つまり、センスというものはあるか、ないかだけで
ある。いきなり極論だが、これは仕方がない。セン
スというものが誤った解釈で語られているからであ
る。
例えば、「あの人はセンスがいい」というのはその
場だけの話である。確かにその場での状況判断に応
じて、自分を変える事に何の抵抗もなく変える事の
できる、ある意味でも節操のなさ。コレである。だ
がしかし、それをもってセンスがあるとはおそらく
言わない。何故なら、「そこでだけ」だからである。
一期一会なこの世の中、その場だけ、その一瞬だけ
出会う人の方が多い中で、そこにセンスがいいなん
て言っちゃいけない気がする。長くつき合ってみて
改めて、この人は本当にセンスがある、そういう感
嘆の言葉だと思う。まぁ、そういう意味でいうと、
自分の周りにはそういう人で埋め尽くしたい、そし
て、周りからもそういう視線で見られたら結構幸せ
者かもしれない。もし、自分がそうでなくても、そ
んな人に囲まれていたら、そういう能力は磨かれて
いくだろう。

世界を代表するスーパーモデル、久保田利伸の『LA.
LA.LA.LOVESONG』を一緒にデュエットしている人、
大変申し訳ないがナオミ・キャンベルという人には
この程度の知識しかない。少し前にメールで頂いた
が、「もうちょっと資料とかで調べた方がいいので
は？」ということを言われたが、これはレビューで
はなく、あくまで日常に漂う、うちのかわいいCD達
との日記のようなものであるので、この無い知識の
まま、進ませてもらいたいと思う。

話は反れたが、そんなナオミ・キャンベルの『BABY
WOMAN』を駅の中古CD売り場で見つけて興味本位で購
入した（８００円）。ジャケはトイレに座り、大股
を広げ臑の毛を剃るナオミの姿である。いいなぁ、
ちょっと下品で、スキャンダラスで、それでいて、
「さぁ、これから素の私を見せますよ」という所信
表明のようなニュアンスが含まれている。もちろん、
これ以外に素の私を見せる方法というものは多々あ
るだろうが、スーパーモデルという特異な職業に就
いている彼女にとって、これほどバックステージ＝
素な感じを表す写真はないと思う。そして、中を開
けると、これぞ「世界の」ナオミ全開の写真が飛び
込んでくる。ジャケで素を見た後だから、尚更余計
に「世界の」っぷりが輝いてみえる。（もちろん、
ジャケも素ではないので、さほど変わらないのだろ
うけど）

音はUKダブに溢れた、極めて内省的でもあり、それ
でいてまるでショーの音楽のようにズッパリと、違
う世界に連れていってくれる。ライナーをなくして
しまったのだが、BOMB THE BASSの人が一枚噛んでい
るようだ。発表は９４年、なるほど、唸った。
まさに時代の最新鋭の音である。もちろん、この手
の本業を持った人だから、別に音楽で一儲けしよう
などとは考えてもいないだろう、もっと、キャッチ
ーな曲なりポップな仕上がりも可能であっただろう
が、彼女のそのモデルという最も、ミステリアスに
満ちた商売からリンクするクラブ・ミュージックで
更なるミステリーに迷いこませてしまおうという意
図が見えて、とても痛快である。もちろん、そこに
はこのジャンルの音楽に並々ならぬ「好き」がある
ので、キッチリ、音の中でも主人公を演じて見せて
くれている。

さぁ、そこでセンスである。自分を客観的に見て、
この場所ではどのような私を見せようか、どんな声
で歌おうか、そんな状況判断に優れた人こそ、前述
したようにセンスのある人といってよいと思う。そ
したら、知らない内にその人の世界に惹きこまれて
いき、もっと、この人を知りたくなってしまう。そ
んな興味を注ぎたくなってしまう、よく考えてみた
らモデルのファッションショーって、それなんだよ
ね。デザイナーの作る衣服と着るモデルのコラボレ
ーションによる、一期一会、そこから湧き出る興味、
好奇心。きっと、ナオミはそんなショービズの中で
鍛えられ、そこで自立したセンスというものを手に
入れたんではないだろうか？

そう考えると、やはりセンスがいいなんて間違って
も言ってはいけない。センスは、あるかないか。こ
の二つだけだと思う。その観点からいうと、ナオミ
・キャンベルという女性は本当にセンスのある女性
だと思う。日本のタレントさんに足らないのってこ
ういう状況判断なのかもしれない。