(79) 悔しいくらいクールな掌の中で◆◆LO-FIDELITY ALL STARS--BIG BEAT BOUTIQUE◆◆ |
投稿者:nabes
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桜沢エリカの漫画に『世界の終わりには君と 一緒に』という漫画がある。彼女の漫画は、 これしかないのだが、凄く好きな作品である。
話は大した事はない。飄々とした主人公のう ちに居着いてしまう女の子。最初は勢いで抱 いたもののなんか、不思議と仲良くやってい く。そこに競馬の資金でジャマイカ行きを夢 見る女の子と出会い、次第に惹かれていく。 その過程で主人公の後輩なり、その主人公の 前に現れる馬主の令嬢なんかなり、競馬を軸 にドラッグ、ゲイなど当時のクラブ・シーン をうまく描いている作品なのだが、その漫画 で一番好きなシーンがある。何のことはない 物語には何の関係もないシーンだが、そこの 台詞が凄い好きなのだ。
その馬主の令嬢が出資する、イベントのオー ガナイザーを頼まれる主人公、人脈を活かし 場所を押さえ、DJも呼び、さぁ、そのイベン トはスタートするわけだが、人は殆どいない。 「来ませんね、お客」との後輩の一言に、
「クラブなんか、こんなもんよ。 営業時間ちょうどから、客が押しかけてく るわけないよ」
とタバコをくわえながら主人公が一言。ここ である。
読んだ事のある人なら知っていると思うが、 本当に物語には関係のないシーンであるが、 何故か頭に残っている。 そう、最初から盛り上がってるクラブなんて ないし、そんなの気味が悪いってもんである。
FATBOY SLIMを中心とするレーベル、SKINTの 出しているノンストップDJシリーズBIG BEAT BOUTIQUEのシリーズの第2弾として出されて いるLO-FIDELITY ALL STARSのCDには、そんな 匂いがよくわかるカッコイイCDだ。
大抵ノンストップシリーズというやつは、善 かれ悪かれお客さんが入って、既に温まって いますよという仮定のもと鳴らされていると 思っているので、最初はある意味、ファンフ ァーレのように元気がよかったりするので、 変な話、部屋の中でもすぐに踊る事は可能か もしれない。がしかし、臨場感に欠けるとい っちゃ欠ける。 「いいじゃないか、最初からエンジン全開で」 といわれりゃ、それまでだが物事には順番が ある。僕は別にクラブには数回しかいったこ とないし、夜毎、遊び回る世代でない。でも 数時間、自分の武器をいかして不特定多数の 人を踊らせるDJって、すごい尊敬してしまう。 なので、その部分部分ではなく、全体に興味 がいってしまうのだ。
このグループのメンバーは確か、タワーレコ ードでバイトしている連中が集まって結成し たというのを聴いた事がある。それゆえ、音 楽ジャンルはかなり広い。ゆる〜いR&Bから徐 々にハウスで心泊数をあげていき、ゴアトラ ンス風の音で人の脳を錯乱させる、その途中 途中で自分達の曲があるのが微笑ましい。も ちろん、レーベルメイトFATBOY SLIMの曲あり バラエティ豊かである。そこにはクラブの呼 吸というものが、目に見えるようだ。
掌の中で自由に踊らせ、時にはクールダウン させたり、踊り方は自分の思うまま。そして 知らない人たちを一体化させる順序。前述の 漫画の主人公には、そんなオーガナイザーと しての確信が溢れていて、飄々とした中の自 信が頼もしくとてもクールに見えるとこが好 きなんだろう。そんな姿勢を当時のクラブ・ シーンを体現している桜沢エリカは正確に表 現している。
このCDは最後、突然パンクが流れ、曲の途中 で終わってしまう。まるで「続きは自分の部 屋じゃなく、現場(クラブ)でな」といわれ ているように。チッ、悔しいくらいクールじ ゃねーか。
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2002年07月04日 (木) 16時34分 |
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