見事なタイトルだと思う。どんなに説明じみたコ
ンセプトアルバムなんかより雄弁で、後生に「こ
のアルバムはどんなアルバムだったろう？」と思
うごとにタイトル通りだよと、胸を張って言える
快心の作品だと思う。キック・ザ・カン・クルー
のアルバム『GOOD MUSIC』は文字どおり良い音楽
の洪水である。

去年のキックは、まさに躍進の年だったように思
われる。シングルの連発リリース、ベストアルバ
ムの発売、など半ばワーカホリックの如く活動し
まくっていた。僕は『マルシェ』辺りから彼等と
は、長い付き合いになりそうだと思ったクチだっ
たが、シングルの連発はワザと自分から聴くこと
がなかった。理由は簡単、後でアルバムでまとめ
て聴いた方がお得だと思ったからである。彼等の
クオリティは自分の中ではお墨付きだから、わざ
わざシングルを追い掛ける必要がなかったわけで
ある。その方がアルバムのステイタスがグッと上
がるだろうしね。そして、その理想は現実のもの
となったわけである。

まぁ、しかしこの『GOOD MUSIC』は日本人の上が
るツボをよく理解しているなぁと感心する作品と
なっている。時にはホーンズが入ってファンクな
アプローチがしてあるのもあったり、コーラスに
子供の声など入れてほのぼのとさせる感じもまた
良し。ゆったりとしたビートの曲にも退屈な感じ
のしないというか、その退屈さえ楽しむ大人のブ
レイク・タイムを表現している。つまりは、この
アルバムは老若男女、日本全国楽しめるグローバ
ルな作品に仕上がっている。

グローバル〜で思い出したが、三沢光晴率いるプ
ロレス団体でNOAH（ノア）というのがある。日曜
の深夜とかに放送してたりもするので、興味の無
い方でも観たことがある人はいると思う。そこで
管理するチャンピォン・ベルトの略称をG.H.Cと
呼ぶ。正式には、グローバル・オナード・クラウ
ン、つまり世界的に崇高なる冠という意味になる。
ここの団体は師匠が故ジャイアント・馬場の教え
を汲み派手な話題を好まない。その代わり、１年
間に大都市から名も知れぬ村に至るまで、全力の
ファイトを心掛ける。だから、世間的には目立た
ないであろうが、プロレス・ファンの間では絶対
的な信用を勝ち得ている。

キックもある意味、そんな信用を全面的に勝ち得
ているアーティストに成長したのではないだろう
か？僕はそう思っている。だからこそ、連続シン
グル・リリースなんてセンセーショナルな話題に
も流されない音楽を紡ぎだすこに成功し、自信を
持って『GOOD MUSIC』という冠をつけることが出
来た、僕はそう思っている。ただ、音楽通だけで
この良質な音楽を分かち合うのは勿体無い。そう
いうマーケティングのもと、連続リリースという
形をとったとしたら、もっともっと一般の人にも
流通してほしい。正直言えば、世間への迎合の仕
方はリップ・スライムよりも上だと思っている。

そうなると、心配なのが、ワーカホリックによる
スタミナのロスだが、信用を勝ち得たら、少しは
休んでも平気だろうし、彼等の場合はその前に、
『脳内VACATION』という形で楽曲の中で休息をお
いている。こんなクレバーな発想を持ち合わせて
いたら、２００４年もきっと、彼等は大丈夫、そ
んな安心感をもって彼等とは今年もつきあってい
けそうだという安堵で一杯になる。そういう信用
は、やはり音楽家としては崇高なる才能だと思う。
見事の一言に尽きるわけである。