不定期に続けて来た「こんなオヤジになりたい」
シリーズ完結編は、やはりこの人かも。何故なら、
そんな文章を書いてみようと思ったキッカケはこ
の人からだったから。だったら最初から書けよ、
と突っ込まれると弱いが、書くのに躊躇してしま
った。そう、このCDは何百枚もある中でかなり重
要なCDだからである。もしかしたら、初めて憧れ
をもって購入した外人のCDかもしれない。

もう余計な説明は不要であろう、少し前のアンプ
ラグド・ブームの火付けであり、これを超えるア
ンプラグドは、今のところ無いといってもよい。
クラプトンの長いキャリアから通算しても、ベス
ト５に入るであろう作品だと思う。
今でもハッキリ憶えている高田馬場のムトウとい
うレコード屋さんで聴いた『LAYRA』のアンプラグ
ド・バージョン。もちろん、オリジナルのバシッ
と決まったイントロから紡がれるメロディ、曲終
了後の壮大な第２幕。それも最高だが、アンプラ
グド・バージョンのドッシリと深く根を下ろした
老木のような枯れっぷりこそ素敵な年の取り方と
いうものの、最高の教本といっても過言ではない。
その他にも、言わずとしれた早くして亡くなった
愛息に贈った『TEARS IN HEAVEN』や伝説的なブル
ース・マン、ロバート・ジョンソンのナンバーな
ど聴き応えタップリのアルバムである。 そうか
と思うと、１０曲目、『ALBERTA』でクラプトン
は前奏でスライド・バーを指につけたまま演奏し
てしまい、思わず奇声を発してしまう。そんな茶
目っ気タップリなところもまたステキだなぁと思
わず微笑んでしまう。ただの熟練したオヤジのア
ルバムに終わらないのも、このアルバムの好きな
ところである。

さて、このアルバムのどこに「こんなオヤジにな
りたい」という面が見えるのか？ズバリ、クラプ
トンの風貌に他ならない。というか彼の着ている
アルマーニのスーツである。
テレビの画像から通した写真なので若干ボヤケ気
味だし、気にも止めて無かったのだが、ある日何
かの雑誌で読んでいて「ああ、このアンプラグド
で着ていたのはアルマーニだったのね」という事
に気付いてから、更にこのアルバムを愛聴した。

ある程度、年を重ねてふと気が付いた事がある。
「このまま、古着だけ着てちゃぁ、さすがにダメ
だよね」というある意味、当たり前の結論。数年
前までは本気で４０〜５０くらいになっても古着
でいけたらカッコイイよねなんて考えていたが、
そうもいかないらしい。皺も増えるし、腰も曲が
る。髪はハゲていき、嫌でも人は老いというもの
にブチ当たる。そんな時、もし古着だけで暮らし
ていたらどうだろうか？考えだけでゾッとする。
そんな時、アルマーニを着てアンプラグドのステ
ージに立つクラプトンの姿を認識して、正しいオ
ヤジの姿を見た。カッコイイというのは、いつま
でも若くしている事ではなく、重ねた年輪を自分
で認識していき、それに応じた格好のできる業の
深さというか潔さである。もし、そんな時が僕に
も訪れた時、ごく自然な形でクラプトンのように
アルマーニのスーツでも着れたら、きっと今から
年を取る事を楽しみにしてしまう。

ステキな年の重ね方。自分に無理はせずに流れに
従い、幾多の人生の岐路や試練を乗り越え、来る
べき人生の終着駅に晴れやかな顔で臨めるような、
格好のできる精神的なゆとり。おそらくコレさえ
持ってれば、死は怖くないかもしれない。
いつ、僕にその時が来るかわからないのだが、行
動に移すのが遅い僕の事だから、なるべく神様に
は「長生きさせてね」と可愛くお願いしときたい。
ゆっくり準備したいからさぁ。

「俺がベイに戻ったら、まっさらの日がまたやってくる。
　そしたら彼女と連れ立ってサンフランシスコ・ベイを
　練り歩くのさ」
　　　　　　　　　　（SAN FRACISCO BAY BLUES訳詞）

まるで死後の歌だよね。これを楽しそうに歌われ
たらかなわないよ、全く。