僕は必要以上に市井紗邪香を、偶像化し過ぎたの
かもしれない。アイドルという存在はそれだけで
も偶像なのであるが、その中でも市井紗邪香は最
近の僕の中では、特別だった気がする。

市井紗邪香は９８年、モーニング娘。第２期オー
ディションで合格、同期には矢口真理、保田圭が
いる。９９年『LOVEマシーン』の中では中核を担
い、第３期に加入した後藤真希の教育係を務め、
プッチモニではその後藤、同期の保田とのユニッ
トでチャートのトップを獲得。翌２０００年、第
４期が加入するのと同時に「シンガーソングライ
ターを目指すため」娘。を卒業、２００１年、中
澤裕子とのフォークアルバムでプチ復帰を果たし、
今年２００２年、たいせーとのユニット、市井紗
邪香WITH CUBIC CROSSでデビューを果たす。今作
『失恋LOVEソング』はセカンドシングルである。

「あれ？」正直な感想である。市井紗邪香は何が
したいんだろう？逆にいえば、僕の中では彼女に
過度な期待をしていたという事だろう。物足りな
いのだ。こんなはずじゃないだろう？この女は。
何といっても『LOVEマシーン』では尋常じゃない
テンションで、ある意味今の娘。の礎を作り上げ
たといっても過言ではない、あの市井紗邪香だぞ。
そして『ちょこっとLOVE』では当時、鳴り物入り
で入って来たゴマキを食ってしまう弾けっぷりで
『LOVEマシーン』で走り出した電車を急行に、ス
ピードアップさせた張本人である。その市井紗邪
香が歌っているとは思えない程、普通の歌だった
のだ。事実、僕の心に入ってこない感じが実はあ
った。

もしかしたら、たいせーが悪いのだろうか？そん
な事も考えたりしたのだが、それも何か的が外れ
ているような気もする。もちろん普通に「いいう
た」だからである。軽やかなカッティングが心地
よいイントロから元気のある歌声、もちろん歌唱
力もある。サビにいくまでの展開も普通に良い。
キーボードも効果的に出過ぎず、もしこの歌が料
理だとすれば、「ああ美味しかった」と素直に思
えるだろう。何より市井紗邪香が楽しそうに歌っ
ているような気がする。

だとしたら、こうだろうか？単純に彼女は、歌が
歌いたいだけなのではないだろうか？過密な秒刻
みともいえる娘。のスケジュール、何かが微妙に
狂ってきた方向性、変わっていく周辺の人間、こ
うしたものに彼女は一度、リセットを押したので
はないだろうか？そして再び自由を手に入れ、深
呼吸を充分にして戻ってきた。
「いいうた」、「たのしいうた」を歌うために。
だとしたら、たいせーのプロデュースというのも、
なかなか味な人選なのかも。何せ、シャ乱Ｑの中
でも独自の才能で主張をしてきた人間なのだから。
紅白の舞台で、よくわからんが宙に舞ったりする
ような、楽しい事を突き詰める人間なわけだし。

ジャケットは市井紗邪香の顔アップである。デビ
ューシングルでは帽子もかぶり、少し硬い感じの
決意表明のような顔をしていたが（このシングル
に比べてね）、このジャケでは歯にかみではある
が、いい笑顔で笑っている。
そう、そう！求めていたのはこの顔だよ。

人間は夢が叶うと、次を求め、叶ったはずの夢に
窮屈さを覚える生き物だ。もちろんそこには夢と
現実の狭間のギャップも生じる。市井紗邪香もき
っとそうだろう。そんな自分に出した次の夢は、
「自分を取り戻す」といいう作業、これは後退で
はない。そして難しい。そんな回り道みたいな事
したくないもん。でも彼女は、キッチリそんな難
儀な作業をこなしもとの自分を取り戻して再び、
「いいうた」を歌うために芸能界に戻って来た。

もう、彼女に元モーニング娘。の肩書きは不要で
ある。僕も下らない偶像にすがるのは止そう。彼
女のファースト・シングルのタイトルは『人生は
もう、はじまっている』だった。そう、始まって
いるのだから、あとは迷わず進めよ！行けば分か
るさ！ってことで市井紗邪香の今後を静かに見守
りたい。。。と、ここまで書いて、文章の全てが
偶像崇拝の賜物といってもよい位の内容だという
事に、気が付いたというオチもつけておくとしよ
う。（笑）