今年、邦楽界で３本の指に入るニュース
として小沢健二の復活があった。セール
ス面においてはイマイチ、ニュースにな
るまでもなく、少し肩透かしを喰らった
感もあるが、まぁサイクルの早過ぎる日
本音楽事情を考えると、致仕方がないし
露出も殆どなかったので大健闘ともいえ
よう。その小沢の新作に関していうと、
また次の機会に譲るとしても、ただいえ
ることは圧倒的な音の存在感を感じた。
レベルが違い過ぎて、確かに邦楽と洋楽
のレベルは近くなってきたものの、ここ
までいくのは大変な作業だぞ…と思った。

しかし、同時に懐かしいという感じも僕
の中に芽生えていた。「はて、この感じ
をどこかで聴いた事があるような…」そ
して、その謎はほどなくして解けた。こ
の作品と同じ手触りを持った作品に既に
出会っていたのであった。それが今回、
紹介する吉田美和の『beauty and harmo
ny』だ。

もう七年前の作品だ、七年前というと、
ドリカムとして最も脂の乗り切った時期
だったのではなかろうか？帯を見ると、
傑作『delicious』の頃のようだ。黄金
期じゃねーか。さすがにもう覚えていな
いが、おそらくドリカム黄金期だった分
期待する程セールスは見込めなかったよ
うな気がする。（僕の記憶違いだったら
ゴメンなさい）

クレジットを見ると、吉田美和自身が、
プロデュースしてるようだ、そして共同
プロデュース及びアレンジとして中村正
人がしている。つ・ま・り、ドリカムで
ある。ただドリカムと異なる点は、先頃
脱退した西川くんはこのアルバムには一
切、参加していないようだ。（スペシャ
ル・サンクスに表記されているという事
はそういう事なんだろう）そしてバック
バンドは向こうの超一流ベテランミュー
ジシャン達であること。そして最もわか
りやすいのは吉田美和が全ての詞曲を作
っているという事だろう。

「この"beauty and harmony"をつくるために力を
　かしてくれた、たくさんの人や出来事に、心から
　ありがとうを
　
　様々な形で音楽への情熱を持つ全ての人達に
　あたたかいHUGを

　そしてアルバムを聴いてくれるあなたに
　私の歌声でKISSを」

アルバムの歌詞カードの冒頭にこんな文
章がある。おそらく、これが全てである。
そんな彼女の感謝と、音楽に関する敬愛
を深くハンドメイドして、そのゴツゴツ
した原石を超一流のバックがゆっくり、
丁寧にデコレーションしていく。そして
出来上がったものは偶然にも日本の誇る
べき国花・桜と同じ薄いピンクの優しい
作品となった。

邦楽を超えた邦楽、洋楽を超えた邦楽、
国境を超えた音楽。そんな壮大で実に深
い世界。それがこの作品で彼女が挑んだ
テーマであり、その命題は達成されたと
今、この作品を聴くにつけ思う。自分の
作詞作曲という私小説と大物のバックに
よる「折衷」。そこにあるのは確かに帯
に明記されている通り、「歌」と「愛」
であり、そこから流れる「美しさ（=bea
uty）」と「調和（=harmony）」の折衷
にはただただ、ウットリするような手触
りを覚える傑作だと思う。
ちなみに余談だが、知っての通り、小沢
の新作『eclectic』の意味は「折衷」で
ある。