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タイトル:妄想爆発、猫アルク コメディ

――あれは何だ!? 流れ星だ! 隕石だ! いや、違う……あれは……ネコだ!! ネコの、ネコによる、ネコのためでありつつも決してネコならざる者たちの世界、グレートキャッツビレッジよりの使者。その名はネコ! 彼女(?)がトランスした時、三咲町に未来はあるのか!? 月夜曰く、私の作品の中でも一二を争うバロスwwな作品と呼称する第四作目は、超破天荒なぶっぱコメディ!

月夜 2010年07月01日 (木) 23時37分(57)
 
題名:妄想爆発、猫アルク(第一章)

ここはグレートキャッツビレッジ。
どこにあるかは、残念ながら秘密です。
とりあえず、一つ言えることといえば、ここが奇妙な猫達の王国だということだけです。
背景色がピンク一色という、何ともメルヘンチックな世界。
「腹減ったにゃ〜」
そんな中を、猫アルクは気だるそうにぼやきながら歩いていました。
え?
何故猫が人間の言葉を喋れるのかって?
……まぁ、そんな些細な事は、この際無視して頂く方向性でお願いします。
とにかく、極度の空腹に苛まれた猫アルクは、この欲求不満を満たすため、猫にとって欠かすことのできない生命線である、猫カン探しの旅に出ていたのです……しかし。
「全然見つからないにゃ〜……」
猫アルクが、生気の欠けた声で呟きます。
どうやら、今日はかなりの不作のようです。
いつもなら、もうとっくに見つかっているはずなのですが……。
「……にゃ?」
と、猫アルクが急にその場で立ち止まりました。
何か見つけたようです。
その視界遠くに、何かしらの物体が見えます。
……四角?
いいえ、違います。
あの滑らかさと美しさを備えた、流線型な円柱形のフォルム。
その表面には、典型的な猫の顔が描かれており、青と黒のスクウェアな外装が、彼女(?)の目につきました。
「おぉっ! あれぞまさしく、我が求めし猫カン! しかも、あの眩き輝きと外装は……間違いない! ツナマヨにゃ!!」
念願の猫カンを、それも伝説のツナマヨ未開封バージョンを見つけ、猫アルクは意気揚々と駆け寄って行きました。
鋼の如き鋭い爪で、その猫カンのフタを無理矢理こじ開け、凄まじい勢いで中身にむしゃぶりついてから……、
「おぷばっ!?」
奇怪な悲鳴を上げて、猫アルクは思わず卒倒しかけました。
言葉に言い表すことのできない、異様な何かを味わっているようです。
しばしの間、この世のものとは思えぬ苦悶に身悶えした後、
「何にゃ!? このデンジャー過ぎる殺人的な風味は!?」
大声で叫びました。
ツナにマヨネーズという、マグロ本来の旨みを更に引き立てるこの組み合わせ。
それに何故か含まれた余計な甘さが、余りにもミスマッチ。
この素晴らしき逸品の全てを台無しにしていました。
しかも、ツナマヨの味を想像してかぶりついたため、そのダメージ量は一層グレードアップしている様子です。
表情を思いっきりしかめながら、猫アルクはその猫カンを睨みつけます。
つい先ほどまで、空腹の余り全く目にも止まりませんでしたが、その猫カンには、何かの文章が記されていました。

――特注猫カン ツナマヨネーズinメープルシロップ

その文字を見た瞬間、猫アルクの中で全ての事象が納得できました。

にゃるほど。
あの甘さの正体は、メープルシロップだったのにゃ。
にゃんだか、ツナマヨにしては異様にゃハーモニーを奏でていると思ったにゃ。

猫アルクは腕組みをしながら、瞳を閉じて深く頷きました。
……ですが、
「うにゃーーっ!!」
突然目を見開き、大声を上げたかと思うと、猫アルクは急に狂ったように暴れ始めました。
「何なのにゃ! この仕打ちは一体誰の仕業にゃ! 喧嘩売る気なのならば、ダース単位でまとめ買いしてやるにゃ!」
そう叫び散らしながら、猫アルクは動かぬその猫カンに対し、ここぞとばかりに八つ当たりをします。
光景的には、スケールの小さい幼稚園児の駄駄を思い描いて頂ければ、それでよろしいかと思われます。

月夜 2010年07月01日 (木) 23時39分(58)
題名:妄想爆発、猫アルク(第二章)

「我を亡き者にしようとは良い度胸にゃ! どんにゃ組織がバックに付いてるかは知らぬが、その命知らずな組織ごと、一思いにぶっ潰してくれるにゃ!」
などと、訳の分からぬことをほざきながら、猫カンをけたぐり回す猫アルクの目に、そこに記された別の文章が止まりました。

注)はっきり申し上げて、これは超絶に不味いです。召し上がる前には、必ずそれなりの覚悟と心構えのほど、よろしくお願い致します。

そんな、何に対する注意なのかさえ定かでないような注意書きに、彼女の脳内は軽くオーバーヒートした模様。
「ふざけるにゃーーっ!!」
猫アルクが、短いその足を最大限に利用し、目の前の猫カンを思いっきり蹴り飛ばしました。
……え?
今、何だか足が異様に大きくならなかったかって?
……気のせいでしょう。
さて、猫アルクの強烈な蹴りを受けたその猫カンはと言うと、美しいとさえ感じられる流麗な放物線を描き、遥か彼方へと吹っ飛んで行ったのでした。
「ふっ……我が前に立ち塞がる輩には、死あるのみにゃ」
そう言って、猫アルクが再び足を進めようとした……その時でした。
「にゃ!?」
俄かに妙な鳴き声を上げたかと思うと、急にその足が平らに変形し始めました。
そこから、ロケットのブーストさながらな噴出音がこだまします。
「な、何にゃ、これは!? こら! 勝手に作動するにゃ! 止まるにゃ! 消えるにゃ!!」
徐々に地上から足が離れていき、それにつれて、猫アルクが騒々しく喚き始めます。
……はい?
変形ってどういうことだ?
そう言われましても……こちらと致しましても、変形という以外に説明のしようが……。
「そんな説明どうでもいいにゃ! ナレーションの分際で生意気にゃ! 読者なんか放っておいたらいいにゃ!」
猫アルクが怒鳴るように言い放ちます。
むっ!
読者なんかとは失礼な!
大切なお客様に対しての無礼な発言。
しかも、私に対してまでも「ナレーションの分際で」等と暴言を吐くとは。
許すまじです。
断固として鉄槌を下さねば。
「うにゃーっ! すみませんでしたにゃーっ! た〜す〜け〜て〜っ!!」
ロケットのように飛び去り、その姿が次第に消え去っていくに従って、その悲痛な悲鳴が、ゆっくりとフェードアウトしていきます。
はい。さよ〜なら〜。

