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小説投稿掲示版〜!!!!

小説の投稿掲示版です!! あなたの作った小説をどうぞ ご披露ください!!!!

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[893] 機動戦士ガンダムSEED DESTINY―ユニバーサルセンチュリーズ―
じゅう - 2007年02月27日 (火) 20時48分

登場作品
「機動戦士Zガンダム」 
「機動戦士ZZガンダム」
「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」 
「機動戦士ガンダムF91」

OVA
「機動戦士ガンダム 0083 STAR DUST MEMORY」 
「機動戦士ガンダム 第08MS小隊」


『元作品』


「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」

サイドストーリー

「機動戦士ガンダムSEED ASTREY」



機動戦士ガンダムSEED DESTINY―ユニバーサルセンチュリーズ―




――――――――――


えーと、くろすおぅばぁです(何

なんかマトモな小説書いてない。なので、今回こそは!

みたいな(何

できるかなぁ(ぁ

[894] プロローグ
じゅう - 2007年02月27日 (火) 20時53分


ユニバーサル センチュリー  ―U.C


コズミック イラ       ―C.E


二つの壁を越えて 



もう一つの世界が生まれ、その中を生き抜く少年


待ち構える運命も、また変わった



「嘘だ……こんな……」


手に持ったピンク色の携帯を握り締め、少年は


ただ空へ 慟哭した

 

[895] 1 「メビウスの輪の中で ―運命が時を越えて―」
じゅう - 2007年02月27日 (火) 22時42分

U.C 0093〜0096 


 アクシズと呼ばれる小惑星基地―否、今はただの岩の塊に過ぎない一つの割れた欠片


アムロ・レイ。
その男が、そこに『留まって』いたのだ。

(死んだ……か)

自分の体は動くが、ここはどこかも分からぬ宇宙の辺境
助けは来ない。来れない。

通信機器は全て死んだ。愛機―νガンダムはサイコフレームの力を借り、アクシズを大気圏から押し出すという現実離れした大事をやってのけた代償に、ほぼ全ての機能が停止していた

かろうじて一部のアポジモーターが動くのみ。だがそれでは話にならない

死んだも同然。そう表現せざるをえない

『アムロ……』

「な……」

聞き覚えのある女性の声だ。途端、複雑な気持ちになる

自分が殺した。絶対に殺したくなどなかった女性(ひと)

「ララァ……なのか」

その呟きに答えず、ララァの思惟が広がり、アムロを包み込む。
νガンダムをも、広く、大きく包み込んでいく。

『あなたには……まだやることが……』

「やることだって……?何を言って……」


言葉が途切れた。方向感覚もなくなり、意識が一瞬のうちにブラックアウト

新しい世界への扉が開かれた瞬間だった



そして、何時間もたった『気』がする。

「……非現実だな、全く」

アクシズを押し返した自分が言えることか?と苦笑しながら、目の前に広がる光景に疑問を覚えていた

地上。島。見渡す限りの水平線。何故だ。さっきまでは宇宙にいたはずだ

そう自問自答するが、答えはひとつしかないのだ


「ララァが……俺をここへ誘ったのか」

何をしろと言うんだ、ララァ

はるか遠くへと呼びかけた。聞こえるはずもない声を求めて


「ブースターは……動くか?」

アポジモーターだけでなく、ブースターが動かないとこの場所から離れる事すら出来ない。
幸い、非常食が一週間分ある上、ここは地上だ、酸素には困らない

持ち合わせの工具を手に、ブースターを弄り始める

カチャカチャ、カチャカチャと。工具と機体が触れ合う音が、今のアムロにとっては何故か新鮮に感じた


結局、一日が経過しても、ブースターを直す事は出来なかった
大気圏の熱によって、回路なども焼ききれている上、内部に甚大な損傷を受けていた。


だが、小さい頃、メカばかりに触れていたアムロは修理もある程度心得ていた

5日も経つと、なかなかにブースターの稼動が良好になってきている

「工具、持ってきておいて正解だったな」



6日目。ついにブースターの稼動に成功した。

大気圏に晒された時間は短いほうだった。それがこの修理期間の短さに繋がった。

流石『ガンダム』だな、と。そう思う
連邦軍の技術を総結集されたMS。ピーキーなほどの操縦性ゆえ、全てにおいてトップクラスだ

そういえば、こちらへ飛ばされたとき、紛れ込んだのかフィン・ファンネルが一機だけ、ガンダムと共にあった

宇宙空間を漂っていた『それ』が、紛れ込んだのは奇跡といっても良いかもしれない

かろうじてレスポンスが効く左マニピュレーターでそれを掴み、νガンダムは、新しい世界の海を滑走した




時同じくして、宇宙


テロリストらの攻撃により、ユニウスセブンと呼ばれるコロニーが地球へ落とされんとしていた

カオス、アビス、ガイア

3機の「G」を連合軍に奪われ、逃走中の艦「ボギー1」―正確にはガーティ・ルーを追いかけていた新造艦「ミネルバ」は、地球へ落下中のユニウスセブンの破壊をミネルバに乗るデュランダル議長直々に命じられたのだ


しかし、絶大な操縦技術のテロリストに僚機は次々と撃破され、破砕作業用。先端が巨大のドリルとなっている「メテオブレイカー」さえも破壊されていく


「クソッ!こいつらぁぁッ!」

『インパルス』のパイロット、シン・アスカは狼狽しつつ、敵の黒いジンが放つ斬撃をビームサーベルで弾き返す

一度下へ斬り飛ばし、隙を作るが、敵が右手にマシンガンを持ち、牽制してくる

ライフルを苦し紛れに放つが、無情にもただ広い空間を裂いていく

「このッ!当たれぇぇぇッ!」

遮二無二ライフルを連射する。その時、後から迫りくる高熱に気づいた
赤い光条が、プラズマを帯びてこちらへ向かう

「ルッ、ルナのバカ……!」


「あれ、ごめーん、シン」

シンはかろうじて避けるが、その向こう側のジンは、インパルスに足止めされていたため、あっけなく残骸へと姿を変えた


「ごめんで済むかよ!誤射すんな!」

「誤射じゃないよー、援護射撃だって……うわっと」

後から飛び掛ってきた漆黒の機体、ガイアに高エネルギー砲「オルトロス」を放つ

軽々と避けられた。シンはこの光景をすでに見飽きている

射撃命中率アカデミー最低クラス。そんなルナマリア・ホークが「ザフト」エリートの証、赤服になれたのは、接近戦の得意さからだ

しかし、何故か本人は射撃専用のガナーザクウォーリアを運用している
これはザフト七不思議のうちにも入るだろう。そうシンは語っている


「うおおおおぉッ!」

ビームトマホークを振り下ろすアスラン・ザラのザクウォーリア
だが、それは全て敵にかわされる、ちなみにアスランは前大戦で多大な戦果を上げているパイロットであり、裏切り者でもあるの
だが。

アレックス・ディノと言う偽名を使い、思いを寄せるカガリ・ユラ・アスハのボディーガードをしていた。
しかしカガリの不用意な一言によって、アスランであるとバレてしまう。

そしてそんな中、ユニウスが落下するとの情報を受け、無理を言ってザクに乗せてもらって戦闘している


しかし


(ブランクか!)

約2年。ブランクと言うものが大きいのか、本来の自分の動きを出来ず、苦戦していた

刹那、ジンが突進を仕掛け、不意を突かれたアスランは宇宙空間を吹っ飛んだ
青白い光を放ちながらジンが追撃。あっという間にメインカメラ、右足、右手を残して刈り取られる


「しまった……!くそ!つくづくダメだな、俺は……!!」


しかし、バーニアまで刈り取られてしまった為、移動がままならない

それを庇うように、シンがそのジン―サトーへと立ちふさがる

「あんた、なんだってこんなことするんだ!」

「簡単なこと!私の娘の墓標、落として焼かねば世界は変わらぬ!」

激しい火花を散らして、インパルスの装甲を刀で削り取っていく


「なんだと!」

「いつの間にザフトはこのように腑抜けてしまったのだ!ナチュラルとの停戦だと!笑わせる!」

機銃でインパルスのアイカメラの内右を破壊する。
負けじと、ライフルを放つシンだが、外れてしまう。
技量の差が現れているのだ

「あのパトリック・ザラがとった道こそ正しき道よ!今更我等の決意は変えられぬ!」

「な……」

それを、アスランも聞いてしまったのだ。自分の父―パトリック

ナチュラルを大量破壊兵器「ジェネシス」により、一掃しようと企てたが、部下の反逆によって死んだ

信じたくなかった。未だに自分の父の理想を背負うものがいるなど―

「このようなことでは娘も浮かばれん!貴様らなんぞにパトリック・ザラの!我等の理想は止められんよ!」


「……ッ!うわあああっ!!!」

刀がコクピットに突き刺さるが、素早く身を引いたため、凹んだだけですむ。
しかし、論でも、技術でも圧倒されていた。どうする。このままじゃ勝てない


―キィィィン―

何かが頭に響く。直接、語りかけてくる。

心にまで響くその声が、シンの何かを、少しながらも変えたのだ
『ニュータイプ』と呼ばれる、人類の革新が。



「そうだ……俺は俺の……」

口を開いた。ぶつけなければ。「自分」を

「俺だって……地球が嫌いさ……特にオーブはな」

自らの家族―そして、妹が死んだ地。このことが切欠で軍に入ったのだ。
あの時、救ってくれなかったオーブなど好きなわけがない

「だけど……俺なりの答えをアンタにぶつけてやるさ!だからって地球上の人類、ナチュラルを殺したからって、なにも変わらないんだ! 無駄な殺戮ばっか繰り返してさ!何か変わると思うのか!平和なんて来ない、いつまでも!」

何かがはじけた瞬間、言葉に乗せて、自分の攻撃―斬撃を放った。
今まで以上に鋭利な一撃は、サトーのコクピットを一瞬で裂き、苦しむ暇も与えず消滅させた。

シンは憑き物が落ちたかのように、ため息を吐いた。

(なんだったんだ……勢いのままだったけど、アレが俺の本心?)

そうこうしているうちに、ユニウスセブンは大気圏へと突入した


かろうじて残ったメテオブレイカーがユニウスセブンを真っ二つに割った為、欠片の大きいほうがひとつ大気圏を離脱した。

しかし、まだ一つ残っているのだ。小さいながら、大きい欠片


「議長、我々は大気圏に突入しつつ、タンホイザーでユニウスを破壊します。衝撃に備えてください」

「ありがとう、タリア」

ミネルバ艦長、タリア・グラディスが注意を促す。そこへルナマリアの妹、メイリン・ホークの声が飛び込んだ

「艦長!シンとアスランさんが!」

帰艦していない。その先は言わずとも分かった。


「彼らは後で回収するわ!タンホイザー、照準!」

巨大な砲身が前面に姿を現した。それから程なくして赤い奔流が放たれ、虎の牙の如くユニウスを削っていった



「アスラン、掴まれ!」

シンがあくまでも年上であるアスランに命令する。
インパルスが左手を伸ばすが、届かない。

大気圏に巻き込まれ、脱出が出来なくなっていた。落ちればただでは済まないだろう

「もうッ……少し……」

そこまで来たのに、アスランの機体は虚しく地球へと吸い込まれる―


はずだった


戦闘機のフォルムをした物体が高速接近。


なんと一瞬で変形。ザクを掴んだかと思うと、インパルスも掴み、急速離脱した

大気圏を離脱したのを確認すると、ハイパー・メガランチャーと呼ばれるそれを取り出したが、アスラン、シンは目を丸くするだけだった


そこへ、もう一つ、変形するMSが突っ込んで、頭部をユニウスへ向けた


「お前も来たのか…よし、やるぞ!」

「事情はわかんないけど、地球に落ちるとヤバイってことは分かるぜ!」


瞬間、少なくともアスランとシンの目の前が光で埋め尽くされ、次に視界に入ったとき、粉々になったユニウスセブンをバックに、悠然とデュアルアイを光らせる2機の機体

破片も可能な限りライフルで破壊していく2機を、シン、アスッランは見つめる事しか出来なかった


「なんなの……あのMS……」

「所属不明機です、識別コードありません」

タリアが感嘆の声を漏らす。ある程度遠かったミネルバのほうが、何が起きたかはっきりと捉えられたのだ

特に、二つの内、明らかに重武装の機体はその格好の通り、絶大な火力を発揮していた

飛び交うミサイル、そして巨大な光

見たことのない未知の力がそこにあったのだ


「ほう……これは……」

デュランダルが妖しくも、優しく微笑むのを、誰も気づく事は出来なかった




そして、再び地球。


「なんだ……星が……!?」

アムロが滑走している地点から程遠い場所へ、星の欠片が落ちていく

それが何の所為なのか、ニュータイプとしての直感からか、アムロにはそれが分かった

「この世界も……こんな事をする奴がいるというのか……何が変わると思って……!」


その出来事は、アムロに『使命』を与える形で終焉を迎えた。

アムロは決意の灯った瞳で、星を見つめていた。




[897] 2 「動乱の大地 駆ける流星 ―二つの『Z』―」
じゅう - 2007年02月28日 (水) 23時58分

大気圏に浮かぶ黒い「シミ」が二つ

それはどんどんと大きくなっていき、次第にその姿をはっきりとさせていく

トリコロールカラーのVアンテナが特徴的なMSが、焼け焦げたザクを手で掴んでいるのが分かる


「おーい、アスラーン、死んでない……よな?毛根以外は」

「一言余計だ!」

一応余裕はあるようだ。

だが、その余裕は数秒後に木っ端微塵と化す

「うぎ」

海面に叩きつけられ、凄まじい衝撃で声さえも出ない
ただただ、海中で悶絶するのみだった。
天高く水しぶきと轟音を上げて、沈んでいく

「痛って……ぇ、と、とりあえず上昇上昇っと」

バーニアは生きている為、海から顔を出す事は出来たが、いかんせんMS一機を持っているため完全に浮上する事は出来ない

体を引きずるように海を移動していると、一つの大きな影がシンたちを覆った

「ミネルバ!?」

急いでその場から離れると、洗礼とばかりに海水が機体へ容赦なく降りかかる。随分豪快に着水したものだ

「インパルス、ザク、発見しました、回収します」


白いブレイズザクファントム―レイ・ザ・バレル機が回収へと向かう。
アスランのザクを持つと、インパルスと二人がかりでミネルバへ押し上げた

「シン、無茶が過ぎる。一つ爆発でも起こしたらお陀仏だったんだぞ」

「仕方ないんだって、アスラン、流石に死なせるわけには行かなかったし」

それはあのオーブ代表主張への皮肉だったのだろうか。
知る由もない。

ドッグで盛大に壊れたザクを見て号泣している整備班がいたのは別の話である



「これはこれは、大義ですな……」

ユニウスセブン落下事件。この場にいた敵はジン―ザフトの反乱軍

ジンがユニウスセブンのフレアモーターを起動させる映像までもある
コレを見せれば、どう見ても「ザフトが落とした」そう考えさせられてしまう


「これで……忌まわしきコーディネーター共を一掃する理由が出来たわけだ……」

「ジブリール、やりすぎは禁物だ」

ブルーコスモス盟主―ロード・ジブリールを宥める老人。その姿は巨大なモニターにいくつも映し出されていた
それぞれが別の人物であるが、殆どが老人だ。


「このチャンスを逃してどうすると……?甘いですよ、ご老人方」

「やり過ぎれば、我等も危険といっているのだ」

「分かっていますよ……しかし、その『危険』さえも排除すればいい話でしょう?」

ワイングラスを片手に笑みを浮かべる。

そう、ここしかないのだ、チャンスは

「オーブ……これを大西洋連邦へ介入させれば……」

オーブの絶大な技術力。大西洋連邦の兵の数。
これらが合わされば、どれだけの力になるか。

それを想像し、ジブリールはまた笑みを浮かべた



あの時、少年、カミーユ・ビダンはかつての愛機、「Zガンダム」のコクピットへ入っていた
ネオジオンによる戦争―ハマーン・カーンの事を考え耽っていた

アクシズでの最終決戦。あれから「ガンダムチーム」は行方不明になっている。もう2ヶ月がたった。

救難信号も、反応もなし。そのことを聞いたカミーユは、流れ着いたZに乗り、捜索に協力していたのだ

大破していたため、修理も相当な時間を費やしたが、総力を挙げての大修理だった為、1ヶ月ほどで修理する事が出来た
そして、久し振りにZに乗ることになったのだ

「カミーユ・ビダン、Z、行きます」


アーガマから宇宙へ飛び立ったカミーユは、アクシズ近くの区域を捜索していた

この時代はまだある人物によるアクシズ落としは行なわれていない為、まだ健在だ

そんな中、光を見つける。

見つけてくれ、とも言うような光だ


「……ジュドーか?」

その光に近づいた矢先、廃棄されたコロニーの円筒部にZがすっぽりと埋まる。コロニーが流されていた

その光はコロニーの片隅にあった


「これは……うわッ!?」

突如として走った閃光。それはZを包み込み

一瞬のうちに、消し去った。


それからどうなったかは言うまでもないが。

CEの世界へ飛ばされ、目の前に写った光景は信じられないものだった

「コロニー……!?一寸形が違うが……くそ!」

決断を迷う暇などない。Zはすぐにコロニーへと向かった

ミネルバは、レーダーの範囲外なので当然気づいてはいなかった
ただ、大気圏スレスレをウェイブライダー携帯に変形して飛んでいたため、比較的遠くにいた敵のジン以外は気づけなかったのだ

「戦闘機如きが!」

その言葉を裏返すように、ZはMS形態へ変形する。

「邪魔なんだよッ!」

油断していたジンの四肢を一瞬で奪うと、ライフルを続けざま叩き込み、消滅させる

「MS……只者ではないか!」

Zに襲い掛かる2機のジンは、十分距離をとり、慎重に機銃を打ち込んでいくが、撃つ前から分かっているかのように避けられる。

「な……こいつ!」

「落ちろオォッ!」

ウェイブライダー形態で勢いをつけたまま、サーベルで胴体を真っ二つ。振り向き様、どういうわけかこの世界へ転送されたハイメガランチャーを銃剣形態にし、コクピットを後から突き刺す

「あんまり器用じゃないんだ、俺は!」


瞬殺、まさに読んで字の如く一瞬のうちにジン3機を撃破する

ついにユニウスセブンが大気圏に突入した為、接近しようとした際、大気圏内に2機のMSを発見した。
大気圏を飛行できるウェイブライダー形態で近づき、MS形態へ。

2機を掴んで離脱すると、ユニウスへハイパーメガランチャーを向ける

その時、やってきたのだ、自分が探していた少年の乗る機体

「おまえも……来たのか。よし、やるぞ!」

二つの『Z』が、銃器を構えた。―正確には『ZZ』というMSは、額を向けていたが。

「いけぇぇぇっ!!」


そして、光の奔流がユニウスを砕く。続いて破片を壊しながら、カミーユはジュドー・アーシタに問いかけていた

「ZZ、無傷でハマーンに勝った、ってわけじゃないんだろ?」

「ネェル・アーガマも一緒にここに着たから。そういえばあとは分かるだろ?ジャンク屋で生計立ててたぜ」

「ジャンク屋……」

「なんかバンダナ巻いた腕のいい兄ちゃんがいてさ、直してもらったんだ、で、ジャンク拾いに着たらコレさ」


そこから後は、聞く気になれなかった。自分よりも2ヶ月先にここに来ていたのだ。話せば長くなるのは分かっていた

自分で調べたほうが、早そうだ、そう思った


シンは休憩時間を利用し、オーブのある崖に来ていた

家族の無くなった地。

「父さん、母さん、マユ。俺、帰ってきたよ」

さびしげな声が、海に面したこの崖の下へ落ちるように消えていく。
潮風が気持ちいい。夕焼けがやけに映える。

かつて家族を守れなかった故郷。嫌いだった。
だけど、こういう光景を見ていると、僅かにも心が癒され、まさに「故郷」という感じがするのだ

「……俺、仇を討つよ、絶対」

オーブとともに憎んでいるMS「フリーダム」
ザフトに入隊した時、その名を知った。
心の中でパイロットはろくでなしだと。民間人がいるかもしれないのに遠慮なく砲弾を見舞うその姿から判断していた

光の反射で分かりにくかったが、茶髪でやせた男性が、突然訪れた。それをシンの赤い瞳が捉える

「あっ」

自然と目が合った

「……君にとって、特別な場所?」

「嫌な方で、特別な場所です」

その奇妙な会話をしているところへ、二人の男が訪れる
濃い茶髪の少年と、蒼っぽい髪の少年

どちらとも、強い力を秘めた瞳をしていた

「……あなたたちは」

「いや、いいよ。話を続けてくれても」

「俺の家族、ここで死んだんです」

「……ッ」

その場のシンを除く全員が、同時に苦そうな顔をする

「ごめんね、僕、もう行くよ。思い出したくなかったことだろうし」

「忘れられませんよ。どんなに時が経っても」


沈黙の後、4人はまた、それぞれの場所へ散っていく

それぞれに決意を秘めて


「なんだそれは!聞いてない!」

オーブ代表首長、カガリ・ユラ・アスハが叫び声を上げるも、目の前にいるもみあげが特徴的な紫色の髪をしたユウナ・ロマ・セイランは表情一つ変えず、カガリに言葉を放つ

「オーブの立ち位置を考えろ、って言ってるのさ。ザフトの軍艦なんかかまってる暇ないし、おとなしく大西洋連邦と協力した方が……」

ミネルバは、オーブへと寄航していた。アスランは今、プラントだ。
デュランダルもまた、シャトルでプラントへ向かった。

「お前、お父様の言葉を……」

「伝統や正義、正論よりも、国民の安全の事をお考えください」

ユウナが茶化すように言う。カガリの顔に青筋が浮かんだ

「もういいッ!とにかく、連邦と同盟は組まない!」

「いつもそうだから不安なのさ、君が」

打って変わって優しい口調でユウナがそう告げると、カガリの耳元で囁いた

「僕が君を支える……夫として」

返事の変わりに飛んできたのはビンタだったが、ユウナは続ける

「政治はお遊びじゃないんだよ……伝統ばっかりに縛られちゃ、生き残れない」

「だからといって……」

「すでに大西洋連邦中心の地球連合軍に参加しろ、と圧力もかかっているんだよ、諦めることだね」

厳しいながらも現実を告げると、ユウナは部屋を出て行った。

言い返せなかった自分が不甲斐ない。カガリは一人自虐していた。



そんな中、海を進むMSがいた。νガンダムだ


「国?簡単に上陸できるわけがないな……」

最寄の島に上陸すると、木と糸でさおをつくり、非常食をえさとしてペンチで曲げた針金につける。

簡単な釣竿だ。結構木が太いので、強度は十分。針金も先を尖らせている。

「どう入国するかを考えるか……さすがにガンダムを置いていくわけには行かないし……」

この世界からすれば、νガンダムはオーバーテクノロジーの塊だ。
そんな機体が奪われてはシャレにならない。


その晩、釣り上げた魚で腹を満たすと、早々と睡眠をとる。
いろいろと思う節もあったが、とにかく疲れが尋常ではなかった。


アムロが寝ている間、オーブや宇宙は激動していた。
地球連合軍が核ミサイル部隊を導入し、プラントを攻撃せんとしていたのだ。


「コーディネーターめ……一泡吹かせて……」

「か、艦長!MSが高速せっき……」

気づいた時には、すでにアガメムノン級は被弾していた。
それも、その巨大な艦体を頭上から一筋のビームが「貫いた」のだから驚くばかりだ

「くっ、撃ち落せ……」



「下手には下手なりの戦い方がある、やらせるかよ!」

その「ガンダム」は、高速で艦体の側面に回りこみ、至近距離で腰部分にマウントされたビーム砲で破壊した


「的が小さい上に……早すぎる、攻撃力もある……悪魔か、アイツは!」

その高機動力に艦が着いていけるはずがない。
MSを残し、艦隊は全滅した。本当に、あっけなくだ。

「邪魔するな!このコーディネーターが!」

「コーディネーター?なんのことだ!こいつ!」

核ミサイル搭載の「ウィンダム」を高速ビーム砲でまとめて撃墜していく。核ミサイルの所為で動きが鈍い。隙を突かれればなす術もないのだ

さらに、核ミサイルが誘爆。部隊は壊滅状態に陥ってしまった

横を突かれた核ミサイル隊は、装備が仇となって全滅してしまったのだ


「アレはコロニー……行ってみるか」


深夜、オーブから離れた豪邸。そこへ現れた襲撃部隊が、青い翼を持つMSにかき乱され、全滅寸前まで追い込まれていた。

「ラクスをどうするつもりだ、あなたたちは!」

そう叫ぶキラ・ヤマトは、フリーダムのサーベルで水陸両用MS「アッシュ」の最後の一機の四肢を奪った。

「言ってくれ、何故こんな事を……」

爆音だけが、無情に響いた。自爆。フリーダムは寸前で回避したものの、何も聞き出せなかった事が悔やまれる


「また……戦場へ行かなくてはいけないのですね……」

ラクス・クライン。戦場の歌姫と呼ばれた少女が、再び動き出したのだ

「あの人が言ってたようなこと、起こしちゃいけないんだよね……なら、僕は」




アムロは、大きな欠伸をして起きた。疲れを忘れられるほどの快晴だ。
森の中に隠している為、見つかってはいない。長い間隠しとおせるわけではないが

「……ロックをかけておくか」

アムロはガンダムを残し、オーブへと向かった。島はオーブと陸続きだ。


今、ミネルバの艦内の個室にはデュランダルが戻ってきていた。
その前にいるのは、カミーユとジュドーだ

あの後、両機の映像データを元にし、捜索隊を派遣した結果、オーブの中立コロニー「アメノミハシラ」にいたことが分かったため、デュランダル自身が赴いて、カミーユとジュドーを呼んだのだ。

