ガヤガヤと騒がしい、活気溢れるいつもの教室。 至るところで、生徒達が思い思いの友人と話をしている。 昨日のテレビ番組について話している奴らもいれば、今日の授業についてダルそうに語る奴らもいた。 中には、他人の恋路について興奮気味に騒ぐ奴らもいる。 そんな賑やかな朝の教室の中で、志貴は一人、自分の席で机に突っ伏していた。 「だるいな……」 力無く呟く。 貧血の気がある志貴は、一般人と比べて格段に朝が弱い。 しかも、唯一とも言える親友の有彦が、まだ学校に来ていないため、特に話し相手もおらず、従って、授業開始まで寝て待つしかなかったのだった。 全く……こんな朝っぱらから、よくもまぁそこまで元気に話せるもんだ。 こっちはしんどいんだから、静かに寝かせてくれよ。 志貴はそう心の中で願いながらも、口に出すことはなく、相変わらずの姿勢で机に寝そべっていた。
――キーンコーンカーンコーン。
と、しばらくすると、いつものチャイムの音と共に、教室の扉が勢い良く開いた。 未だに話しを止めない一部の生徒に、軽く叱りの言葉をぶつけながら、担任の教師が教卓前に立つ。 そして、いつもの号令に合わせて、志貴は重々しく腰を上げ、投げやりに頭を下げた後、誰よりも早く腰を下ろした。 毎朝恒例の欠席者チェック。 今日は珍しいことに、有彦が欠席らしい。 担任曰く、理由は風邪だということらしいが、それはまず嘘だろう。 病的なまでに健康なあいつが風邪を引くなど、到底考えられることではない。 どういう意図があってかは知らないが、ただのサボりに違いない。 志貴はそう確信していた。 まぁ、そんなこんなで朝の恒例行事は終わり、いよいよ授業に差し掛かろうというその時、担任が戸惑い気味に口を開いた。 「さて、ところでだなぁ……今日は、ちょっと一日体験入学という形で、一人このクラスに入ることになった」 担任のその言葉に、クラスがどよめき始めた。 「何でも、海外育ちということで、日本の学校を知らないらしく、体験入学をしてみたいという彼女の意見に合わせて、急遽このクラスへの編入が決まったらしい」 クラスのざわめきがより一層強まる。 「外人かよ!」 「すっげ〜!」 などなど、騒々しく騒ぎ立てる。
――まぁ、俺には別に関係ないことだな。
志貴はそんな生徒達をよそ目に、机に突っ伏したまま動かなかった。 「静かに!」 担任の喝が空気を揺るがし、それと同時に生徒達の間から一切の声が消える。 「……あー、では、お入り下さい」 担任が改まった態度で入室を促す。 「失礼しま〜す♪」 その後に、妙に明るい能天気な声が聞こえ、
――おぉーっ!!
その声を、クラス内に反響した、本日最大音量のどよめきがかき消した。 「こらぁっ! 静かにせんか!!」 担任が再び大声で怒鳴る。 だが、今度ばかりは静まる気配はなかった。 担任の怒声など完全無視で、生徒達のテンションは相当ハイになっているようだ。 中でも、一際男子の声が目立っていることから、編入生が女子であることは、何となく予想が付いた。 そんなに可愛い人なのだろうか? ちょっと興味が湧かなくもなかったが、その好奇心を押さえ込むくらいに、全身を襲う倦怠感の方が強かった。 「すみません、騒がしい奴らばっかりで……」 「いえいえ、やっぱり学校は、これくらい賑やかじゃないと」 担任と編入生のそんなやり取りが、教室内に充満する騒音に混じって微かに聞こえて来る。 「では、こんな騒々しい中ですいませんが、自己紹介の方をお願いします」
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