小学校の時の国語の教科書に「せっちゃん」
というお話があった。何年生の時の話かも、
どんな内容だったかも、今となっては忘れて
しまった。でも、なぜ「せっちゃん」を覚え
ているのか？それは冒頭のこの一文を鮮烈に
覚えていたからであった。

「せっちゃんは、（おきゃん）でまるで
　男の子みたい」

おきゃん？小学生だった（そして低学年だっ
たのだろう）僕やその仲間は（おきゃん）と
いう言葉の響きに惹かれ、その一文を異常に
連呼していた覚えがある。この（おきゃん）
というのは確か四国かどこかの方言で、「お
転婆」とかそんな感じの快活な感じの意味で
あったと記憶している。
VERUCA SALTの『EIGHT ARMS TO HOLD YOU』
を聴くと、このバンドのフロントマン、ニナ
とルイーズの佇まいこそ、（おきゃん）その
ものといってよい。

音はアメリカン・ハードロックの正統派とい
うべき、擬音にするとバリバリ！な音が聴こ
えてくる。前作『AMERICAN THIGHS』では比較
的陰の部分が目立っていただけに、この作品
ではズバリ、陽に満ちている。ガシガシ、ゴ
リゴリ刻むギターの音、飛沫となって飛び散
る汗の雫、また雫。それでも何ゆえにか振っ
てしまう、頭そして頭。そんな弾けまくった
姿が非常に心地よい。それはロックを超えて、
ポップの土俵に殴り込みをかけているような
わかりやすさに起因するところだろうか。

ニナとルイーズのそんな分かりやすさは、男
性の立場から見るとどうなんだろう？結構、
手がつけられないのかも。そりゃそうだ、自
分勝手でちょっと意地悪で、まるで媚びると
ころのない、ひと昔のマンガに出てきそうな
「おまえ、もうちょっと女らしく出来ねーの
かよ」っていう台詞が良く似合う。でも、そ
んな女の子に限って良く見ると、可愛かった
りするから非常に困る、しかもそれにはあま
り気がついてないというか、興味がない御様
子。だからこっちも「やれやれ」といった感
じで気がつけば目が離せなくなっている。そ
んな女の子こそ（おきゃん）の定義といって
もいいだろう。

まぁ、当然向こうには（おきゃん）という表
現は存在しない。考えていくと、おそらくそ
れに近い表現はビッチ＝BITCHという事になる
だろう。ん？ちょっと違うかもしれないな。
でもいいや、便宜上通してしまおう、（おき
ゃん）＝ビッチ。
少し前に日本全国には、コギャル文化という
ものが存在した。どうだろう？ビッチに近い
かなという気もするが、少々違う。あの文化
は外面的なビッチの模索であり、内面には何
の変化もない。まぁそれはそれで現在の女の
子の「可愛さ」への新しい変化といってもい
いので、否定はしないが。

内面からにじみ出る自分の感情を、隠しもせ
ずに活火山のように爆発させる。それはとて
も熱くて、触ると火傷どころか大怪我してし
まう。そして気紛れだから誰にもコントロー
ルされる事はない。でもそれくらい奔放だか
らこそ、辟易しながらも放っておけない。そ
う、いつの時代だって、女の子はビッチな方
が男の子から見たら微笑ましい。アルバムタ
イトルの『EIGHT ARMS TO HOLD YOU』（あな
たを抱き締める８つの腕＝メンバー４人の腕
という意）は、実は彼女達が抱き締めるので
はなく、我々が抱き締める腕なのだ。

さあ、少女よ、今こそ（おきゃん）を目指せ。