―オーブへと

話が許されたのはユニウスセブンの破壊に協力してくれたことが表向きの理由だが、カミーユ、ジュドーが乗っていた「MS」にも興味があったのだ

ジュドーは了承したが、カミーユはかたくなに断った…のだが、ジュドーに強引に連れて行かれたのだ。
ネェル・アーガマはまだアメノミハシラにいるが。

カミーユは、どこかデュランダルの本心を見抜けない。
だが、おかしいのだ。一国の議長が、わざわざこんな事で捜索隊まで使って出向くなど。

(やっぱり信用できないな、この人は……)

「そこで、今問題となっているのが、オーブと大西洋連邦の同盟だ」

ジュドーはあまり理解できていないようだが、あとで簡単に教えてやればいいか、とカミーユは補完する。

「つまり、大西洋連邦を迎撃しろ、ってことですか?」

「……勘がいいね。その通りだ」

「オーブを守る事は、あなたが言う積極的自衛権に当てはまるんですか?」

「オーブを守る事は、ザフトを守る事にも繋がる」

強い信念を持ったデュランダルの瞳がこちらを見据える。

「……しかし、何故わざわざ俺たちにそんなことを?少年にそんなことを頼んだと知れば、評価は落ちるんじゃ?」

「たとえ世間の評判が悪くなろうと、国を守るのが私の役目なのでね」

「……分かりました、ただし、俺をザフトに入れてください。その上で、あなたのやることを見極めます」

「良いだろう、私が間違った道を選んだときは、容赦なく撃ってくれたまえ」

「あ、俺も俺も!俺もザフトに入れてくれよ」

場違いな声を上げるジュドーに、カミーユはため息を吐いた


(この世界に……シロッコのような存在を生まれさせるわけには行かない)

アムロ等と同じく、ユニウスの事件で確信した。例え別世界だろうと、「あいつ」のような存在は生まれさせない、と



――――

―――

――



ドアを開ける音が鳴った。

「どうぞ。 ……へぇ、君が」

デュランダルの意向により、ユウナとカミーユ、ジュドーは非公式の会見を行なっていた。

何故、はじめて見たカミーユたちにこんな事を頼んだのだろうか。

(あの人もニュータイプのようなものなのか?)

カミーユ、ジュドーが優れたNTなのは、カミーユ『は』自覚している。
それを知ってこの男に自分たちをぶつけたのか、それは分からずじまいだった。

「言うことは一つです、無理に大西洋連邦との同盟をやめろとは言いません。しかし、少し時間をください」

「なんだと?」

「カガリ首長が未熟なのは、議長の話を聞いて分かりました。ただ、ここで安易に同盟を組むことが本当に安全か、と」

同じぐらいの歳の少女を「首長」と呼ぶのは複雑だったが、カミーユは続けた。

一人の人間として。今はただニュータイプとして、この人の本心を見抜き、論す―

そうしなければ、ザフトには入れずに、何も出来ず終わる。ネェル・アーガマとだけでは、両軍の戦闘に入り込んでも歯が立たないのだ。

その歯痒さを、味わうわけには行かない

「連邦と同盟する、つまりそれはザフトを敵に回すという事です。技術では負けるかもしれませんが、総合的なパイロットの質、機体の完成度は高いのですから、それもまた危険ということになります」

「しかし、連邦とザフトを敵に回すのと、ザフトだけを敵に回すの、どちらが楽だ?」

「連邦の行為は明らかに侵略です、それに対抗してザフトを味方に回す。世論も良い筈です」

「物量の差を分かっているのか?」


「俺と、ジュドーの機体。言い方が悪いかもしれませんが、これで連合に力の差をみせ、簡単に攻め込めないようにするのです」

「そんなことできるわけ……」

「やってみせますよ。なんなら俺とジュドーだけでもいいです。オーブは関係ない。これでいいでしょう?」

無理な提案だとは思った。だが、賭けるしかなかったのだ。今は

オーブと連合が同盟を組む―即ち、ユウナは政治の実質を理解していても、戦争の実質は理解していないままオーブは戦いに巻き込まれることになる



ザフトは連合と同盟を組まない限り、オーブを攻撃する理由はない。

連合さえ退ければ、オーブに戦火は届かない、ということになる
無理やりな理論。しかし、やらねばならない。

「……残念だけど、認めるわけにはいかないね」

ユウナの口からは、否定の言葉が告げられた。

無念を残し、部屋を去る。
元々分の悪い賭け。ダメといわれればそれまで。もう言うことはない
言ったとしても、それは悪あがきに過ぎなかった
諦めがいいようにも見えるが、実際、自分にもジュドーにも政治などは向いていないのだな、と。ほとほと思う

「……なら行動で示す、それしかない」

決して戦いを望んでいるわけではないが、何か好機というものがないものか。
そう考えつつも、部屋を後にした。



「カガリが結婚!?」

そう、大声を上げるのはアスランだ。デュランダルから新型機「セイバーガンダム」を受領し、ミネルバへ帰艦した所だった

「見え見えの政略結婚、ってところね」

「そんな……」

だが、今はザフトに戻り、一兵士のアスランがユウナに意見する事は出来ない。
デュランダルに命令された二人は例外として。

「明日にも式を挙げるそうよ」

止めを刺されたアスランは、沈んだ気持ちで自室へと戻って行った

その傍ら、アムロはオーブへ入国した所だった




それからまた一日が経ち、式場にはたくさんの人が集まっていた。
アスランにとって、この頃さっきまでミネルバですごした時がまだ恋しい気さえしたほど、今日と言う日は来てほしくはなかった。

カガリは嫌悪の気持ちを表に出さず、笑顔で振舞っているが、アムロはその本心を見抜いていた。表情の奥に隠された本心を

(政略結婚か……かわいそうに)


「それでは、夫、ユウナ、貴方は妻、カガリを一生愛すると誓いますか?」

「誓います」

「それでは、妻……」

「ち……誓えな……むぐ」

「誓えない」そう言おうとしたカガリの口をユウナが軽く塞いだ瞬間


「うわああァッ!」

客席からの悲鳴。青い翼を持った自由の象徴

フリーダムガンダムが、カガリをさらった


「キ、キラ、離せ!」

「君はこんなとこにいちゃダメだ!」

「そんなの私が決めることだ、この馬鹿!」


「あれは!」

ガンダムタイプ。その手にはカガリがいた。
カミーユ、ジュドーは自らの愛機の元へ向かった。
途中、生え際が後退した蒼髪の青年が「キラ、何を!」などと叫んでいたが、気にしない。気に出来ない。

「くそっ、さらわせるかよ!」

Zのデュアルアイが光を漏らし、起動する。


孤島から、二つの『Z』が飛び立った


それは、さまざまな物事が動き始めた動乱の時代を駆ける流星にも見えた



















[899] 3 「自由と思いと魂と ―フリーダムVS二つの『Z』―」
じゅう - 2007年03月01日 (木) 23時23分

フリーダムのコクピットに強引に押し込まれるカガリ
その様子を見ているものは、一人としていない。それほどの高度を保って飛行しているのだった

「ちょっと窮屈だけど、我慢してよ!」

「キラ!私の話を……」

「来た……!」

目の前に現れる戦闘機―それは、MSに変形した。

オーブ軍主力MSの一つ「ムラサメ」。
奇しくもそのフォルムは、Zガンダムに似ているものだった。

「どいてくれ!」

サーベルでムラサメを退けんとした、その間に割り込む閃光を、キラはサーベルで弾き飛ばすと、飛んできた方向―下を見る

「ガンダム……?」

呟きざま、翼を前に向け、フルバースト

「攻撃前のモーションが大きい……こんなもの!」

Zガンダム―カミーユはビームを掻い潜り、レールガンをサーベルで弾き落とすと、牽制でバルカンを放つ。その弾は、無情にも弾かれてしまうが。

「実弾は効果がないのか……ならばッ!」

背部にマウントしたハイメガランチャーを構え、フリーダムをロックオンマーカーに捉える

「首長はコクピットか……なら、横を狙えれば!」

ハイメガランチャーの強大な熱量なら、装甲だけを溶解させ、戦闘力を奪う事も可能だ

チャージの体勢を見せると、フリーダムは接近戦を仕掛けてくる

(かかった!)

背部のブースターを掠めるようにしてもう一つの巨大ビーム砲、ZZの額に搭載されたハイメガキャノンが飛来する

「なんだ!?うわっ!」

あっという間に機体の熱が急上昇し、バーニア、即ち翼が解けていく

「出力低下……、高度を下げるしか!」

「ジュドー、追うぞ!出来るだけ弾を市外に流すな!」

「分かったよ、カミーユさん!」


それを追尾するように、ムラサメ2機がZ、ZZに続く。

この上から撃つ体勢だと、市外へ流れ弾が行く可能性がかなり高い。
横から狙うようにしなければ、住民が危険だ

「相手は速度が落ちてるんだ、追いつけるぜ!」

ジュドーの意気込みどおり、バーニアの噴射と落下の加速によって、フリーダムの横腹を取る

「あの機体……フリーダム?それにあれは……」

もはや地上からも見える位置まで降下したムラサメ含め5機のMSを、ユウナが唖然とした様子で見つめていた

「カミーユと、ジュドーとか言ったか、フリーダムを押している?」

二人がかりとはいえ、いや、たった2機だけであのフリーダムを押している
ムラサメはカミーユに論され、すでに市街地の守りについている
その様子を、また一人の男が見ていた

「Z?カミーユなのか!」

アムロの声は、驚愕と安心を吐きだしたものだった
この世界に来ていたことには驚いたが、生きていたことに安心したのだ

「もう一つは……見慣れないな」

アムロは、ZZ、ジュドーと知り合ってはいない。
ジュドーのほうは少なからずカミーユから話しを聞かされるだけではなく、その戦果が本にさえ載っていたため、アムロに関する
知識はあった

「急ぐか……!」


「こいつ!落ちろよ!」

至近距離でのライフルをフリーダムがかわすが、Zのハイメガランチャーから発生したサーベルを振り下ろす

「この人、強い!」

カミーユ、ジュドーの強さを認識したキラは「種」を弾けさせる
瞬間、敵の攻撃がある程度「見える」

「避けたか!連撃で詰める!」

一度離れたフリーダムにウェイブライダーで突撃しつつ、ビームガンを撃ち放っていく

「どうしても邪魔するのなら、僕はあなたを討つ!」

フルバーストからサーベルを引き抜き、フリーダムはZに斬りかかる

「市街地の事をッ…かん、がえ、ろぉっ!」

ジュドーとともに、サーベルで砲撃を弾き返していく。
一つたりとも、落とすわけには行かなかった

「ッ!一つ抜けた!?」

同時に放たれたビームを処理するのは至難の技である。
一つ、抜けたプラズマビーム砲がユウナの元へ向かった

「あ……」

「やらせはしない!」

突如としてユウナを庇う白い閃光―νガンダム
左マニピュレーターで海を滑走時に浮いていた大破艦から剥ぎ取った装甲板を掴んでおり、それで防いだのだ

プラズマはそれすら貫き、νガンダムに命中したが、厚い装甲板で
威力を失っていたため、耐え切る。

「ダミーバルーンとバルカン、トリモチランチャー……これだけか」

残った武装を確認し、アムロは小さくため息をついた。
変な所で気が利くララァが一緒にこちらへ送ってきたバズーカ、ライフルは破損しており、全く使い物にならない、イコール、デッドウエイトにしかならない。
それを考慮し、二つともオーブの都市から離れた森へ隠してある。


「ユウナさん、でしたね。離れないと死ぬかもしれませんよ」

「……」

見慣れない機体。

カミーユが退室していった後、デュランダルはカミーユから聞いたことを話した。

カミーユたちはU.Cと呼ばれる時代から来た事

その時代にはニュータイプと呼ばれる人類の革新、人と分かり合える、物事を本質で捉えられる存在があったこと

カミーユ、ジュドーがそのニュータイプと言うこと

初めはちゃんちゃらおかしい作り話だと、鼻で笑った
しかし、目の前で見せられている力を目の当たりにしても、信じないとはいえなかった

分かったように攻撃を避ける3人。

明らかにその力は異質なものだ。だが、「スーパーコーディネーター」、キラ・ヤマトも、その3人にさえ喰らいつき、死力を尽くさせているほどの腕だ


「あ」

ユウナが思わず間抜けな声を上げた
Zがフリーダムのコクピットの表面を焼き、マニピュレーターを器用に操作してカガリを指で掴んだのだ

キラは苦渋をなめさせられた顔で、突然海上に浮上してきた「不沈艦」アークエンジェルへと戻っていった。
コクピットの装甲が消えた今、このまま戦うのは危険すぎると判断したのだ


「ありがとう、助かった!」

「礼には及びません、それより、これを機会にあの方に本当の気持ちをぶつけてみてはいかがですか?」

カミーユはどこか皮肉を含んだ口調だったが、カガリは少し迷った後、了解の返事を出した

住民がいない今なら、普段いえなかった気持ちをぶつけられる。
強引な結婚だった為、今まで言いたくても言えなかったこと



「ユウナ」

「………」

地を踏んだカガリの口が開こうとした時、ユウナのほうが先に口を開いた

「いやだったんだろ、この結婚」

「あ、当たり前だ!」

ユウナのほうから切り出され、少し戸惑うが、何とか返事を返す。

「やっぱり、理念か」

「そりゃあな」

「結婚はしなくてもいい。君が望まないんだろう?」

「そ、それじゃお前が親に……」

「いいさ、理念を守り、国さえ守れば文句は言えないはず。そして、君には思い人もいるみたいだしね」

後に立ち尽くしていたアスランを親指で指して言った。その顔は、何か吹っ切れたようだった

以前から分かっていた。彼がカガリの思い人だと
だが、両親には逆らえなかった。

「結婚、ねぇ。今改めて考えると、かったるいね。ただ……」

一息置いて、ユウナが決意を口にした

「君の手伝いぐらいはさせてほしい、理念を守る為の」

「あ、ああ!」

(ニュータイプ、その存在を信じてもいいのかな?)

戦いの途中、Zから感じた思念を受け取ったユウナは、その思考を改め、自分を見つめなおした上での決断だった

「君、名前は?」

「アムロ・レイ。地球連邦軍のパイロット『だった』」

「U.Cから来たあなたに命令するのはなんだが、この国を守ってほしい。願いはできるだけ聞こう」

「いいだろう、カミーユたちもそれを望んでいる」

微笑するジュドーの横で、カミーユも若干嬉しそうな表情を見せている

何も出来ない自分がいやだ。だからこそ、この瞬間が嬉しかった。すくなくとも可能性が出来たのだ

「そのガンダムの修理は任せてくれ。地球連合の同盟を組む期限はあと4日。出来るだけ修理してみせる」

「俺も手伝おう、こいつのことは、俺が一番知っているつもりだ」

「あー!あれって!」

唐突として場の空気を突き破った大声。その横には赤い瞳の少年―シン・アスカがいた。

デュランダル議長に「あの二人に任せておいてくれ」、そういわれて出撃できなかった。
あの機体はシンの家族を流れ弾とはいえ、奪った仇だったが、カミーユとジュドーに『依頼』をしているデュランダルにかたくなに止められてしまった。

事情を話してくれなかったので、かなり不機嫌だ。だが、デュランダルはシンやミネルバ隊を下手に出すよりも、新たな可能性を持った二人―後に一人増えたが―がフリーダムに僅かでも脅威を与えてくれればよい、と考えたからだ。

大多数に勝利してきたフリーダムが、2機に敗北したとなればパイロットには俄かにもショックを与えられると踏んだ

結果として、3機になったわけだが

それに、カミーユが「俺たちに『任せて』ほしい」と釘を刺されていた

「あんた、あのガンダムのパイロットだよな!教えろ!デュランダル議長となんか関係あるんだろ!」

「言う必要はないと思うが」

「いいや、あるね!アイツは俺の仇だったんだぞ!俺の家族を奪ったアイツは!」

「憎しみが先走りすぎている。そんなんじゃ死ぬぞ」

「何をわけのわかんない事を!俺はアイツを倒す為に軍に入ったのに!」

カミーユは、久し振りに自分の何かがきれるのを感じた。
脳裏にある言葉が過ぎる。

『修正』


「ただ仇を討つために軍に入った……?世界全体のことはどうでもいいのか!?」

「なんだよ!何でも分かったような口を聞くな!あんた、ナチュラルだろ、そんな奴に何が分かる……ッ」

「お前のその考え方……修正してやるッ!」

拳が飛んだ。シンの頬に。ナチュラルとはいえ、武道を習っていたカミーユの一撃はかなりの威力だった。
口の中に鉄のような味が広がっていくのを感じながら、シンは一瞬呆然とカミーユを見た

「仇を討つのはいい。だが、軍という集団に入ったからには考えを改めろ!世界をなんだと思っている!お前のためのものじゃない!」

ティターンズ。その軍は私利私欲の塊のような奴が大量にいた。

かなりの過激派とはいえ、歪んでいたとはいえ自分の正義を貫き、散っていった者のほうが幾分マシだ

自分を殺す為だけに戦場に行ったような奴もいた。

そいつも、自分が殺してしまったのだ、この手で
カミーユは決して生粋の軍人ではないが、仇「だけ」を追い求めている者を『放っては置けない』

周りが、少しずつその人物を変えていかなければ、ダメだ。




「少なくとも軍にいるのなら、自分の役目を自覚しろ」

そう言い残してカミーユは去る。態度だけでも少しは変わってくれればいいが

こう思って

「カミーユも戦争で両親を亡くした、母は目の前で敵に、父はカミーユが所属していた軍のMSを奪って逃走しようとした所に流れ弾が直撃、だ」

カミーユから聞いた話をそのまま話すアムロ。自分としてもシンは放っておけなかった

「それでも憎しみだけに捕らわれず、不安定な心で良く戦い抜いたと思うよ。さて、と」

アムロは、νガンダムを起動させ、オーブのドッグへ移動させていく。カミーユ、ジュドーもだ


「……あいつも?」

「シン、私が聞いたことを話そう」

そこにはデュランダルがいた。

デュランダルはカミーユやジュドーが何故あんな機体を持って戦っていたのかと問うた。

そこから話は深くなり、戦争で失ったものを話し始めたのだ

ジュドーも、カミーユも。いくつもいくつも大切なものを失っている。

目の前で敵によって、あるいは、自分の勝手な判断によって

戦争は全ての人から何かしらを奪っていく。そう言いたげな瞳をこちらへ向けていた。

「ミネルバ隊にカミーユ・ビダン、ジュドー・アーシタが介入する。オーブを守りきれば、な」

「な……」

「議長だからといってなんでも許されるわけではないが、あの二人はこの世界にとっても君にとっても必要な少年達だ。何も施さず、ジャンク屋で済ませておくには惜しすぎるのでな」


シンの心は揺れていた。異世界からの来訪者などと言われ、挙句の果てには説教されるという始末

(だけど……全部否定できる、ってわけじゃないんだよなぁ)

確かに目の前に任務はこなすだけ。仇に会った瞬間意欲的に出撃させろ、出撃させろ。

(マユ……俺、どうすりゃいいのかな)

苦悩を抱える少年の思いは、ただ頭の中で留まるだけであった。



「ハイドロは上手く作動しているみたいだな、右マニピュレーターは完全にイカレちまってるが」

ミネルバのメカニックも数人動員された。マッド・エイブスが真面目に作業を続けるのに対し、ヨウラン・ケント、ヴィーノ・デュプレの目は輝いていた。

「こらぁ!お前ら!ちゃんと仕事せんか!」

「主任、これすごいっすよ!未知の技術の塊って奴です!」

「うはー、すげぇ!メカニックに取っちゃお宝……ぐえっ!」

「いいから仕事しろ……ったく、そうは言うが……」

マッドも興奮せざるを得ない。メカニックには喉から手が出るほどほしいものだろう
通常よりはるかに軽く、硬い金属、全天周モニター、ファンネルと呼ばれるドラグーンに近いながらも、脳波を利用するという特殊な兵器、MSが装備するには強力すぎるほどのキャノン。
そして、核融合炉エンジン。
核動力はユニウス条約によって禁止されているのだが、取り外せるわけでもない。扱いが難しいのだ。

