小学生のころの一年の成長の差というものには軽視しがたいものがあります。4年と5年ではあまり変わらないことが多いのですが、5年生と6年生とでは本当に大人と子どもほどにも違っていることがある。私はそれを6年の波と呼んでいますが、この時期には抽象的なものへの理解力が波のように押し寄せてきて、その時期を通り越した6年生は明らかに、それまでの子どもとは違ってくるのです。

中学入試の国語の文章のレベルと内容は、もちろんこの時期を通り越していることが前提になってきます。ですから、ほとんど中学の教科書の内容と思っていいわけです。
すなわち、それをテストと関連づけてみると、たとえそれまでにいくら読書が好きであっても、この成長期を迎えていないと、内容的には太刀打ちができません。

ここまでは、まあいいとしましょう。なぜなら、本番の入試がある時期は、6年の後期である2月だからです。

問題は、進学塾でのテスト内容です。進学塾というところは、問題が解ければよしとするわけで、そのような成長もへったくれもないわけです。しかも、他塾と差をつけるために、できるだけ先取りをして、5年生であっても、そのような抽象的な文章で問題を出してしまいます。あるいは、これから6年の波を迎えようとする子どもにも同じような問題をあてがってしまうのです。

できるわけがない。通常では。

だが、これをあえて、できるようにする手段があるのである。それは、成長促進剤を与えることであり、おくての子どもを早熟にするのだから、それはたとえるとポルノを与えるようなことである。

ポルノという表現はいわばバイアスのかかった独特の表現手段であり、人間の正常な性生活を反映しているわけではない。ポルノによって刺激されるものは、とうてい人間の性の全体とはいいがたい。

問題はここにある。本来のものがゆがんでしまうのである。自然な形で熟していく場合と、ポルノによってゆがんだ形で熟していく場合とは雲泥の差があり、それこそ変態的なことを正常と誤解してしまいがちなのである。これが実は大学生の学力低下の背景なのです。そして国家的な損失をもたらしているのです。

進学塾よ、会社の利益のために、子どもたちにポルノを与えるのをやめなさい。性がテクニックとは違うように、知はテクニックなどではないのです。かつて『知の技法』などという東大の先生たちが書いた本がベストセラーになったが、まさに、進学塾＝予備校的な知のなれの果て。養老猛司さんが最近の『バカの壁』でいまだに非難しているではないですか。