月夜 2010年07月01日 (木) 23時39分(59)
題名:妄想爆発、猫アルク(第三章)

「うぅ……寒いなぁ……」
急に冬真っ盛りになってしまったかのような、肌を刺すような寒空の下、制服姿のさつきは一人、弱々しい声で呟きながら帰路に着いていた。
その口から漏れる、白い靄のような吐息が、今日の強烈な寒さを物語っている。
「昨日までは、まだ全然暖かかったのになぁ……」
不満そうに口を尖らせながら、手のひらを擦り合わせたり、服の上から体をさすったりして、さつきは必死に寒さをやり過ごそうとしていた。
そう、昨日までは、いくら寒いと言っても、たかが知れた程度のものだったのだ。
ほんの少し肌寒いくらいのもので、上着の一枚でも羽織れば、それだけで十分過ごしやすい、快適な暖かさを保てていた。
そして、今日の天気予報でも、昨日までと大差ない、全国的に晴れ渡った快晴との予報だったのだが……。
それが、昼頃になって一変。
4時限目辺りから空がどよめき出し、今では既に上空一面を余すことなく、灰色の淀んだ雲が覆い尽くしていた。
しかも、一時的に降った豪雨のため、気温は著しく急低下。
今年の最低気温をマークしたのである。
よりにもよって、部活のある日にこんなことにならなくても良いじゃないかと、さつきはかなり不満げな様子だ。
「天気予報なんて、宛てにならないなぁ」
さつきが小声でぼやく。

いや、恐らく天気予報士の方々に非は無いかと……。

「え?何で?」
そんな作者の言葉に、さつきが今度は不思議そうに首を傾げた。

非常に言いにくいのだが、多分君の不幸が、彼らの予想を覆したのかと……。

「……」
冗談半分のその言葉に、さつきが黙ってうつ向く。
そのせいで表情は伺えなかったが、がっくりと落ちたその両肩のせいで、その姿はいつにも増して小さく見えた。

まずい。
どうやら、私のせいで彼女を悲しませてしまったようです。
ここは、紳士的にフォローして差し上げねば……。

「……やっぱり、私って幸が薄いのかなぁ……」
さつきが消え入るような声で、弱々しくぼそっと呟く。

いやいや、そんなことはありませぬよ?

「そうかなぁ……」

そうですとも!
幸せは待つものじゃない。
自らの手で導くものなのです!

「……そうだよね。気持ちが後ろ向きじゃ、良いことないよね」

そうそう。
それに、君が本当に不幸なら、きっと今まさにこの雨に降られてるはずだよ。
だから、元気出して。

「うん。ありがとう」
明るく微笑むさつき。

ホッ。
胸を撫で下ろす作者。
良かった。
どうやら、機嫌を直して頂けたようです。

「……ところで、ナレーションさん」

ん?
何かね、さっちん。

「あれ、何ですか?」
そう言って道端に立ち止まったさつきが、上空を埋め尽くす灰色の曇り空の一点を指差した。

どれどれ?

その指が示す先へと、さりげなく視線を送ってみる。
……確かに、何か妙な物体が見えた。
遥か遠く、点のように小さいそれは、地球の万有引力に引かれて、急速に地上へと近づいてくる。
……いや、地上という表現は、些か正しくないだろう。
それは、まるで狙い定めていたかのように、確実にこちらへと落ちて来ていた。
「……ねぇ、何だか、こっちに近づいて来てません?」

……そうだね。

「……」

……。
さつきが無言で空を見上げる。
その間にも、自由落下を続けるその物体は、猛然且つ着実にこちらへと向かって来ていた。
「……にゃぁぁぁああっ!!」
だんだんと距離が縮まってくるにつれて、何やら奇っ怪な、鳴き声とも悲鳴とも付かないような声が、急速に近づいて来た。
……嫌な予感がする。

月夜 2010年07月01日 (木) 23時41分(60)
題名:妄想爆発、猫アルク(第四章)

「……き」

……に、逃げろ!さっちん!!

「きゃああぁっ!?」
ようやく自分の置かれた状況を確認したのか、さつきがその何かに背を向けて、一目散に走り出した。
……しかし、非常に残念ながら、その時点で時既に遅し。

――ドゴオオォン!

盛大な激突音と共に、マンガみたいな量の砂埃が舞い上がり、その中にさつきの姿が紛れて消える。

―……。

しばしの沈黙。
やがて、吹き荒れていた砂塵の勢いが収まるにつれて、その中から二人の……もとい、一人と一匹の姿が現れた。
「着地成功にゃ」
猫アルクが何事もなかったかのように呟く。
その余りに強引な着地に巻き込まれたさつきは、哀れ、猫アルクの下で目を回して倒れていた。
「誰かは知らぬが、我を呼ぶとは命知らずな輩にゃ。遠路はるばる来てやった代償として、ありったけのツナマヨ猫カンを請求してやるにゃ」
猫アルクは不気味な笑みを口元に浮かべると、今までクッション代わりにしていたさつきの体から立ち上がった。
さつきはと言うと、未だに目を回したまま横たわっていた。
何も悪いことはしていないのというのに……。
……何だか無性に腹が立ってきたので、軽く突っかかってみることにしよう。
おい。貴様。

「何にゃ? ナレーションの分際で馴れ馴れしいにゃ」

ま、またしても無礼な口のきき方を……いや、この際そんなことはどうでもいい。
まずは、自分の足下を見てみろ。

「にゃ?」
そう言われ、猫アルクが視線を下へ落とす。
「にゃんと!? 一体どこのどいつが、このような人畜無害っぽい影の薄そうな少女に、このような酷い仕打ちを!!」
その視界に映し出された、見るも無惨なさつきの姿に、猫アルクがうるさく喚き立てる。
何気に言うことが酷い。

