第十一章 〜洞窟の主〜
しばらく歩くと赤い薄い光が見えてきた。これこそ今回天狗がこの洞窟に潜った理由である。 「っしゃあぁ!ビンゴ!冴えてんなぁ。最近」 赤い光の方向へ行くとなにやら部屋がありそこから光が漏れていることに気が付いた。そして、声が漏れ聞こえてくるのにも。 「・・・・オマエ・・・・ない・・・・空っぽの・・・・」 「オレ・・・オマエ・・・・望み・・・・・ヤツ・・・覚醒・・・・・殺す・・・」 「なぜ?そこまで・・・・・オマエ・・・・肩入れ・・・・ヤツ・・・殺す」 「ヤツ・・・ダ・・・・覚醒・・・・テレポー・・・・・」 途切れ途切れで聞き取りにくいが一人はピンときた。 「ヤツだ・・・あの時の俺の練習相手だった・・・・あの機械野郎だっ!畜生っ!!」 体が勝手に動き、理性の壁があっさりと打ち破られる。バーン。そう音がしたとき天狗はドアを蹴破って部屋へと突入していた。だが部屋へと突入した天狗は一瞬思考回路がぶっ飛んだ。 部屋の中にあるコンピューターの多さ。部屋にコンピューターなどの機械類が生えているのではないかと思える量である。この時代、こんな量の機械類をお目にかかれるという事はまず、不可能といってもいい。それをこんなに・・・パッとみ、部屋に寄生しているかのように―――部屋からサーバーが生えているかのような異様な光景だった。 「なんだ・・・ここ。まるでムネーメイオン。古代遺産の遺跡かなんかか?」 だが相手は天狗のことなど気にせず話し込んでいる。天狗の知らないほうが戦闘機械に聞く。 「ヤツか?」 すると戦闘機械は、「そうだ」と言い残して体が透けて消えていった。 「! ホログラムか?」 「そうだ。貴様は天狗とか言うのだろう?」 「けっ!人に名前を聞く時はまず自分から名乗るもんだぜ?」 そう言いつつ、冷静になれと自分に言い聞かせる。この時点じゃ『自在法』は間に合わない。剣で隙作って『自在法』ぶっ放すしかない。そう決める。 「生憎、今死ぬヤツに名乗る名など無いわ!」 「へぇ。奇遇だな?俺も貴様なんか不細工な豚に名乗る名など持ち合わせてないんだけど?」 確かに天狗の言う通り、ぽっちゃり系だ。この言葉にキレたのか、相手は、 「はっ!今ここで貴様の無様な姿を曝せ!」 そう言って剣を抜き突っ込んでくる。天狗も剣を抜きながら挑戦的に叫ぶ。 「おいおいおいおい。カルシウム足りてないんじゃないの?牛乳をお勧めするよ?」 そう言いつつ横によけ、足を出しコケさせる。そして相手がコケた所を斬りかかる。だが、相手は空中で一回転して猫のような敏捷さで、着地するとさらに一回転し天狗の攻撃から辛くも逃れる。 「ちぃ!」 その一回の攻撃で相手が相当な手練れだということが分かった。その一回の攻撃でさっきまでの方針を止め様子見をすることにした。『存在の力』を出来るだけ使わず戦うしかない。最悪、赤い『玉』を取って逃走すればいいが、それだと天狗の気がすまない。ということで、逃げるという選択肢は消える。だとすると、まともに殺り合って勝つしかない。最終手段の詠唱しながら戦うということも出来なくないが少し間違えれば死が待っている危険性がある術やそもそも止まらないと撃てない術なんかもある。と言うよりまだ、零時になっていない。『存在の力』が回復していない。ここは『存在の力』の力を使わない剣術、体術で殺し合うしかない。 「っち!一番嫌いな分野しか残ってねぇじゃねえか」 ここは・・・・《真空覇陣》を使うか? ダッ!天狗はかけていって相手の剣が届かないギリギリのところまで行き剣で空気に円を書く。 「《真空波》!」 その瞬間、真空弾が無数に出てくる。そしてそれは敵に当たる手前でさらに分裂して、襲いかかる。到底避けられないと思ったが相手は驚くべき反射神経でそれを避け、また剣ではじく。《真空波》は一応『存在の力』を使わないので半永久的に撃てる。『剣気』を使って撃っているので一回撃つごとにそれ相応のチャージが必要だが。それに『剣気』と言っても、結局は精神力の一部なので自らの精神エネルギーが高ければ高いほど術か強くなる。 「結局オマエはその程度か?」 相手が言う。 「んだとぉ?」 ブチッ!天狗は簡単に切れた。 「あらあら。こんな挑発で引っかかっちゃうとはねぇ?これから死ぬやつに名乗るまでも無いが、ストルだ!」 「けっ!結局名乗ってんじゃねぇか!」 