河村隆一は圧倒的に歌が上手いと思う。これはもち
ろん、LUNA SEA時代から含めてであるが、ソロにな
ってからの方がその表現方法に幅が広がっていった
のは、もはや音楽を幅広く聴かれる方には周知の事
実といっていいだろう。しかし、そんな河村に対す
る評価というのは、さほど高くはない。一時期、バ
ラエティとかに出ていたのがその要因なのだろうか。
僕は思うのだが、この人ほど歌手業に専念してもら
いたいと思う人はいない。それくらい、河村隆一の
歌は上手い。

とはいうものの、僕は別にそんなに熱心に河村を聴
いてる訳ではない。どちらかというと、縁遠いと言
った方がいいかもしれない。そんな僕が久しぶりに
河村を聴くキッカケになったのは、悲しいかな、や
はり仕事の関係だった。まぁ、仕事の方では結局、
河村を起用することを辞めた訳だが、やはり圧倒的
にこの人は面白い（笑）と思い、家でジックリと聴
いてみる事にした。

『ベリー・ベスト・オブ・ソングス』。箱ジャケを
見ると、元ビジュアル系の人って感じの混沌とその
中に潜む美意識を感じる事のできるジャケなんだけ
ど、いざ箱から出してCD自体のジャケを見てみると、
毛筆による自画像である。（笑）横顔で描かれた河
村は、微妙に似てるといっちゃえば似てる気がする。
もちろん、裏の曲目も毛筆によるもので、英語表記
のタイトルは全てカタカナに直してある。少し悩む
…これは彼なりのギャグなのだろうか？もし、そう
だとしても笑えないなぁと思う反面、この人の微妙
な感じを何となく嗅ぎとり笑うしかないのかなあと
いう感じもするから不思議である。

楽曲は知っての通り、LUNA SEA時代とうって変わっ
ての軽やかでスィートなポップ＆バラードで占めら
れている。この人の歌というのは、ある意味、歌謡
曲界では使い古されたお約束のオンパレードなわけ
だが、それでも色んな意味で退屈させないのは、や
はり最初に述べた通り、歌の上手さが強いことに他
ならない。もちろんただ、歌が上手いだけだったら、
その辺に山程いるわけだが、彼の歌（というか、表
現力）の強さは思わず引き込まれてしまうほどの吸
引力を放っている。確かにファンならずとも、婦女
子が聴いたら少しウットリしてしまうような陶酔感
に包まれるであろう。こんな言葉を隣で歌われてみ
たい、これくらい愛されてみたい、囁かれてみたい、
というような結局、誰の心の奥底にもあるじゃんと
いう、お姫さま願望を見事に叶えている。だから、
男の僕が聴くと、完全な確信犯としてある種、笑っ
てしまうものがあるのだろう。

実は未発行ながら、河村の歌はgrad all over（web
の方）で書いてるのだが、偽善にも近い確信犯的王
子様を演じさせたら、河村の右に出るものはいない
と思う。同じ、王子様でもミッチーと違うのは、聴
いている人の完全に隣にいるという感覚といったと
こだろうか。そして、ミッチーは実はそんなに歌が
上手くないので、イマイチグッと来るものがないの
が本音だろうか。（ミッチーは、その分楽曲のクオ
リティで、それをカバーしているわけなのだが）

王子様っていうのは、やっぱ完璧にそうでなくては
ならないし、一点の欠点も見せてはならない。そう
考えると、少なくとも歌っている時の河村隆一は、
非の打ちどころがないわけで、やっぱり、この人は
歌手として活躍していた方が、変なボロを出さずに
済むという意味でもいいと思う。そして、変にLUNA
SEA時代を思わせるようなロック・ナンバーからは
ワザと離れていってほしい、そしたらもっと多くの
人の中の「隣で王子様」になれると思う。頼んだよ、
同性が見て笑っちゃうくらいの王子様を僕は密かに
期待してます。