いや、お前の着地の巻き添えなのだが……。

「にゃに?」
その事実に、猫アルクの動きが停止した。
そのままの体勢で顔を伏せ、しばらく考え込むような素振りを見せた後、
「……それなら仕方がないにゃ」
深く頷きながら口を開いた。
昏倒したまま動かないさつきの背中から飛び下りる。
「こっちだって、別に狙って落ちてきた訳じゃないにゃ。不幸な星の元に生まれた、自らの運命を呪うがいいにゃ」
淡々と述べるその口調に、悪びれている様子は微塵も見受けられない。
自分から激突しておきながら、言うに事欠いて責任転嫁とは……。
「だが、この娘も哀れな奴にゃ」
そう言うと、猫アルクは再びさつきを見下ろした。
「こんな目立たない身なりをしているから、幸せが訪れないのにゃ。そんなあなたには、これをプレゼントにゃ!」
短い手を腰に回し、そこから何かを取り出すと、目にも止まらぬ速度で、それをさつきのツインテールの頭に装着させた。
それは、ありったけのふわふわ感を備え持った、見紛うことなき立派な猫ミミだった。
「これで、お主の個性的インパクトは数倍にパワーアップ。人気者間違いなしにゃ。ついでに萌え萌えレヴェルも5割増しでお買い得にゃ」
そんな猫ミミさっちんの姿を見下ろし、猫アルクは満足げに頷くと、意味不明なことを口にしながら、夜の世界へと溶け込んで行った。

月夜 2010年07月01日 (木) 23時42分(61)
題名:妄想爆発、猫アルク(第五章)

「……むっ!この忌まわしき気配は!」
夜の町を、宛てもなくさまよっていた猫アルクが、何者かの気配を感じ取り、周囲へと目配せをした。
その瞳に、一つの黒い人影が映り込む。
街灯の下、ちょうど向かい側の通りを歩く、黒い外套を羽織った短い青髪の女性。
厳しい目つきで、周囲を油断なく見回しながら、薄暗い夜の道を歩いている。
それは、猫アルクにとって、いくら忘れたくても、片時も忘れることのできない姿だった。
「ふっふっふ……飛んで火に入るアホチエルとはこのことにゃ。今日という今日こそ、三途の川ぶっ飛ばして、ダイレクトに黄泉の世界へと送り届けてくれるにゃ!」
猫アルクは不敵な笑みに口元を綻ばせると、背を向けているシエル目がけ、凄まじい勢いで頭から突っ込んだ。
変形した足からのロケットさながらなブーストを噴射し、その距離を見る間に縮めていく。
「っ!?」
まさにぶつかる寸前、紙一重というところで、シエルはその気配と音に気付き、後ろを振り返ることなく本能的に身を捻って、際どく猫アルクの突撃を回避した。
シエルの身体が元あった場所を、猫アルクが超高速で通過する。
「にゃあぁぁっ!? 止まらないにゃーっ!!」
しかし、停止することが出来ずに、勢いそのまま中空を走り続ける猫アルク。
ドップラー効果を伴って、妙な音響を残しつつ、シエルのすぐ側を通り過ぎる。
そして、不幸にも、ちょうどその延長線上に位置していた、コンクリートの電柱に頭から激突した。

――ガゴオォン!

思わず耳を塞ぎたくなるような、痛々しく鈍い音が、辺り一面に響き渡る。

――パタッ。

そのまま倒れて動かなくなる猫アルク。
「……」
それを、無言のまま見つめるシエル。
二人の間に、何とも言えない独特の空気が漂う。
「……ふ……ふっふっふ……」
その沈黙を破り、猫アルクがふらつく足で立ち上がった。
その動きたるや、満身創痍でボロボロな感が全身から滲み出ている。
まるで、15ラウンドを闘い抜いたボクサーのようだ。
「さ、流石は我が宿命のライヴァル……今のはかなり効いたにゃ……」
衝突部分を両手で抑えながら、只の自爆であるにも関わらず、猫アルクは相手に賞賛の言葉を投げ掛けた。

……やる前からそれでどうする?

「あら? アルクェイドじゃないですか。何の遊びですか? それは」
シエルが不思議そうに首を傾げる。
「アルクェイド? 誰にゃ? それは」
猫アルクも怪訝そうに尋ね返す。
「違うんですか?」
「当たり前にゃ。このキューティクルな容姿を他人と見間違うとは……まぁ、そんな些細なことはどうでもいいにゃ」
そう言って、猫アルクはその話題を断ち切ると、その視線の先に佇むシエルをビッと指差した。
「ここで会ったが百年目! 今日こそあの世行きの直通特急に強制乗車させてやるにゃ! 途中下車は不可能!! 覚悟は良いにゃ!? チエル!」
猫アルクが身構える。
「チエル? 誰のことですか? 私はシエルですよ?」
それに対し、シエルの方はというと、未だに状況がよく飲み込めていないようだ。
依然として立ち尽くしたまま、不思議そうな眼差しで猫アルクを見つめている。
「言い訳、問答、その他諸々全部無用にゃ! 喰らうがいいにゃ!真祖ビイィィム!!」
そんな大声が夜の世界に響き渡ると共に、猫アルクの両目が大きく見開かれ、それが眩い輝きを纏ったと思った次の瞬間、そこから放たれた二つの光の直線がシエルを捉える。
「なっ!?」
そんな、ネーミング、エフェクト共に奇っ怪極まりないでたらめ技に、シエルが驚愕の声を上げる。

月夜 2010年07月01日 (木) 23時43分(62)
題名:妄想爆発、猫アルク(第六章)

だが、直撃するかと思われた、まさにそのすんでのところで、シエルはとっさに上体を反らし、その射線上から何とか身を避けた。
「いきなり何をするんです!? そっちがその気ならば、こちらとて容赦はしませんよ!」
そんな猫アルクの不意打ちに、シエルは声を荒げると、素早く戦闘体勢を取った。
いつの間にか、その両手に握られていた数本の黒鍵を、猫アルク目がけて立て続けに投擲する。
「ふっ……まるでバッティングマシーンのスローボール並にゃ。手打ちでも軽くスタンドインしそうなこの遅さ。この程度であたしを倒そうなど、億飛んで十年早い……」
それを、軽いステップで身軽に避けつつ、猫アルクがシエルを罵倒しようとした……だが、
「甘いですね」
そう思った時には既に、シエルの後ろ回し蹴りが、すぐ眼前にまで迫っていた。
「ぎにゃあっ!!」
何とも奇妙な悲鳴を上げて、猫アルクの小さな体が、今度は160km超の速度で吹っ飛ぶ。

――ドガシャアン!