しかし、当初から双方の軍―ザフト、連合ともに守る気は薄かったようで、核動力機体は少なからずいた


「コレはどういうことだ?ユウナ」

キャットウォークの上で、ウナトとユウナが言葉を交わす

「なぁに、あの人たちに賭けるだけですよ。われわれは無関係だ」

「勝手にそのようなことを……」

「成功すればよろしいのでしょう?良く考えれば、今回のことは連合の侵略とも取れます。理念の前に、国として許せない事だと思いますがね、私は」

「好きにしろ、どうなっても知らんぞ!」

ウナトの諦めたように去っていく姿を見て、ユウナは何処か悲しそうな顔さえ見せる。
そして、自分がたったの1日で随分変わったな、と苦笑する

「全てをリセットして考え直すだけで、変われる事もあるってことかな?」

周りに流されやすいだけか、ユウナは少々自虐した後、メカニックの下へ行く。

「僕も手伝うよ、やれる事はやっておきたい」


「坊ちゃん、大丈夫なのかい?きついぜ?」

「失敗しない限りいないよりはマシ、だろ」

ユウナは工具を運ぶなど、簡単な仕事しか出来ないが、それでも満足だった

ついにやってきた運命の日にも、ユウナはその表情を崩さない。

今回の戦闘、ミネルバも介入するらしい。
デュランダル議長の意向のようだった

「オーブ領域外へ出ました」

「そう……来るわよ、MSはスタンバイ急いで!」


ドッグはいよいよあわただしくなり、マッドがアムロに確認をする

「いいか、装備はライフルとバズーカが追加されたにしても、あんたの言うフィン・ファンネルとかいうのは復元できなかった。このことだけは確認しておくぞ」

「ああ、コレで十分だ!νガンダム、行きます!」

「カミーユ・ビダン、Z、出ます!」

「ジュドー・アーシタ、ZZ、出るぜ!」

3機が出撃し、続けざまにミネルバ隊が出撃する

「シン・アスカ、フォースインパルス、行きます!」

「レイ・ザ・バレル、ザクファントム、出るぞ」

「ルナマリア・ホーク、ザク、出るわよ!」

「アスラン・ザラ、セイバー、出る!」

海上を滑走する7機のMSは、光の粒子を撒き散らし、艦隊へと向かっていった






















[900] 4 「“故郷”として」 
じゅう - 2007年03月04日 (日) 13時27分

オーブ防衛。それも今後連合が攻め込むのをためらうほどの強力な『力』と言うものを見せつけなければならない

そのためには、やはり異世界からの3機の機体が不可欠となるのは必然と考えていい


連合軍艦隊はオーブ海域へ潜入しようとしていた。

用意したMS、ざっと200機近くの大部隊。
とは言っても、士気の面では全くといっていいのは、降伏する、と決め付けてしまっていることからだろう

「少しはやる気出してほしいものだねぇ」

旗艦、JPジョーンズのブリッジでぼやく地球軍特殊部隊「ファントムペイン」隊長ネオ・ロアノーク。
灰色の仮面を被り、素顔を見たものはいない。

少々波は荒いが、航行には問題ない。そう思った刹那だった。


「あれは……」

新型機強奪の際、追撃してきた戦艦。やたら足が速く、手を焼かされた

周りには一機もいない。

まともな人間に無謀かどうかを問えば、100人中99人が無謀と答えるだろう

「何かあるってことだろうね、これは」

ネオが艦長イアン・リーに問いかけるように呟いた。

「は……しかし、前の戦闘から見る限りMSは3機のはずです」

「そうとも限らないな、ともかく、出撃準備を急げ」

ネオが告げた。それから間もなく、7機のMSが出てくる。

「7機……増えている上に、あのMS……」

「所属不明機か……まぁいい、どっちにしろ敵、応戦し……」

旗艦であるが故に、前方にいたJPジョーンズからははっきりと見えた

一機のMSから放たれる淡いピンク色を帯びた死の閃光―

「面舵いっぱいだ!かわせ!」

ネオが言うまでもなく、すでにイアンが命令を出していた
発射態勢にあったその閃光にいち早く気づいた為、化する程度で済んだのだが

「戦艦が……6隻撃沈しました……」

強大な出力を持ってして放たれたその一撃が、30隻いる戦艦の内、6基を沈めたのだ

「化けもんか!くそッ!MS発進!」

次々と飛び立とうとするダガーL、または最新鋭量産MS「ウィンダム」

しかし、飛び立つ前のMSが、いくつか撃破される

「だが、こっちにだって切札はある。3機のGにエクステンデッド、そして腕利きのパイロット……」


ネオが、口だけに笑みを浮かばせる

「さぁて、この戦い、どうなることかねぇ」


Zが、ZZに通信を入れた

「よくやった、あれは威嚇にもなるからな」

「密集してるから、当たりやすいのなんのって。いい気持ちはしないけどね」

ジュドーは、複雑そうな笑顔を見せる。

それを聞いたカミーユは、すぐさまZをそれで躍動させ、ウィンダムと戦闘を始める

「そーら、お前らはこっちだってーの!」

装甲の厚いZZが、ミネルバに近づこうとする敵に煽りかけるようにGフォートレス形態で突っ込み、引き付けた所に二つの砲門を装着したダブルビームライフルを向ける

「ただのビームライフルと思うなッ!」

同時に、ビームが放たれた。ウィンダムがあっさりと4機撃墜される

「なんだ、この世界のパイロットってば、腕が悪いったらありゃしないぜ!」

ウィンダムの動きは鈍い。まだダガーLのほうがいい動きをしていた
慣れていないのが現状だろう。性能に振り回されているのか

とにかく、腐っても高性能機のため、一部のパイロットは使いこなし、こちらを攻め立てる。

「出し惜しみはしないぜ!」

ミサイルランチャーを発射する。白い尾を描いて敵のウィンダムに直撃する

唐突に、右にいたウィンダムが胴体を真っ二つにされ、爆散した

「こいつら!数だけは多いなッ!」

シンがインパルスのサーベルを振り回し、ウィンダムを撃墜する
アムロがそれを援護するように、ダミーで敵のロックオンを外していった

「堕ちろッ!」

サーベルをメインカメラに突き立てると、踵落としの要領でダガーLが下の戦艦へ落下し、誘爆した

「次は!あいつらかッ!」

(強化人間の波動……!?この世界にも……)

シンとカミーユがそれに気づく
カオス、アビス、ガイア。

地上戦用のガイアは、四足獣型MAに変形し、艦を飛び移りながら射撃

アビスは海中から迫り、カオスは正面から

「たった7機で!なめんじゃねぇぇッ!」

カオスのパイロット、スティング・オークレーの叫びとともに、機動兵装ポッドが2機放たれる。
ブースターを兼ねているポッドを取り外したため、滞空時間は短くなるが、ある程度耐えられる上、戻せば問題ない

「これは……ファンネルなのか!」

オールレンジ攻撃―U.Cパイロットのアムロ等に取っても手を焼かされる存在だ

だが、たった2機の上に、ファンネルのような鋭い動きが見られない
重力下と言うこともあるだろうが、遠慮は無用だ

すれ違い様に一機兵装ポッドを破壊する

「ただのパイロットじゃないってことか!」

スティングは一度考えを整理し、改めて攻撃を仕掛ける



「地上戦用だってのに、なんでこうも上手く!」

艦を飛び移り、トリッキーな攻撃をしてくるガイアに、インパルスは振り回される
ビームをかわそうとした隙に、そのままグリフォン2ビームブレイドを背中に叩き込まれた

身を前のめりにすることで、真っ二つにされないながらも海面にたたきつけられる。

そこには、アビスがいた

「貰いィッ!」

カリドゥス、バラエーナ、三連装ビーム砲、連装砲で畳み掛ける

インパルスは急浮上するが、連装砲につかまる

「エネルギーが!」

炸裂式の威力が高い実弾兵器に当たったため、エネルギーが急に減った

VPS(ヴァリアブルフェイズシフト)装甲の欠点。
実弾兵器を殆ど無効化する代わり、命中した場合はかなりのエネルギーを喰らってしまうのだ

それに、衝撃まで吸収するわけではないため、パイロットの体力を奪われる

「くぅッ!いい加減にッ!」


ビームライフルを放とうとするが、艦の対空砲火で阻まれる、一度翻し、再度撃ち放つ

「えぇーいッ!」

ステラ・ルーシェがスロットルレバーを限界まで引き、ジャンプする

ガイアはMSに変形し、サーベルラックよりビームサーベルを引き抜き、その動作のまま振り下ろす

インパルスのVアンテナを右半分切り取られ、ついでに右肩を根元から持って行かれてしまう

「ッ!ただじゃ持ってかせねぇ!」

右手に持っていたサーベルの柄が空中を滑る
それを左のマニピュレーターで掴むと、振り向いた勢いのまま、ガイアの胸部を切り裂いた

「あ……」

コクピットに届きはしなかったものの、バチバチと電光を走らせるそれは、海中へと身を沈めていく

「お前!よくもステラをぉっ!」

アビスの一斉放火が直撃し、インパルスはその場で四散した

「ミネルバ!フォースシルエットと替えパーツを!」

煙を突き抜ける青い戦闘機。コアスプレンダーで脱出したシンは、ミネルバにインパルスのパーツを射出するように命じる


「させるか……うおッ!?」

アビスがコアスプレンダーにビーム砲―バラエーナを向ける。それを見たアムロは、カオスの隙を掻い潜り、ライフルでアビスのバラエーナを両方破壊した

その間に、インパルスは合体を済ませ、海中のアビスの右肩にサーベルを突き刺した

「アビスに水中で勝てるとでも!」

「らぁぁぁぁッ!」

アビスのビームジャベリンを切り結ぶが、元々の機体コンセプトの違いがじわじわと現れる

「さぁ、どうしたどうしたッ!」

「まだだぁーッ!」

とっさの判断。シールドをその場で放棄する。
それが目隠しの役割を果たし、一瞬の隙を作った

アビスの頭部を切り取り、すかさず振って右腕も切る

「いいッ!?仕方ねぇ、撤退すんぜ、ネオ」

「了解した、後はアイツらに任せる!」

それに呼応し、JPジョーンズから4機のウィンダムが発進する
改良型のようで、少々機動力が高いタイプだ

4機は、連携を取りつつ、そばにいたZZに狙いを定めた。
動きが格段にいい。一機を除いて

「………」

その一機のパイロット―コウ・ウラキは明らかに迷いの表情を出していた
一度深くため息をつき、目の前を見る

『今は』連合兵だからこそ、いち早く連合が行なったことが伝わる

―プラントに核攻撃が行なわれた

軍人であるコウは、この世界の事を来てすぐに調べていたため、プラントと言うものが人の住んでいるコロニーだということは分かっていた

愛機―GP03デンドロビウムがノイエ・ジールに破壊された時、目の前が真っ白になった
気づけば、目の前にはやや紫色の口紅をした男性がいたのだ

最初は驚いたが、自分よりも先にこの世界に来ていた『先輩』もいたことで、早く慣れた

そしてそのずば抜けた素質を変われ、4人で連合兵をすることになったのだが―

正直、迷いが生じている
あの男には恩はある。だが、少し似ているような状況が、前の世界にもあった

―自分の所属していた軍が核兵器を持っていたこと

―そして、核攻撃

「……なんていうか、もうここには……」

いたくない

そういうのが本心なのだが

「おいおい、ウラキ、どうしたんだ?さっさと仕留めろよ。うわっと」

「油断してちゃ、堕とされますよ」

「敵はガンダムタイプだってこと、忘れるんじゃないぜ」

ベルナルド・モンシア、チャップ・アデル、アルファ・A・ベイト

サウス・バニング、コウが所属していた小隊・アルビオン隊隊長「だった」。

あの人の死以来、隊長はベイトに。その後もアクの少ない性格のアデル、少々喧嘩っ早いベイト、いやな性格ながらもモンシアにも支えてもらってきた

その3人の先輩を裏切る事も、果たしていいのか


モンシアがライフルの引き金を引く。ZZはGフォートレスで離脱しながらビームを連射し、モンシアを狙う

「4対1でも、やってみせるぜ!」

「ジュドー!無理に突っ込むんじゃない!」

カミーユが他の3機を牽制し、フォローに回る
そこを狙ったコウだが、引き金を引く自分の手が重く感じた

今更、と開き直って引く

当然の如く回避され、返事にZのハイメガランチャーが飛ぶ

「うわぁッ!?」

コウのウィンダムの左足が吹き飛ぶ。集中力が散漫だ、見切れない

「あいつ、動きが悪い?」

ネオも含め、小隊員はそれを見切っていた

「おいウラキ、軍を抜けるとか言わねぇよな?」

「いぎッ」

モンシアに図星を突かれ、素っ頓狂な声を上げるコウ。戦闘中にもかかわらずこういうことが出来るのは、度胸があるからなのだろうか

「言っとくぞ。俺たちゃ軍にいるんだ。それを抜けることがどういうことか、分かるな?捕まったら銃殺刑だ。恩だってある。プロってのは、入った軍からは脱走なんてことしねぇ」

「そ……それなら……」

もうダメだ。ここにはいられない。

その願いをかなえる一筋の願い星だったのだろうか。Zが放ったライフルは、コウの乗るウィンダムの胸部を貫いた
パイロットスーツは着ている。

「俺はプロの軍人じゃなくたっていい!俺だって自分で考えて道を選ぶ!」

最後の声がモンシアたちに届いたのかどうかは定かではないが、コウの意識はブラックアウト。

爆風に吹っ飛ばされ、深く深く海中に沈むコウを拾い上げたのは、青いMS。

戦闘に巻き込まれないよう深海を移動し、どこかへと消えていった。


「……?なんてこった!俺も出るぞ!」

あまりの出来事にしばらく呆然としていたが、ネオも専用ウィンダムを駆り、戦場に飛び出た

飛び出し様、Zにライフルのビームをプレゼントするが、カレイに避けられ、あまつさえ正確な射撃を何回も受ける羽目になる

「ひょー、手痛い歓迎だこと」

ネオの視界には入らなかったが、νガンダムと交戦していたカオスが力尽きようとしていた

機動力ではMA形態でもポッドを一つ失っているため、負けている

懐へ回りこまれては機械音の後に閃光が大蛇のようにうねって襲い掛かる
ライフルがアレほどまで連射されるのはありえない

なにより、操縦技術、勘の良さが違ったのだ

(く……こいつ!今の俺じゃ無理だってのか!)

そう一人愚痴りながらも、スティングは善戦している
機体の損傷も、蓄積されたものであり、決定打を避けながら先頭を続けているのだ

「やるな……!ここ一番で必ず回避してくる……!」

アムロも、スティングの腕を認めている。

こちらも左肩に被弾しているのだ。全身にもバルカンなどで傷だらけになっている

「もうすこしだな……」

29歳と言う歳から、アムロも体が悲鳴を上げている状態だ。
卓越した操縦技術で自身の体力を出来る限り残そうと努力はしているが、『この』少年に喰らい付くのはさすがといっていいのかもしれない

「νガンダム……耐えられるか!?」

スロットルレバーが引きちぎれんとばかりに音を立てる。

「正気か!特攻!?」

そんな声を上げたときには後の祭り。直前でダミーを射出すると、νガンダムの軌道をカオスの横辺りへ修正し、ダミーバルーンをライフルで割った。

爆発はνガンダムがカオスの後ろまで移動した後だったのだ

「うおぉぉッ!?」

カオスが爆炎の中から傷だらけで現れ、突如として現れたネオに救出される

「おい、ステラはどこいった!?」

「知らねぇ、アウルが着いてたはずだ」

「そのアウルは当の昔に艦に戻ってるよ!くそ、やられたってーのか!」



予想に反し、ガイアとインパルスは海中で取っ組み合いをしていた

元々奪われた機体なのだから、取り返そうとして当たり前ではあるが

「返しやがれ!軍のものなんだぞ、それ!」

「くッ、こいつぅぅ!」

ガイアのコクピットにサーベルの柄を力の限りたたきつけると、そのまま動かなくなった


持ち帰るか

そう考えた刹那

「ステラを離せ!そこの合体MS!」

「ウィンダム!隊長機か!?ZZの人、コレ持ってって!」

「ってうぉい!こっちも戦闘中なんだぞ!」


ガイアを大出力のスラスターでミネルバまで引っ張るZZを見送ると、ウィンダムと向き合う

「今だけは、軍人としてだけれど!」

カミーユの言葉が何故か今蘇る

「今は故郷として!オーブを守ってやる!」

本心ではないようで、本心のようで

複雑な叫びは、決意の表れなのか

揺れる海面にその姿を映すインパルスの姿が、雄雄しく見えた



[901] 5 「旅立ちのミネルバ ―新たな運命を連れて―」 
じゅう - 2007年03月05日 (月) 22時48分

インパルスの右腕が軋む。刃が風を斬る様に滑り、紫色のウィンダムに向かっていく

スティレット投擲噴進対装甲貫入弾を宙に浮かせると、サーベルの柄でこつんとつついた。先がとがっている

小さいそれは、インパルスに向かって鋭利な一撃を食らわせると、その場で爆発を起こす
しかし、インパルス―VPS装甲には効果がない。

「これならどうかな!?」

ネオはバルカンをインパルスの膝に当て続ける。
トドメに、こちらからも接近しつつスティレットを直接間接部に突き刺した

VPS装甲の施されていない関節部の間は、インパルスの弱点だった

「右足を!?くそっ!」

「シン!関節を狙われたらすぐに避けろ!」

アスランの声が聞こえる。刹那、艦から飛んできたミサイルをバルカンで処理した

ライフルでウィンダムを狙うが、弧を描き、ところどころでくるりと一回転するトリッキーな動きで回避される

「接近して叩ッ斬る!ソードシルエットを!」

しばらくして放たれたそれの、エクスカリバーレーザー対艦刀のみを抜き取ると

「プレゼン、トッ!」

残ったバックパックの勢いで加速し、そのままウィンダムの右足にぶつけた

「おっしーな、後もうちょい上か!」

「荒っぽいね、こいつは!」

バランスを崩しつつ、間一髪の所でエクスカリバーをかわしていく。
バルカンでウィンダムに牽制し、最大速度で躍動する

「ちぃ!こいつ、しつけーぜ!」

「ブッた斬れろ!」

振り下ろさず、当てるように。速度に任せてエクスカリバーをマニピュレーターで操作する


「がっ……!くっそぉぉ!!」

ライフルが4発機体を直撃するが、耐え切る。
命中、メインカメラへ
しかし、へし折ったのはアンテナ部位だけだ

「よっ……とぉッ!!」

最高速度からその場でバレエの選手のようにバーニアを調整してくるっと回る

遠心力が加えられ、エクスカリバーの芯にあたる部分がパワーを吐き出すようにウィンダムを捉えんとする
ウィンダムが今さっきまでいた場所の空間ごと切り裂くかと思うような勢いで切っ先はただ蒼を裂いた

「あったれぇぇぇーッ!!」

エクスカリバーを関節部に無理をさせながらも宙に浮かせその間にライフルを取る。
数発発射したところでその大剣を手に取った
また一つ残骸がインパルスの横を落ちていく。

「待て……うぐっ!?」

Zが放ったハイメガランチャーはモンシアたちに避けられ、それに巻き込まれたウィンダムの残骸がインパルスに直撃し、爆発した

「不運だな!貰った!」

ライフルがコクピットに着弾せんとする時、そのビームは刃によって弾き落とされる

「すまない、残骸が当たったみたいだな!これで借りはなしだ」

カミーユがそういい残し、モンシアたちとの戦いに戻る

(なんだかんだいって、自分のしたことの始末は自分で、か)

少しだけ見直し、恥ずかしそうに鼻を擦ると、キリッと表情を真剣そのものにする

「……機動性じゃ負けてないんだ、どう攻撃を当てるか」

頭をひねり、思考に工夫を凝らす。一つ案が思いつくが、整備班―特にマッドのおっさんにいろいろ言われるだろうな、とも考えて実行した

「喰らい付いてッ!」

エクスカリバーを今まさにベイトに攻撃されようとしていたZに投げる。
ドンピシャでベイトのウィンダムを捉え、真っ二つに仕立て上げる

「くっ!脱出する!」

ベイトは丁度イアンの乗る艦に着陸する

「貰った!」

エクスカリバーを受け取ったZは、それをアデルのウィンダムに投擲した

「モンシアさん、ここはひき上げたほうがよさそうですね」

「けっ、しょうがねぇ」

しぶしぶ撤退していく2機を見て、ほっと胸をなで下ろし

(また借りが出来たな)

そう苦笑しながら思った


「捕まえた!」

ガキィン、と装甲と装甲の触れ合う音が聞こえる
インパルスの両手が、ウィンダムの左足を掴んでいる

「バカめ!隙だらけだ!」

サーベルで両手を切り落とそうと画策する。だが避けられる事は想定の範囲内に入れておいた

「次の一手!どうくる!」

予想外の反撃。上半身に当たるチェストフライヤーを切り離し、射出する
当然そのまま激突、爆発。

「もう一、撃ッ!」

コアスプレンダーを残して下半身・レッグフライヤーも射出する

コレも爆発。薄いウィンダムの装甲では耐えられなかった

「分離機能を生かして……やるじゃないか!撤退するぞ!」

「しかし、まだ兵は……」

「こっちは金払ってわざわざ持ってきた機体と兵に艦なんだぞ!負けると分かっててこれ以上減らしたら連中になに言われるか!」

「本部からは、撤退の許可は……」

「んなものあとで俺が責任を取る!」


イアンとネオがやり取りし程なくして、連合艦隊が去る


「退けた……」

「終わったの……?」

アーサーが安堵の息を漏らし、艦内に歓声が湧き上がる

「凄まじいものだな……約束を果たさねば、な」

デュランダルは不敵な笑みを上げ、呟いた



「すまないね、父が良く思ってないみたいでさ。追い出すみたいだけど」

補給物資を積み込んでいる整備班や作業用MSを背に、タリアとユウナが言葉を交わしている

「いえ、もとよりその覚悟でしたから。補給物資、ありがとうございます」


「今度はどこへ?」

「カーペンタリア基地にしばらく停泊します。幸いここであの3機のデータを採取してもらったようなので、修理は出来るはずです」

Z、ZZ、νの事を指す「あの3機」。
修理の際、構造などのデータがミネルバにも詰め込まれていたのだ

「それじゃ、お達者で」

「ええ」

ミネルバは、シンたちを乗せ、出航しようとしていた


―医務室

「なッ……」

目の前にいるのは―
軍のコロニー、アーモリーワンで偶然であった少女そのもの

「じゃあ、あの2人もカオスとアビスに……」

シンの動揺は思考にまで行き届く。主に怒りと言う神経を刺激していた

「子供だろ……なんてことしやがる!」

エクステンデッド。薬物投与、強化手術を施したいわば強化人間である

ネオ、ネオ、と、うわごとのように呟き、ベッドに拘束された状態で暴れるその姿を、その場にいる全員が苦渋をなめた顔で見つめる。

「やはりか……、ここにも!」

「プルツーのほうがまだおとなしかったぜ……」

「……」

現実を目の当たりにし、沈黙が扉を開けて訪れてくる

「長くは持たないらしいな……」

「ええ、もって1ヶ月です。あくまで最長の場合ね」

「そんな!」

シンが叫んだ、医者の淡々とした言い口にも少しイラついたが、このことは連合に対する怒りの炎に油を注いだようなものだった

「シン、戻るぞ」

3人は議長権限で赤服を渡され、ミネルバ隊の一員となっていた。
不満はない。寧ろどうせなら、自分が出来る方法でこの世界を平和にしてやりたいと、信念を持って戦いに挑む覚悟だった


足自慢のミネルバが、海を駆ける

一人の少年の迷いも乗せて




[902] 6 「決意の眼差し ―Stand up―」
じゅう - 2007年03月06日 (火) 23時09分


カーペンタリア基地。灰色の赤い翼を持った高速艦が停泊していた
ミネルバ隊のそれぞれにとって、しばらくの休暇となる。

ちなみにアスランや、U.C三人組はこの場所で正式にザフトへ入隊した


「シン、アスランさんのことどう思う?」

「……なんだよいきなり」

MSドッグ内。
シンがルナの問いにむすっとした様子で答える。レイはそのそばで傍観しているだけだ

「戦力にはなるんじゃないか、言っとくけど、あんまり興味ない」

「前大戦の英雄よ?何も思わないの?」

「脱走犯、の間違いだろ」

裏切った男なら、自軍にも日本舞踊が得意な緑服の金髪の男と、あくまで軽度の裏切りをした、アスランとしょっちゅう喧嘩するという銀髪の男がいることを知らない。もしくは忘れているのだろう

「あんた、ガイア持ち帰ったからって図に乗っちゃダメよ」

「図に乗れるか、ってんだよ。くそっ!」

「シン?」

溜めていた感情を押し出すように、壁に拳を叩けつけた。音に反応し、下にいた一部の整備士がこちらへ視線を向け、心配そうな顔をする
それを見て、レイがため息を吐いた

「持ち帰らなきゃ良かったぜ……」

「シン、手、痛くないか?」

「へ?」

怒りで我を忘れていたが、冷静になってみると、拳からジンジンと痛みが湧き上がるように出てくる

「……痛い」

「だろ?」



未だに先ほどの行いを悔いながら、シンは足音を響かせる
やる事もないので、艦内をぶらぶらしていたが、医務室には近づいてはいない
艦長、タリアの部屋を通り過ぎようとしたが、自分の足にブレーキをかける

「アスランか?」

声が聞こえる。自分の割に合わないが、話の内容自体は気になった
壁の影から話を聞く


「コレで2度目よ。カガリ首長を誘拐しようとしたのはフリーダム。事実よ」

「そんな……あいつが……」

アスランは呆然と言った様子でたたずむ

「結果としては失敗。結婚も本人の意思で行なわれなかったんだけどね」

「そうですか……」

何故か少しほっとした様子で、アスランは部屋を出る。
その時、丁度シンとぶつかった

「どわっ」

「シン?」

シンはどぎまぎしながら、一応「フェイス」であるアスランに軽く敬礼し、逃げるように去っていく

「なんだったんだ?」

珍しくボーッとしているのか、アスランは気に留めずに頬をかき、自室へと戻った



「で、さぁ。ルナマリアさんにメイリンさんだっけ……」

「そうよ?」

「買いすぎ」

ジュドー・アーシタ、カミーユ・ビダン。双方ともにメイリンとルナの買い物につき合わされていた
日用品や化粧品、いかにも女性の買い物だ

「ジュドー、文句言うなよ。雇ってもらえるだけで感謝しないと」

「そうはいうけどさぁ……重ッ」

化粧品などを大量に入れた買い物かごをよろめきながら支える。
そりゃぁ、これだけ持たされれば愚痴の一つでも言いたい

「でー、カミーユ君のあの機体って、どういうの?」

「言っときますけど、俺、あなたより年上です」

ルナマリアは17歳。カミーユはすでに18歳となっていた。

「でも、一歳しか違わないしー、それより、ねッ?」

「あー、もう、分かりましたよ。型式番号MSZ−006・Zガンダムです」

買い物しながらMSの話と言う、なんともミスマッチな光景
ジュドーはその光景を半笑いで見つめていた

「ってゆーと、君みたいなNT(ニュータイプ)はこういうのに乗って、思いの力ってーのを表現できるって訳!?すごーい、非科学的で信じられないけど!」

「そりゃ、信じるわけないでしょうね。でも、自分が特別な存在だってうぬぼれてちゃ、生きていけませんから、あまり日常では意識しません」


「お姉ちゃん、着いていけない」

メイリンが、頭をオーバーヒートさせながら苦し紛れに発した第一声がこれだった

帰ってきたカミーユたちは、ドッグでアムロの手伝いを行なうことにした

「帰ってきたのか?もう一寸羽を伸ばせば……」

「アムロさんだけにやらせるのは少し気が引けるんで」

カミーユはアムロが整備しているZのコクピットに乗り込む

「アムロさんは自分のνガンダムを整備してください。自分の機体は自分でやります」

「あ、ああ」

アムロは自分の工具を持って愛機へ足を進める
それを見送ると、コンソールをたたき始めた

「……おーい、ヨウラン、俺にも手伝わせてくれ」

「え?あ、いいぜ」

シンもまた、パイロットが出来る事―システムの改良やメカニックの工具運び

それらを実行に移した。いてもたってもいられない、というのが本音だったのかもしれない

ユウナ、そして、カミーユたちの姿勢を見習い、自分もやってみる事にしたのだ

(負けるもんか!俺だってやってやる!)

