専門学校時代、贔屓にしていたバーがありました。 僕がまだ在学時は、喫茶店としても営業していて、 僕はコーヒーを1〜2杯飲みながら時間を潰した りしていました。一応、そこではビートルズを中 心に流していましたが、マニアが集まってきて、 あれやこれや、ビートルズの自慢やら蘊蓄を聞い ていくのが苦痛になってきたマスターが、オープ ンした翌年から色々な音楽を流しだしました。ボ ブ・ディラン、トム・ウェイツ、ツェッペリンe tcそして、ローリング・ストーンズ。今回はそ んなストーンズをテーマにした物語です。
そこには色々な人が集まっていました。サラリー マンや早稲田の学生さん、美容師さんとかもいた なぁ、そして、バンドマンなんかもいたりしまし た。僕がその店で最初に仲良くなったのも、そん なバンドマンでした。彼はその店の一番最初のお 客さんらしく、語弊はあるかもしれませんが、関 西の方なのに無口な方で、ちょくちょくその店で は会うけどなかなか話せなかったのですが、ある 日何かのキッカケに話しだし、その店の中ではよ く話したり隣で飲んだりしていました。
その人は仕事中なのか、仕事前なのか、僕のよう にコーヒーを一杯、ゆっくり飲んですぐに仕事に 向かう、そんな飲み方だったように思えます。そ んなある日、その人に誘われその人のライブに出 かける事になりました。池袋だったと記憶してい ますが、そこで彼はDR.FEELGOODを思わせるよう な純粋なパブ・ロックを見せて、当時まだ若かっ た僕に一瞬の大人を見せてくれたそんなライブで した。 それからというものの、彼のバンドの方とも仲良 くさせてもらったりしました。その中に今回のテ ーマを書く張本人、タッチャンがいました。前述 の人が無口な方とは対照的にその人は饒舌で、気 さくな性格で店全体を和ませる存在になっていま した。
そんなある日、タッチャンが「なべちゃん、スト ーンズって持ってる?」と聞いてきました。まだ 僕はCDは集めたてだったので、ストーンズは持っ てなかったので、「ないんですよ、欲しいんだけ ど、つい買うタイミングを逃しちゃうんですよ」 と言うと「買わへんか?10枚12000円!」 と打診されました。どうやらローンなど支払いに 間に合わず、泣く泣く手放すハメになってしまっ たようです。ストーンズやビートルズのCDって中 古屋さんで買っても、2000円は下らないので、 1枚1200円と仮定されれば、いい買い物だな ぁと思い、僕自身も毎月いっぱいいっぱいで生活 していましたが、思わず「買いますよ」と受諾し ました。それからのちCDを約束通り持ってきてく れたタッチャンは、「大切に聴いてな」と僕に渡 してくれたのが印象に残っています。 しかし、まぁストーンズ10枚はかなりのボリュ ームです。時代もほぼ、デビュー時から『LOVE Y OU LIVE!』そして最近のものまで時代背景も幅広 く、さて、どれから聴いていいものやら…と思案 に暮れていましたが、ある1枚のCDから聴き始め ました。『FLASH POINT』そして、それ以降この アルバムは結構多い頻度で聴いています。
御存知の方も多いように『FLASH POINT』は、初 来日を果たした1989年〜1990年の『STEE L WHEEL TOUR/URBAN JUNGLE TOUR』のライブ盤で す。僕は90年当時、17歳。今でもあのワクワ クというのを憶えています。流れてくるのはポカ リ・スエットのコマーシャル、ストーンズの『RO CK AND A HARD PLACE』。25年以上に渡りロッ クンロールの最高峰に君臨するレジェンド、スト ーンズがいよいよ、とうとう日本にやってくる。 17歳で茨城の田舎に住んでいた僕にとっては、 それは大人の為のお祭りなんだと認識していまし た。行きたいけどチケットも高く、行ってはいけ ないものだと思っていました。そんな大人の祝祭 空間をまるごとパッケージしたライブ盤、それが 『FLASH POINT』なのです。
もちろんセットリストは完璧、『START ME UP』 で始まり、前半で早くも僕をドキドキさせた『R OCK AND A HARD PLACE』で疾走させてくれ、途中 はキースのボーカルも入り、それはやはり、そこ には無くてはならないものとして成立させてくれ ていて、そして、『PAINT IT BLACK』から一気に ヒット・パレードの大嵐!『悪魔を哀れむ歌』、 『BROWN SUGAR』、『JUMPING JACK FLASH』そし て『SATISFACTION』とTVやラジオ、そして、そ のバーからしか聴いた事のないロック・クラシッ クでもしも、17歳当時の僕が東京ドームにいた ら、しばらく立ち上がれなかった事でしょう。
ということで、17歳の頃のあの心臓の縦揺れし そうなワクワク感を思い出させてくれたタッチャ ンには、とても感謝しています。程なくして、彼 のバンドは自然消滅して、その店にもなかなか顔 を出さなくなってしまったけれど、たまに、その 店に行く時には必ず思い出します。ここで買った 10枚12000円のストーンズ、間違い無く、 その瞬間僕は大人のパスポートを貰い、震えるよ うな興奮という飛行機に乗り、最高のロックンロ ール・ワールドツアーに出かける事が出来た記念 すべき1枚なのでした。
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