木製の柵を木羽微塵に破壊し、猫アルクはやっとのことで止まった。

――パタッ。

猫アルク、本日二度目のダウン。

ただ漠然と観戦を決め込むのもつまらないので、とりあえずカウントでも取ってみましょう。
ワン!
ツー!
スリー!

猫アルクは微動だにしない。

フォー!
ファーイブ!
シーックス!

「悪ふざけが過ぎましたね。しばらくそこで反省していなさい」
そう言い捨てると、シエルは乱れた衣服を整え、何事もなかったかのように踵を返した。

セーブン!
エーイト!

砕け散った木屑の中に埋もれたまま、猫アルクは未だにピクリとも動かない。

これは勝負あったか?
ナーイン!
テ……。

「ふっ……くっふっふ……」
突然、先ほどと同様の不気味な笑い声と共に、猫アルクが木屑の山を押し退けて立ち上がった。
「勝利のテンカウントに酔いしれるには、まだ些か早過ぎるにゃ。まだまだお楽しみはこれからにゃ」
ボロボロな自らの体を叱咤し、果敢にもファイティングポーズを取る猫アルク。
「……まだやる気なのですか?」
シエルは足を止めて、うんざりしたように振り返る。
「精神的にも肉体的にも、こちとらとっくに全開ブースト済み! 見せてやるにゃ! 我が国に伝わりし究極の奥義を!!」
そう叫ぶと、シエルの見ている目の前で、猫アルクは突如として姿を消した。
「……消えた?」
シエルが微かな驚きと共に周囲を見渡した。
前後左右へと、くまなく視線を行き渡らせる。
……いない。

――……上?

そう思い、上空へと目線を持ち上げる。
だが、そこにも猫アルクのふざけた姿は見当たらない。

――一体何処へ……!?

瞬間、足下に妙な違和感を感じた。
続けて、その足首が強い束縛力でもって拘束される。
「ぬっふっふ……かかったにゃ、チエルよ」
「なっ!?」
不意に自分のすぐ近く、それも足下から掛けられた声に、シエルが驚愕を露わにその方へと顔を向ける。
その視界に映し出される、確信に満ちた得意気な笑み。
「は、放しなさい!」
シエルはその束縛を振りほどこうと、乱暴に足を振り回そうとした。
「放せと言われて放す奴なんかいたら、それはもはや天然記念物並のバカにゃ。潔く諦めるにゃ。それがお主の器にゃのだよ」
「くっ……!」
シエルが焦りを露わに歯ぎしりをした。
一向にビクともしない。
容姿に似合わず、恐ろしいまでの怪力だ。
「大気圏外まで吹き飛び、燃えカス、もとい萌えカスとなるがいいにゃ!」
訳の分からんことを言いながら、猫アルクは勢い良く、アッパー気味に短い腕を突き出した。
「ヌッころおぉす!!」
その腕がシエルの体に触れると同時に、二人の間で眩い閃光を伴った炸裂が生じた。
「きゃあああぁぁ!!」
シエルは悲痛さの漂う断末魔の悲鳴を残し、暗闇の支配する夜の空に鮮やかな放物線状の軌跡を描いて、遥か彼方へと文字通り吹っ飛んでいった。

……キラ〜ン☆

アニメとかだと、ちょうどこんな効果音だろうか?
「さらば、我が最大にして宿命のライヴァル、チエルよ。お主の死は無駄にはしないにゃ。これからは、我が傍若無人な活躍の数々を、黄泉の国から指をくわえて見ているがいいにゃ」
静寂を取り戻した夜の空間に、猫アルクの脳天気な声が響く。

コラ。
シエル先輩を勝手に殺すんじゃない。

「さて、邪魔者は消し終わったにゃ。次は、我をこの地へと呼び寄せた命知らずに、それ相応の報いを受けてもらうにゃ」
そう小さく呟くと、猫アルクは満足げに夜の闇の中へと消え去っていった。

月夜 2010年07月01日 (木) 23時44分(63)
題名:妄想爆発、猫アルク(第七章)

「……ここにゃ」
猫アルクは立ち止まり、その場でゆっくりと顔を持ち上げた。
その目前に佇む、無駄に無骨で仰々しい巨大な扉。
「この中から、邪悪なオーラを感じるのにゃ。それも、先刻ヌッころしたチエルなんかとは比べものにならない、強力な負のスピリッツにゃ」
その扉の前で、猫アルクが真剣な面持ち(とは言え、所詮は猫アルクです。真剣と表現は致しましたものの、正直いつもと何一つと変わっておりませんが)で呟く。
「おい、コラ、ナレーション」
猫アルクが、あらぬ方へ(多分私の方だと思います)と視線を投げかける。
「括弧ぐくりにしたら、バレないとでも思ったのにゃ?」
挑戦的な眼差しでこちらを見つめる。

……む。
今日はなかなか冴えているではないか。

「当たり前にゃ。我が脳内細胞は常に活性化の一途を辿っているにゃ。こうしている間にも、脳内では萌エンドルフィンが分泌されまくりにゃ」
得意気に言い放つ猫アルク。

……その口から、何やら聞き慣れない単語が聞こえた気も、しなくはありませんでしたが、そこらへんはいちいちツッコミません。
正直めんどいんで。
「全く……無能な作者にも困ったもんにゃ。折角、余が直々に雰囲気を作り出そうとしてやってるというのに……」
うんざりとしたような口調で、高圧的な愚痴を溢す。