自分の負けず嫌いな面を自分で利用し、なにくそという気持ちで打ち込むことが出来た
集中してやると、スムーズに事が進んでいく

「あれ?ここのOS改良してみるか」






休暇、補給や修理を終え、デュランダル議長からの命令により、ジブラルタルにおけるスエズ攻略戦に参加しているザフト駐留軍の支援を目的とし、行動することとなる

国家と民族の間でのデリケートな問題を前提に、作戦を実行していく必要があった

このことが告げられ、皆がぞろぞろと去っていく中、艦長と医師が会話をしていた

そして、シンはその内容を聞く

「例のエクステンデッド、どうするおつもりで?」

「ここで引き渡すわ。連邦のエクステンデッドだもの。基地に引き渡して本国へ研究サンプルとして……」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」

思わず声をあげ、しまった、と思いつつも続けた

「あの子だって好きでエクステンデッドになったわけじゃないのに、なんでそんな見方しか出来ないんだ、あんた達は!」

「シン、ここは軍よ。上からの命令には従うしかないの」

「だからって、好きに命を奪っていいわけが!」

「……いい?それは理想論よ。悲しい事だけど、現実を受け止めなくちゃならない」

「くっ……」

話を聞いてくれそうにもなかった。タリア自身悪人と言うわけではないが、仕方ない事だとはシンも理解している

それでも、平然と上層部がそんな命令を出せるのなら、自分が出世して、そんなお偉いさん方を変えてやる。
そのために今は、敵を一機でも多く落とすしかないのだ

だが、それより『あの子』―ステラ・ルーシェを助けなければ


「……やっぱり、言葉だよな、『今は』」




「シン、何をやってるの、そこをどきなさい」

「艦長なら分かってくれるはずだと信じてここにいます。通しませんよ」

タリアは医務室に来たのだが、シンが通せんぼをして入らせない

「出来るだけ生かしてやりたいんですよ……この子を。お願いします、ギリギリまで引き渡さないでください。その間、あくまでも『取れる』データは取ってかまいませんから」

「……確かに、私もさっさと一つの命を諦めるのはつらいわ」

タリアはため息を吐いて言った

「だけど、あなたが連れてきたんでしょ?自分で責任を取って御覧なさい」

その言葉は厳しいながらも、自分にチャンスを与えてくれたようにも感じた
刹那、タリアの顔には笑顔が微かに浮かんでいた

「分かりました」


シンはそれだけ言い残し、自室へ戻って深呼吸をした

「次だ……エクステンデッドなら薬があるはず、それを連合から奪えば延命出来るはず……」


チャンスをもらえた。それだけでいい。後は自分の責任だ


決意の眼差しを窓を通して大海へと向け、シンは一人の少女の為に立ち上がる












[904] 7 「インド洋の死闘 1 ―ただ救うがために―」
じゅう - 2007年03月07日 (水) 23時21分


「ネオ、俺、何か忘れてる気がするんだ」

「……気のせいさ。それより目前の戦闘に集中しろよ」

エクステンデッドである二人―スティング、アウルからステラの記憶を消した
いつまでも引きずってもらっては困る。非道だが、命がかかっている。この少年達の命も

随分見栄を張ったな、とネオは思う、ミネルバを落とすという名目でウィンダムを70機借りてきたのだ

前、軍は戦闘を予測しておらず、ただ配備するだけ配備して、整備はあまりされていない状態だった
能力より数と言うわけだ

今回は数こそ前より少ないものの、大部隊。整備は完璧。
その上、モンシア、アデル、ベイトの3人が最高の能力を発揮できるのだ

一機のMAによって


「さぁて、待ってろよ……ザフトの諸君」


潜水艦デグチャレフと共にカーペンタリアを出るミネルバの医務室には、風前の灯ともいえる命があった

その存在がシンを奮起させているということは、一部を除いて誰も知らない

コンディションレッド。MSに乗り込んだシンは、インパルスの操縦桿を強く握り締める

「やってやるッ!シン・アスカ、インパルス出るぞッ!」

目前に広がる青い空を覆うように広がるウィンダムたち
その真ん中へ、シンは真っ先に突っ込む

目標は敵旗艦。幸いナイフ戦などは得意だ。潜入しても簡単に負ける自身はない

確実に、薬を奪う

(薬を奪う、か……何も知らない人が聞いたら、麻薬かと疑われるのは必死だな)

少し苦笑しながら、操縦桿を右に曲げ、一機のウィンダムに胸部バルカンを連射する

ウィンダムの薄い装甲はそれだけで傷つき、怯んだ

「こんな奴らにィッ!やられるかぁぁッ!」

背後を突いた。ウィンダム2機を斬り捨てる
一つの命を必死で守ろうとしている時にかぎって実感する。その代わり、多くの命をつぶしている事
出来る事といえば、苦しむ間もなく一瞬で蒸発させる事

「ッ!うわぁ!」

包囲され、ビームの雨を浴びる。機動性の高いフォースシルエットのおかげで、何とか逃げ切った

「ビームサーベルの出力を上げれば!」

長い刀身が、一機のウィンダムを両断した。ZZ。それを認識したウィンダムの数機が、様子見をしながらライフルの引き金を引く

「シンもジュドーも出すぎだ!少しは下がれ!」

アスランがネオに狼狽しつつも命ずるが、シンはどんどん敵陣の奥へ入っていく

戦艦は数隻あるが、形状が少し違うものがある。

それに狙いを絞るが、目の前をさえぎる緑の怪物

「へへッ、ガンダムよぉ!また会ったな!」

モンシア、アデル、ベイトの三人が搭乗する巨大MA「ザムザザー」

出会い様、巨大なビームの奔流が襲う
避け、ビームライフルを連射し、バルカンを放つが、ビームは淡く粒子に還って消えた

後方からのZZが放ったハイメガキャノンさえも、あえなく弾かれる

「ハイメガキャノンも弾くのか!」

「ミネルバ、ソードシルエットを!後、こいつにタンホイザーは撃つな、効かないぞ!」

通信を切る。射出されたシルエットを受け取り、またバックパックのみをザムザザーに投げた
直撃するが、大してダメージはない

「エクスカリバーで!」

「ハイパービームサーベルで!」

二つの機体が同時に剣を振り上げ、目の前の怪物に向かって振う

「退けよぉぉッ!」

「でぇぇいッ!」

巨大な剣がザムザザーに直撃するが、それさえも耐え、複列位相ビーム砲「ガムザートフ」の掃射により、ZZが撃ち落される

「ジュドー!?」

「ZZの装甲なら!シンは早く行け!」

「すまない!」


すれ違う時に置き土産としてエクスカリバーの一撃を見舞った


「艦長、MSが……」

一人のクルーの叫びがブリッジに木霊するが、時すでに遅し。
突如として超高空度から急降下してきたZに砲身を数個破壊される

「カミーユ!」

「さっさと行くんだ!いつまでも庇えない!」

艦の上に乗ったインパルスに向けられる砲口を撃ち抜き、その間にシンが艦内に突入する

出てきた兵はZがライフルを構えて威嚇し、下手に動けないよう脅す

しかし、内部に入るとそうは行かない。威嚇は効かない上、撃てばシンも巻き込まれる

ハンドガンで敵兵を撃つ。反動が少ない分殺傷力もあまりないので、兵はその場で倒れこみ、血を流す『だけ』で終わっている
使い勝手が良いので、殺傷力能力に優れたマシンガンなどよりもこちらを使う

「ここもない!どこだってんだよ!」

撃った一人の兵士に聞く。

「エクステンデッドの薬はどこだ……言えよ、時間がない!」

「ぐ……だ、誰がコーディネーターなんかに……」

「……死にたいか」

「……そこの角を左。そこからは覚えてない」

「ありがとよ!」

兵士を地に寝かせると、急いで走る。近づいてきた兵はナイフで切った
Zの所為で混乱しているのか、案外突破は楽だった

一つのドアを開ける。そこは薄暗く、白衣の研究員などがいたが。ハンドガンで脅して抵抗できなくする

「これ……か」

「……3袋だけにしてくれよ」

「へーへー」

研究員の泣き言を聞き流し、4袋持って行くシン
ドアを閉めた途端、横の通路から兵が飛び出る。正直言って、この狭い通路ではただの的になってしまう

一人の兵が小銃を放つ。それを追うかのように一斉に放たれる弾丸。
姿勢を低くするが、右肩に一発、右足に一発があたり、ハンドガンを落とす

まだ一丁あるが、右肩、右足は全く動かない。千切れなかっただけ良い

しかし、どう考えても無理だ。蟻が這い出る隙間もない

シン一人ならば、の話だが

「こいつらぁぁッ!」

何回も銃声が響き、それに呼応して兵がドサドサと倒れていく
唖然としているシンの前に現れたのは蒼髪の少年

「お前……白兵戦も……」

「こういう経験ならばしたことはある。早く出るぞ!」

カミーユが支え、なんとか艦から脱出する
甲板に着陸していたインパルスに乗り込む。逸早くZが飛び立ち、JPジョーンズを落とそうとするが、ザムザザーのガムザートフに阻まれた

「このMA!海に叩き堕としてやる!」

「カニ鍋にしてやるぜ!」

カミーユ、ジュドーがさり気無く物騒な言葉を吐くが、自分のコクピットの方がまだ物騒だ
シートの下へ血が滴り落ちる。止血するが、激痛で顔が歪む

「ふっ……ぎッ……」

まともな思考が出来ない。しようとしても途中でごちゃごちゃになる
目の前の敵を倒す事だけを考え、集中する


「来いよ……必ず落とす!」

インパルスのエクスカリバーが躍動し、空中を滑るようにザムザザーに踊りかかった




[905] 8 「インド洋の死闘 ―覚醒 シン・アスカ―」
じゅう - 2007年03月08日 (木) 21時25分

陽電子リフレクターの影響で、ビーム兵器は全く受け付けない『怪物』

接近して、近接攻撃を叩き込んでいくしかないが、如何せん装甲が高い上、絶大な火力を持っている

例として、ガムザートフの一撃でZZの増加装甲は崩され、ノーマルの状態となっている

怪我により、『逃げる』と言う選択肢を考えられなくなっていたシンは、無鉄砲に突っ走っていく

「シン、一度戻って薬を置いて来い。ついでに怪我の応急処置もしてもらえ」

「そんな暇……」

「こっちにこい!」

宛ら教師に引っ張られる生徒。Zに空中を滑らされ、ミネルバまで強制的に運ばれる

「な、何すんだよ!」

「落ち着け。まずその薬を渡すのが先決だ」

言われて思い出したようにシンは医務室へ行こうとするが、歩けない
見かねたヨウランとヴィーノがシンの肩を担ぐ

「ご、ごめん」

「それよりさ、また出るのか?」

「そりゃあな」

「無理するなよ。止めはしないけどさ」

医務室に着くなり、医師に薬を渡す

「これでなんとかなりますよね」

「……まぁ、やってみよう。そこまでして持ってきてもらったのだからな」

ボロボロのシンの姿を見て、医師は微笑んだ
ステラをちらりと見ると、すーすーと寝息を立てて眠っていた
疲れきったのだろうか

きちんとした応急処置を済ませ、安心した様子でシンは再びインパルスのスロットルレバーを握る

カタパルトからインパルスの姿は消えた
シルエットはソード。バックパックだけはフォースだ

途中、足止めしてくるウィンダムを撃墜とまでは行かないが、蹴散らす

「こいつを、こいつさえ落とせば!」

確実にザムザザーの装甲を削る3機の真ん中に突っ込み、エクスカリバーで突貫する

バキン、と、木の枝でも折るような音がした

「刀身が!?」

エクスカリバーはザムザザーのクローにへし折られ、御返しとばかりにガムザートフが両脚部を奪い去っていく

「サーベルで……!」

サーベルで接近戦を挑むが、相手の反応が良く、クローで叩き落される

「カミーユたちはあんなに上手くやってるのに……ッ」

ガムザートフをかわし、サーベルで削る戦法を取る3人を、自分と比較し、情けなくなる
アカデミートップクラスの成績は仮染めのようなものだと、総実感できた
特にアムロの操縦技術は高い。

「コレが異世界とこことの『差』……、こっちの戦いなんてまだ生ぬるいってか……」

U.Cの時代はコロニー落とし、毒ガス攻撃、核。
そして全体的にパイロットの技量が高い
例外こそあるものの、物資が厳しいジオンなどの軍の人間は、奮闘するうちメキメキと技量を上げ、それと交戦する軍のものも技量を上げていった
敵同士が切磋琢磨していたといっても過言ではない

アムロはそれらと一番多く戦った男かもしれない

シンは嫉妬にも似たそれを逆に力に変えて、コントロールスティックを動かした
一瞬の静寂を破り、バーニアを吹かせる

「下を突けば!」

しかし、ザムザザーのリフレクターを展開した状態での降下で弾き飛ばされる
常々油断がない。全方位を結界か何かが覆っているような堅牢さだ

「どうしろって……言うんだよ!」

挫折しそうになりながら、サーベルで切りつける、やはり反撃のクローが返ってきて吹っ飛ばされた
『不死身の第4小隊』がザムザザーに乗ると、それぞれが良いチームワークを取れる。それに加えてそれぞれのベテランらしい操縦もこの強さを生み出していた


「ミネルバ、ブラストシルエット、レッグフライヤー!」

「整備班、ブラストシルエット、レッグフライヤー射出用意!」

全てのパーツをパージし、脚部を吹き飛ばされたレッグフライヤーも外す

飛んできた新たなレッグフライヤーを換装し、ブラストシルエットを装着
機体色のメインが緑と黒と白に変わる

換装するなりファイヤーフライ誘導ミサイルを連続発射する、硬い装甲が阻むが、数で押す
バックパックにマウントされた高エネルギー超射程ビーム砲「ケルベロス」諸々、全ての武装を展開して発射する
ミサイルはケルベロスを撃ち終った後に発射した

空に軌跡を描きながら飛ぶ閃光は、全てザムザザーを捉える
耐えられたのは予想外だったものの、リーチの長いビームジャベリンを持ち、接近しながらレールガンを放っていく
それらを回避しながら、ガムザートフを放つザムザザーに改めて脅威を感じつつ、接近戦の範囲内に捉える

「コクピットをつぶせば!」

振われる、光を宿した槍。その刹那、ザムザザーのアイカメラが光る
眼光だけを残し、その場からザムザザーが消え、次に確認した時にはクローがインパルスの胴体を挟んでいた

ギチギチと圧力をかけられる。間違いなく、このままだと両断されて自分は死ぬ

コクピットが凹み、自分の体も衝撃でガタガタになっていた
手が震える。スティックが持てない


「ぐぅ……こんな……」

ギリリ、と歯軋りをする
自分の中で、何かが弾けたのを感じた。
視界がクリアになり、より鮮明となって映し出された

「こんなところで、俺は!」

レッグフライヤーをザムザザーに射出すると同時に、アラタナレッグフライヤーをミネルバに要求する
インパルスの予備パーツは結構あるとはいえ、使いすぎだとメカニックからも声が上がっていたが、射出するとなると気合が入っていた

フライヤーがザムザザーに直撃
クローがゆるくなった所に関節部を狙い済ました一撃で突き、千切り飛ばす

「うああぁぁッ!」

ジャベリンを投擲し、敵のど真ん中に突き刺す
ビームの刃が消え、ジャベリンの柄が海中へ沈んでいく
レッグフライヤーを装着すると、また要求を出す

「ソードシルエットを!」

もう予測していたのか、かなり早くシルエットが射出された

「ジュドー、下を突け!」

シンの命令に従い、ジュドーが下に回る
シルエットを装着し終えたインパルスの色が赤に変わっていく

インパルスは高機動でザムザザーのクローの関節が露出するよう誘導する

「関節を切れ!ここからならいけるはずだ!」

下から放たれたハイパービームサーベルが、クローを切り落とした

「くたばれよぉぉぉッ!」


聖剣の名を冠した対艦刀がザムザザーの額を捉えた
硬い。コレだけではダメだ

「手伝ってくれ!今ならやれるはずだ!」

4機全員がサーベルを突きたてた。爆炎をあげながらザムザザーが沈む

パイロットはベイルアウト、さすが『不死身の第4小隊』である


「次はあの紫ウィンダムだ!」

隊長機らしいそれをつぶせば、自然と陣形は崩れるだろう

そう思っていた刹那、ルナとレイのザクが海中へ飛び込んだ

「ルナ、レイ!?」

「アビスが来たのよ!奇襲って奴ね!」

シンの瞳が潜水艦―デグチャレフを見る

「しまったッ……アスランは何やってるんだ!」

当人はカオスの相手が精一杯である。セイバーは機動性も高く、火力もなかなかだが、相手のカオスも火力は高く、変形も出来る
パイロットもカオスはエクステンデッドのスティングを乗せているため、アスランさえも相手できる

さらにセイバーと幾分か特徴が似ていた為、実力は拮抗していた
巻き添えを食ったウィンダムもいるようだが

「くそぉぉっ!」

そう叫ぶが、後の祭り。水中に撃沈を告げる轟音を響かせ、デグチャレフが沈んだ

「へへっ、ごめんねぇ、強くってさぁッ!」

アウルが鼻で笑いながらアビスで2機のザクを攻め立てていく


「止める!」

エクスカリバーでアビスの背後を突く。振り向き様にフルバーストを受けるが、『見えた』

「水中でだって!」

必要最低限の動きでビームの間を掻い潜る。

「バカな……」

「うおぉぉぁっ!!」

エクスカリバーが胴体に直撃する、しかし、それは肩部に当たるシールド兼射撃武器で防がれる

「……油断大敵ってなァッ!」

カリドゥスが腹部から放たれ、インパルスのわき腹を掠める
水中で威力が落ちるとはいえ、そこからカウンターでキックを放った。

「ちぃ……」

「アウル、撤退するぞ!」

ネオが狼狽している。アウルは暫しネオの話を聞いた

「ああ!?こっちゃぁこいつと戦ってるって言うのに……」

「ウィンダムの殆どが撃墜された!」

「ケッ、アレだけ自信満々に言っといて!」

「お前だって『大物』は落とせてないだろう」

「ふん、言ってくれちゃってさ!」

アビスはMSに変形し、旋回してザクを無視しながらJPジョーンズへ戻っていく

一難去ったが、デグチャレフが落とされたことに憤りを覚えたシンだが、疲れがどっと流れるように来て、そんな思考も遮断される

「……シン・アスカ、帰艦します」

そうして浮上したシンが目にしたものは、強制的に労働させられているここらの民間人だった

一目見て、連合が横暴を働いているのが分かる。明らかに異常なほどのこき使いぶりだった

「あいつら……!」

バーニアで一気に基地へ近づくと、胸部バルカンを発射しようとしたが、思いとどまる

「……殺す事は、ないか」

ただ無言で家族と労働者を遮っていたフェンスを持ち上げると、逃げるよう指示を出した

喜ぶ姿を見る暇もなく、インパルスの体がミネルバへ向かう


「着艦するぞ、ハッチ開けてくれ」


――――――――――――――――――


「しかしシン、あんな事をしたのが戦闘終了後で命拾いしたな?」

アスランが問いかけるように言った

「え?」

「死者はゼロだったらしいな。戦闘中にアレをやって犠牲者でも出したなら、俺はお前を殴ってたと思うよ」

「はは、そりゃ恐いや」

から笑いしながら、シンはドリンクを飲む。汗で染み出た水分が体に戻っていくようだ
一つため息をつくと、アスランがまた問いかけてくる

「……医務室、行くのか?」

「ええ、やっぱり行っておきたいので」

「そうか、早く休めよ」

アスランが一足早く自室の寝床に着く。それを見送って、自分の足を逆の方へと向かわせる
壁を支えとして、ゆっくり、ゆっくり歩いた

薬のにおいがする。医務室。

いても経ってもいられず、医師に確認する

「あの、先生、あの子は……」

「安定したよ。エクステンデッドの研究じゃ、負けるな、やはり。負けても全く悔しくない方面の技術だがね」

苦笑して、医師は少女を見つめた

「この子も可愛そうな存在だよ。ただのMSの部品としか思われていない」

「……ちょっと、一人にしてくれますか?」

「ああ、いいさ。気晴らしに艦内を散歩してくるよ」

自動ドアが空気の抜けるような音を立てて開き、足音がそれに続いた

ドアが閉まったのを確認すると、シンは少女に語りかける

「……君、俺の事わかる?」

「……ネ……オ?」

「いやいや、違うって」

シンは顔の前で手を振るしぐさを見せた後、まじまじとその少女の目を見つめた

「俺、シン。君は俺が守ってみせる」

戦争の道具に成り果てた少女。出来る事は守る事だけだろう
決して、この少女を戦争に駆り立てない世界に導くまで

「シン……?私……ステラ・ルーシェ」

「ステラ……ね。覚えたよ。じゃあ、また来るから!」

足を引きずって部屋を出ようとするが、医師がちょうど帰ってきた

「おっと、君はベッドに寝ててくれよ?怪我が治ってないんだからな」

「……あ、はい」


シンは疲れが睡魔に変わり、強烈な眠気が襲い掛かってくる

いつ寝たかも分からず、いつの間にか自分は寝息を立てていた








[906] 9 「鳴動する空 ―ローエングリンを討て― 前編」
じゅう - 2007年03月10日 (土) 00時01分

かつて、不沈艦と呼ばれた戦艦―アークエンジェル。
スカンジナビア王国の海に身を寄せ、今は情報を整理し、今後の身の振り方を考えていた

砂漠の虎、アンドリュー・バルトフェルドが、艦内に移る映像を薄い目で見つめていた

「これは……影武者ってわけかねぇ……」

テレビに映るもう一人のラクス・クライン。本名―ミーア・キャンベルを指すように呟いた

「デュランダル議長……こんなことまでして……」

「兵士の士気を挙げるためだろうな。有効な手段ではある」

「でも、騙しているのと同じだ!」

キラが大声を上げた。ブリッジが一瞬静まり返り、その静寂を一番に破ったのはラクス当人だった

「……戦いを止めるしかありません。マリューさん」

「分かったわ。アークエンジェル、発進!」

こうして、再び戦場に舞い戻る大天使。
その後を通り過ぎる魚の群れ。過ぎ去った時、すでに大天使の姿は消えていた



マハムール基地。ミネルバもまた、ここに身を寄せていた
各々がMSの整備などをこなす中、シンはシミュレーターを使用していた
仮想敵MSはザクウォーリア10機。全てが最高クラスのレベルに設定してある

