ある意味、満を辞してという表現が適切かも
しれない。僕にとってFISHMANSを書くという
のは。そしてこれほど難しいテーマはないと
いってもよい。大袈裟な話、ビートルズを書
くのと同じくらい。何故なら過去の恋愛遍歴
に話が及ぶ。あと、４ヶ月ちょいで３０歳の
大台に手の届く僕だが、２０代の１０年を振
り返り３人の女の子とつきあったわけだが、
そのうち２人がいずれもFISHMANS好きだった
からである。どちらも偶然である。１人目は
「ああ、そうなんだ」と思ったが２人目にな
ると、「ええ！君も？」と驚いたのを覚えて
いる。何かFISHMANS好きを引き寄せるオーラ
でもあるのだろうか？ただ、確かに日本有数
のダブ・バンドとして独特の立ち位置にいた
このバンドは、ファンも多かっただろうし、
佐藤伸治死後もその影響というのは色々なと
ころに息づいている。

しかし、僕自体はどうだったか？と問われる
と、正味な話。さして気になる存在でもなか
ったし、ダブというジャンル自体イマイチ乗
り切れない部分があったので、そんなに触手
を伸ばして好きな領域に入らなかった。勿論、
そんな事で過去の彼女と喧嘩になることもな
かったし、他の部分で共通したものがあった
ので、それはあくまで個人の自由ということ
で、彼女達も気が向いたら聴いてみてという
レベルだった。そして、最近かつてそのCDを
MDにダビングしたものをラックから見つけて、
あくまで心地よい眠りにつけるかなという目
的のもと聴いてみる事にした。それが今回の
『宇宙 日本 世田谷』である。

以前から思っていたことだが、佐藤伸治の声
って清志郎に共通するところがある。声の高
さとか感情の入れ方にそういう部分を聴く事
ができる。それって、僕だけかな？ただ、清
志郎は無駄にエキセントリックでカラフルな
のに対して、佐藤伸治はダブ特有の透明感に
溢れている。渾沌とした音の中にそれは癒し
の効果を有し、際立って目立つ。清志郎のよ
うに音の洪水の中に埋もれない声の質も最高
だが、こういう音で聴くと溶け合ってある意
味楽器というか金属音のようにその場になく
てはならないものとして、そこに佇んでいる。
う〜ん、例えていうと…清志郎がＴＶ終了後
のカラーバーで、佐藤伸治はその後の砂嵐の
ような感じ？そこに何も見えなくても何らか
のメッセージを読み取りたくなる深読みの音
楽って言える何かがある。そう考えると語れ
る音楽の部類にカテゴライズされる（もちろ
ん清志郎の色とりどりの音楽も充分に語れる
が）。

そして音の多様さがまた、いい感じに響いて
くる。名前も知らないような民族楽器や鳥の
さえずり、宇宙をイメージしたアンビエント
な機械音。別のアルバムで『空中キャンプ』
というのがあったと思うけど、これは言い得
て妙のネーミングである。そこに現スカパラ
の茂木欣一の正確なリズムがまるであり得な
い世界を歩行しているように刻んでいて、じ
っくり聴いてみてなるほど、これは確かに勧
めたくもなるし、かつての彼女達の性格を考
えるに好きな類の音楽だったかもしれない。
そしてそこに何故、僕にそれを勧めたのか？
っていう疑問もぼんやりとだが解けたような
気もした。

２０代の終り真際に些細な気分で聴いてみた
自分にとってのパンドラの小箱的な音楽、FI
SHMANS。通り過ぎていった彼女達の一人は今
年、赤ちゃんを産んだ。もしかしたら胎教に
FISHMANSでも聴かせているかもしれない、い
や、そんなことね〜か。きっと彼女達もパン
ドラの小箱のように、その胸に確かにこの音
楽を聴いていたという事実を残しつつ、幸せ
になっていく。そして、何かのキッカケでま
た聴く時があったら、その頃の事をふと思い
出し、そこにほんの一瞬でも僕が出てきたと
したら、それはそれで報われた気もするが、
それはあくまで僕の知らないところのお話し
なので、あくまで僕の勝手な妄想ということ
にしておこう。

３０歳まで、あと４ヶ月と２１日。
僕の２０代には確かにFISHMANSがいた。