何を偉そうに……。
第一、お前に雰囲気作りをしてもらう気など、最初っから1ミクロンたりとて無いわい。

「にゃるほど。なら、遠慮なく好き勝手やらせてもらうにゃ」
猫アルクがぶっきらぼうに言い放つ。

今までも、散々好き放題やってきた奴が、何を今更……。

「とりあえず、鬱陶しいこの扉は排除させてもらうにゃ」
そんな作者の恨みがましい眼差しを完全無視して、猫アルクは目の前にそびえ立つ扉へと向き直った。
そして、後退さるようにして、その扉との間に一定の間隔を作り出す。
「秘技! ワニ園に行きたい……と見せかけて、アリゲーターを食してみたい私!!」
そして、相変わらずの奇っ怪な台詞と共に、猫アルクは一気に扉へと跳躍し、己が身を弾丸と化した。

……どちらかと言えば、お前が食される側だろう?

――トガアァン!

そんな作者の疑問をよそに、激しい衝突音を周囲に響かせると、猫アルクはその扉のちょうど下方部分に、ギザギザ状の穴を空けた。

月夜 2010年07月01日 (木) 23時44分(64)
題名:妄想爆発、猫アルク(第八章)

その威力たるや凄まじく、周囲に四散した木片達の成れの果てが、暗にそのことを物語っている。
「鮮やかに潜入成功にゃ」
猫アルクが着地と共に呟く。

これのどこが潜入だと言うのだ?
全然潜んでなんか無いではないか。
こういうのを、世間の一般的な人々は、不法侵入と呼んでいるのだ。

「逐一いちいちうるさい奴にゃ。我がポリスィーは慎重且つ大胆なのにゃ」
猫アルクが不満そうに言う。

慎重さなど何処吹く風やら……。

――パサッ。

と、そんな時、何かが倒れた時のような音が、近くから聞こえてきた。
「にゃ?」
猫アルクがそちらへと目を向ける。
そこには、少し黒みがかった茶色を基調とする和服に身を包み、その上からエプロンを着けた、侍女風の女性が立っていた。
唖然とした様子で、ぽかんと口を開いたままな彼女の足元には、一見しただけでは何の変哲もない一本の箒が横たわっている。
「よぅ、メイド」
猫アルクが、しゅたっと手を上げながら、馴れ馴れしく声をかける。
その声に、彼女の琥珀色の瞳が焦点を取り戻した。
見る見る内に、その表情が得体の知れない恐怖に歪んでいく。
……と、突然、
「きゃあああぁぁっ!! お、お化けえぇっ!!」
屋敷そのものを揺るがさんばかりの大きな悲鳴を上げて、琥珀は逃げるようにして階段側に走り寄った。
そしてすぐさま、迷うことなく、そこに取り付けられていた一つのボタンを押す。

――ガタン!

巨大な轟音を伴って、床の一部が抜け落ちる。
「……にゃ?」
猫アルクが不思議そうに首をもたげる。
何気なく足下へと下ろされる視線。
その眼界を染め尽くす、漆黒の闇に彩られた空洞。

ふむ。
穴が空いてるにゃ。

「……」
しっかりとそのことを確認してから、もう一度顔を持ち上げ、今度は琥珀の方へと目線を向ける。
何か、この世ならざる異様な物でも見ているかのような、怯えきった琥珀の眼差し。
それと、目を点にした猫アルクの眼差しが、直前上でがっちりと交差する。
「……」
「……」
時が止まったかのようなしばらくの沈黙。
……そして。
「にゃああぁぁぁっっ!!」
猫アルクの姿は、突如としてその足下に出来た空間に呑み込まれ、琥珀の視界から消え去った。
哀れささえ感じられる悲痛な叫びが、遠ざかるにつれて徐々にフェードアウトして行く。

……え?
今、アイツは万有引力なる自然の摂理に、逆らってはいなかったか?
……気のせいでしょう?

それはともかく、猫アルクが地下の世界へと消え去って行ったのを確認して、琥珀はやっと胸を撫で下ろせたのだった。

月夜 2010年07月01日 (木) 23時45分(65)
題名:妄想爆発、猫アルク(第九章)

「ぐぶはふぁっ!?」
自由落下を終え、地面に激突すると同時に、猫アルクは世にも奇妙な絶叫を漏らした。
一瞬、世界が暗転しかける。
それを何とか堪え、薄れて消えかけていた意識を振り絞り、猫アルクがふらふらと立ち上がる。
「く……我としたことが……猫にあるまじき悲鳴を上げてしまったにゃ……」
腰の辺りを押さえ、後悔を含んだ声音で呟きながら、猫アルクは自分の置かれている状況を確認するべく、周囲をくまなく見回した。
常人には、暗くて良く見えないかもしれないが、彼女はこう見えても一応猫だ。
暗闇に対する順応性は、生来高めの基準値を持っている。
そんな猫アルクの目に見えたものは、妙ちくりんな光景だった。
何やら怪しげな機材や、一般家庭に置いておくには、余りに危険過ぎる爆発物の数々。
しかも、壁の至るところには、何のためか分からないような幾数本のパルプが、所狭しと張り巡らされている。
そして、その行き着く先を目で辿ってみると、それらが局部的に集中している一点に、何かがあるのが分かった。
「何にゃ?あれは」
猫アルクは訝しげに首を傾げると、その何かへと歩みを進めていった。
近付くにつれて、闇に紛れて曖昧だったその姿が、次第に明瞭なものへとなっていく。
ヒラヒラフリルを付けた衣服に、頭頂部にはレースの髪飾りという、典型的なメイドの衣装だ。
それに身を包んだ人型の何かが、先述した何本ものパルプによって、中空にぶら下げられている。
「……ピー……」
甲高い機械音と共に、閉じられていた瞼がゆっくりと持ち上がる。
その無機質な瞳に、猫アルクの姿が捉えられる。
「シンニュウシャ、ハッケン。タダチニハイジョシマス」
一切の感情の起伏に乏しい声でそう告げると、メカヒスイは自らの体を束縛していたパルプから、己が身体を解き放った。
「にゃんと! メイドなのにメカとは、此如何に!」

