都古には悪いけど」

……まぁ、色々と事情があるみたいだしね。
私は無用な口出しはしないでおくよ。

「助かるよ」

じゃあ、気分が冷めない内に、五枚目行っちゃいましょう。

月夜 2010年07月02日 (金) 01時01分(126)
題名:みんなでドタバタ、七夕祭り!(オマケその二)

“そろそろ、破壊以外の力も欲しいなぁ”


「せ、先生……」

……な、何となく切実なイメージがするね。

「そういや、先生って破壊しか出来ないのか?」

うん。
基本はそう。
破壊の力だけなら、稀代の魔法使いって言われてる。

「でも、この眼鏡は先生がくれたんだけど? これも破壊の力なのか?」

いや、それは破壊の力とか関係ないよ。
その魔眼殺しには、志貴の直視の力以上の魔力が込められているからね。
彼女のその魔力のおかげで、志貴の直視は今眠っているだけさ。
だから、その眼鏡を外したら、途端にまた死の線が見え出すんだよ。

「へぇ〜、そうなんだ。今まで全然知らなかった」

やれやれ。呑気な奴だな。
まぁいいや。とりあえず次、六枚目に行ってみよう。


“早く人間に戻れますように”


……シオンの願い事か。
短冊にまで書くなんて、よっぽどなんだな。

「……なぁ」

ん?
何だい? 志貴君。

「シオンの体、本当に人間に戻るのかな……?」

何だよ。
えらく弱気な発言だな。

「うん……どうしても気になって……」

……まぁ、確かに難しいことではあるよ。
吸血鬼化した人間を、元の純粋な人間に戻すなんてこと、今まで一人の前例も無いからな。
だけど、彼女が諦めてない以上、志貴はそんな彼女を信じてあげないと。
それが今の志貴に出来る、唯一にしてとても大事な事……そうだろう?

「……あぁ、そうだな」

よし。
それで良いのだ。
では、七枚目に行ってみよ〜♪


“志貴様を……やっぱり、何でもありません”


……途中で願い事の内容が切れているとは、これまた変わった願掛けだな。

「ま、まぁ、翡翠はああ見えて結構天然な所があるからな……っていうか、あの後には何を書くつもりだったんだろう?」

……何となく予想は付くけどな。

「やっぱり……朝の寝起きが悪すぎるとか、部屋を散らかしすぎとか……」

……はぁ。
分かって無いのは本人だけか。

「え? 何か言った?」

いや、別に何にも……。
じゃあ、鈍感な志貴君は放置して、八枚目のやつ行ってみますか。


“志貴さんが、私のモノになりますように♪”


「……」

……モテモテ?

「そう……なのか?」

……違うかな?

「……何となく、最後の音符マークが、妙に恐怖を煽るんだけど……」

……いいじゃん。
一緒に地下室行ってきたら?
きっと、手取り足取りリードしてくれて、目が覚めたら改造人間に……。

「琥珀さんが絡むと、それが冗談に聞こえないから怖いよな……」

いやいや、冗談のつもりじゃないんだけど?

「勘弁してくれ……」

……と、とりあえず九枚目行きましょう。


“志貴とケーキが欲しい”


……こ、これはまた……とっても無邪気な願いですな。

「俺とケーキって同列なのか……」

同立一位ってことだよ。
そんなことを気にするなって。
んじゃあ、ラストの十枚目いきますか〜。


“兄さんが、私だけを見てくれますように”


あらあら♪
これまた志貴君に対しての熱烈なラヴコールですな〜。
しかも、文面から察するに、間違いなく秋葉からだねぇ。

「秋葉……」

……あ……。
(何者かの気配を察知し、作者素早くその場より逃走)

「? どうかした……」

「……私が……何です?」
(こめかみをひくつかせながら、赤主状態の秋葉が乱入)

「わっ!? あ、秋葉!?」

「兄さん……こんなところで、一体何をなさっているのでしょうか?」

「え、あ、いや、何ってそれは……」

「……人のプライバシーを覗き見るなんて……これからみっちりと、その性根を叩き直して差し上げる必要がありそうですね!」

「うわあぁぁっ!?」
(悲痛な叫び声を上げて、遠野志貴沈黙)

ふぅ……危なかった。
許せ、志貴。
お主の死は無駄にはしない。
……ん?
何だ? まだ短冊が残ってるな。
なになに……。


“今年こそは、安全で平穏な暮らしが出来ますように”


……志貴よ、残念だが、それは到底無理な話だ……。

月夜 2010年07月02日 (金) 01時02分(127)


Number
Pass

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