「あ」

油断した隙を突かれあっという間に撃破される
暫しの沈黙の後、ザクウォーリアの数を4機に減らした

「シーン、なにやってんの?」

「うお!?ルナ!?」

いつの間にかインパルスのコクピットに乗り込んできたルナマリア
驚いて叫ぶシンを尻目に、ルナマリアがシミュレーターを開始させる

「ちょ、どけルナ!」

「いいじゃない、見せてよ……あ、やられた」

撃墜判定が表示される画面を見て、渋々もう一度戦闘を開始させる

「うわ、結構やるじゃない」

「ルナよりは上手いよ」

「うーわ、デリカシーない男ねー」

「うっさいな!」



そんなやり取りをシンとルナマリアがしている頃、アスランマハムール基地で艦長などと作戦会議を開いていた

机上に映し出される地図。艦長は赤く光る点を指差す

ユーラシア西側地域、地球連合軍占領地区・ガルナハン

陽電子砲―ローエングリンに合わせて、リフレクター搭載巨大MA・ゲルズゲーに、ザフトの軍勢はことごとく返り討ちにあってきた

今回、スエズ攻略、ジブラルタルへの到着の為には、ここの攻略が必須、そして重要だった

「これは……あのインド洋で会ったMSに似てますね」

ゲルズゲーの映像を見て、思わずザムザザーを連想するアーサー

確かに、リフレクター装備の点でも似ていた

「現地のゲリラに協力を仰ぎ、手に入れた情報を元に奇襲をかけます。これでいいでしょうか」

「ええ、それで結構です。整備が終了次第出航するわ。急いでね」




「ええ?もう出航?数えるぐらいしかシミュレーションやってないのに!」

「シン、行く途中に練習すりゃいいじゃん」

ヨウランが突っ込みをいれ、それにシンが反応する

「ああそっか!」

「バカね」

「バカだな」

ルナとレイが相槌を打つ

「……いや、ごめん、今のは俺がバカだった」


こんな事で時間は潰れていく。メカニックは忙しく手を動かし、汗を体に伝わせている

キャットウォークの上からそれを見つめるアスランは、少し深く息を吐くと、自室へと戻る

廊下を歩きながら、あの「ラクス」について考えていた

宇宙港で出会った「ラクス」。声や容姿こそ似ているものの、性格が全く違った為、すぐに別人だと分かった

初めは動揺したが、次第に慣れた。そういう自分を変わったか、と思うときさえある

整形したらしいが、そうまでして兵士にラクスと言う大きな存在を与える事で、アドバンテージを得る

必死のようにも思えた。フリーダムも動き出したという情報さえあるのだから、当然かもしれないが

シンという多少感情が不安定なものの、優秀な兵士さえいた。今更一部から「裏切り者」のレッテルを貼られている自分がこのままザフトにいていいのか、そう、自嘲気味になる

「いや、今の俺はザフトのアスラン・ザラなんだ。……迷う必要はない」

それに――

ちらりと、医務室を通り過ぎる時、金髪の少女を見た
あの子も守ってやらねばならないのかもしれない
微妙に容姿がカガリに似ていて、一瞬カガリの姿が浮かぶときもある

今は仲間ではないとはいえ、キラが守りきれなかった人も、そしてキラが守りたかった親友を、自分がこの手で――

そして報いのように、ニコルという親友を失った
――最終的に自分は最終決戦時、ジャスティスを自爆させた際、カガリに守られた

殺されたから殺して、殺したから殺されて

「……だからこそ、ここで頑張っていくべきかもしれない」

デュランダル議長の軌道を修正する、そんな役目も任されていた

それこそ、時と場合によっては撃っても良いと言う、ある意味でプレッシャーを掛ける言葉も付いてだ。

「寝よう。思考がまとまらない」






ベッドにばたんと倒れこみ、気づけば目の前にシンがいた
驚いてあげた頭がシンの顔と接触する。鈍い音が、頭に染み渡る

「いってぇ……、アスラン、もう着きましたよ」

「な!?まずい、早く行かなきゃ……」

作戦の説明を任されていたアスランは、走って作戦司令室へ向かう

だがそこに兵の姿はない

「早めに起こしときました。迷惑でした?」

「あ……いや、ありがとう」

シンの気遣いに一応礼を言うアスラン。少し頭を下げた拍子に、髪が揺れる

ぞろぞろと集まってきた兵を確認すると、アスランは咳払いをしてから説明を始めた

「ガルナハンローエングリンゲートと呼ばれるこの渓谷の状況から言う。断壁に阻まれ、その向こうに町がある。その向こうが火力プラントだ」

少々難しい言葉が羅列されたので、シンは少し頭をひねる

(うわ、やっべぇ、良く分からん……)

「一本の橋があるが、ここからしか向こうの町へは行けない。高台に設置されたローエングリン。コレが一番厄介だ、全ての渓谷をカバーし、狙撃される。リフレクター所持のMAのせいで射撃による攻撃も期待できない」

(……眠くなってきたなぁ)

(シン、耐えろ)

レイが小声で言う。説明が終わる頃には、シンの眠気は限界まで来ていた

「そこで、現地のレジスタンスのメンバーに来てもらった。ミス・コニール」

(ミスって付けるか、普通?)

よく言えばジェントルマン、悪く言えばスカした奴、という印象をシンとコニールと呼ばれた少女に与えるアスラン
アスラン自身、どう呼べば良いか一瞬迷った

「コイツにデータを」

「ええっ!?こんな子供にィ!?」

「お前だって子供だろが!」

「シン、俺がやってもいいぞ」

「カミーユ、いいんだ、俺にやらせてくれ!」

コニールの一言で、戦争中と言うことを忘れて激昂するシンは、コニールから奇襲のために必要な坑道のデータチップを奪い取り、部屋から出て行った


「やるからには絶対成功させてやるさ」

シンはインパルスへ走りながら、一人ごちた

「一応、あいつらの命もかかってるらしいしな……」



変わりゆくシンの感情が表れる

ローエングリンゲート攻略戦。その幕が上がった






[908] 10「鳴動する空 ―ローエングリンを討て― 後編」
じゅう - 2007年03月10日 (土) 22時25分


坑道を抜けるため、インパルスは分離した状態で発進する。
シンが乗るコアスプレンダーを追尾するように、フライヤーとパーツが坑道を抜けていく

近くのラドル隊のザフト戦艦やMSと共同での作戦なので、普段より幾らか戦力は高いのだが、その分作戦の難しさは今までにないほど

下手に射程に入ると、狙撃されてお陀仏

ローエングリンを防ぐ手立てはない。坑道を抜けたインパルスがローエングリンの砲身を討てるようにサポートすることが地上部隊の役目だ


「……作戦時刻になりました、各MSは敵を出来るだけ引きつけて、インパルスを援護して!」

タリアの号令を元に、機影が次々と戦場へと赴く

「Zは飛行できないんじゃなかったか、カミーユ」

「変形機なりの戦いかたってのもありますよ、アスランさん!」


ZとZZは、変形して高度を取り、射撃を繰り返す戦法で攻め立てる。
敵MSを撃墜していくが、ひきつけるのが本来の目的だ、牽制程度だった

「……直撃させるッ!」

カチャッ、と機械音の後に続く閃光の列が、ウィンダムたちを長いサーベルのように撃ち砕いていく

打撃音にも破砕音にも似た音がウィンダムに乗るパイロットを恐怖させる

セイバーのアムフォルタス・プラズマ収束ビーム砲が敵の注意をそらし、その隙を突いてZが接近

今にも攻撃が当たりそうな位置まで近づいて、敵をひきつけていく

「行けッ!」

ウィンダムが一つのラインに揃った瞬間、ハイメガキャノンから放たれた極太のビームがウィンダムたちを薙ぎ倒した

「全部倒せば問題ないだろ!?」

「……いや、数が違いすぎるから、やはりひきつけることに徹しろ」

カミーユがため息に続けて言った

その頃、シンは坑道の中で悪戦苦闘していた

「えええッ!?なんだよこれ!?真っ暗ぁッ!?」

ルートマップに頼りざるを得ない状況で、坑道を進むシンのコアスプレンダーはところどころ岩で削れていた

「アスランの野郎!あいつやっぱ嫌いだーッ!」

子供のような口調で愚痴を叫ぶシン、とはいえ、坑道と言う空間の中に明かりが付いているという発想を持つ人間の方が少ないと思うが



紙一重のシンとは裏腹、表では谷に挟まれた狭い空間の中、アスランたちは上手く戦っていた
地上からのラドル隊による援護もあり、今のところ戦況は有利だ

しかし、ゲルズゲーがいる限り、このローエングリン砲台への鉄壁の守りは健在だ
抜けようにも、護衛のダガーL、ウィンダムが道を阻み、ゲルズゲーがビームを撃ち放って撃墜される

それを抜けても、ローエングリンの狙撃が待ち構えている
さらに掻い潜っても、ローエングリンは収容され、破壊できないまま終わる
何重も壁が張り巡らされていた。

火力こそ従来のMSに並ぶぐらいだが、リフレクターにより、ゲルズゲーの破壊は大きな隙を突く以外は無理である

「慎重に行けよ、突っ込みすぎるんじゃないぞ、アスラン……」

自分自身に言い聞かせ、ライフルのトリガーを引く。一機のウィンダムはそれを回避し、反撃でスティレットを投擲する

バルカンで撃ち落し、アムフォルタスが赤い光の奔流を風ごと押し流し、ウィンダムを撃墜する

「パルジファル、ランチャーワンからランチャースリー、撃てぇッ!」

アーサーの命令を受け、火器管制のチェン・ジェン・イーが復唱しながら、ミサイルを放つ

直撃した一機のダガーLは、爆炎をあげつつ地上に激突し、四散した

「遊びをやってる心算か、こいつッ!」

ハイメガランチャーがウィンダムを数機打ち砕く
カミーユのスティックを持つ手は、次第に力が入りすぎるようになっていた

敵の攻撃、そして接近しすぎないように配慮する。
この二つが、パイロットの体力、精神を削り取っていたのだ

失敗すれば『死ぬ』か、『死なせる』のだから、無理はなかった


「後ろかッ!」

後部から襲い掛かり、水平にサーベルを振ったウィンダム

だが、バック転のような動きをとったZに逆に後を取られ、コクピットを焼き斬られた

頭上からのビームに切磋に反応し、シールドで防ぐ。攻撃を防ぐ為に曲げていた肘を伸ばし、グレネードランチャーを発射した

軽度に追尾するそれがダガーLの体を爆散させた。残骸さえも殆ど残っていない。粉々だ

「あれは!?」

坑道から飛び出す小さな機影―インパルス

「出れたッ!……うわわぁッ!?」

ドッキングしようとしたインパルスのパーツ一つ、チェストフライヤーの一つにビームの一撃が降り、撃破された

上半身に当たるあのパーツを失っては、ローエングリンの破壊は望めない

そればかりか、ゲルズゲーによってレッグフライヤーまでも撃墜される

「……相当拙い事になってきてねぇか……これ……」

コアスプレンダーのみがローエングリンに接近し、チェーンガンを発射するが、それ如きで破壊できるはずがなく、ローエングリンの砲身がミネルバに固定される

「やらせるかぁぁーッ!!」

ミネルバからパーツを発射しようにも、ここからではまた撃墜される上、時間がかかりすぎる

「シンッ!」

Zが突破を試みるが、ゲルズゲーの体当たりに吹き飛ばされ、地に叩きつけられそうになるが、バーニアを最大限吹かして耐える

「うおおおぉッ!」

ハイメガランチャーを放つが、リフレクターで弾き飛ばされる


「……ッ!シン、これを使えッ!」

アスランがダガーLの武装を殆ど剥ぎ取り、蹴り飛ばす。
その意図を理解できなかったゲルズゲーのパイロットは、見逃してしまったのだ

「でぇい、くらええぇぇぇッ!」

吹き飛ばされてきたダガーLをチェーンガンで調整し、閉まりかけていたローエングリンの収容ハッチにはさんだ

「吹き飛べ……ッ!!」

静かな咆哮と共に、チェーンガンがダガーLをローエングリンに押し込む

手を空へ伸ばすような格好でローエングリンの上に直撃したダガーLは、糸が切れた操り人形のように地に横たわり、爆発。ローエングリンを巻き込んだ


「やったぞ!」


シンは思わずガッツポーズをとり、反射的にこの言葉を口にした
アスランは、もはや降参したかのように動かないゲルズゲーに近づき、四肢を奪い取って鹵獲した

「パイロット、死にたくなければ脱出する事だ」

3名のパイロットが脱出する
そして、内部から基地が爆破された時点で、勝負は決まっていた



帰ってきたミネルバクルーを、連合から解放され、歓喜に沸く住民が取り囲む

その中には、コニールの姿も在った

「よう、コニ何とか」

「コニールだ!……一応礼は言っておくけどな!」

そんなコニールを見て、アスランはカガリを思い出す
まるで瓜二つの性格だ。おまけにレジスタンスに参加しているというところまで似ていた

「あ、アスラン」

シンが思い出したように振り向いた。アスランは気に留めず、周りの喜びの雄叫びにかき消されるような声で褒めた

「やったな、シン、あの状況から良くやってくれた」

「いや、死ぬかと思いましたけどね」

妙に饒舌になっているシンを、後から中年ほどの男性達が頭をくしゃくしゃにする

「よくやってくれた!お前は英雄だ!」

「英雄なんてもんじゃないですって、やめてくださいよー」

嫌がるそぶりを見せながら、どこか嬉しそうな表情を見せるシンを、アスランは静かに見つめていた

「さてと、シン、ミネルバに戻るぞ」

「え、あ、うん」

一瞬戸惑いを見せながら、シンはコアスプレンダーに乗り込んでいく

シンも、今ではレジスタンスの仲間とはしゃいでいるコニールを、微笑ましく思えた

(……良かったな、コニール)

静かに頭の内でそう考えながら、ガルナハンを後にした


空を、優雅に鳥が飛んでいた。その様子は、鳥さえもこの解放を喜んでいるようだった




[910] 11 「見えない真実」 
じゅう - 2007年03月11日 (日) 15時24分

ガルナハン・ローエングリンゲートを突破し、国会の沿岸都市、ディオキアのザフト基地に寄航した

ミネルバクルーが浮き足立つ中で、シンとレイ、アスランはステラの元を訪れていた

ステラに与えられた強化人間故の弊害―精神年齢の幼さ。
そのため、ある意味単純であり、人懐っこい性格でもあった
特に、シンには懐いている。レイ曰く「恋人同士」らしい

今では落ち着いたため、拘束具も外されたが、医務室からの外出は、基本的に禁じられていた

「アスラン、ステラをどっかに連れて行っても良い?休みだし」

「……確かに、休暇だが」

「じゃあ、いいじゃん。明日沿岸辺りにでも行って来る!」

「……」

これが青春か。そう思った自分に歳か、と一人突っ込むアスラン
目の前で仲睦まじく話し合っているシンとステラを傍観するレイ
温度差の激しい光景だ



「ねぇ、メイリン。買い物でも行こうよ、買い物!今日の内にどこ行くか決めとこう!」

ルナマリアが妹を強引に誘っている。
返事を待たずにぐいぐいと袖を引っ張られて連れて行かれたメイリンが不純に思えてならない

その様子を見ていたヨウランは、目線をテレビに移し、目の前でなにやら喜んでいるヴィーノを冷めた目で見つめた

放送されているのはラクス・クライン―もとい、ミーア・キャンベルのライブ中継だった

不特定多数の人間が存在する中、アイドルに声を挙げるヴィーノの度胸はある意味尊敬すべきだろう

「……ヴィーノ、お前、凄いよ」

「へ?」


その後ろから、部屋に帰ってきたシン、アスラン、レイも見ていた
シンが一歩引いたのはまた別の話として、その又後ろで一言もしゃべらずにその場で立っているレイも不気味だ

「……レイ?」

「どうした」

このように、静かな人間に話しかけてあっさり返答されると少しながら戸惑う
いつも以上にしゃべらなかったのを不思議に思った上で問いかけてみたのだが、こうも当然のようにこたえられるとある意味困る

「い、いや、なんでもない」

「そうか」

冷静、無口と言う言葉を体現するようなレイの姿をみて、自分も少しは冷静にならないといけないのか、そう、シンは思った
アスランはアスランで、そのテレビに映るミーアの姿を見て、驚愕を覚えていた

「あれ?どうしたんですか?」

シンが問いかけるも、アスランは答えない

人伝に聞いてはいたものの、まさかここまで本物のラクスと伽羅が違うとは思っても見なかったのだ

明るすぎる 口調が違う 素振りも全くといって良いほど違う

ましてや、曲のテンションが高すぎた。

元婚約者だっただけに、ラクスの口調や素振りなどはなんとなく覚えている

頭に雷でも落ちたかのように衝撃を受けた。顔面蒼白になったまま、シンが隣で不思議なものを見る目で見つめていることも知らず、立ち尽くしていた

(議長は本気か!?こんなものでザフトの兵士をだませるとでも……)

……目の前のヴィーノの姿を見て、諦めた



「……」

車で沿岸都市を走るのは、スティングとアウル。空席が寂しさを生み出していた

「……海だなぁ」

「そうだな」

アウルが呆けたように呟く。それに素っ気無い返事を返すスティング
戦いで疲れていた彼らにとって、この光景は心を癒してくれていた

「……なんか、忘れてるよな」

「……まぁ、なんというかな。記憶の一部が欠けた様な感じだ」

二人の指す『欠けた』部分と言うのはステラのことだが、毎度エクステンデッドとしての「最適化」を施される為、そんなことはすっかり記憶から消え去ってしまっていた

元々、恐怖などに関わるような記憶をなくし、まさに戦闘兵器として扱う為の最適化

ステラがいなくなった、と言う事実は十分に二人の戦闘に支障をきたすため、ネオの判断によって消された

「……気持悪い気分だぜ。せっかくの休みだってーのによー」

「気にするな、思い出せないことはしょうがないだろ?」

そうは言うが、スティングの顔もなにやら憂鬱げだった
アウルは落ち着くために目を閉じる。そしてそのまま眠りこけてしまった




日が沈みかけ、海が赤く染まる

そんな頃、オレンジ色の髪をした軍人に連れられ、デュランダル議長の下へ来た7人のミネルバMSパイロット達、そしてタリア。

「よく来たね」

目の前にもてなしとして出された紅茶を一口すすり、デュランダルは笑みを浮かべて言う
レイは若干嬉しそうな顔をしていたが、すぐに冷静ないつもの顔に戻る

「シン君、ローエングリンゲートでも大活躍だったそうだね。 叙勲の申請さえ着ていたよ」

「あ、ありがとうございます!」

議長直々に褒められたもので、シンはすっかり舞い上がる
アスランたちにも労いの言葉が掛けられた後、再び続ける

「今日は話したいことがあってね……」

いつになく深刻な顔で告げるデュランダルに、空気が張り詰めるのを感じた

「問おう、何故戦争が起きると思う?」

唐突に切り出される問い。
デュランダルは、ゆっくりと口を動かす

「シン君、君はどう考えている?」

「……命をなんとも思わない人たちが、国同士の問題を態々武力行使で解決しようとするからだと思います」

珍しく、重い言葉を口にする
未だ、ルナマリアは交わされる言葉を息を呑んで見つめるだけだった

「確かにそうだ。しかし、他にも理由はある。……ここから先は私が言おう」

デュランダルは、テラスの柵のすぐ向こう側に見えるオレンジのパーソナルカラーに染められた新型機「グフイグナイテッド」に目線を移す

「このグフのような兵器。戦争では次々とこのような機体、武器が生み出されていく。その一つ一つの値段を考えてみたまえ、莫大なものになる」

ミサイル一つ作るのだって値段は相当なものだ。国家の予算を大きくすり減らす事にもなりうる
当然のようで忘れかけていたことを口にした
シンにとっては少し手痛い話題ではある。何せ、インパルスのパーツを次々と消費し、基地に着くごとにパーツを大量に補給する事態に陥らせているのだから

「裏には、それらを産業として考え、戦争を『作ってきた』者達の集まり……ロゴスの存在がある」

コーディネーター絶滅を望む組織―ブルーコスモスの母体「ロゴス」
その存在は公の場には出回っておらず、知っているものは少ない

「……」

強力な力を持つとはいえ、ただ一パイロットのシン達には、どうしようもない。
裏で暗躍している存在―ロゴスを「一パイロット」が討つには、ただ目の前の任務をこなし、親玉を追い詰め、そして―

やはり、自分は最後は力でしか解決できない。シンは自分が不甲斐なかった



会談を終え、明らかに高級な雰囲気のあるホテルに泊まる事となった

ただ、シンはあまり眠る事は出来なかったが


――――――――――――――――――――――


翌日

結局寝たシンは、アスランの叫び声で目を覚ます
いや、叫び声と言うより、悲鳴に近かった

「……朝っぱらから、うっさいなぁ……」

目を擦り、一度窓の外を見てから私服に着替える
せっかくの休暇だ。軍服は着ないでおきたかった

歯を磨き、顔を冷水で思いっきり洗うと、ラウンジに行った
自分の後から来たアスランの傍らには、ミーアがいた

誰がどう見ても相思相愛のように『見える』
不機嫌そうな顔をしているルナマリアに話しかける

「どうしたんだよ、そんな顔して」

「……シン、聞かないで」

アスランの寝室で何があったのかを、シンは知らない

「おお、来たね、ミネルバ隊の皆さん?」

昨日のオレンジカラーの髪の毛をした若い軍人が、パイロット7人に話しかける

その後ろには、アスランと同じような髪の色をし、さっぱりとした髪型の青年もいた

「今日からミネルバ隊に二人増えるぜ、俺、ハイネ・ヴェステンフルス」

またか、そうシンは思う

ザフトの最新鋭機、インパルス。そして成り行きとはいえ異世界三人組という強力な戦力が揃ったミネルバ隊に、また戦力が補充されるというのだ

たしかに、そうなればミネルバ一隻で戦況を変えるという大それた事も可能になるのかもしれないが、普通はそれぞれの小隊に戦力をバランスよく配備したほうがいいのではないだろうか、それがシンの考えだった

「シーブック・アノーです、宜しくお願いします」

両者ともに赤服を着て、ハイネはザフトエリートのなかのエリート「フェイス」の叙勲を胸に着けていた
アスランもフェイスなので、ミネルバ隊には二人「フェイス」がいることになる

(滅茶苦茶だ……戦力があるのに越したことはないけど、格納庫やメカニック達が持つとは思えない……)

当然、その後このことを知ったメカニック達は大多数がこれでもかと言うぐらいにため息をついていた

「軍の階級なんて気にしないで、気楽にやろうぜ、なぁ?」

「あ、それ賛成」

「私も」

「……」

「お、おい……」

アスランがか細い声を挙げるが、全く気にされずに各自解散していった





ミネルバの医務室につくなり、飛び掛ってくる金髪少女
とりあえず自分の体から剥がすと、一回瞬きをしてステラに落ち着くよう言い聞かせる

以前、ステラが「死」という言葉を医師から聞いた際に暴れだしたので、シンはそのことを自分の頭に刷り込み、自粛させる

「よし、行くか」

とは言っても、沿岸を散歩する程度であり、特別買い物に行くなどの事もなかった

先ほどとは打って変わって、上機嫌で買い物に行く姉妹を見かけたが、あえて声はかけない事にした


砂浜。潮風が自分の頬を撫でる。心地よい
ステラも機嫌をよくして、なにやら地面を突っついている

「戦争してるんだよな、まだ」

そんなことも忘れてしまいそうになる

刹那、後ろをスティング、アウルの車が通り過ぎた事を、知る由はなかった

横では、ステラが蟹に指を挟まれ、腕を振り回している
そんな光景も微笑ましい。

「シン、これ」

「え?」

蟹が宙高く投げられ海に小さな音を上げて堕ちたのを見届けると、唐突にステラがシンに何かを手渡す

「貝殻……」

「大事にして」

「……うん」

少し桃色がかった貝殻を手に握り締めると、小さく頷いてステラの頭を撫でた

アスランもアスランで、キスを迫るミーアをヘリに押し込み、厄介払いでもしたかのように安心のため息をつく

「……あいつと付き合うと苦労するな」

次は疲れたように息を吐き出し、ミネルバへ戻っていく
一刻も早く寝たかったのだ


シンがステラと過ごしている間、連合軍はダーダネルス海峡にてミネルバを迎え撃つ作戦を準備していた―




[913] 12 「舞い戻る自由 ―火花散るダーダネルス―」
じゅう - 2007年03月12日 (月) 20時22分

「……ちっちゃ」

新たに搬入されたグフの隣にたたずむMS―ガンダムF91に、シンは正直な感想を述べる
もっとも独り言で、それを聞いているものなどメカニックの中には誰もいなかった
暇がなかった、というべきだろうか