……何となく、ツッコミを入れるポイントにズレを感じなくもない……が、そんなことにいちいち構っている暇はございません。

騒々しく喚き立てる猫アルクの方へ向けて、その両腕が持ち上げられる。
と、それはちょうど肘の部分くらいで折れ曲がり、そこから鈍色に輝く円筒形の発射口が姿を覗かせた。
「ミサイル」
その両方から、同時に二発のミサイルが撃ち放たれる。
「遅いにゃ」
猫アルクは軽いステップで横へ飛び退くと、ミサイルの軌道上から身をかわした。
その背後で、激しい炸裂音が響き鳴る。
「ふっふっふ……メカメイドよ。何を企んでいたかは知らぬが、貴様の野望もここまでにゃ」
その派手な爆発のエフェクトをバックに、猫アルクは不敵な笑みを口元に浮かべ、
「この肉球のプニプニを恐れぬのならば……かかってこい!!」
その掌の肉球で、メカヒスイをビシッと指差した(?)
「シツレイ……シマス」
そんな猫アルクを見据えながら、メカヒスイが清楚っぽい手つきで自らのスカートの裾を持ち上げる。
と、その中から、先ほどの物とは比較にならないほどに大きな、濃厚な真紅で彩られたミサイルが姿を現した。
ご丁寧にも、表面には白いドクロが描かれている。
「甘いにゃ」
猫アルクは軽く跳躍し、その弾道から身を外す。
その背後で、今度は先ほどとは比べものにならない程の爆発が巻き起こる。
相当な熱を伴った爆風が周囲に吹き荒れ、巨大な爆音が大気を揺るがす。
「次はこちらの番にゃ」
と、そんな熱風を背に、空中で即座に足を変形させると、メカヒスイに向かって、そのまま頭から特攻をかけた。

月夜 2010年07月01日 (木) 23時46分(66)
題名:妄想爆発、猫アルク(第十章)

足元から噴射するロケットブーストのおかげで、それはそれは凄まじい速度だ。
「バリアー」
と、急激に距離を詰めてくる猫アルクに対し、メカヒスイは両手を高々と掲げ上げた。
次の瞬間、その周囲を包み込むかのような障壁が形成される。
今まさに激突せんとしていた猫アルクの体が、その強烈な力によって弾き飛ばされた。
「にゃぐぱぁっ!?」
何とも表現のしにくい悲鳴を伴って、まるでカタパルトで射出された砲弾の如く、比類無き速度で吹っ飛んで行き、

――ドガシャアン!

積み重なっていた木箱の群れに激突し、それらを倒壊させた後、猫アルクは木屑に埋もれて見えなくなった。

――……。

しばしの静寂。
「……く……ふっふっふ……」
それを破るようにして、体の上に覆い被さっていた木片を押し退けながら、猫アルクがふらふらと立ち上がった。
「な、なかなかやるではにゃいか……ATフィールドを持っているとは、油断したにゃ……」
苦しげな声音で呟く。

いや、猫アルクよ。それは違うだろう?

「そっちがその気ならば、こちらとて情け容赦はかけないにゃ!」
そんな作者のツッコミなどそっちのけで、猫アルクは大声で怒鳴ると、その瞳に意識を集中させる。
「喰らうがいいにゃ! 真祖ビイィィム!!」
その瞳から、激しい光の束が照射される。
「ビーム」
それに対し、メカヒスイも同じく目にエネルギーを集めると、それを猫アルク目がけて解放した。
互いに撃ち合った光線がぶつかり合い、二人の間で激しく火花を撒き散らす。
そして、全く同時にかき消された。
威力は互角だ。
「こしゃくにゃ」
猫アルクが素早く次の行動を起こした。
二人の間の距離を、今度はロケットブーストに頼ることなく、己の足で詰めて行く。
「ミサイル」
その場に立ち尽くしたまま、メカヒスイが両腕の射出口から、再びミサイルを乱れ撃つ。
そのことごとくを避けつつ、徐々にその間隔を狭めて行く。
そしてその距離が、手を伸ばせば届くくらいにまで縮まった時、メカヒスイは両腕を掲げる。
「バリアー」
再び、メカヒスイの体を中心として、その周囲に円形の障壁が生み出される。
「何とも激甘な思考回路にゃ」
しかし、そんなメカヒスイの行動を読んでいたのか、猫アルクは一旦少し足を引くと、その障壁の範囲内から身をかわした。
「同じような技が、この猫史上最強の猫たる我に、通用するとでも思ったのにゃ?」
猫アルクは嘲るように言い放つと、その障壁が消えた隙を狙って、メカヒスイの懐へと潜り込んだ。
「超電波奥技ネコエステ・スタンプリレー東日本!!」
そして、目にも止まらぬ速度で、無数の残像を纏った突きを乱打する。
その突きをまともに受け、メカヒスイが大きくのけぞる。
「ピー……エラー……」
そして、そのままの体勢で痺れたように硬直した。
「ぬっふっふ。動けまい。このプニプニ感溢れる肉球のエステを受けて、尚動けた輩など、未だかつて一人もいないにゃ」
そう言って、猫アルクは勝利を確信したかのような笑みを浮かべると、再び上空へと跳び上がった。
その変形した足元から、勢い良くブーストを噴射し、先と同様凄まじい速度で、身動き出来ないままのメカヒスイへと向けて飛行する。

――ガチャ。

と、妙な金属音が聞こえたと思ったその瞬間、唐突にその体に異変が生じ始めた。

――ガチャガチャッ!

