先日、『PRIDE.23』に於いて高田延彦が22年の格闘 家人生にピリオドを打った。まさに波乱万丈ではあっ たが、その清々しさと男っぽさの程よいばかりのバラ ンスには唯一無二の存在であっただけに、その引退は 非常に残念ではあるが、それはそれで仕方が無いと、 観ているこちら側にも納得し得る散り際だと思う。 そんな高田の昔の発言の中に、こんなものがあった。
「まだまだ未熟な我々に御指導、御鞭撻…は苦手なの で、出来れば褒めて頂ければ、木にも登る思いです」
これは80年終盤より、プロレスの革新的な形として 一大ムーブメントを放った第2次UWFに於ける彼の挨 拶である。こういう人間の本質的な本音を言わせたら 彼の右に出るものはないと、感心したし、この台詞を 自分の結婚式とかには是非言いたいものだなと密かに 憶えている。まぁ、そんな自分の結婚もいつの事やら …と途方に暮れる毎日ではあるが。
話が大幅に反れたが、この中で言いたいのはどういう 事かというと、おだてられて、木どころか天にも昇る ほどの有頂天になる事って案外難しいだろうなという 事。結局人間って思慮深い生き物なので、簡単に有頂 天になるなんて出来る訳がないのである。そこに警戒 や疑念を抱いたが最後、せいぜい木に昇るのが精一杯 だし、木に昇れば、まぁ及第点みたいな感はある。と いうことで「ブタもおだてりゃ木に昇る」とはよく言 ったものだ。世の中は、漫画のようにはいかないので ある。
では、木どころか天にも昇ってしまう事は可能なのか、 ハイ、バカなら可能である。バカは疑念を抱かない。 バカは警戒もない。ただ、あるのは嬉しい、悲しいの 極めて単純な思考のみ。だからおだてられれば天どこ ろか宇宙にも昇る。そんな事をTHE OFFSPINGの『AMEI CANA』を聴いてるとよく考え、改めてバカに対する羨 望の念は強くなる。
この作品は98年発表、なるほど4年前の作品か。ちょ うど、その頃はまさにメロコア、スカコアに対する追 い風がピークに達していた。Tシャツで短パンでみん なで大合唱できて、男も女も我を忘れてダイブ、モッ シュの連続でグランジに代わる新たなムーブメントと して定着した年といってよいかもしれない。 そんな中でこの作品は、まさに真打ちといってよい名 盤の一つである。特にこの頃の僕はケーブルTVをよ く観ていたが、『PRETTY FLY(FOR A WHITE GUY)』の クリップを観た時のある意味感動に似た衝撃は忘れる 事が出来ない。正直説明に困る。それでは伝わらない だろうと言われるかもしれないが、それも仕方がない。 とにかく、カラッカラの脳天気なバカっぷりなのだ。 完全に追い風を自分のものとし、完全に追い風におだ てられ有頂天だぜ、イエー!!みたいな上昇していく 様がマジで心地よい。そして先にも述べた大合唱の真 理、みんなでわかち合おうぜの精神も『WHY DON'T YO U GET A JOB?』のクリップで存分に味わえる。子供も 大人も、綺麗な女の子もダメな男の子もみ〜んな彼ら についていき、最後は先頭を歩く彼らが爆弾のスイッ チを押しちゃう、何とも身も蓋も無いそれでいておバ カなクリップである。DVDとかで出ているのだろうか? もし出ていたらそれで観てもらう事をオススメする。
もう、ハッキリいってしまうと本当のバカに余計な注 釈や、詳しい説明などはいらないといってよい。とに かくそのバカな世界に乗って、宇宙の風となるまで飛 んでいく有頂天でもいいではないか。楽しいだろ?宇 宙まで昇ってみたいだろ?ややこしい事は何も考えて はいけない。単純に楽しさの渦に飲まれてしまおうよ。 それがただの独りよがりに終わらないところが、この バンドの凄いところであり、羨ましいまで才能なので ある。たとえ、天狗と言われようが、バカと言われよ うが、素直に、素直に。上に、上に。
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