「落ち着いて聞いてください、子供さんに脳出血が見つかりました。頭骸骨にヒビが入っています。」
・・・【脳出血】？【頭の骨？】･【折れてる？】・・なにそれ・・・？・・・わからない・・そんなの・・〜〜「お母さん！大丈夫ですか！落ち着いてください！」　　数秒のあいだ無表情無言で立ち尽くす私を皆が取り囲んだ。

その後、事情徴収のごとく、私とモラ夫が子供に虐待をしていたのでは、と疑いがかかり、しつこく問われた。
こんな世の中だから聞かれて当たり前だろうと、私は当然虐待なんかしていないから有りのまま落ち着いて話した。
　モラ夫は医師から聞かれたことに早速腹を立てて医師に向かって逆ギレしていた。そんな態度だからますます疑われても当然じゃないか、と私は思っていた。
　私もその時は、モラ夫はそこまでしているわけがない、と、その時は・・・思っていた。

　新生児はまれにそういった出血が起こる事例もあるが、骨折もどんなケースからも考えられない・・まして虐待がないのに・・・医師たちの疑惑と疑問のなか、結局、原因は不明のままになってしまった。

子供は小さな体を点滴でつながれ、当分のあいだ、口からは何も入れてはいけないとされ、空腹で弱弱しく泣くのだった。
　私の母は遠くからやってきて、その姿を見て「かわいそうに」と泣いた。でも私は泣かなかった。悲しみなんてまだわからない子のそばで、私自身がそんな感情を持つなんて、自分で許せなかった。だから、子供と同じ空間ではいつも笑っていた。そうしないと落ち着かなかった。

その後、数日して出血は自然に吸収されたが、また再度ひきつけで入院をくりかえす。家にいて、子供は嫌いな父親がそばにきただけでも泣き喚く（本当に不思議なくらいそうだった）。ひどく泣けば、頭に血がのぼる、泣きすぎてぐったりする。
　モラの存在だけで充分に虐待だと思った。

入院すれば、モラはいないので、子供も泣かずに済む。入院生活のほうがいたって平和で安心できた。

　そして、自宅で様子見となった時の、生後３ヶ月のある夜、子供がスヤスヤと眠りに着き、私は入浴をはじめ、モラ夫はのんきにテレビに夢中になっていた。・・・しばらくして、モラ夫が浴室を空けて叫んだ！「おい！あの子、息してないぞ！」
　私は浴室を飛び出し、タオル一枚でかけつけた。
安らかに眠ったまま、そして、息のないわが子のすがたがベッドの上にあった。私は取り乱してパニックを起こすだけのモラ夫に「隣の人呼んできて！」と怒鳴り、人口呼吸の形を取った。
そして、救急車が来た。

　もう手遅れの我が子は、延命措置がとられ、植物人間だった。モラ夫はとり乱して泣いたが、何故か私はいつものように冷静であった。この子の天命だったのだ、受け入れねばと、見えない何かが私をそう思わせた。
医師との長い相談の結果、呼吸器をはずし、自然死を選ぶことになった。死の床にて、モラ夫、その母、きょうだいたちは嘆き悲しんだが、またしても私だけはそうではなかった。
「もう体から離れるんだよ。苦しくないんだよ。きれいな心のまんまなんだよ。悲しくなんかないんだよ。天国にいけるんだよ。」と、わたしは心から旅立ちを見送る想いだった。

死の原因も不明のままに。
・・【乳幼児突然死症候群】は、まったく怪我や病気がない場合での死をそう呼ぶため、このケースではこの名も当てはまらないとのことだった。

　お葬式でも泣かずに、遺影に向かって、天に向かって微笑む私を見て、ある周囲の人、モラ夫でさえも「可哀相に、気がふれたのか。」と想うほど私の様子は奇異であったようだ。

　これで、一度万事は無に帰したように見えたが、決してそうではなかった。世間体に乗り遅れたモラ夫のいらだちは新たに冷たい仕打ちとなって、私を苦しめるのだった。
　　つづく
　

なんということ・・・・。

私も　言葉もありません。