ここ―ディオキアのザフト基地にガイアを引き渡しているため、一機分格納庫は空いている
F91が小さい為、少しだけ余裕があるのは事実でもあるが、維持費が莫大にかかる
移動する一小隊にこれだけMSを積みこむことは非常識でもある

しかし、同時に効果的でもあった
強大な戦力が動き回るのだ。至極、敵にとっては恐ろしい事となる
それ故、敵から狙われる可能性もあるのだが

補給物資こそ十分に積み込んだが、ふと、ヴィーノはが耳元で囁いた

(お願いだから、インパルスのパーツを節約してくれ、頼む)

泣き言のようにも聞こえる声でそう告げ、班長のマッドに大きな叫び声で呼び出され、豆鉄砲を食らった鳩のように驚きながら駆けて行った

「忙しいんだな、あいつら」

頬をぽりぽりと掻きながら、苦笑する。一応心がけるように肝に銘じ、自室で休息をとることにした

だが、それも叶わず。ダーダネルス海峡に差しかかるといったところでコンディションレッドを告げるけたたましい警報音が鳴り響き、耳を思わず押さえる

「……ちっ」

自室へ向かう途中の廊下で舌打ちすると、踵を返してインパルスに走り出す

「ルナマリア、レイ、ジュドー、カミーユは甲板で待機して頂戴、残りのMSは発進して敵を殲滅!」

看板に着陸する4機。対照的に敵の中央へ飛び去っていく5機
シーブックの隣には、ハイネがカバーとして付いている
素質さえあるものの、操縦技術はまだ未熟な面があるからだ

「シーブック、落ち着いてやれよ、お前の機体、せっかく高性能なんだからな」

「分かってます……やってみせますよ!」

サーベルを握り、慎重に敵陣へ突っ込む二機、アスラン、アムロもそれに続き、シンがトップを取る

「数は多いけど!」

ブラストシルエットを装着し、莫大な火力を手に入れたインパルスは、火器をフルオープン、射撃

それを追って爆発音が鳴り響く、一斉射撃の後に残るのは塵。
だが、まだ残りの敵は数多い

「……動きを止めれば」

νガンダムのトリモチランチャーが一機のウィンダム命中、それも頭部のメインカメラにだ。
視界を奪われたウィンダムのコクピットに閃光が走る

アムロは卓越した操縦技術で袈裟切りにすると、シンが放ったミサイルにジェットストライカーパックの左翼を奪われたウィンダム目掛けて鋭利な一撃を放つ

攻撃を仕掛ける瞬間、サーベルが発生。刀身がウィンダムの頭部から下半身にかけて焼切り、爛れた装甲だけを残して爆散。海に散った

シンも、νガンダムを取り囲む7機のウィンダムにケルベロスを放ち、一気に装甲を溶解させ、4機落とす
撃てば誰かに当たる、そんな状態だ

「あの3機!毎度毎度邪魔をーッ!!」

カスタムされたウィンダム3機、不死身の第四小隊

ファイヤーフライをケルベロスの裏の銃口から撃ち、ビームジャベリンで接近戦の用意をしながら、レールガンで牽制、シールドでライフルを防ぐ
アンチビームコートの施されたシールドは、少しずつ消耗しながらも確実に攻撃を防ぐ

3機が横へ回り込むように移動し、インパルスの頭部がその移動した右へ向くと同時に散開される

3方向から牙をむく光を見て、シンは出撃前のヴィーノが言っていた言葉を思い出す

「避けて見せるッ!」

何発も放たれたビームの一部をシールドで、また一部をジャベリンで弾き落とし、最後の一部を避けきる

「出来た……」

暫し呆然とし、気を取り直してジャベリンを振りかざす
太陽と重なる刃の光が、ウィンダムを捉えた
ウィンダム、モンシア機の左腕を肘から刈り取り、その姿勢から横一文字に切り裂く

寸での所で避けられるが、先ほどの散開攻撃で完全に仕留めたと思っていたモンシアの虚を突き、レールガンを左肩に命中させる事が出来た

「ケッ、俺らしくねーな!」

モンシアが悪態をつく。そうしながらも的確に攻撃を放ってくる所は流石ともいえる

アスランが援護でスーパーフォルティスビーム砲をバックパックから放つ
即座に変形、ベイト機の近くまで接近し、二刀流で左足と右腕を千切り飛ばした

「うおッ!?こいつ……」

狼狽するベイトを尻目に、優先して倒すべきと判断したアムロがバズーカを放ち、動きを制限させた

その隙にベイトの懐へ躍動したシンが、腰辺りにジャベリンを射ち込んだ

そのまま引き抜き、右足によって空中ボレーシュートを決めた
吹き飛んでいくベイトの機体をアデルがキャッチし、一旦JPジョーンズまで引っ張っていく

それを追おうとするνガンダムの頭部アンテナの左の先をビームが掠める
振り向き様ライフルを乱射し、サーベルを抜刀

バルカンで牽制しつつ二連続で蹴りをお見舞いした後、バズーカとライフルを2発ずつ撃ちこみ、サーベルで頭部を貫いた

「げええぇッ!?くそぅ、なんだってあいつらだけよぉ!」

アデルと共に撤退するモンシアを少々疲れた目で見送ると、シンの瞳がダガーLを捉える

レールガンで容易く機体を吹き飛ばし、次の獲物に踊りかかった

そこでエネルギーが切れ、ミネルバに要求を出す

「デュートリオンビーム、頼む!」

「艦長、デュートリオンビーム、発射します」

レーザーがインパルスの額を捉え、見る見るうちにエネルギーゲージが満タンになった

そして、また敵陣へ向けて放たれた赤い獣の牙が、奔流を生み出して押し流していった    

しかし、射撃の合間を掻い潜り、何十機ものウィンダムがミネルバを襲いに行く

「しまった!こいつらぁぁぁッ!」

一斉射撃を放つも、ミネルバに辿り着くまで回避に専念している敵機を数機落とすのみにいたる

「アーサー、タンホイザー用意」

「ええ!?しかし、あれは大気圏内では……」

「いいからやって!死にたいの!?」

「い、いいえ!分かりました、発射します!」

中央の巨大な砲身―赤い光を溜めて今にも発射せんとする時、自由の翼が空を舞った





空から降り注いだ光条が、発射寸前のタンホイザーを貫いて、ミネルバクルーの数人の命を削り取った

「ま、まずい!おめぇら、怪我した奴を医務室に運べ!」

「は、はい!」

ミネルバにおいてタンホイザーの砲身の近くにいた者達が、大急ぎで消火、救助を行なう

「あいつ……フリーダム!」

目視した瞬間、シンの何かが弾ける
恐らく、あの爆発の中でいくつもの命が失われた


自由、そのものによって

「連合軍、ザフト軍、共に戦闘を中止してください!」

そういいつつ、連合軍のMSの四肢、バーニアを奪う
海面に叩きつけられていくMSたちの姿を見て、シーブックの背中に悪寒が走る

(……なんて奴だよ、こんなことできるって……!)

だが、逆にこれに打ち勝たないと自分は生きていけないのだと、いまなら実感できる

ライフルを苦し紛れに放つが、避けられる、しかし、それは当たり前

「堕ちろよぉぉッ!」

最大加速に設定した腰にマウントされている「ヴェスバー」が凄まじいスピードでフリーダムの翼の一翼を打ち砕いた

「え!?なんてスピードなんだ……!」

一瞬の驚愕の後、危険、と言う認識がフリーダムのパイロット―キラに生まれ、フルバーストをF91に放つ

小ささと、その高機動力で全てを避けきり、ビームシールドでハイネのグフを守りきる

「ハイネ!もういい、他の敵を相手していてくれ!俺だって一人でやれるようにならないといけないんだ!」

「あ、ああ!」

威勢の良い声を発するシーブックにたじろぎながらも、認めるような瞳で了解の合図だけを返し、F91の後方に控えていた敵をスレイヤーウィップなどを活用し、絡めとってはドラウプニル4連装ビームガンで討ち取っていった

「シーブック、援護を頼む!」

「任せておいてくれ、役目は果たしてみせる!」

メガマシンキャノンで牽制しつつ、ヴェスバーで大きくフリーダムの動きを阻むと、そこをシンが突いていく

アムロたちはウィンダムの相手で精一杯である。
寧ろ、それこそ役目なのだ

カミーユたちの援護射撃もあり、キラの予想以上の反撃をしていく

「新たな熱源反応!これは……アークエンジェルです!」

「うろたえないで!落ち着いて対処するのよ!」

不沈艦の登場に、少なからず動揺するクルーもちらほら見えたが、タリアの喝に士気を取り戻す

ふと気づくと、セイバーがフリーダムに接近していた


「キラ!」

「アスラン!?何でザフトに……」

「もうやめろ!お前たちのやっていることは戦場をただ混乱させているだけだ!」

「放って置けないんだ!デュランダル議長も信用できない!戦いを止めるしかない、あんな偽者を使ってまでする人の味方をするアスランこそザフトを抜けてくれ!」

「……勝ち取った平和を2年間ほったらかしにしておいたのはどこのどいつだ!」

「仕方なかったんだ!ラクスも疲れていたし、僕だって……」

「なら最初から戦いに行くんじゃない!後始末の事も考えずにただ平和を勝ち取っても何の意味もないんだ!勝ち取る事より維持する方が大変なんだぞ!」

自分が言えることじゃない、だが、言わねばならなかった
シンという少年を、ステラと言う少女の運命も、自分は今、見守っていきたかったのだ
そして、友の過ちも正したかった

正義のぶつかり合いが戦争なのだから、どちらが間違って入鹿など分からない
だが、かつての親友として、自分がおかしいと思うことを徹底的にぶつける、そう決意したのだ

短いながらも、ミネルバで過ごし、さまざまな出来事の中、そう思えた

「だけど……だからって放っておいてもダメじゃないか!」

「そう考えるのなら後始末をきちんとしろ!覚悟がないのに生半可な正義をぶつけるんじゃない!」

「……分からず屋だ、アスランは!」」

キラの「種」が弾け、サーベルでセイバーの右肩を奪い、続けざまに―


サーベルが二本、宙に弾き飛ばされた

「……確かにいけ好かない奴だけど、アスランは仲間だ、黙ってみてるほど馬鹿じゃないんだよな、俺でも」

シンも「種」が弾けている今、技術は勝るとも劣らない。
ジャベリンで弾き返した後、やはりレールガンで牽制、PS装甲によって阻まれるも、距離をとることには成功する


「ステラだけじゃない、皆護ってみせる!」


マニピュレーターがくるくると回転し、ジャベリンの刃が車輪のようになる。

自由と衝撃の勝負が始まった瞬間だった













[914] 13 「正義は何処(いずこ) ―牙を剥く自由 矛を振う衝撃―」
じゅう - 2007年03月13日 (火) 21時02分


フリーダムが、宙に浮いたサーベルをキャッチし、両方の手に握らせる


一筋、刃が空を流れ、フリーダムの腕に備え付けられたシールドに直撃する
その音を立て続けに響かせ、シールドの強度を削った所にケルベロスを放つ

インパルスはデュートリオン、フリーダムは核エンジン。
両者ともにエネルギー不足はないに等しい

アスランはその様子を見て、今回はシンにキラを任せる、と決めた
キラは自分の意見を聞いてくれない。今、キラの仲間である人間の誰かが叱責をせねば、変わってはくれないだろう

ラクスと同じだ、強い意思。それが時として弱点ともなる

接近戦に持ち込んだため、援護射撃は受けられない
自分がもっとも得意とし、尚且つ一瞬で四肢を両断される危険性もある

だが、今は負ける気にならなかった


リーチが長く、接近しすぎると取り回しの悪いジャベリンで切り結ぶ
レールガンはいつでも放てる。一回弾きあった後レールガンを全弾使いきり、全てをコクピットへ直撃させた
断続的に射撃するより、一回にまとめてパイロットへのダメージを狙った方が効果的だと踏んだのだ

目論見どおり、シートに体を引っ張られるようにキラの体がたたきつけられる

その隙にケルベロスを発射。また翼を一翼捥いだ

2発目を発射するが、素早い動きに惑わされてかわされ、挙句の果てには左肩とケルベロスを一つ持っていかれる

「くッ、こんのぉぉぉぉッ!」

モニターで確認する間はない。ただ闇雲にジャベリンを投擲する

「そんなッ!?無茶苦茶だ!」

虚を突かれた。当然確認せずに攻撃を放てば、出が早く、相手は避けにくいだろう
しかし、まさかこの土壇場でそんなことを実行してくるとは夢にも思わなかった

もう一つのケルベロスが空に赤い流線型の橋を掛ける
フリーダムに着弾する間もなく、それは空を虚しく過ぎる

「かかった!アスラン!」

「シン!?分かった!」

偶然にもそこにいたアスランにパスを渡す形でフリーダムを誘導する
アスラン自身、ここはシンに任せるつもりだったので動揺するが、しっかりと役目を果たし、フリーダムのメインカメラをスーパーフォルティスで吹き飛ばした

「うっ!?この!」

振り向きながらサーベルを真一文字に横へ
両脚を奪われながら、丁度フリーダムの体がアムフォルタスと重なった

「当たれ!」

掛け声一発、放たれた奔流はフリーダムの右足を吹き飛ばす
それでも胸部へと当たらせなかった部分は、スーパーコーディネーターたる所以だ

「なんて……一機じゃ分が悪いの……?それでも!」

下半身を失った状態で、セイバーの四肢を切り落とす
バーニアをプラズマビーム砲、バラエーナで吹き飛ばし、完全に戦闘能力を奪った

「……」

「くそッ!F91、セイバーを回収する!」

ガキンと装甲同士の触れ合う音が空を共鳴させた
フットペダルを踏み、ミネルバのハッチに一旦着艦する

「アスランは!?」

「無事です、ただ機体の方が……」

「補給物資ならいくらでもあるけど……こりゃ修理に骨が折れそうだな……」

ヨウランがヴィーノと顔を見合わせてため息をついた
不意に、セイバーのコクピットハッチが開き、中から疲れた様子のアスランが出てくる

「アスランさん、栄養ドリンク」

「ああ、ありがとう」

投げ渡されたそれをすぐに口に運ぶ
一回深呼吸をし、セイバーのかろうじて残った右足根元に座り込む

「……シン、頼むぞ」



「しぶといんだよ!堕ちろぉぉッ!」

ミネルバからフォースシルエットとチェストフライヤーを受け取り、換装しなおしたインパルスが、サーベルで胸部を狙う

「キラ君、下がって!このままじゃあなた……」

アークエンジェル艦長のマリューが命ずるが、キラは若干退いただけで戦いを続けている

「まだ大丈夫です!それより、アークエンジェルこそ下がってください!早くしないと……」

「何言ってるの!まだ損害はないのよ……」

キラの言葉の意味を理解する時には、すでに遅かった
ZZが放ったハイメガキャノンの一撃は、アークエンジェルの左ハッチを貫いていた
ビームを弾くラミネート装甲の排熱量があっという間に限界を超え、警告音が鳴り響く

「そんな……被害は!」

「メカニッククルーの内、何人かが巻き込まれました!被害は甚大、出力70%に低下!」

「MSの出す出力じゃないわ……あんなの」


ジュドーはロックをせずに放ったが、大きな艦船一隻にはモニターからの映像による補正で十分だった

「……キラ君、悔しいけど後退します。危なくなったら無理せずに戻ってきて!」

「了解です!」

元気良く返事し、フリーダムのフルバーストを一点―インパルスだけに浴びせる

シールドで防ぎに行くが、案の定避けきれるはずがない
その空を覆いつくす絶大な火力からは逃げられなかった

「シン!」

アムロが、νガンダムのバーニアをフルスロットルにしてインパルスを掴み、その場から急速離脱する

そうする間にもフルバーストにより、巻き込まれた連合のMSが時々刻々と減っていく

「フォースシルエットならフルスピードで離脱できるはずだ、一斉射撃の間を突いて攻撃して、一気に加速で逃げ切れ!」

「はいっ!」

一応『大尉』の肩書きがあるアムロの命令に了解を出し、ライフルを連射しながらチェーンガンで牽制する

「俺が隙を作ってみせる、やってみるんだ!」

サーベルとサーベル同士がぶつかり合うが、連続して閃光のように繰り出される攻撃にパワー負けしてしまう

「くっ、相手の機体のほうが大きい……出力でも負けるなんて!」

C.E屈指の強力な機体であるフリーダムのサーベルを弾き飛ばすほどのパワーを持っていることになる
脅威を感じつつ、ハッとした、今、フリーダムは仰け反った状態であり、隙だらけだ

姿勢を起こそうにも、反応速度と動作が連動しない


「でぇぇぇぇいッ!!」

振り下ろされたサーベルの一撃に身を任せた。間一髪でシールドを翳すも、弱っていたシールドでは防ぎきれずに、海面へと叩きつけられた

しかし、転んでもタダではおきない。インパルスの胸部に置き土産とばかりにサーベルを突き立てた

「な……畜生!」

急いで分離すると、チェストフライヤーが爆発、コアスプレンダーが損傷を追い、よろよろとミネルバへ着艦した
コクピットに爆発を受け、頭から血を流している

「いっつつ……すまねぇ、ヨウラン。包帯とか持ってきてくれないか?」

「おっし、すぐ持ってくる!」


「2機落とされたのか!」

ハイネがウィンダムをスレイヤーウィップで絡めとり、電気を流して海面に叩き落しながら狼狽した

「こっちだってもたねぇんだ……よっ!」

テンペスト・ビームソードがダガーLのコクピットを貫く。フリーダムは撤退したようだが、まだ大仕事が残っていた

「カオスもアビスも出てきやがって!厄介なんだよ!」

今は、オーブ防衛戦の時と同じく、カオスの相手はνガンダム
あの時のようにはいかないとばかりに、カオスが攻め立てる

「この白黒!いい加減にしろ!」

「腕が上がっているのか……ちぃッ!」

バズーカでポッドの一つを落とし、反撃のライフルを貰う
シールドで打ち返すように弾くが、疲労はたまる一方だ

一旦距離をとり、まっすぐカオスを追い

「喰らえッ!」

νガンダムが縦に回転しながらバズーカのトリガーを二回引く。花火でも撃ったかと思うような音の後、バズーカの弾体が2発ともにカオスのコクピットへ直撃した

「ぐああッ!」

短い悲鳴の後、スティングは気を失い、ネオに回収される

「今回は俺いいとこなしだし、スティングもさっさとおねんねしちまうし……ミネルバと当たるとろくなことがないな!」

遠くで、アビスの戦っていた地域。そこから爆音が響き、撃墜されたかと一瞬動揺する

反応が消えてないことを確認し、敵を避けつつ、ネオはアビスの元ヘ向かった

「すまねぇ、ネオ。あの野郎の弾に当たっちまった」

アウルの指す方向には、ハイメガランチャーを構えたZの姿があった


「……仕方ない、撤退するぞ。アウルはもう少し頑張る事だな」

「ちぇーッ、スティングはお咎めなしかよ」

愚痴るアウル。ネオはもう二機ウィンダムを呼び、アウルたちを運ばせる、迅速にだ

途中の射撃に何度も脅かされたが、なんとかJPジョーンズに辿り着く

「……ったく!お偉いがたは何にも分かっちゃいない!俺が送ったデータ見てなかったのかあいつらは!数ぶつけりゃいいってもんじゃねーんだぞ、あれは!」

アウルに続いてネオも愚痴るが、軍人の運命と補完し、一人黄昏た



撤退していく連合艦隊を見て、タリアが呆れたような顔をしてため息を吐く

「まったく……今日も疲れたわね……あのヤキンのフリーダムまで出てくる始末……どうなってるのかしら」

天井を仰ぎ、もう一度ため息を吐いた



[915] 14 「すれ違う視線」
じゅう - 2007年03月14日 (水) 22時51分

タンホイザーの破砕による被害の修理を、マルマラ海、タルキウス港において行なう。
いつ補給などを受けられるか分からない小隊ゆえに、港、基地を見つければ即修理、補給を受けることは必須だ。

「あっちゃー、セイバーやばいなぁ」

四肢を切断されたMSドックに転がる灰色の機体。
アスラン自身に怪我はないが、シンが軽傷を負った。軽いだけ幸いだ

ハイネのグフもスレイヤーウィップに過度の負荷があったため、交換が必要、更にブースター右翼が損傷、νガンダムは胸部に一発が被弾と、細かい所が損傷していた

「うーん、援護の奴らが損傷してないのはいいけど、コレはなぁ」

驚愕すべきは、パイロットして未熟なはずのシーブックが殆ど被弾していないという事だ
才能だとか、MSの性能だとか、メカニックの間で小さい話題になっていた

シーブック自身、そういうのは柄じゃないので、メカニックが遠くでその話をするたびに聞き流していた

それを他所に、自室で苦悩するアスランの姿があった
キラは間違いなく、梃子でも意見を変えないだろう

(……はぁ)

全く気持ちが落ち着かない。いきなり戦場に親友が来て、敵味方かまわず落として、インパルスと相打ちになったとはいえ帰っていったのだから当然といえば当然だが

「……行ってみるか、な」

立ち上がりつつ、ドアを開け、すぐさま艦長の元へと向かう
キラに直接会うため、しばらくの間、離艦する許可を貰いに言ったのだ

『フリーダムのパイロットを探る』という遠まわしな目的を言うと、あっさりとタリアは承認した。疲れているのだろうか、少し投げやり気味だ

「しっかり休んでください」

そう一言だけ残して、セイバーに乗り込もうとしたところで思い出した

「……そういえば」

ドックに着いたアスランを待っていたのは、ボロボロのセイバー。
心の中で、今にも地面に膝をつきそうな感情に襲われる

「あ、そうだ」

誰かのMSを借りる、と言う案が浮かぶ。一応ジュドーに頼んでみると

「いいよ」

あっさりと了解の返事が返ってきた。余裕があるのか、ただ能天気なのか
もちろんジュドーは、戦闘にいくわけではないことを知って貸したのだが

操縦系統はあまり変わらないようだ。操作もあまり難なくこなせる
早速ZZで町へと向かう

時同じくして、タリアの元にルナマリアが呼び出されていた



アスランは身分を隠す為のサングラスを掛け、町を歩く
飛び出したのはいいが、実際キラがどこにいるかなど知るはずもないのだ

「どうしたもんかな……」

とりあえず、アークエンジェルが逃げた方向にでも歩いてみるか、そう考えた刹那、見覚えのある茶髪の女性が横を通り過ぎる

「……ミリアリア?」

「え?」

自分が前大戦で彼の恋人を殺した事もあり、少し気まずいが、キラと通じているかもしれない、と僅かな希望に賭けて声を捻り出した

「すっごい偶然ね、で、ザフトに入ったんでしょ、また?」

「……まあね。正直、いまはこの判断を正しいと思ってる」

「ふうん、で、用件は?」

ミリアリアが先に切り出す。一つ呼吸を整え、若干小さい声で質問する

「アークエンジェルの事だ」

「ああ、なんだ。写真結構取ったよ」

戦場ジャーナリストとなっていたミリアリアにとって、あの戦いは格好の獲物だったのだろう。
バックから取り出された何枚もの写真の中に、撃墜されるセイバー、インパルスがフリーダムを相打ちに追い込んだ瞬間が目に入った

