(75) 10年戦争からの蘇生<理解、消化、実践>◆◆MR.CHIRDLEN--IT'S A WONDERFUL WORLD◆◆ |
投稿者:nabes
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MR.CHIRDLENの新作『IT'S A WONDERFUL WORLD』 は、まぎれもない傑作である。ロックの土壌を 経て、再びポップの澄み渡る空へと上昇気流を 描く、ひこうき雲のような一本筋の通った芯。 桜井和寿の迷いのない言葉はキラキラした星の コーティングを施し夜空を彩る。そう、この作 品はまさにメルヘンである。童話のような音楽 である。
童話というと、時にその過程は残酷だったりす る。可愛い挿し絵にまだ助けられているものの、 書いてある内容はある意味、毒の隠し味を含ん でいる。そして、この『IT'S A WONDERFUL WOR LD』にも毒が含まれている。でも、それを後ろ 向きにさせないダークな印象を与えない断固た る強さに変わっている点で、やはりメルヘンと してこの作品は成り立っている。
現実の世界というのは、童話のようにはうまく いかない。童話は最後のページに辿り着けば、 「めでたしめでたし、チャンチャン♪」で終わ るとこだろうが、そこで終わらないのが現実の 世界だ。ミスチルの『ATOMIC HEART』以降はま さに、童話その後である。
それにしても桜井和寿という人物は本当にデリ ケートな人間である。時に、深く暗い海の中に 潜ってみたり、一面のヒマワリ畑に身を埋めた り、その行動は時に痛く、時に自分や他人に謎 を残し続けて来た。変な話、いつ解散してもお かしくなかったろうし、現実問題として桜井一 人でも良い作品を作る事は可能だったかもしれ ない。でも彼はミスチルという船から降りる事 を止めなかった。そして希望を歌う事を止めな かった。
「さぁ、手を繋いで僕らの夢が壊れないように」 (口笛)
この曲を聞いた時にビックリした。白黒の画面 に薄い色がついたような感じのする歌だった。 一人で彷徨ってきた桜井が、とうとう分かち合 う事をためらわず、口にしたからである。 おそらくこれが出来た時点で、ほぼ過去への復 讐は完了しつつあったが、さらなるハッキリし たカラーを求め『優しい歌』を作り上げた。
「出口のない自問自答、何度くりかえしても、 やっぱり僕は僕でしかないんなら、どちらに 転んだとしても、それはやはり僕だろう。 このスニーカーのひもを結んだら、さぁいこう。」 (優しい歌)
ポップスはロックより難しい。桜井の発言であ る。おそらくそうかもしれない。日々の現実を 憂い、マシンガンをぶっ放すようにロックをま き散らすより、自分でさえ、見えない希望に向 かって、たとえ甘いといわれたって皆が笑顔で いれるような素敵な音楽を作る事。本当に難し い作業であるが、ロックという毒を消化した桜 井にとっては、もはや恐いものはないといって よい。ここにミスチルの10年戦争は幕を閉じた。
自分を理解し、現状を消化し、そして新たな道 を実践する。理解する事はとっても、もどかし いし腹立たしい。消化できるという事は自分を 客観できるという事で、ある意味潔い。そこま で潔くなれたら、実践する事は何も恐い事では ない。行けばわかるなら迷わず行ったミスチル は、この10年戦争を「いち、にのさん!」で蘇 生した。ロックの毒を隠し味にまた、童話のよ うなポップスを紡いでいってほしい。 この汚くとも美しい世界で。
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2002年07月01日 (月) 11時41分 |
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