(196) 今が好き、歌が好き◆◆DRAGON ASH--morrow◆◆ |
投稿者:nabes
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kjの紡ぐバラードの珠玉っぷりは、今更語るまでも ないだろう。優しさや、強さを恥ずかしがらずに、 全開で放出させるその、美しいバラードは音楽とい うフィルタからは珍しい感動というエネルギーを与 えてきた。例えば、『陽はまた昇りくりかえす』然 り、例えば『静かなる日々の階段を』然り、聴いた 後に残るのは多大なる余韻、終わってほしくない永 遠、そこには涙腺の挟む余地もないのが本音である。
がしかし、『morrow』を最初に聴いた時には何かが 違った。もちろん余韻は残り、何か後々口ずさめる ものがあったことは事実なのだが、しかし終わって ほしくない永遠の一瞬を感じることなく、この歌は 終わってしまったといってよい。kjはやっぱり、何 かが変わったといっていいかもしれない。 もちろん、ここでいう「変わった」は良い意味が含 まれている。わかりやすく前述の2作と比較してみ ると、『陽はまた昇り〜』も『静かなる日々の〜』 も終わりから、始まりへと向かうつまりはあくまで 歌を通してto be continued的な要素が含まれてい るのに対し、この歌に関しては何と言おうか、あく まで一話完結している点がある。スッキリしている といえばいいのだろうか。まぁ、ジャケットを見て 頂ければわかるが夕焼けから夜に向かう音楽なのか もしれない。それに対すると前2作は、絶対に夜明 け前の少し肌寒いところから一気に太陽が昇り出す 勢いというか、パワーに満ちあふれているといって よいだろう。
何だ、ここまで書いてあるのを見ると、良い意味で 変わったなんてのは嘘なんじゃないのか?あの普遍 的なバラードじゃないなら、kjの良さなどは半分も 出てないのでは?と思った方もいるかもしれない。 ところが『morrow』は、そう言い切ってしまえない 何かがある。 歌詞カードを読みながら、僕が一番「おや?」と思 ったのは、「今は幸あれ」という単語。この5文字 に新たなドラゴンアッシュの方向性が表れていると いっても過言ではないかもしれない。とにかく今に こだわっている感がある。それまでの彼等はやはり、 未来へ未来へ、前へ前へ、上へ上へとグングン突き 進む衝動の音楽であった。日本語であり、ロックと ヒップホップの掛け橋として、この5年近くはマラ ソンの距離なのに、短距離なみのスピードで駆け続 けてきたんだなと実感した。そのエネルギーは勿論、 若者は当たり前だが広く一般大衆に訴えかけてきた。 しかし、そのエネルギーの消費は激しくkjを消耗し ていったのもこれは事実であろう。そこに一番、危 機を感じていたのは他ならぬkjであり、彼は未来よ りも普通の日々の偉大さを『life goes on』で語り しばしの充電に入った。
きっと、こうだろう。その充電で彼が導きだした結 論、それは歌う事が好きだというミュージシャンと して当たり前の結論。kjは人々にエネルギーを与え るのが断じて好きなのではなく、自分が歌う事がす きというミュージシャンとしてのエゴ、それを惜し みなく放出している。だからこそ今回の『morrow』 ではそんな自分の今を彼がこれまで取得してきたヒ ップホップ的な韻の踏み方や天性のリリックで、紡 いでいる。だから、この歌が一話完結であろうと、 そこにはこれまでのバラードと違う清々しさが残っ ているといってよい。
ちなみに、このシングルを含んだアルバム『HARVES T』は、そんな彼の穏やかな精神状態を見事に一つ の芸術へと昇華させている見事な名盤といってよい。 これについても近々、書いていきたいとは思う。し かし、ここまで書いて、また前回のようにひきずっ てしまうが、つくづくフェスに行きたかったなぁ。 kjの織り成す今の最高さ、これを会場でとくと体感 したかったよ。また一つ、kjは表現者として次のス テージを手に入れた。日本でも有数の才能、kjに今 は幸あれ。
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2003年08月06日 (水) 19時02分 |
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