「それにしてもこの合体MS凄いよね、フリーダム落としちゃうんだもん」

「ああ、俺が聞きたいのはそのパイロット、キラの居場所だ」

「ええ?何する気なの?」

「会って、直接話がしたい。それだけだ」

「……ま、あなた個人なら繋いで上げるわ」

アスランが少し笑顔をみせ、礼を言う
ミリアリアもそれに答えて笑みを浮かべた

ホテルの一室で、ミリアリアからの連絡を待つアスラン
その様子を、望遠スコープ越しに見つめる影

「何してるのかなぁ」

タリアから監視を任されたルナマリアが、向かい合わせの建物からアスランを疑視していた

ルナマリアは、アスランに少し好意を寄せているので、できるだけ疑うような事はしたくないという本心こそあるが、その前に一軍人である

「あれ……」

携帯電話を手に取り、しばらく話したかと思うと走り去るように森に隠しておいたZZに向かっていった

一応ルナマリアにもヘリが渡されているが、機動力で劣るのは致し方ない

しかし、追いかけないわけにも行かず、全力で階段を下りて減りに乗り込む。集音機もばっちりだ

「もー、なんでよりによってZZなんて借りるのよー!」

轟音を鳴らしながら凄まじいスピードで滑走するZZを泣き言を言いつつ追って行った


夕方
遺跡のような雰囲気が漂う離れ小島
キラが単身、そこへ来ていた。
ミリアリアが先に着ており、小さく手を振ると小さな高台を指差した

目の前に広がる大きな影。アスランだ
夕日に照らし出され、足元の地面をオレンジに染めた中、一回瞬きをしてキラの口が開く

「……アスラン」

「キラ、何故あんな事をした?お前のやったことはただ戦場を混乱させているだけだ」

「僕も、みんなも、戦いを止めたかったから。アスランがザフトにいる事の方がおかしいじゃないか」

「何がおかしい?」

「デュランダル議長は、ラクスを暗殺しようとしたんだよ?」

一筋、風が海を揺らす。アスランの心も揺れた

「デュランダル議長が?」

「襲撃してきた人たち、コーディネーターだった。MSもザフトのものかもしれないし……」

その時、何故かとっさに口に出た

「決定的な証拠もない上、自演かもしれないのに、よくもまぁそんなことをぬけぬけと!」

「決定的な証拠なら、MSを持ってることとコーディネーターだったことで十分じゃないか。それに、自演ってどういうこと?」

「今、この世界の平和を快く思わずに、ラクスが動いてくれるように願うクライン派のザフト兵もまちまちいるんだ。脱走兵に限らずな」

「でも、いくらなんでもそんなこと……」

「有り得るな。その気になればラクスの為に平気で命を投げ出す奴もいるんだぞ?狂ってるとしか思えない。その通りに狂信者というべきだな」

「だけど、その証拠もないじゃないか」

「だが、お前の言うことも確証はない。その兵が死んだ今、確認する術などないからな」

「……それを抜きにしても、戦いは止めなくちゃならないんだ」

開き直ったように、且つ苦しそうに言葉を吐き出す
アスランがその言葉に噛み付いた

「あの時も言った、その後のことを考えているのかお前は!」

「アスラン!ザフトを抜けて、こっちに来るんだ!そうじゃないと君まで駒に……」

「答えろッ!!」

ビリビリと空気が揺れて肌を伝うような感覚が来る
キラは少し呆然とした瞳でアスランを見つめるが、そうしている間にもアスランの怒りが増していく

「いいか、俺が言えることじゃないが、お前にだけは言わせて貰う。ほったらかしが一番ダメだ、平和は維持する方が大変。それは前も言った。その覚悟がないなら安易にフリーダムにアークエンジェルまで持ち出して戦闘に加わるな!」

「じゃあ、アスランは出来るって言うの!?それを!」

「俺がいるのは軍だ、維持に協力し、全力を尽くすのは当たり前だろ?」

「あの偽者のラクスだって……」

「お前らが世界を放ったらかしで隠居していたことは棚に上げてよく言うな」

俯いたまま黙り、キラは背を向ける
去り際、一言を残して

「……アスラン、何で僕の言うことを分かってくれないの?」

その言葉にも少々怒りが込み上げたが、熱くなっても仕方ないとこちらも去る

集音機を調整しつつ、ミリアリアと同じく目をまん丸にしているルナマリアには気づかず、ZZでただ黙々とブースターを吹かし、ミネルバへと帰艦する背を、ルナマリアはヘリで追いかけていった


その頃、謎の研究所の探索任務を与えられたシンとレイは、漸く探索場所に到着していた
闇が研究所を包む中、地下へ銃を構えて進んでいく

「シン、注意しろよ」

「あ、ああ、わ、分かってるよ!」

どう見ても恐がってるとしか思えない、ただ、それも次第に薄れていったようで、着々と施設の奥へ進んでいく

カツン、カツンと足音が研究所に木霊する中、ある部屋を見つける

「これ、なんだ……?」

研究所の機械などは生きているようで、電気が点いた。
照らし出されるのは、謎の装置。

「……?」

シンは頭を傾げる。何の用途に使うか良く分からない装置だ。レ録音スタジオにありそうな見た目の機械を、軽く足で蹴る

本来鳴る筈の鈍く、響く音とは違う、カランという音が鳴った

振り向くと、レイの足ががくんと地に付いた

「お、おいレイ!」

「あ……ああ……」

憑き物が落ちたかのように、コクン、と頭を垂れる

「ああ……あ……ッ!」

「落ち着け!なんだってんだ、レイ!」

シンがレイの肩を担ぎ、研究所を出てインパルスに連れ込む
ザクを置きっ放しにしたのは気がかりだが、そんなことを言ってられる状態ではなかった

「先生!レイが!」

「……?どうしたんだ、急に」

「シン!」

ステラが抱きついてくるが、そのままレイをベッドに寝かせる

「ステラ、寝てて。俺、すぐあっち行かなきゃなんないから」

「あ、うん……」

寂しそうにベッドに座り込むステラを見て罪悪感を感じつつ、レイを心配する

一つの疑問を、ふと口にする


「……あそこに、何が?」





[916] 15 「声無き慟哭は闇夜に響いて」
じゅう - 2007年03月15日 (木) 23時01分


連合軍、JPジョーンズ
ザフト―ミネルバがかつて連合の使用していたラボを探索しているとの報告が入る

「ネオ大佐、ロドニアのラボ、どうするおつもりで?」

「……放っておく事にしよう。あそこはすでに有益な情報などない」

ネオの言うロドニアのラボは、ある用途で使用されていたのだが、内乱が起き、それが原因となって廃棄された
データこそあるが、それは「ある事」に関しての事しか書かれておらず、重要なデータなど微塵もなかった

それを抜きにしても、今の戦力ではミネルバの戦力に打ち勝つ事は難しいと踏んだのだ
フリーダムの一斉射撃に、ただでさえ削られていたMS、戦艦を更に減らされたのだ
当然の判断といえば、当然の判断であろう

何かと思い、話を聞いていたアウルは、少し顔色を悪くして、走りながらハッチに向かう

横から飛び掛ってくる影。スティングだった
走り去るのを止めようとするが、アウルは跳ね除けてアビスへ向かう

「止めるなよ!あのラボには母さんが……!?」

気づいた時には、自ら「ブロックワード」を発動させてしまっていた。
エクステンデッド特有の暴走を止める為のキーワード。簡単に言えばエクステンデッドとしての機能を停止させてしまう

恐慌状態になり、パニックに陥ることがブロックワードの効果だった

「このままじゃ!母さんが死んじゃうじゃないか!」

アビスに強引に乗り込んだアウルは、ハッチに向かって引き金を引いた



レイは、失調のためにベッドで休んでいた。
その傍らで、アムロとカミーユが話しこんでいる

「なんで僕を連れて行ってくれないんですか!役には立てるはずです!」

「……お前には見せたくないんだ。ジュドーも行かせないようには言ったが……行くのか、それでも」

「行きますよ!ジュドーも呼んできます」



代わりに、タリア、アーサー、カミーユ、アムロ、ジュドー。そして戻ってきたアスランが加わり、新たに探索を進めていたのだ
護衛として、戦闘兵を4人連れてきている。

「艦長……これは……」

アーサーがおびえた声で聞く。タリアはそれを無視し、懐中電灯をある一点に当てた

「ひッ……」

素っ頓狂な声を挙げるアーサー。他の者達も、少なからず言葉を失っていた
静寂が、身を闇に敏感にさせる

ガラスの向こう側―全身にチューブのようなものを繋がれた子供が、事切れたまま放置されていた

その先を進むごとに、廊下に横たわる骸。骸。骸。
白衣を纏った研究員らしき人物も、骸に成り果てている
死臭が漂う廊下には、夥しいほどの赤い液体が飛び散っていた

「か、艦長、データがあります。ご覧になりますか?」

「……ええ、見せて頂戴、アーサー」

カチリ、と機械の電源をつけると、不意に画面が映る
操作をし、データを閲覧する

「エクステンデッド……!?連ぽ……連合の強化人間か!」

アムロが思わず叫ぶが、カミーユは顔面を青くして立ち尽くしていた
ニュータイプとして過剰発達したカミーユにとって、死者の念が渦巻くここは居心地が悪い所ではない
ジュドー、アムロも、軽い吐き気がしてくる
こんな惨状を見せられたのでは、一般人でも吐き気がするだろうが。

「CE64年……廃棄……処分、11……?」

廃棄と言う言葉に、シンが反応した

「廃棄……?薬で弄っておいて、そんな扱いしかされなかったのか、この子達は!」

「そういうことでしょうね……」

「遺伝子を組み替えたコーディネーターは悪い、薬で強化したエクステンデッドはいいって言うのかよ……!」

わなわなと拳を震わせる。ステラも、一歩間違えれば『廃棄』されていたかもしれない運命だったのだ

「……艦長、私吐きそうです」

「我慢なさい、アーサー」

隣に陳列された子供の脳―
口を押さえ、少し後ずさりしながらも、データに目を通していく

「……得になるようなものはないわね、帰艦しましょう」

「了解です」

シンが怒りを押し殺した声で呟く


ミネルバへ着艦するや否や、熱源反応がロドニアに迫る。海中からだった

「敵?たった一機ってことは、施設の破壊が目的って事かしらね」

モニターに映し出されるアビスの姿。MS形態へ変形すると、真っ先にロドニアのラボへと向かっていく

「シンとアムロ大尉を出します。二人はハッチに向かって頂戴」

いくら有益な情報はなくとも、ここは連合の貴重な放棄されたラボ。壊すわけには行かない。
そのためにも、できるだけ少ないMSで応戦する必要があった。
すでに、ラボの近くへアビスは進んでいた

ハッチから弾き出されるインパルスとνガンダムを発見するなり、アビスは一斉射撃を敢行する

「いきなり?荒っぽいな……」

アムロは空へ急上昇、シンは横へ滑走することによって回避
滑りつつ、シンがライフルの射角に入ったアビスへ流れるような射撃を繰り出す
それを肩のアーマーで防ぐと、連装砲で地面を吹き飛ばして牽制し、カリドゥスを放つ

シールドを投げ、カリドゥスに当てる。
勢いのままに弾き飛ばされたシールドを見届けて、アビスに斬りかかった

だが、リーチで上回るビームランスが左腕を突き、吹き飛ばす。
右腕に握られたサーベルが、連装砲の砲身を一つ貫き、使用不能へと陥らせる

「ぐぅ……!だけどぉーッ!」

シンがサーベルをもう一回縦に振う。

「シン、援護は必要か?」

アムロが問いかけたのは、何の意図があったのだろうか。
アビスにアウルが―エクステンデッドが乗っているということを直感して言ったのか
とにかく、シンにできる答えは一つ

「いりません!」

ステラがガイアに乗っていたのなら、アビスに乗っているのはエクステンデッドであると予測できた
アーモリーワンであった緑髪の少年、水色の髪をした少年、あのうちの誰かが乗っているのだろう

出来れば助けたい、出来なければ、せめて自分がこの手で葬る

「えぇいッ!」

インパルスをしゃがみこませ、懐からクナイを握るようにサーベルを持ち、格闘技のアッパーの形で振り上げた

それをバックステップでかわすアウル。腹部についている為、射撃時に構える必要がなく、速射性の高いカリドゥスで反撃する

素早くバーニアを右に吹かし、左へ跳躍。闇夜に重なったインパルスの刃の光が瞬く

アビスのメインカメラの右に切り込みをいれ、一応の損傷を負わせるが、反撃のバラエーナが右足に直撃した

バランスを崩しつつ、チェーンガンをメインカメラに撃ち込む。
ガラスの割れるような音が闇夜に響いていく

ランスが、インパルスの脇腹を掠める。
同時に、空中で横へ蹴りを一閃。距離をとる

「あ……」

蹴りにより、隙が出る。起き上がろうとしたときには、すでに遅かった

「くっそぉぉーッ!」

カリドゥスの赤い奔流が、空間を貫いていく
ランスによって破壊された左腕が握っていたライフルが地面に落下していた為、サーベルを地面に落とし、それを握る

鋭いエメラルドグリーンの光は、カリドゥスとすれ違い、アビスの右肩アーマーの根元から吹き飛ばし、アビスは左腕一本のみになる
これで、互角といいたい所だが

高熱源のプラズマがインパルスのすぐ左を通り過ぎ、機体の排熱量が楽に限界を迎え、装甲が溶解していく

ギリギリ耐えるが、左脇腹が溶け、パチパチと電気がショートする様が痛々しい

「ああああああッ!」

トリガーが引かれる。ビームが3発発射され、アビスの右足の地面に接した部分が吹き飛ばされる

お返しはバラエーナとカリドゥス。下半身は完全に吹き飛ばされ、姿勢制御は殆ど利かない

玉砕覚悟でバーニアをフルスロットルにする。
シンの瞳からは、光が消え、雑念も全てが消えていた

「お前らに、母さんはやらせないぃぃッ!!」

「うあああぁぁッ!!」

頭部が吹き飛び、連装砲が機体に直撃、エネルギーを削っていく。
ゲージがぐんぐんと減っていく中、インパルスとアビスの距離が0に等しくなっていく
サーベルが振りかざされると同時に、アビスも近接戦に対応するべく、ランスを突く
交錯した瞬間、それぞれの運命が決まった

『弾けた』シンからは、雑念が消えていた。冷静だった


それ故に



アウルが指す「母さん」とは、研究所にまだアウルがいた頃に、優しくしてくれた、あくまで他人の女性

薬の投薬により、ステラほどではなくとも精神的に不安定となっていたアウルのよりどころは、その女性となっていた

戦闘能力の高かった3人、アウル、スティング、ステラはやがて、ロドニアを出て軍へと入れられ、『最適化』された
軍へ向かう間際、後ろで、彼女のみが手を振っていたのを今更思い出した
全ての記憶が走馬灯のように脳裏を駆け巡る

「……あ……ぁ。そっか……」

悟ったような声を最後に、目の前が真っ白に染められ、轟音を合図にその命を散らす

インパルスの機体上部に突き刺さったランスの刃が消え、地面へ柄がめり込んだ

その瞬間、シンの瞳にふっと光が戻る。アビスのコクピット右に突き刺さったサーベルが起因となり、崩れ落ちる姿を見て、自分がしたことを自覚した

「俺……ッ」

噛み締めるように静かな慟哭を上げる。コクピットのハッチが破壊された際に垣間見えた顔は、アウルのものだった
爆発的な動体視力は、それさえ捉えていた

だからこそ、悔しかった


爆発したアビスの残骸のコクピットを掴み、血だらけとなったアウルを抱きかかえる。

エネルギー切れ寸前のインパルスのサーベルで地面を裂くと、そこへアウルを埋める

「……いくらあんな所でも、お前に取っちゃ故郷だもんな」

木の枝を添え、それがいつか大樹になる日が来る事を願って

頬を静かに沿って落ちる雫を拭い、再び少年が歩き出した













[917] 16 「クレタ島沖戦線 ―牙を剥く『蛇の尾』―
じゅう - 2007年03月17日 (土) 00時13分

エネルギーの切れたインパルスが、νガンダムの手によって艦へと運ばれていく
ボロボロのその様を見て、メカニックは複雑な面持ちを浮かべていた

コクピットから出てきたシンもまた、沈んだ面持ちで、淡々とドリンクを受け取った後、それを一気に飲み干す
やりきれない、というのが正直な感想だった

「シン」

不意に声を掛けられ、静かに後ろへと振り向く。そこにアムロの姿があった
そっと歩み寄ると、アムロは紡いでいた口を開く

「……残念、だったな。あの少年の事」

「……、いえ、気にしないでください」

「君こそ、気に病んで戦闘で死ぬような事があればあの子が悲しむ、立ち直る事が大切だ」

そうは言ってもらったが、やはり簡単に立ち直れるようなことではなかった
ステラはここに来てから『最適化』を施されていない。
連合でならすぐさまアウルが死んだという記憶を消すのだが、ここではそうも行かなかった
不幸中の幸いとして、ステラは「敵」が来た、としか認識していない。
だが、隠し通せない事は十分承知だ。

「……この戦争が終わったら」

その時は全てを話そう。今はまだ自分にも、ステラにも辛い
そこまで自分は強くはないと、自嘲気味になる

「あの……スティングってのも、いるのかな?」

スティングを指すシン、アウルやスティングの事はステラから有り余るほど聞いた

彼もエクステンデッドなのは明らかだ、だとすれば救いたいのが本心なのは当たり前だ

ベッドに倒れこむシンは、虚ろな目で天井を見上げていた


突然としてシャトル強奪の報が入ってきたのは、それから1日経った日のことだった


バルトフェルドとラクス。
本物のラクスが、ミーアになりすまし、シャトルを強奪したのだ
後に来たミーアに、当然ザフト基地は混乱
追撃のMSもフリーダムに蹴散らされ、あっという間に逃亡を許した

この一件でミーアに対する「偽者」疑惑が浮き彫りになり、対して本物のラクスの方を「偽者」とする人間も少なくないようだった


兎も角、結果としてラクスは宇宙へ上がりプラントへと向かった

その報告を聞くなり、アスランの拳が震える
シャトルを強奪すること―即ちテロリストと同じだ
今までの行動も、すでにテロリスト紛いの物だったが、今回の件ですでにキラ、ラクスへ抱いていた信頼は木っ端微塵に砕かれた

「ダメだ……アイツらを止めないと」

その呟きを、シンも聞いていた。確かにその通りだ。
今回のシャトル強奪、そして戦闘への介入―
そもそも、MSの装備だけを破壊して放置する事は嬲り殺しと同位だ
空中戦がメインのこの時代に、バーニアまで破壊すれば、MSは落下。
中のパイロットがどうなるか分からないのか―

アスランの歯軋りの音が小さく響く。
ミネルバは、ジブラルタル基地へと航行中だった



「……」

「どうしました、大佐」

ネオにイアンが声を掛ける。帰ってきたのは静かな怒りを含んだ愚痴だった

「……クレタ島付近でミネルバを迎え撃て、とさ。この戦力で?笑わせるよな。アウルも戻ってこない上に、カオスが損傷してるんだぜ?」

JPジョーンズ、つまりネオの部隊はアビスがロドニアに向かって間もない頃、謎のMS6機に襲われたのだ

戦艦が一隻沈没。12機のMSが落とされ、カオスは背部バーニアに被弾。

この状態で、ミネルバと戦えというのか
まさに「化け物」である、ミネルバと

「あーあ、俺たちだっていつ死んでもおかしくないんだぜ。あんな未知の技術に超高性能MSがバンバン乗ってる艦に勝てるかっつーの。質がないんだよ、今の連合は」

「はぁ……」

イアンが分かったようで分からないような、疑問を含んだ声を漏らす
ネオもため息をつき、自機―パープルに染められたウィンダムを見上げた


「マッドさん、俺たちのMSの装甲の修理ってどうしてるんですか?」

「んー、出来るだけ残骸は回収して、熱して伸ばしてこっちの装甲と混ぜて補強してる。まあ、被弾すれば被弾するだけ装甲の強度が下がっていくからな」

「そういうことですか」

カミーユとマッドがドックで話し込んでいる。
修理に勤しむメカニックに混じって、U.Cから来た者達は働いていた

「ハイネ、そこの換えコード取ってくれ」

「ほいよっと」

ハイネが手渡したコードをアムロが受け取り、徐に装甲の取り外されたνガンダムの回路を確認し、戦闘の負担で磨耗したコードを取り替える
いざ戦闘と言う時にレスポンスが悪いのでは話にならない

アムロたちの姿勢から、パイロットたちも積極的に整備に参加するようになった
もちろん戦闘に支障が出ない程度にだ。やはり、パイロットの一番の仕事は戦闘だ

しばらくしてパイロット達は軽い食事を取る。
あまり食べ過ぎると、衝撃で吐いたり、そのせいで食道炎になったりと、いろいろと厄介だからだ


突如として警報が鳴る。いつものパターンだ。
呆れたように深く息をつくと、タリアは艦長席に体を預ける

「今回はルナマリア機、レイ機のみを艦の上で待機させて。ほかのMSは出撃!」


「ぶふッ」

ルナマリアが咳き込んだ。食事中にいきなり警報を鳴らされたためだ
水を少し喉に通し、茹でられた人参をトレイに置いたまま、駆け出す

シンがコップをテーブルに置き、一息ついてインパルスに乗り込む
あの損傷からして、インパルスが合体式でなければ出撃できなかったであろう。

「シン・アスカ、フォースインパルス、行きます!」

カタパルトが風を切るような音と共に、空へと弾き出されるインパルスをZが追従する
セイバーは今だ修理中である。
というか、修復可能なのかどうかさえ分からない状態だ


「相変わらずあの部隊だろうな」

「そうだな」

奥に見えるは隊長機であるパープルカラーのウィンダム
そして、改良型ウィンダムが3機

相手もいい加減慣れて来たのか、少しばかり動きがいい
幾らかこちらの射撃を避け、反撃を返してくる

「流石にデータもたまるって事か……」

シンの呟きは的を得ていた
とはいえ、機体の性能差がじわじわと現れ、撃墜数が少しずつ、少しずつ減っていく

「ええい、やはりバケモンだな、ありゃぁ!」

ネオはミネルバとの戦闘が専門になってから、撃墜数は一度もスコアを稼げていない
たかが一小隊にこれだけの戦力が集まるのは異例だ

上層部は、お前の部隊は無能だ、次はちゃんとやれ、そういうばかりで梃子でも動かない

(フリーダムが、こいつらを撃墜してくれればな……)

無論、こちらも大多数が撃墜されるかもしれないが、運がよければミネルバ隊のMSを戦闘不能にしてくれるかもしれない

程なくして、その考えをすぐに打ち消した。自分が死んでは元も子もない


フットペダルを押し込み、最大加速でインパルスを狙う
しかし、本当の標的はそれではない

すれ違い様スティレットを投げて牽制。一瞬動きが止まったインパルスの右を抜け、ミネルバへと滑走する

「しまった!母艦を狙うつもりか!」

すぐさまネオのウィンダムに射撃を行うものの、まったく当たらない
読まれているようにも思え、背筋に悪寒が走る

それを手助けするように、他のウィンダムも命がけでぶつかる
もはや「死んだ兵」となった者は、技術など関係なしに突撃
否応無しに、ネオを追う暇もなくされる

「撃ち落すのよ、チェン!」

「は、はい!」

ミサイルを発射するが、単調な動きの弾体をネオは避けさる。
そして、ライフルのトリガーが動く

呼応して出現する閃光が、ミネルバのミサイル発射管に誘爆。
想像以上の衝撃だ、クルーは何とか耐える


「イゾルデを撃って!足止めでいいわ、MSが戻ってくるのを待って!」

変形し、急旋回したZZがビームキャノンを轟かせながらウィンダムへと近づく
少々強引に抜けた為か、所々装甲が傷ついている点が見受けられる

MSに変形しなおし、ダブルビームライフルでウィンダムの右へと放った

「タリアさん、左にミサイル!」

左へとかわしたウィンダムに、残りのミサイル発射管が弾を撃ち出す

降り注ぐミサイルに紛れて、イゾルデの砲弾が飛ぶ

ウィンダムの左足、左腕を爆砕し、その隙を突いてZZが光刃を振り下ろした

「ちぃっ!堕ちろ!」

振り向き様放たれたサーベルの一撃が、ZZの胸部へと直撃する
一瞬だけ耐えるが、持続して当てられるビームに装甲は溶け、爆炎をあげながら推力を失っていく

「うわッ!?そんな……」

完全に貫通されなかった分まだ良いが、ZZの機能が大幅にダウンし、モニターが消える
操縦もままならない状態で、ZZの体が海面に叩きつけられ、天高く水しぶきを上げた

一瞬垣間見えた虹を確認する間は、戦場に無い


「ジュドーが……貴様ぁ!」

咆哮とともに放たれたZのサーベルが、ネオのウィンダムの右腕を奪い、戦闘能力をなくす
続けざまのハイメガランチャー。しかし、他のウィンダムによってそれは阻止される

「またあいつら!」

頭に閃光が走る。カミーユが察したウィンダムのパイロットはいつもの通り不死身の第4小隊であった

Zのグレネードランチャーが空を進む
ワイヤー装備型グレネードは、モンシアのウィンダムのジェットストライカーに絡まり、動きを止める
そこへνガンダムがライフル連射を敢行するが、アデルがモンシアを引っ張って逃げる