より一層激しい変形音を放ちながら、今度はその体そのものが変形し始めた。
……いや、変形というよりは、分解と言った方が正確かもしれない。
両腕、両足が胴体から分離され、その一つ一つが個々にブーストを噴射し、本体に追随するかのように飛行する。
その目標は、無論未だ動けぬメカヒスイだ。
「さらばにゃ! 名も知らぬメイドinメカよ! 猫は今、神々を凌駕する!!」
そう大声で告げると、パーツごとに分解された体ごと、メカヒスイに激突した。
「ピー、ピー……」
鈍い断末魔の崩壊音を上げて、メカヒスイは部屋の端まで吹き飛び、そこで動かなくなった。
姿は見えないが、そこから立ち上る淀んだ黒煙が、彼女の最期を知らしめている。
「いくらメイドと言えど、所詮はメカに過ぎないのにゃ。それでは、生身のメイドには遠く及ばぬ。それが、メカとして生まれた貴様の限界であり、決定的な敗因にゃ」
その方へと視線を向けながら、猫アルクが勝ち誇った口調で言い放つ。
何がどのように遠く及ばないのかは定かでないが、とりあえず何かが足りなかったのだろう。
「……む!」
と、不意に猫アルクの瞳が光った。
昏倒したまま、ピクリとも動かないメカヒスイから目線を外し、天井(ここは地下なので、床と言うべきだろうか?)の一点を睨み据える。
「……同族のものらしき気配を感じるにゃ!」
猫アルクはそう言い残すと、その天井の一角へと、頭から突撃した。

月夜 2010年07月01日 (木) 23時47分(67)
題名:妄想爆発、猫アルク(第十一章)

――バキィッ!

木の砕ける鈍い破壊音と共に、木製の床に小規模な穴を空け、猫アルクが地上に姿を現した。
空中で軽く一回転して、安定した着地を見せる。
そのすぐ眼前、ベッドの上に座っていたのは、漆黒のローブを身に纏い、鮮やかな青色に彩られた長く緩やかな髪を持つ、一人の少女だった。
身を包む黒衣と同色の大きなリボンが、明るく映える青と相まって、より一層その存在を印象付けている。
「き、貴様……」
その姿を見るや否や、猫アルクの表情が険しく引きつり始めた。
小刻みに震える口元が、その怒りの程を雄弁に表している。
「……?」
そんな猫アルクを見つめながら、レンは小さく小首を傾げた。

――何? この不愉快な造型の猫は?

……彼女がそう思ったかどうかは定かではない。
「それでも猫のつもりにゃ!? 猫ミミの無い猫など、もはや猫に非ず!!」
そんな微妙に戸惑い気味のレンに対し、猫アルクがそう豪語しながらビシッと指差す。
動機はかなり意味不明だが、どうやら超絶にお怒りのご様子だ。
「……」
レンは相変わらず無言を保ったままだ。

――……あなたにだけは言われたくないわ。

彼女はそう思ったことだろう。
恐らく、と言うか間違いなく。
「猫としての誇りを棄てた黒猫よ! その堕落しきった性根、我が手で直々に叩き直してくれるにゃ!」
猫アルクが身構える。
「……」
それに呼応して、レンもしぶしぶといった様子でベッドから降りると、無言のまま猫アルクと相対する。
怒りを全面に凝視する、猫アルクの釣り上がった眼差しと、そんな猫アルクを困惑気味に見つめるレンの視線が、二人の間で互いにぶつかり合う。
臨戦時の張り詰めた空気が、重苦しい雰囲気で周囲を満たし始めた。

――バタン!!

と、その時、背後でいきなり扉が開かれた。
猫アルクが反射的に後ろを振り返る。
そこにあったのは、険しい表情でこちらを見つめる、一人の少女の姿だった。
額の辺りをヘアバンドでとめた、長く艶やかな黒い髪が、彼女の持つ清楚な感じとマッチして、なかなか良い雰囲気を醸し出している。
ただ、その唯一にして最大の弱点を上げるとすれば、胸の辺りが無駄にスレンダー過ぎるような気が……。
「……あなた、死にたいのかしら?」
誰にも聞こえないような声で、そう小さく呟いたのをきっかけとして、秋葉の鋭い眼差しがこちらへと向けられる。
それと時を同じくして、ナレーションである私の体に異変が生じ始めた。
ふと目線を下ろした先、そこにある私の腕に、何かが絡み付いている。

こ、これは……髪!?
バカな!!
こやつ、ナレーションである私にまで攻撃できるのか!?
くっ……ね、熱が……体中から熱が奪われていく……。

「これに懲りたら、もう二度とこのような不必要極まりない解説は加えないことです……理解していただけましたか?」

は……はい……す、すみませんでした……。

「……よろしい」
その言葉に、腕に巻き付いていた髪が、ようやくその束縛を緩めた。

……し、死ぬかと思った……。

「何にゃ? 貴様は」
秋葉に向かって、猫アルクが高圧的に問いかける。
「生憎、あなたのような無礼者に、名乗る名などは持ち合わせておりません」
怒りを露わにそう応えると、秋葉は眼光鋭く猫アルクを睨み付けた。
その足下に、本来床だったはずの場所が目につく。
今や、そこは秘密の地下室へと続く空洞となっている。
そして、その地下室も、猫アルクとメカヒスイの人外的バトルにより、ほとんど廃虚に等しい状況だった。
「あなたは些か暴れ過ぎました。ですが、この件については不問とさせて頂きますので、即刻この屋敷から立ち去って下さい」
秋葉が冷たい口調で言い放った。

月夜 2010年07月01日 (木) 23時48分(68)
題名:妄想爆発、猫アルク(第十二章)

形式は要求だが、その中には有無を言わさぬ強制力が含まれている。
「何にゃ、偉そうに」
だが、猫アルクはそんな秋葉に対してさえ、無謀にも突っ掛かっていく。
「近年、巷では妹萌えブームだからといって、少々調子に乗りすぎにゃ。ツルペタな妹などというベタなキャラを、いつまでも世間が求めているとでも思っているのにゃ?」

――……ピシッ。

……何やら、背筋がうすら寒くなるような、乾いたひび割れに似た音が聞こえた気がする。
「……それが、あなたの答え……ということですね?」
静かだが、烈々たる殺意を含んだ声音で呟くと、秋葉はゆっくりと足を進め出した。
その周囲の空間が、彼女の怒りのオーラによって歪曲している。
「ぬっふっふ……上等にゃ。貴様にも、猫ミミの偉大さを教えてやるにゃ」
またもや無謀にも、猫アルクがそんな秋葉の前でファイティングポーズを取る。
「……にゃ?」
と、そんな猫アルクの体に、ある異変が起きた。
自らの足下へと視線を落とす。
そこに、今まであったはずの床は無かった。
明らかに浮いている。

――にゃんと!いつの間に余は武空術を!!