「テメェを殺すヤツの名ぐらい知っときたいかと思ってな」 「あっそ。俺は天狗だ!!ストイル君?」 「ストルだって言ってんだよ!っつうかテメェの名前なんか興味ねぇよ」 「いやぁー。これからオマエ死ぬし」 そう言ったもののタイミングが合わなかったら全ておじゃんだ。 「早く来いよ!ストル!!」 「粋がってんじゃねぇよ!カスがぁ!」 ダッ!天狗が走りストルが走る。ストルが切りかかってきたところで、斜め上に飛ぶ。 「はっ!」 「馬鹿が!そんなんでかわせるかよ!ボケが!」 そうなのだ。ストルの剣は七〜八十センチ。ストルの身長は目測で1メートル半位。合わせて二メートルと少し。どんだけ頑張ったところでも一,八メートル位が限度である。だが、天狗は気を溜めて斜め後ろに一気に放出する。ただそれだけなら何の意味も無いのだが、 「《真空覇陣》!」 ブワァッ!放出した気が、空中に円を書きそこに幾何学的な紋様を書いていき、完成と同時にそこから天狗に向かって気が向かって行った! ガッ!!それは天狗の足のぶつかり一瞬だが天狗の足場となる。 だが、それを知らないストルから見れば単なる茶番にしか見えないのだろう。 「はっ!いらない悪足掻きなど!カス以下だな」 「オレがカスならオマエはミジンコじゃねぇーの?」 嘲りの言葉を吐きながら天狗は飛ぶ。ストルから見れば天狗が空中から突然消えたように見えるだろう。 「なに!?」 振り下ろしかけた剣はそう簡単には止まらない。ストルの剣は振り下ろされ天狗が発動した《真空覇陣》にぶち当たった! キィーン!甲高い音と共にストルの手から剣がはじき飛ぶ。 「終わりだ」 ストルの耳元で天狗が言い、飛んでいる時に腰からとった鞘で思い切り叩く。 ドキャッ!嫌な音がして、ストルは崩れ落ちる。 「あぁー。危なかった。もうちょっとで『存在の力』無くなるトコだった」 そう言いつつ、本来の目的であった新たな『玉』の光の元に歩いていく。だが、後、数十歩という所で何かにぶち当たりそれ以上進めなくなった。 「? なんだ?何で進めないんだ・・・・」 その時天狗は、微かな笑い声を聞いて、後ろを振り返るが誰も居ない。? なんだ? 「誰だ?」 剣の柄を撫でながら、虚空に向かって問い掛ける。 「誰だと思う?」 そういうナゾかけを楽しむような返答がしばらくしてから、帰ってくる。その声は何処かで聞いた事のある声で・・・そこまで考えた時点で言う。 「あれ〜?覚えてくれてない?チョッと酷いんじゃない?」 そう言いつつ物影から出てきた人物を天狗は見て、軽くため息をついた後、問いただす。 「何でお前がまだ居るんだ?」 現れたのはなんとニカだった。 「ふふっ。何でかって?見てないの?」 そういって、不思議そうにするニカ。一方天狗は何のことか分からないので疑問マークを浮かべつつ尋ねる。 「何のことだ?」 「ホントに見てないの?私の手紙・・・・」 「・・・・! あぁ!これの事か」 そう言いながら朝読むことの出来なかった手紙をポケットの中から出す。その手紙はしっかりと封がしてあった。 「・・・・・天狗。ちょっと酷いんじゃないの・・・?」 「わりぃわりぃ。ちょっと、読む時間が無くて・・・・」 完璧な言い訳だ・・・そう思いつつ天狗はそういった。 「それにしても酷いわ!うぅっ・・・・」 そう言ってニカは泣き出してしまった。 ・・・・・えーっと・・・これって俺が泣かしたことになるんだよな・・・どーしよ・・・ そう思いつつ、まずは問題の手紙を読まないと始まらないと思った天狗は、手紙を読み始める。
Dear 天狗 Data: ローレライ 19 moon
えっと。単刀直入にお願いします。 旅に連れてってww あぁ。そうそう。この占眼霊杖は、半分くらいは私の物で、あなたが二日酔いで倒れてから二日後の朝に入る洞窟も私の物でそこに入ったらまぁ、強制的について行くからね。 あっ。逃げたらちょーっとヤバイ事になるから逃げないでねーww
それじゃ。 From ニカ
・・・・おいおいおい・・・何で・・・まぁしゃーねぇか・・・・適当にやっとこうかな。まぁ。フリをして、んで出たトコで逃げる!そしたら、ついてこねぇだろうし、ニカはちゃんと帰れる。それに――もう、ダレも傷つかない・・・俺は、もうダレも傷付けないですむ・・・・・・ん?こいつなんで俺が洞窟に入ることを知ってるんだ?
