拝啓、宇多田ヒカル様。新作『DEEP RIVER』
聴かせて頂きました。改めてあなたのミュー
ジシャンとしての総合力に舌を巻きます。お
陰さまで購入したその日より毎日聴いている
といっても過言ではありません。しかし…

なぜに、あなたのアルバムジャケットは３枚
とも顔アップなのでしょうか？そして今回の
アルバムに関していえば、モノトーンながら
目はしっかり前を向いているのが印象的です。
まるで深い川の中から核心を迫られているよ
うで見れば見る程、鳥肌が立ちます。そこに
はあどけなかった『FIRST LOVE』の顔はどこ
にもなく、『DISTANCE』のようにクールな佇
まいでもなく、ある意味直球な感じがします。
もちろんこれは私観であり、実際の所はわか
りかねるので、想像の範疇としておいた方が
いいのかもしれませんね。

しかし、驚きました。何がって『traveling』
より『光』より、そして『SAKURAドロップス』
よりもアルバムの曲のクオリティの高さにで
す。アルバム上の構成ではシングルを最初２
曲、最後２曲（INTERRUDE除く）でインパクト
はそのままで、真ん中にじっくり構成されて
いるのですが、通して聴くにつけ、その４曲
はただの前菜、デザートにしか過ぎないくら
いの出来だと思います。（おっと、『LETTER
S』がほぼ真ん中に位置していますが、ここで
は割愛しましょう）
特に『幸せになろう』の歌詞と最低限度の音
と『東京NIGHTS』のダイナミズムな楽曲と母
性と、今の若者の心理状態を混在させた感じ
が凄く好きです。

ところで、あなたはいつのまに、そのような
海のような広い母性を手に入れたのでしょう
か？いや、待てよ。母性とは読んで字のごと
く母なる性質。ということは初めからあった
ものなんでしょうね。19才という年令になり、
ようやく噴出させる術を、このサバイバルな
世の中で覚えたというのは個人の作風だけで
なく、音楽業界を広く見渡したとしてもいい
ことのような気もします。とはいえ、そんな
事はあなたにとっちゃ、どうでもいい事なん
でしょうね。悪い意味でなくね。そういう事
も踏まえて、今回の作品は前２作とは違い、
性急な感じのしない肩に力の入ってない感じ
もします。何というか、全てを掌握してると
いうか…こんな事をひと回り近く年の違う女
の子にいうのも変なのですがね。ただ、それ
ゆえに思うのですよ。

もしも、もしもですが、あなたはまだ本気を
出してないとしたら…という事です。楽曲は
もとより、作詞能力も一段グレードアップし
て、傑作と評される今作でもあなたの出して
いる力は、まだ６〜７割のような気もするの
です。これは手を抜きやがってという意味で
無く、１９歳で母性を手に入れたあなたが、
この５〜６年で今度はいかなる能力を手に入
れるのかを考えると、空恐ろしくなります。
そう考えるとかつて、あなたのお母さんが、
「夢は夜ひらく」と歌っていましたが、全て
を手に入れてあなたの夢がひらくのはいつの
日なのだろうか？と個人的には興味が尽きま
せんが、本人的には難儀な道程ですよね。
ただ、その道程は近々予定されている全米進
出でグッと近付いていくような気もします。
とにかく、その時にはまた感想を書いてみよ
うかと思います。

最後に母性を手に入れた途端、卵巣の手術と
いうまさに、「好事魔多し」を絵に書いたよ
うな展開になってしまいましたが、でも調子
が順調になった時、さらなる包容力を手に入
れているような気もします。そしたらその時
は更なる超ド級の作品で「あっ！」といわせ
てください。楽しみに待っています。
敬具（拝啓のあとって敬具だったっけ？）