などというふざけたことを、一瞬本気で考えた猫アルクだったが、もちろんそんなはずがない。

――……にゃんだか、脇の下辺りがくすぐったいにゃ。

そう思って、猫アルクがすぐ背後を振り返る。
そこに見えたのは、相変わらず無表情なレンの姿だった。
その両腕は、何故か猫アルクの脇の下に差し込まれている。
そう、図式で言うなれば、ちょうど、レンが猫アルクを盾代わりにしているような感じだ。
「な、何してるにゃ! 即刻その手を離すにゃ!」
レンの腕に支えられた体勢のまま、猫アルクが短い手足を振り回す。
「……」
だが、レンは依然として寡黙に徹したまま、暴れまわる猫アルクを支え続ける。
「……さぁ、覚悟はよろしいかしら?」
不意に、すぐ前方から聞こえてきた、恐怖を煽るかのような底冷えのする声に、猫アルクが後ろへと向けていた視線を元に戻す。
長い髪を真紅に染め尽くした秋葉の姿が、その視界全体に映っていた。
その手が、身動きの出来ない猫アルクの首元へ、ゆっくりと伸ばされていく。
「や、止めるにゃ! 止めてくれにゃ!」
猫アルクの懇願などに、耳を傾けるような秋葉ではない。
無慈悲にも、その手と猫アルクとの距離は徐々に、だが確実に縮まっていく。
「しーきゅーしーきゅー。だーれーかーたーすーけーてーー!!」
猫アルクの悲痛な叫び声が、夜の遠野邸に痛々しくこだまする。
……そして、猫アルクがあれからどうなったのか、知る者は愚か、知ろうとする者さえ、誰一人としていなかったのは言うまでもないのだった。

月夜 2010年07月01日 (木) 23時48分(69)
題名:妄想爆発、猫アルク(あとがき)

はい。
皆さんこんにちわ〜。
素人小説家の月夜です。
約2週間空いて、久々のアップですね。
正直、かなり苦労しました。
猫アルクと言えば、とにかく脳内バーストしっ放しで、発言、思考回路共に不可解極まりないのが特徴なので、どうにも難しかったです。
本音を言えば、未だに納得のいかない箇所が多々あります。
「なんか違うだろ〜」と思われましたら、じゃんじゃんツッコミ入れて下さいましね(^_^;)

さて、いつもと同じような、作者の反省を延々と連ねるあとがきばかりでは芸が無いので、今日は少し違う方向性で行ってみましょう。

志貴「なぁ、俺、これでも一応主役なのに、今回は全然出番無しか?」

うむ。
残念だが、今回は君の出番は無しだ。
しかし、今までの三作品には、全部メインとして登場しているのだから、たまにはいいではないか。

翡翠「そうですよ。志貴様は他の作品では全て主演ではないですか。私なんか、最初の作品以来、一度も出させてもらってないんですから……」

琥珀「そうそう。志貴さんは贅沢過ぎますよ〜。私も、翡翠ちゃんと同じく、ほとんど出番無しなんですよ?」

翡翠「……でも、姉さんは少し出てたじゃない」

琥珀「あら?あんなの、「きゃああぁぁっ!!」って叫んで、ボタンをポチッと押すだけじゃない。誰にだって出来るわよ」

翡翠「そ、それは……」

琥珀「何なら、代わって上げましょうか?」

こらこら。
作者を無視して、勝手に代役を立てようとかするんじゃない。

秋葉「あら?皆で集まって、どうかしたんですか?」

志貴「あぁ、秋葉か。ちょっとした、反省会みたいなものかな」

秋葉「反省会ですか?……あら?」
(秋葉が作者の姿に気付く)

や、やぁ……秋葉……。

秋葉「…………」
(無言のまま、作者をじっと睨み据える)

うっ……そ、そんなに睨まないで下さいよ〜。
あの時の自分の浅はかな発言には、海よりも深く反省してますから。

秋葉「……本当かしら?」

志貴「何だ?二人とも、何かあったのか?」

いや、何と言いましょうか……秋葉さんの身体的コンプレックスを、ピンポイントで指摘してしまいましてね……。

志貴「秋葉の?」

うん。
志貴は、どこの事だと思う?

志貴「えっ!?……そ、そりゃあ……」

秋葉「それは……何ですか?」
(作者から視線を外し、今度は志貴の方へと向き直る)

志貴「あ、え、え〜と……あの……その……」

よし。
志貴よ。
後は任せた。
(その隙に、作者逃亡)

志貴「えぇっ!?お、おい!ちょっと待てよ!こんなとこだけ、俺に押し付けるな〜っ!!」


はい。
一応主人公ですので、彼にもちょこっとだけ出演してもらいました。
今回は、このような会話文形式にて、終わりとさせて……。

さつき「あ、あの……」

む?
何かね?さっちん。

さつき「これ、全然取れないんですけど、どうしたらいいんでしょうか?」
(そう言いながら、さつきが自分の頭に生えた猫ミミに手を触れる)

……可愛いから、別にそれでいいんじゃない?

さつき「そ、そんなぁ……こんなんじゃ、明日から学校行けないよぉ……」

大丈夫。
きっと、クラスのアイドルの座を取り戻せるから。
……む!?
そろそろページの限界値が近いようだ。
すまぬ。さっちん。
どうやらここまでのようだ。
後は、自分自身の力で解決してくれたまえ。

さつき「えっ!?あ、ち、ちょっと……」

さて、今作についての感想やアドバイス等ございましたら、下の「小説感想アンケート板」または「小説感想掲示板」、「月夜に吠えろ」の方に、どんどん書き込み下さいね♪
ではでは、また次の作品でお会い致しましょう!
月夜のアトリエを、これからもよろしくお願いします♪o(^-^)o



さつき「…………可愛いのかなぁ……」
自分の頭頂部に付いた猫ミミを撫でながら、さつきは小さく呟いたのでした♪
皆さん、猫ミミさっちんというのはいかがでしょうか?(笑)

月夜 2010年07月01日 (木) 23時50分(70)


Number
Pass

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