「悪かったってニカ。なっ?許してくれ。このとおりだ」 そう言って手を合わせる天狗。それを見てニカは・・・―― 「じゃぁ、連れってくれる・・・!?」 突如、笑顔になるニカ。・・・・・・コイツ・・・ぜってぇー嘘泣きだったんだな・・・ちくしょぉ・・・騙された・・・はぁあぁ・・・んでもまぁ、これでトントンだろ。まぁそれはおいといて、取り敢えず、今はどうやって取るかが先だ。 「なぁニカ。この『玉』どうやって、取んのか知ってんのか?」 「ええっ!そこに突っ込むの?先に、なんで俺がココに入るって事知ってんだー!とか、何でお前がココにいるんだー!とかそっちが来るもんだと思ったのに・・・・・」 「・・・・分かった。後で、飲みながら話したいからその時で良いか?」 「ちぇっ!じゃぁ、いいわ。教えてあげる。『玉』の取り方を」 「・・・・・ありがとよ。んで、どうやって取るんだ?」 「結界って知らない?」 「結界?あぁ、なんか閉じ込めたり結界で相手を攻撃したり出来るんだろ?」 「そうよ。補足すると、潰して相手を滅することも出来るけど・・・・まぁそんな事どうでも良いわね。それで、その結界が、ココ。・・・そうね、あの『玉』っていうの?から半径20m位かしら?に、張ってあるのよねぇ・・・・・」 ・・・・・なんかムカツクぞ・・・まぁ、抑えろ抑えろ俺。 「んで、どうやってその結界の中に入れば良いんだ?」 「『霊力』だけになって、その後、身体を再構築できればいけるんじゃないのかな・・・・?試した事無いから解らないけど・・・」 「・・・・・マジかよ・・・・『存在の力』だけにはなれても『霊力』だけにはなれねぇぞ・・・」 「うふふふ。私は出来るわよ?私に頼んでみる?」 うっ・・・あんまりココで貸しを作りたくない・・・・・・でも、『存在の力』の回復はまだだし――っていうかどんだけ遅いんだよ。回復するの・・・・――しょうがない。頼むしかないか。 「出来たら取ってきて欲しいんだけどダメ?」 そう言いながら、手を合わせてみる。 「しょうがないわねぇー。貸しにしとくわよ。天狗」 かなりうきうきした声でニカが言う。 はぁ。やっぱりこうなったか。仕方が無いだろ。 「解ったよ。行った店で何か上手い物でも食わせてやるからそれで、チャラにしてくれ」 「ホント?約束したからね!よーしじゃぁ!いっちょ頑張りますか!食べ物の為に!へへっ・・・」 食い意地張るなよ・・・ニカ。 「自らの壁 今打ち砕かれん 生命の扉 今開かれん わが身の霊力よ 万物の中にありて輝く魂よ 我が名において命ずる 命の木よ 世界の理を離れる事を許したまえ エデン イジェクト セディレクト!」 ゴゴゴゴッ!ニカの呪文の余韻が消え去る瞬間ニカの身体が一瞬瞬き、粒子として見えたかと思うとその次の瞬間、結界の中への侵入を果たして、再び具現化していた。 「おぉ!すげ・・・・」 天狗は無意識のうちに、そう呟いていた。大雑把なことは得意な天狗だが、細かい、繊細さを要求される作業は、不得意なのだった。ニカはというと、かなり苦戦していた。赤の『玉』の目の前に来たのだが、さわろうとすると、障壁が出来て、さわれないのである。 「天狗ー」 「あぁ?なんだよ」 「これってどうやって持つの?」 「どうやってだぁ?それはまず、手を広げて、その後持ちたいものの上に持っていき―――」 ニカはそれをさえぎり最後まで言わせてくれなかった。 「それは、わかってんのよ。でもなんかコレ、私じゃさわれないのよね。あなたは、どうしてさわれるの?」 「そうなのか?普通に・・・」 「んー。じゃあ、あなたに取ってもらうしかないわね」 そう言いつつ、手近にあった、ボタンを押す。 「あっ!馬鹿!止めろ!!」 天狗の静止の声は届く間もなく。 当然のように警報機の音が鳴り響く。 ガーガー!パスワードを入力してください・・・パスワードを入力してください・・・ ノイズと共に、そう、機械的な女性の声で流れた。 「天狗ー。パスワードだって。何だと思う?」 「あほっ!何で押してんだよ!自爆スイッチかも知れねぇだろ」 「それはないんじゃないかなぁ。天狗。だってココにほら」 そう言って天狗からは見えない、操作盤を指差す。 「・・・こっからじゃ見えない」 「っあ、そっかぁ。えっとねぇ、結界シールド解除って」 「そうかそうか。