子どもは決して裏切らない。手をかければ必ずそれだけの分、言葉でお礼を言うわけではないが、何かで必ず応えてくれる。それは必ずしも成績によってではないこともあるけれど。そこがまた子どもらしいではないか。私は笑顔で十分です。

この時期、出会いとお別れが交差する複雑な時期だ。

1年生から3年間通ってくれた子が家の事情で通えなくなって、最後の授業のときに泣いていたそうだ。私は低学年のクラスは出ていないのだが、その子はよく知っている。その話を聞き、そこまでこの教室を慕ってくれていたことに胸が熱くなった。

中学受験を終えた6年生の女の子は、絵を描くのがとても好きだという。好きな詩にとてもうまい絵の挿し絵を描いて残して行ってくれた。はじめて見たその子の絵であつた。君の思い出に当分教室に貼っておきます。ねえYさん。私は国語の先生だけれど絵の批評家でもあるんだよ。知らなかったでしょう。

今日もまた最後の授業がある。まだ真っ赤なほっぺたをしているのに読書中毒になってしまつた中学生。全く本を読まないというふれこみで4年生の時にお父さんに連れられてきましたが、もう君に薦めたいような本はこの教室になくなりました。いつも反抗期を迎えていて、だれの言うことも聞かずに机の下に潜って読んでいたときもあったよね。書くのを一切拒否し、それでも、一枚は必ず書くと約束させて苦労して書かせました。要約はするどい。これから、君の頬が青ざめてこけてくるころ、また新しい君が生まれていくでしょう。

3年も4年も通って下さる生徒さんが多い。私は何も言わなかったけれど、その子たちにはよく分かったと思う。なぜ本を読み・書くのか。それは人生を深く味わい楽しむためだということが。

この教室は、これからも受験や学校の成績などとは関係なく続いていくでしょう。最近、私は長生きをしたくなりました。それは、君たちの子どもを見てみたいと思ったからです。
だから、さよならは言わない。