『それ行け！稲中卓球部』の好きな人は多い
と思う。かくいう僕もスゲー好きだ。単純で
わかりやすくて、そうかと思うと、不条理で
エロでグロで、無常感さえあり、でも基本は
中学生という蒼さも持ち合わせている古谷実
のギャグセンスが好きであった。「〜あった」
というのは最近の彼の作品は読んでない。単
純に連載しているヤングマガジンにその他に
読むものがなかったというのと、『稲中』を
超えられるのだろうか？という呪縛にかかっ
ている。

『稲中』はどの登場人物も個性的だが、主人
公の前野と井沢に尽きる。つーか、こいつら
は非日常的な世界の住人として、日常の世界
には確実にあり得ない人間として。この漫画
を成り立たせている。あ、あと田中も好き。
とにかく、こんな３人は実在にはあり得ない
と思っていた。

SBKの『Why Don't You Come To My Place?』
を聴いた。…いた！実際にまさかいるとは思
わなかった。SBKに前野と井沢と田中を重ね合
わせた。
ラガな感じから入るイントロ、そしてスペー
シーなハッピーチューンがビッグビートから
流れ出す。そこにはSHIGEOの甲高いライムも
SHUNの太い声も入ってない。知らない人が聴
いたら誰も日本のバンドの音だとはわからな
いであろう。

このバンドはいつもそうだ。人の期待を想像
力を軽く上回り、自分らだけの世界新記録を
次々と更新してしまう。この自分らだけとい
うのが重要なポイントである。確かに音楽は
人のカラダ、そして心を踊らせ、その気分を
時にハイに、時にローに自在に動かしていく。
そしてその時の聴き手の琴線に触れたものは、
次々とレジに通され、その結果ヒットした、
ヒットしないという具合に商業として成り立
つ。それは良くも悪くも全世界共通のものだ。
それが資本主義である。

がしかし、作り手からしたら、それはあくま
で二次的なものでしかないという事に過ぎな
い。もちろんヒットするということは非常に
大事な事であるが、本人達が満足しなきゃ、
どうしょうもないのである。それがヒットの
流れになっているから、そこに寄りかからざ
るを得ないという事もあるが、本人達が了承
できないものは本当は発売なんかしちゃいけ
ないのである。

つまり、自分達の作品を発表するという行為
は、実にマスターベーションであり、そこに
聴き手の琴線がふれるかどうか、すなわちヒ
ットするかしないかなんてのはどうでもいい
事であると思う。SBKというバンドはそんなマ
スターベーションを、実に正直に表現してい
る。自分らがしたいからする、ヌキたいから
ヌク。発表するものに自分らだけの宇宙を持
っていると思う。

思えば前述の、稲中卓球部に溢れるのは前野、
井沢そして田中の宇宙である。登場人物が日
常的にドキドキすること、ワクワクするもの、
不思議に思う事、全てを彼らなりに消化した
ものが漫画という表現で発散されている。彼
らの宇宙が我々の琴線に触れたという結果が、
あの漫画のヒットにつながったのである。

この『Why Don't You Come To My Place?』は
放っといたら永遠に続きそうな勢いであるが、
ある瞬間、唐突に終わる。まるでマスターベ
ーションの終わりのように、儚く、そして無
情に。そしてまた日常の中へと戻っていくわ
けだが、誰しも持っている、日常の中の自分
だけの宇宙。それを包み隠さず、商業的な事
も顧みず、クールに放出できるSBKは合法的に
ヤバい奴らだと思う。