しかし、大変なことになってきた。何がってt.A.T.u
だよ。この音楽業界にも吹き抜ける不景気風の中、ミ
リオン・ヒットだそうだ。しかも洋楽の新人でオリコ
ンの初登場１位をかっさらっていった。正直、夜働い
てピンとこないが、完全に巷の話題になっているのだ
ろう。宣伝のため、YAHOO!で検索してたら、公式ペー
ジの他に３件くらいファン・サイトにヒットした。こ
れって、世間のリスナーに与えた影響は計り知れない
証拠である。ただ、やはり見えない。各音楽誌のよう
な専門的なことを書くのも、彼女達のスキャンダラス
な「側面」に触れていくのも何だし、ミーハーチック
にいくのにも、いささか自分が年をとってしまってい
るような気もする。さて、どんな観点で見ていけばい
いのだろう。

購入したのは、少し前だった。ロッキング・オンかな
んかで紹介されているのを見て、「また凄いのが出た
な」と思った。この凄いには、ある意味、引き気味な
点が一つ、９０年代のシャンプーなどに見る、時代の
ギャル・ユニット一発屋的なニュアンス、そして、ク
レジットに記載されているようにプロデュースをPSB
などでお馴染みの鬼才、トレヴァー・ホーンが手掛け
ている事への期待感。この辺が混然一体となって、何
年かしたら「ああ。こんなグループもいたねぇ」とい
う資料的な価値を見い出すために購入した。ただ、今
でもシャンプーなどには触手をそそられない点を思う
と、それだけではない何かもあった事も事実だ。

思うに、やはりロシアというのはデカイかもしれない。
ミステリアスな魅力のある国なんだろう。何があるか
はわからいものの、今時点ではこの生涯、行く事が無
いであろうと思われる広大ながらも辺境の地、文字と
かのイメージも何かいかがわしく、それでいて暖かみ
のない無機質な感じが興味をそそられる。以前、どこ
かの美術館で行われてた『ロシアン・アバンギャルド
展』とか見に行ってみたかったもの（結局、行けなか
ったけど）。僕は格闘技が好きなので、その分野の話
にもなるけど、かつて格闘王・前田日明が興したリン
グスにやってきたコマンド・サンボという軍用格闘技
の技の数々も、果たしてどこが極まっていて、どこが
痛いのかわからないけど、確実にやられた相手は逃げ
る事なんて出来やしない戦慄を漂わせていた。話は逸
れたが、そんなイメージを抱いている国、ロシアから
アンニュイな感じの女の子２人組、しかもPVでキスは
するわ、自分達の性を赤裸々に歌にするわで、ある意
味自分の中のロシアン・イメージを破壊した衝撃を受
けた。

音は、プロディジーやPSB直系の物憂げさとハイ・テ
ンションなデジタル・ビートがエフェクト多めで極北
の寒々とした感じを表現している。そこに、二人の悲
しげで、儚いイメージの咆哮が響いていて、そこに暖
かみとか、明るさはあまり見受けられない。勿論、当
たり前の事だがロシア人にも喜怒哀楽があり、笑った
りもするだろうが、そこに聞こえるのは血管が切れそ
うになるくらいの魂の叫びと囁きである。こう書いて
気がついたけど、世界各国は勿論だが、ここ日本でも
受けるのって、浜崎あゆみに近い感じを受ける。あゆ
の希望を求めるが故の苦しさや、寂しさなど病んだ女
の子の心理を歌っているのに似ているのが、t.A.T.u
の魅力なのかもしれない。でも、これが世界中で受け
ているというのは、ある意味世界中に、そんな女の子
が蔓延していることの証であり、なるほど暗い世相を
映し出しているといっても過言ではない。

ここまで来るとシャンプーのように、一発屋という存
在で終わる事はないであろう。ここまで世界に届いて
しまっている以上、それは許される事ではないし、戦
略はもっと緻密になっていくだろう。でも、一発屋で
終わるのも、またt.A.T.uらしくもある。何せ、女の
子なんだから。行くも戻るも風次第。女の子の気持ち
は移ろいやすいんである。でも僕はいつでも思い出す
だろう。極北の未知なる国からやってきた、アンニュ
イな女の子２人組。でも、それは２００３年の音とし
て、今日も鳴り続ける。表情は無機質なれど、『ALL
THE THINGS SHE SAID』の音のように、魂から込み上
げる咆哮。それは、まさにこの時代の真打ち登場！と
して儚くも誇るべき強い音なのである。