しかし、まぁ売れに売れている。少し前から雑誌
などで、名前だけは聞いていた。しかし、この人
が、森山良子の御子息であったり、こんなに綺麗
なメロディを奏でるミュージシャンだということ
は、全く知らず、でもそのうちグワッと脚光を浴
びる時が来るんであろうとは朧げに思っていた。
だから、『さくら（独唱）』がレンタル屋のシン
グルのランキングで上位にランクされているのを
見た時、「とうとう来たな」という不思議な真打
ち感でワクワクしたのを覚えている。森山直太朗
のミニ・アルバム『乾いた唄は魚の餌にちょうど
いい』は、最近ようやく借りてみた。世の『さく
ら』フィーバーは一段落している今くらいが、お
そらくゆっくり聴くにはちょうどいいと踏んだか
らである。

いい歌というのは、大量消費されると、多少の捻
くれものは自分にバリアを張り、そんないい歌を
頑に否とする層も出てくる。これはどんな歌でも、
どんなミュージシャンでもそうである。そうでな
いと、歌による文化的拡大はあり得ないとは思う。
がしかし、そんな時に素直になれない人を僕は多
少の憂いで見てしまう。なぜ、いい歌をいい歌と
言ってはいけないのか。なぜ、綺麗なメロディを
綺麗と言ってはいけないのか。価値観は人それぞ
れながら、少なくともこのミニ・アルバムに収録
されている６曲は普遍的な「良いメロディ」と言
わないとダメなような気がする。

果たして何が良いのだろうか。癒されるという最
近、どこでも聞かれる常套句か？それとも、メロ
ディの中に溢れるロックな魂か？どちらも違う。
ただ、一聴した時には、この人は山崎まさよしと
いうよりはスガシカオのベクトルであり、それで
いて曽我部恵一にも通ずる叙景な詞もあり、尾崎
豊のような切ないばかりの綺麗事ともとれる部分
もあり、それだけを取ると、この人はもしかする
と、ロックなのでは？とも思ってしまうのだが、
どうやらそれも少し違う気がする。もう少し余分
な贅肉を削ぎ落とした、スタンダードな部分、歌
そのものをピュアに捉えた、きわめてイノセント
な作品の印象を受けた。心の芯、まさにそんな表
現がこのアルバムにはピッタリである。ロックと
いうよりは、ゴスペル的なニュアンスを受け取る
事ができる。

そこに、どの歌もある意味いやらしいともいえる
が、終わりから始まりへの矢印を示した壮大なク
ライマックス・ミュージックを響かせている。こ
の辺が、前述した訳知り顔が否定する一因かもし
れないが、一番人間の感情の振り幅の広いところ
にテーマを持ってきて何が悪い、なんである。終
わりから始まりへと向かう清々しさ、夜から朝へ
向かう瞬間の紫色がかった空の色の表現できない
美しさ、そこから一気に太陽の光が巡ってくる生
命力。ある意味、このアルバムは地球の歌という
べき力強いサウンド。それが彼の才能だとしたら、
僕は同じ時代に生まれて、彼の曲を聞ける事は誇
り以外の何ものでもないであろう。