久しぶりの小泉今日子である。仕事場の人間がこう
言った。「え！？まだ、歌ってたの？」し、失礼な。
小泉今日子は歌手だよ！確かに近年は女優の仕事の
方が先行している感があったが、この人はバリバリ
の歌手である。新作『厚木I.C』で、その存在感を
久しぶりに感じた次第である。

とはいっても、当の僕でさえも、このリリースは実
は知らなかった。フラフラと別件でCD屋に出向いた
ら見つけてしまい、思わず数十秒凝視。次の瞬間に
は、レジにこのCDを持っていっていた。割とこうい
う勘によるCDって、大当たりする時が多い。自分が
CDを買う時の重要な要素の一つである。特に邦楽の
アーティストに関していうと、絶対外さない。長年
養った勘というと、何か偉そうな気がするが、そこ
は僕の自慢である。そして、この作品もその期待に
見事に応えてくれたわけである。

このCDを買うキッカケとなった最大の要素、それは
『厚木I.C』というアルバム・タイトルに尽きるか
もしれない。ていうか、そうなのである。これぞ、
小泉今日子の真骨頂ともいえる類い稀なるセンスと
言えよう。リスナーに思わずどういう作品なのだろ
うかという期待を嫌が応でも煽るタイトルではない
か。それと、自宅が神奈川県の大和市という部分で
「あ、御近所さん」みたいな親戚感覚も何となく働
いてしまったところも否めない。もちろん、きっと
彼女が厚木に住んでいるわけではないということは、
充分にわかっているが、多数の市町村から、厚木と
いう地名をピックアップしたその理由を知りたかっ
たわけである。

理由はCDをパソコンに入れた瞬間にわかる。１曲目
のタイトルが『厚木』というタイトルだったという
事なのであるが、クレジットを見てビックリした。
作詞：浜崎貴司　作曲：宮沢和史　編曲：高野寛。
彼女の久しぶりの作品なのだから、そこまで驚く事
ではないのだが、あまりにも豪華な布陣を敷いてい
ることに感心した。まず、先にクレジットだけ列挙
してみると、その他に曽我部恵一、永積タカシ、細
野晴臣、ミト（クラムボン）、ナタリー・ワイズ
（TOKYO NO.1 SOUL SETのBIKKEのユニット）などな
ど。ここまで揃えたこともそうだが、全てが全てと
いっていいほど、歌心をわかっているアーティスト
の連続に、さすが小泉今日子、未だ衰えずと膝を打
つ思いであった。

アルバム本編は、オーガニックというか、バラード
が中心の、しっとりした出来上がりで、ここまで豪
華な布陣を並べた割には、その部分を誇張すること
のない、肩肘張らないプライベートな作品といって
よいだろうか。アコースティックな音や、オーケス
トラの音と彼女の独特の声量こそないものの、だか
らこそ切ない歌声が染みてくる。当メルマガの読者
的にはラスト前にSUPER BUTTER DOGの『さよならCO
LOR』をカヴァーしているのも嬉しい。つーか、ぶ
っちゃけ買った要因の一つなんだけどね。

こう考えると人に備わったセンスというものは死な
ないんだなぁと思う。ある頂点までいったアーティ
ストというのは、自分が今、何を発表すべきかとい
うことをよく知っている。だから、ジャケでタバコ
とかプカーッと、ふかしていてもそんな事は問題で
はない。歌心を全盛期に知ってしまった彼女は誰が
何と言おうと、歌手・小泉今日子でいるのだろう。
まぁ、おそらくしばらくはアルバムのリリースとい
うのはないかもしれないが、彼女の歌心がムクムク
起き上がるころに、また違った展開を見せてくれる
だろう。歌心がわかっていれば、いつでもドンピシ
ャのタイミングでリリースするであろうし、僕も養
われた勘で、またその作品を手にする事であろう。
アルバムの最後の曲のように『また逢いましょう』
と今は言っておこう。でも…でも！次の日には全く、
そんな気も変わってしまいそうな悪戯な感じも、ま
た彼女の魅力なんだけどね。そんな翻弄も大歓迎な
のである。

「私は信じない私を　その理由を言わぬかわりに
　手紙をさらさら送りつけて　そそくさと消えてしまうの
　多分、口紅でよごしちゃった
　厚木基地のフェンス越し覗きながら　またよからぬ
　事を、今考えてみよう

　取るに足らぬ事だけ考えてみよう
　こんな私でごめんね」　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（厚木）