ここはグレートキャッツビレッジ。 どこにあるかは、残念ながら秘密です。 とりあえず、一つ言えることといえば、ここが奇妙な猫達の王国だということだけです。 背景色がピンク一色という、何ともメルヘンチックな世界。 「腹減ったにゃ〜」 そんな中を、猫アルクは気だるそうにぼやきながら歩いていました。 え? 何故猫が人間の言葉を喋れるのかって? ……まぁ、そんな些細な事は、この際無視して頂く方向性でお願いします。 とにかく、極度の空腹に苛まれた猫アルクは、この欲求不満を満たすため、猫にとって欠かすことのできない生命線である、猫カン探しの旅に出ていたのです……しかし。 「全然見つからないにゃ〜……」 猫アルクが、生気の欠けた声で呟きます。 どうやら、今日はかなりの不作のようです。 いつもなら、もうとっくに見つかっているはずなのですが……。 「……にゃ?」 と、猫アルクが急にその場で立ち止まりました。 何か見つけたようです。 その視界遠くに、何かしらの物体が見えます。 ……四角? いいえ、違います。 あの滑らかさと美しさを備えた、流線型な円柱形のフォルム。 その表面には、典型的な猫の顔が描かれており、青と黒のスクウェアな外装が、彼女(?)の目につきました。 「おぉっ! あれぞまさしく、我が求めし猫カン! しかも、あの眩き輝きと外装は……間違いない! ツナマヨにゃ!!」 念願の猫カンを、それも伝説のツナマヨ未開封バージョンを見つけ、猫アルクは意気揚々と駆け寄って行きました。 鋼の如き鋭い爪で、その猫カンのフタを無理矢理こじ開け、凄まじい勢いで中身にむしゃぶりついてから……、 「おぷばっ!?」 奇怪な悲鳴を上げて、猫アルクは思わず卒倒しかけました。 言葉に言い表すことのできない、異様な何かを味わっているようです。 しばしの間、この世のものとは思えぬ苦悶に身悶えした後、 「何にゃ!? このデンジャー過ぎる殺人的な風味は!?」 大声で叫びました。 ツナにマヨネーズという、マグロ本来の旨みを更に引き立てるこの組み合わせ。 それに何故か含まれた余計な甘さが、余りにもミスマッチ。 この素晴らしき逸品の全てを台無しにしていました。 しかも、ツナマヨの味を想像してかぶりついたため、そのダメージ量は一層グレードアップしている様子です。 表情を思いっきりしかめながら、猫アルクはその猫カンを睨みつけます。 つい先ほどまで、空腹の余り全く目にも止まりませんでしたが、その猫カンには、何かの文章が記されていました。
――特注猫カン ツナマヨネーズinメープルシロップ
その文字を見た瞬間、猫アルクの中で全ての事象が納得できました。
にゃるほど。 あの甘さの正体は、メープルシロップだったのにゃ。 にゃんだか、ツナマヨにしては異様にゃハーモニーを奏でていると思ったにゃ。
猫アルクは腕組みをしながら、瞳を閉じて深く頷きました。 ……ですが、 「うにゃーーっ!!」 突然目を見開き、大声を上げたかと思うと、猫アルクは急に狂ったように暴れ始めました。 「何なのにゃ! この仕打ちは一体誰の仕業にゃ! 喧嘩売る気なのならば、ダース単位でまとめ買いしてやるにゃ!」 そう叫び散らしながら、猫アルクは動かぬその猫カンに対し、ここぞとばかりに八つ当たりをします。 光景的には、スケールの小さい幼稚園児の駄駄を思い描いて頂ければ、それでよろしいかと思われます。
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