つんく著『LOVE論』 香山リカのレビュー |
朝日新聞
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つんく著『LOVE論 あなたのいいトコ探します』 今、日本の音楽シーンで最も注目を集める男・つんく。シャ乱Qのボーカリストとして活躍した後、プロデューサーとしての頭角を現した。中でも「モーニング娘。」は今や国民的アイドルに。 この『LOVE論』はそんなつんくが、今まで育て上げたタレントたちを例に採りながら語った女性論だ。最近はやりの告白本や暴露本ではなく、ごくごく素直にそれぞれのタレントの特徴や努力の過程が語られる。ファンのためのタレント本にも見える本書が、予想を超えて売れているのはなぜか。 最大の理由は、つんくの“目のつけどころ”のユニークさにあるのだろう。つんくは業界っぽいマーケティング感覚で彼女たちを見ているのではない。「俺(おれ)が同級生だったらこの笑顔にはイチコロだ」「ドジなところがめちゃくちゃかわいい」などあくまで日常感覚の視線を、女の子たちに注ぐのだ。しかも、「二の腕が太い」「背が小さい」といったコンプレックスに対しては「それも魅力だ」と肯定し、逆に 「歌がうまい」といったタレント性に対しては「まだまだ努力せよ」と厳しい。そして各章で共通しているメッセージは、「努力すれば必ずステキな女の子になれる」というもの。 「モーニング娘。」のファンではない読者も、ブランドものや情報で飾りたてた姿が消え、高校時代の素朴な自分がむき出しにされる気がするはず。そして、つんくの“おもろい兄ちゃん”口調で「おまえってホントはそういうヤツなんや」と言われると、思わずコクンとうなずいているだろう。少女マンガの世界に戻ったような気分になって。 もちろん現実の生活や仕事は“可愛い女”一辺倒ではやっていけないし、ここに出てくる「ブサイク」「アホ」な少女たちも実際には何万人の中から選ばれたわけだし、つんく理論だけでは幸せになれないのは明らかなのだが、そうはわかっていてもちょっとだけ励まされたい。そんなケナゲな女性たちがあふれていることに、世の男性たちは気づいているのだろうか。(精神科医)
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掲載日:00/02/20 |
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