ある出版社から「思考力」をキーワードに本を書かないかというオファーをいただいた。

個人的には、いままで、二つの分野で思考力を駆使し、局面を打開する仕事を成し遂げられたと思っている。

一つは、全く未知の世界であった「荒川修作の作品」をめぐってあらゆる既知を使用して謎解きをし、彼の仕事を正当な芸術の文脈に位置づけした。これは、どんな美術評論家も成し遂げえなかったことだと思っている。

いま一つは、「国語」という、あまりにも旧知の世界を、あらゆる未知の方角から組み立て直し、楽しく学習できて効果があり、これもまた正当な目的と意義のあるものにしてみた。

両者に共通していることがあるとすれば、参照できる参考書のようなものがまったくなかったということである。自分で考えていかない限りにっちもさっちもいかないのである。それは何年という単位の時間と根気を要することだった。この二つの経験を反省することで何か書くことができないものかと思っている。

入試問題では、たかだか一時間の思考力とやらが問われる。ご冗談でしょう。思考力とはそんなお手軽なものではないし、そんな時間で測ることのできるものでもあり得ない。