そこまでは良いんだが、その近くにパス書いたヤツ無いのか?」 「説明書ならあるわね」 「結界シールド解除のトコなんて書いてある?」 この懸念か懸念で終わってくれればいいが・・・・・ 「えぇーっと。この結界シールド装置は・・・・・難しい説明ばっかでわかんないわ・・・」 「おいっ!んじゃぁこっち持ってきてくれよ」 「良いわよぉー」 だが、結界シールドなるもんがあるせいで、俺は触れない。しょーが無いから。ニカが結界シールドに押し付けて俺が読んだ。 「っ!やっぱり・・・・・」 一瞬で看破して言う。 「ニカ!アホ!半径五百キロメートルは溶鉱炉と化す核が仕掛けられてんじゃねぇか!失敗したら、時限爆弾的な感じで爆発すんぞ!」 「核って?」 天狗が怒鳴り散らしているにもかかわらずニカは、相変わらず緊張感の欠片も無い声で聞いた。その声を聞いて、少しの余裕が天狗に生まれた。 「核って言うのはなぁ・・・」 説明しようとした所で気がついた。『存在の力』が戻ってきてる。 ラッキー。今ほど天に感謝した事はない。コレでいける! 「ニカ。退いてろ」 「えっ?なになに・・・・?」 「我 自らの血の名の元に誓う 我 世界を形創る者 全てを形創る原子に我を・・・・・」 「何やってんの・・・?」 ニカが聞いても天狗は答えず、ただ、詠唱を続ける。 「我の全ては元素の名に・・・」 「ちょっとくらい人の話聞きなさいよ」 「我は『存在の力』 コンバート!」 天狗の身体が、瞬き光が急速に天狗の核に集まり拡散する。次の瞬間、銀色の炎が見えたと思ったら、中に入っていた。 「おっしゃ。これで良いだろ」 「えっえっえっ?何でこっちにいるの?」 ニカの疑問はかなり適切だ。俺は今、結界シールドの中にいたからな。 「『存在の力』だけになってな」 「あっ、力。回復したのね」 「そ。さぁてと」 おもむろに腕まくりをしたかと思うと、ごちゃごちゃした操作盤に向かった。 「えぇーっと。どっかに端子がねぇかな・・・・・・」 「天狗・・・何やってんの・・・?」 「んー。ハッキング?」 「ハッキング?」 「・・・まぁ、コンピューターに無断で侵入して色々弄くるコト?」 「出来るの・・・・?」 かなりの疑問形で聞かれた。ちょっと傷つく・・・ 「出来んじゃない?」 おきらくに答えてみる。 「あぁ!端子見っけ」 ニカが端子を見つけたらしい。 「おぉ!よく見っけたな。後は、コードと、俺の携帯があれば・・・・」 「何その携帯・・・?凄く重そうだけど・・・・・・・」 「使えれば良いんだよ」 まぁ、確かに重いけど・・・そのせいで、ポッケが破れそうにもなったけど・・・ 「こんなんで良いだろ」 携帯と端子を繋ぎ、そこからウイルスを流してみる。そしてそこからが勝負だった。 猛然と、天狗がキーを叩く。音がダーーーーッと言う音にしか聞こえない。 「あっ!あのォ・・・そんなに強く叩いたら壊れるんじゃぁ・・・・・」 ズダダダダダッ!ズダダダダダダダダダダダダダダ!!! ニカの疑問に対する返事がコレだった。 「・・・・・」 ニカは質問するのを諦め、モニターを見るしかなかった。・・・何やってるんだろう?率直な ニカの感想がそれだった・・・・ モニターには、訳の分からない数字やら、文字の羅列が流れている。 数分後、ハッキングに成功したのか天狗が手を止めて床に座り目頭を押さえている。 「やべぇ・・・」 そう天狗が呟いた・・・・・・かな? そう思って聴いて見る。 「どうしたの?」 「腕落ちた・・・・」 「成功?したんでしょ・・・?」 「まぁ・・・・な」 「じゃぁ、良いじゃない」 「・・・・スキルか」 だが、その単語は、ニカには届かなかった。 「えっ?なんていったの?」 「いや。何でもねぇよ。さっさとココから出ようぜ」 「天狗!天狗!『玉』忘れてる!」 「おおっと!その為に来たんだった・・・」 「しっかりぃー」 笑いながらニカが言う。返す言葉が無い・・・ 「取ってくるか」 そう言ってツカツカと玉座に向かった。 「あれ?何か物凄く光ってない・・・?」 「確かに・・・!」 「まぁ、良いから取っとけば?」 「だな」 そう言って『玉』を取った。その瞬間だった。
[13] 2008年01月12日 (土) 18時52分
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