少し前に実家の茨城県に帰った時に、時間も余っ
た事だし、通っていた小学校に行ってみた。日曜
日、しかも夕方から夜へと向かう時間帯だったの
で、辺りも暗くなって、僅かの灯りがほのかに学
校全体を照らし、だだっ広い空間を演出していた。
地方の学校というのは基本的には広い。僕が東京
に出てきてまず、ビックリしたのが学校の狭さだ
った。それはともかく、今３０目前にしても小学
校の広さを体感しているのだから、小学校時分の
僕は一体どれだけの広い空間にいたのだろうとい
う事を感じた。

学校の基本的な構造は変わっていなかったものの、
遊戯施設はじゃっかんの変化が見られた。鉄棒の
数が増えていたり、滑り台がなくなっていたり。
覚えている自分も自分だがそれだけ、その遊戯施
設というものにお世話になったということの表れ
なのだろう。さすがにそれらの施設には、その小
ささを感じた事に自分の成長を感じてホッとした。
そして、桜の木である。春には真っピンクの花、
そして文字どおりの桜吹雪を散らせ、夏には青々
とした緑を生い茂らせ、冬にはじっと裸のまま春
を待つ。そんな学校に於いて四季の象徴である 、
桜の木は今も健在であった。

僕はこの桜の木を見て、ほんのりと淡い想い出が
蘇ってきた。小学校３年生だったろうか？僕を含
め３人くらいのクラスメイトが休み時間中ずっと、
その桜の木に登って遊んで授業中になっても帰っ
て来なかったものだから、先生に大目玉を喰らっ
た、そんな想い出だった。そして、その中に草野
くんがいた。
草野くんは小学１〜４年だったかなぁ、一緒のク
ラスで、まぁ俗にいうガキ大将ってやつだった。
発言や行動一つで周りの空気をガラリと変えたり、
新しい遊びを開発したり、ちょっとしたヒーロー
的な存在として、ただの威張り散らしてる訳でな
く人気もあった。そんな奴だったので、一緒に遊
んでても人を見下すような事もなく、気持ちよく
遊べる関係だった。頭もよく中学は私立に合格し
てしまった。今じゃ、普通の事かもしれないが僕
の世代で私立に入るというのは、結構な事で最後
の最後までみんなの羨望の的だった。そして、彼
を思い出したら急に奥田民生の『Ｅ』が聴きたく
なって、家に帰ってきた時にすぐにラジカセにCD
を入れた。

『Ｅ』はもはや、貫禄という言葉がピッタリの熟
練された業を感じる民生の新作である。勢いのあ
る『俺は知ってるぜ』の「イエ〜！」という雄叫
びからスタートするこの作品は、シングルカット
の４作品、『花になる』『CUSTOM』『ヘヘヘイ』
『THE STANDARD』の名曲群に負けないハイ・クオ
リティの作品として全１９曲、捨て曲無しの気合
いの入りまくったロックンロールである。世界観
とかは「子供にはわかるめぇ」みたいな大人の匂
いが漂うものの、決して置いていくことのない優
しいニュアンスも漂っていて、非常に信頼のおけ
る音である。おそらく、この信頼からくる羨望が
きっと前述の草野くんいかぶったんだろう。某雑
誌で「ロック大将」と書かれていたが、まさにロ
ックを愛する人の大将として、空気一つで周りを
嫌味なく一変させる希有な能力の持ち主だと思う。
そして、紛れもなく民生の現時点における最高傑
作だと思う。

その後、草野くんは私立の中学に入ったあと、す
っかり音信を聞かなくなった。噂ではボクシング
に傾倒して、結構イイ線までいったようだ。まぁ
年齢的に今もやっているかというのはわからない
が、彼だったらイイ線まで行くのも頷けるなぁと
感心をした。小学生という何の努力を要さないよ
うな世界でみんなのヒーローだった彼だから少し
努力をすれば、光だって味方につけることができ
る、そういう奴なのだ。『Ｅ』を聴きながら桜の
木に登りながら、眺めた背の高い世界、そして今
でも学校に君臨し続ける四季の象徴・桜をまた思
い出して、今度は春に帰ったらまた学校に立ち寄
ってみよう。そしてそこで民生の『Ｅ』を聴いて
みようと思った。

「心無にして　光を背にして　それが誠　すごい男」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　（花になる）