ワイヤーをアデルが焼ききると、海に落ちたグレネードは爆散。
モンシアのライフルとアデルのライフルが同時に鋭利な光を発射する

νガンダムのシールドが受け止め、シールドに仕込まれたビームキャノンを使用する
瞬間的な轟音。空を裂いていくビームを避けたベイトのスティレットがνガンダムに命中するものの、刺さった瞬間叩き落される

「俺だってフェイスだ!」

ハイネのグフがスレイヤーウィップを射出。アデルのウィンダムに巻きついた。
高周波パルスによってウィンダムの下半身と上半身が分断される

脱出したアデルを庇うようにモンシアのウィンダムがハイネに飛び掛る
振り下ろされたサーベルにドラウプニルで応戦するが、容易く回避され、そのまま左腕を切り落とされた挙句にベイトの援護射撃が腰部に直撃する

「……腕が、違うなぁ」

フェイスである自分があっという間に落とされた
その事実を再確認し、諦めたようにベイルアウトする

空中で四散するグフを名残惜しげに見つめつつ、海面に落ちたハイネは奇妙な光景を目撃する

「……モビル……スーツ?」

小島に見える砲口の煌き。それがミネルバへ向けられ、一瞬の弾丸がミネルバに直撃する

「ガンダム!?」

声を荒げるアムロ。それだけではなかった

1機、2機、3機、4機、5機、6機

MSが続々と出現し、ミネルバへと向かう

灰色にコーティングされたブレイズザク、そして青色のガンダム―

否 アストレイ

「任務開始だ、イライジャはガンダムタイプを叩け」

「ええー、俺がかよ?」

「大丈夫だ、4機をサポートにつける」

「分かったよ、無事で帰ってこいよ、ガイ」

「イライジャこそな」

ガイ・ムラクモ。傭兵部隊「サーペントテール」所属。
イライジャ含め、5人も同じだ

「行くぞ、相手はガンダムだ……、慎重にな」

「言われなくったって分かってるよ」

「隊長、俺が牽制役に回る」

シロー・アマダ、カレン・ジョシュア、テリー・サンダースJr。
彼らもまた、U.C世界の人間である
カレン、テリーは陸戦型ガンダム、シローはその陸戦型ガンダム改修機―Ez−8。

そして、一機のガンダムタイプ
所々装甲の色が違う。つぎはぎだらけのMS

コウ・ウラキ―GP01ゼフィランサス
U.Cで大破し、ここに『来た』この機体をサーペントテールが回収し、他のMSの部品で修理した
そして探索任務中、コウを発見。保護。

今では、コウはサーペントテールの一員となっていた

「……モンシアさん」

「あん?コウじゃねぇか、何やってんだそんなところで」

「……今回は任務です、援護させていただきます」

「ケッ、りょーかいりょーかいっと」

そうは言うが、モンシアはコウが少し逞しくなった事に気づいてはいた

「あーもう!敵増えちゃったじゃんかよ!」

回収されたジュドーとハイネは、戦況を見守っていた
特機が6機も現れたために、戦況がひっくり返る

被弾さえしていないが、アムロ、シーブック、カミーユは足止めを喰らい、砲弾の雨に晒される

シンのインパルスは一度胸部にキャノンを被弾しており、エネルギーが急激に減っている

レイ、ルナマリアはガイの猛攻に攻めあぐねていた

「ルナマリア、しっかりしろ。今までの相手とは違うんだ」

「そ、そんなこといったって……」

当たらない。タダでさえ射撃は下手なため、海を撃っているようなものだ
レイも、弾数の多いミサイルが当たらない。それどころかあの多機能型バックパック「タクティカルアームズ」から放たれるマシンガンの嵐に全てを撃ち落され、反撃される

「隙だらけだ」

「あ……」

突如として艦に上がってきたブルーフレームセカンドLの一撃を受け、ルナマリアのザクが肩から腰にかけて袈裟切りにされる
重量感ある音がレイの頭に響く

「ぐっ!」

振り回されたタクティカルアームズがレイのザクに牙を剥く
一瞬煌いたかと思えば、メインカメラを吹き飛ばされた

そこから先はされるがまま。3回ほど胴体を切りつけられた

致命傷こそ避けたが全機能は停止。真っ暗になったコクピットの中で、レイは舌打ちする

「ミネルバが!」

ミネルバの危機を感じた瞬間、シンの中で「種」が弾ける。
瞳の光を失ったシンは、淡々とウィンダムを斬り捨ててブルーフレームに斬りかかる

「……ッ!」

「なかなかだな」

サーベルでタクティカルアームズと切り結ぶ
火花を散らしながら切りあうが、たびたび繰りだす仕込まれたマシンガンにエネルギーを削られる

咄嗟にシンはデュートリオンビームを要求
一旦艦上から大きく離れると、細いレーザーが額に照射される

改めてブルーフレームに特攻。ミネルバに当たる可能性もあるため、こちらは射撃武器を使えないのに対し、あちらは躊躇なく使える

不利ではあったが、接近戦で気を引き、ミネルバへの攻撃をある程度抑えられる

インパルスの胴体への一撃をバックステップで避けると、マシンガンでメインカメラを射撃する
シンもそれに反応し、シールドで防ぐ

「ミネルバ、ソードシルエット!」

射出されたソードシルエットを追いかけるようにインパルスを操縦し、フォースシルエットをパージ。
連結音が鳴ると同時に、エクスカリバーを手に取る

落下しつつ刀身をブルーフレームに向ける
その一太刀を避け、タクティカルアームズを背に突き刺す

VPS装甲が防ぐが、艦上に叩きつけられ、足で踏まれて動きを封じられる

しかし、フラッシュエッジを投げつけ、ブルーフレームの右足を切断する
弧を描いて戻ってきたそれをキャッチし、もう一度投げる
それを2回繰り返した後、フラッシュエッジによる攻撃を止め、エクスカリバーでの近接戦に移行する

事実上陸で戦っているのと同じなため、右足を失ったブルーフレームは圧倒的に不利だ
それを分かっているのか、空中に上がってマシンガンを乱射する
インパルスだけでなく、ミネルバに傷がついていく

「止まれぇぇーッ!」

空を貫く一つの機影。そのままブルーフレームに突撃をかけた

「ぐッ……?」

「堕ちろぉぉッ!」

Zガンダム―その存在を認識した瞬間、モニターに移ったのは大口径のランチャー

ビームが発せられ、スラスターで横に回避しようとしたブルーフレームの胸部を砕いていく

「うああッ!」
インパルスのエクスカリバー。横一閃された一撃に、ブルーフレームが吹っ飛んだ

しかし、タクティカルアームズを投擲、Zのコクピットを捉える

「……!」

ガコン、と鈍い音がしたが、シールドによって耐える
空中で2回回ると、海に落ちていくブルーフレームを見た

「真剣にやり合っていたら、負けていたか……?」



その残骸をイライジャのザクが回収して行き、撤退する
とはいえ、残りのサーペントテールは4機
まだまだ、こちらを脅かす存在だ

「これもU.C製?」

アムロが疑問を口にしながら、Ez−8に仕掛ける
性能なら勝ってはいるが、チームワークのよさからなかなか隙を見出せない

「……落とさせてもらうッ!」

ミネルバはこの3機の射撃によって甚大な被害を負っている
戦艦にとって、遠くから射撃でどんどん攻撃をかけてくるタイプは苦手だ

母艦を潰されればタダではすまない。ライフルを連射しつつ、近づく

「来た……ガンダムが!」

シローのトリガーを持つ手が震える。所詮、自分たちの勝っているガンダムは本物のガンダムではない
性能も、ガンダムどころかνガンダムが相手となると差は一気に広がる
勝つためには、連携が大事だった

ロックオンマーカーにνガンダムを捉え、カレンと自分で一斉射撃を掛ける
テリーはカバー役。射撃が失敗した際に牽制し、体勢を立て直す時間を与える

だが、アムロはその目論見を破る行動に出る

ダミーバルーン。ロックオンを外すとバズーカでテリー機を小破させ、3機の陣形に突っ込んでど真ん中に降り立つ
背後を突かれたシロー達だが、180mmキャノンでνガンダムの胸部に射撃
よろけたνガンダムに至近距離からの一斉射撃を掛けるが

「まだだ!」

砲口にライフルを撃ち込まれ、誘爆。
しかも2機同時にやられた。顔面蒼白になったシローは、マシンガンで攻撃するが、通じない
バズーカをほぼ0距離で地面に撃ち込まれ、行動不能になったシローたちを、アムロは見逃す

「バーニアは生きているはずだ、逃げられるな?」

「……撤退するぞ!」

アムロの問いかけに、一瞬呆けたような顔をするが、シローはすぐに撤退。
残るはコウの改修型ゼフィランサスだが、機動力が半端ではなかった

武装はビームライフルとサーベル、頭部バルカンのみ。
グレネードなどの携行武器は一切持たず、ただ機動力を特化した機体

ミネルバの周囲を回りながら執拗に攻撃を仕掛け、迎撃は避ける。
一撃離脱の奇襲型。そういって差し支えない。

「このゼフィランサス、予想以上に速いな……」

海上を疾走し、通った後には飛び散る水しぶき
だが、機動力ならあの機体も特化していた

「小さい……ガンダム?」

F91。小型のそれは高機動力を有し、尚且つ火力も高いフォーミュラ計画によって生み出されたMS

流石に『潜在能力』を発揮していない状態では今のゼフィランサスには追いつけないが、速さならミネルバ隊1といっても過言ではない

そして、腰部に取り付けられたヴェスバーが、ゼフィランサスをロックし、速攻で発射
最大加速に設定され、貫通力に優れたビームがゼフィランサスのブースターの一部を破壊する

「あのビーム、速い!」

背後へライフルを撃ち、海上へと突入したかと思えば急浮上、シーブックを撹乱する

このままでは埒があかないと判断したコウが急旋回し、F91に標的を切り替えた

横滑りしつつライフルで攻撃。ヴェスバーを発射するが、ゼフィランサスは受け流すように回転し、避ける。
回転しながらバーニアで姿勢を調整し、ライフルのトリガーを連続で引く

避けられたビームが海に直撃し、大きな水しぶきを上げて消える
F91のデュアルアイが光り、その場で一度静止

「スピードの速いヴェスバーで!」

ライフルは軽々と避けられる
なら、最大速度のヴェスバーで。技術が未熟なシーブックなりの作戦

再度動き出し、ゼフィランサスを追いかける。
腰部から突き出たヴェスバーが閃光を発射しつつ、メガマシンキャノンを使う

くるりとこちらへ方向を変えたゼフィランサスを確認し、サーベルを抜刀
凄まじいスピードで切り結びあった結果、出力で勝るF91はゼフィランサスを海面へ横倒しにする
ゼフィランサスのウィークポイントは、パワー不足
それをスピードに乗せて攻撃を行なう事でカバーしていた

「ここしかチャンスは!」

ヴェスバーが爆発音すら上げず、ゼフィランサスの下半身とバーニアを砕き、貫いた

「全滅……」

ゼフィランサスのボディがF91に掴まれ、捕獲される
バーニアまで破壊され、もう仲間は全て撤退している。何も出来なかった
自らの引き際の甘さを呪いつつ、だらんと項垂れたゼフィランサスはミネルバのドックに運び込まれた


サーペントテールが全滅すると同時に、連合は撤退を開始
だが、こちらも被害は甚大だ。
次々と着艦するMSを、捕虜となったコウは見ることは出来ない
営倉に入れられ、絶望感に打ちひしがれる彼の元に、アムロの姿があった

「……あなたは」

「アムロ・レイ。U.Cからここに飛ばされてきたうちの一人さ。他にもいるぞ、この艦にはな」

苦笑しながら、アムロは言う。だが、コウの顔には明らかな驚きが滲み出ている

「あなたがアムロ・レイ!?」

「え?あ、ああ……」

先ほどと打って変わったテンションのコウにたじろぐ。
アムロは、一年戦争で連邦の勝利に多大な貢献をし、軍の歴史教科書にも載った

それをアムロも知らないわけではないが、ここまで驚かれると複雑な気持ちになる
何せ、彼が知っているのは一年戦争当時のアムロで、今ここに居るアムロは第二次ネオジオン抗争時のアムロなのだ

「あれ、でも文献には15歳って書かれてたような……」

「……まぁ、それより後の時代のアムロだからな、俺は」

「?」

少し事態が飲み込めないコウ。

「要するに、それは宇宙世紀0079年の俺、ここに居るアムロは0092年の俺だ」

ポカン、と口を開けたままのコウだったが、やがてどちらも機械に詳しく、話が合うようで、ひと時会話を楽しんでいた

「……ついていけないや」

「まったくだ」

それを影から見ていたジュドーとハイネが一言呟いた





[918] 17 「闇の先に ―強大すぎる力は―」
じゅう - 2007年03月19日 (月) 21時05分

あれから二日がたった
ハイネ機、ルナマリア機が大破、ジュドー機、レイ機中破。
4つの戦力を欠いた上、νガンダムも小破。
ミネルバも大きな傷を追い、推力が大幅に低下、エンジントラブルも重なり、メカニック達はフル回転。
その所為で立ち往生し、二日という大きなタイムロスが生まれていた

今ではエンジンも復旧。スラスターこそ満足に動かないが、周りを警戒しつつジブラルタルへと向かっていた

武装も殆ど破壊され、ミネルバはまともに戦える状態ではない
MSは小破したνガンダム、Z、F91、インパルス。
パーツの互換性が良いインパルスが要となる。

とは言っても、出来るならば敵から襲撃を受けたくないのが本音だ


「ルナ」

シンの声は医務室から聞こえた。タクティカルアームズによる斬撃で重傷を負ったルナマリアの様子を見にきただけなのだが……
片腕にべたべたと抱きついているステラを苦笑しながら一瞥し、視線をルナマリアへと移す

コクピットに直撃していたら死んでいたであろう一撃は、ものの見事にルナマリアのザクを真っ二つに仕立て上げていた
ドックには、ゼイバーに続いて第二号となる「スクラップ」化したザクが転がっている
しかも、四肢を両断されたセイバーはまだしも、胴体部を袈裟切りにされたザクは修復不可能。完璧なスクラップと化していた

「あーあ、最悪。ザクは壊れるし、怪我するし……」

ルナマリアに不機嫌そうな表情が浮かぶ。一度天井を見上げ、シンのほうを見る

「……相変わらずね」

「どういう意味だよ!?」




ミネルバでメカニッククルーが忙しく走り回っている一方、アークエンジェルの下に一隻の桃色に染められた戦艦が在った

プラントから帰って来たラクスは、かつての大戦で使用された三隻同盟のうちの一隻―エターナルを引き連れていた

「ラクスさん……」

「……強大すぎる力は、また争いを生みます。私達はそれをとめなければなりません」

マリューの掛けた声にラクスは静かに応答する
キラもその場にいた

「僕も戦いたくはないけど、戦争を止める為に出来る事をするって決めたんだ」

「ラクスさん、偽者についてはどうするの?」

「私が平和を放っておいたから、やむを得ずあのようなことになってしまったのです。いずれ真偽を明らかにすることになり、あの方には辛い思いをさせるかもしれません。それでも、平和を勝ち取った後はそのような思いが作られない世界を築いていく覚悟です」

「アスランも、連れ戻さなきゃならない。ミネルバも止めなきゃ……」

彼らの一番危険視する相手―それこそがミネルバだった
しかし、悔しいながらも今現在キラだけでは勝てない

「そうですわ、宇宙でよいものを拾いました。それに、人も」

「?」

「戦争を止める為の鍵となる物です。彼も協力してくれるそうですし」

そこまで言って、エターナルから金髪の男性が降りてくる
一瞬目の前で自分を庇って散った「恋人」の事を思い出しそうになったマリューは、頭を横に振った

「彼がその人……シャア・アズナブルさんです」



仮面の男―ネオが、目視でミネルバを偵察していた
傷ついている今のミネルバなら勝てると踏んだのだ。
こちらはあの間に補給を済ませ、新たにウィンダムを20機ほど調達した

チャンスはコレしかない。コレしかないのだろうが、焦りすぎても返り討ちだ。あちらにはまだ強力なMSが数機いる

「何かないか、もっと決定的なチャンス……」

その頃、JPジョーンズのレーダーが、新たな敵影が映っていた


「艦長!アークエンジェルと……エターナルが!」

「……各パイロットをMSに待機させて。ここが踏ん張りどころよ」



「シン?また、行くの?」

ステラが寂しげな目で見つめる。何やら出撃しにくい雰囲気が漂う

「ああ、もう。戦闘だから、ステラは医務室で大人しくな!」

「私のことはどうでもいいのね」

「……それじゃ」

ルナマリアの視線に痛いものを感じたシンは、逃げるようにその場を退散する

「……シン」

NTや、U.Cの強化人間とは違う、あくまでエクステンデッドとしての勘か、ステラは不安げな顔をしてシンを見送った


「お待ちください、此方に交戦の意志はありません」

ラクスの声が、モニターを通してミネルバに響く
アスランに、出撃しようとしていたシンも、暫し目をそちらへ向けた

「ミ……ミリアリア!?」

「ごめん、アスラン。やっぱり私ラクスに協力する」

別にこっちに協力しろとも言ってない。だが、恋人、ディアッカはザフト軍。つまり恋人と交戦する可能性のあるアークエンジェル側につくのは考えられなかった

「お、お前、ディアッカは……」

「ふっちゃった」

極めて明るい口調で言うミリアリアに、アスランはため息を漏らした

「……あなたたちが持っている力は強大すぎます。その力を誤った方向へ使えば、また世界は戦乱に包まれる……、お願いです。どうか戦闘を中止し、私達に協力してください」

モニターこそ見えないが、ドックにいるカミーユにも心の隙間に入り込むような声が聞こえていた
いろいろと反論してやりたい、苛立つ、そう思うが、一度深呼吸をした後、壁に頭を軽く打ちつけ、気持ちを落ち着かせた

「……お前らが持っている力は強大じゃないんだな」

「平和のために、人を殺すような真似はしません。それよりも、戦闘の中止を望みます」

シンの質問は上手く流される。その赤い瞳に明らかな怒りが浮かんでいるのも見えた

戦略級MS、フリーダムを所有しておいて何を言っている
戦争に絡んでいる時点で、お前らは何人も何人も人を殺している
割と、その考えがすんなりと浮かんだことに自分でも驚く


「とにかく、戦闘の中止は受け入れてもいいです。此方も大変な状況ですし。しかし、同盟だけはどうしても受け入れることは出来ません」

「……なら、あなたたちを止めて見せます。それでも、謝った道を選ぶのですか?」

「MS発進させ、イゾルデを撃つのよ、チェン」

「はい!イゾルデ、撃てーッ!」

タリアにもうラクスの言葉を聞く理由はない。奇襲に近い形で放ったイゾルデが、エターナルに直撃した

「止むを得ません、フリーダムと、彼を発進させてください」

「ああ、サザビー、出るぞ」




―1ヶ月前

クライン派勢力秘密工廠が見つけた、脱出ポッドと一つの半壊したMS

そのMSの装甲、技術に、メカニック、エンジニアたちは天地がひっくり返るほどの衝撃を受けた
軽く、はるかにこの世界のMSより硬い装甲。
そして、νガンダムにも搭載されたサイコフレーム、機体に入っていたデータの数々―

『世界に平和をもたらす』
その方法、そして狂信者の話を聞いたシャアは、自分におあつらえ向きの組織だと笑い、協力を申し出た

その結果、狂信者がただラクスの役に立ちたいという思いに突き動かされ、死に物狂いで新型のMSを開発。今はまだ少ないが、量産されることになったのだ


「ギラ・ドーガ……!?」

アムロが驚愕を含んだ声をあげる
ネオ・ジオンの量産型MS。それがこの世界にある。
その矛盾を打ち消す赤いMS。それは出撃したνガンダムへと接近する

CE世界の装甲を応用し、少しばかり耐久度は落ちたが、長トップクラスの耐久度を保つ重火力MS・サザビー

そして、それに乗っている奴は、あの赤い彗星以外、考えられなかったのだ

「……シャアか!」

「アムロ!」

サザビーもファンネルは持ち合わせていない
お互いのサーベルが弾け合う中、インパルスは真っ先にフリーダムへと向かう
ギラ・ドーガに乗ったバルトフェルドには目もくれない

「やめろ、お前らのやってることはテロ行為なんだぞ!それに、平和を求める為に損傷した艦を襲うのかよ!」

「仕方ないじゃないか!君達が否応なしに来るんだから……!」

「あんたは……あんたは一体なんなんだーッ!」

フリーダムの一斉射撃を封じる為、一気に懐まで詰め寄り接近戦
前もやった危険性の高い賭け。

数分ほど鍔迫り合い、膠着状態になるが、どうにかして戦況を動かそうと、シンが動き出す

チェーンガンで牽制。フリーダムの一撃が右腕を捉えようとした瞬間、レッグフライヤーを射出
フリーダムの胸部に直撃するが、勢いがついていないため、爆発せずにその場に浮いた

だが、隙を作るには十分すぎる。サーベルがフリーダムの胸部をかする

「チィッ!」

「このパイロット、なんて戦術を使うんだ……」

一歩間違えれば自分も爆風に巻き込まれてしまいかねない攻撃を何もためらいなく繰り出せる事に、感心より先に恐怖を覚える
だが、距離が開いた事をチャンスと思うや否や、翼を前方へと向ける

レッグフライヤーを再連結したインパルスは、その砲口のきらめきに気づき、横へ機体を滑らせる
風を切るように回避行動を取ったインパルスだが、左腕、左足をバラエーナがもぎ取り、レールガンも胸部に直撃。エネルギーゲージが減る

苦汁を舐めたような表情を見せ、シンは舌打ちする
体を右へ仰け反らせながら、ライフル。

小刻みにバーニアを使い、左右へ移動。その間にもライフルのトリガーを何回も引く
しかし、それを全て避けたフリーダムは、サーベルで四肢とメインカメラ、バーニアを斬り飛ばしてしまう

「ミネルバ!レッグとチェスト、フォースシルエットも!」

「あ、はい!」

メイリンの間の抜けた声が響き、一斉に射出されるパーツを受け取り、換装
瞬間、ミネルバへと反転するインパルス。
即格納庫からエクスカリバーとビームジャベリンを手に取ると、フォースシルエットを装備しつつもブラストとソードの装備を装着した状態へ

コレならリーチ、パワーで負けず、機動力の面でも食いついていける
即興で作った作戦だ

一斉射撃を免れる為、素早く海面を移動し、ミネルバから離れる

ジャベリンの柄が偶然フォースのサーベル収納部分にぴったりだったため、格納。右手にライフル、左手にエクスカリバー。

そのまま切り結ぶ。弾け、交錯。マニピュレーターを操作、ライフルのトリガーを引く

大振りの一撃は、インパルス、フリーダム双方に隙を作る事もあった
だが、キラの操縦技術に振り回され、次第にシン自身のダメージが増幅していく

「うぅッ……!」

精神をすり減らしてインパルスを操る。ギリギリだ
すでにインパルスの機体にはかすり傷が大量に出来ていた。
それは、紙一重でかわし続けている証明であり、限界が近づいていることの証明でもあった

しかも、そこへ連合軍が介入
飛び出してくるウィンダムを見て、背筋に悪寒が走り、どの瞬間、疲れがどっと出たような感じがした
紫色の隊長機もフリーダムの巻き添えにはなりたくないとばかりに避け、ミネルバを狙う

「ぐうううぅッ!」

すれ違い様、次々とウィンダムの牽制のスティレットが当たる
流れ作業のような攻撃で、インパルスのエネルギーはどんどん減る

「くっそぉぉッ!」


エクスカリバーで横へ一文字に切り裂く。自暴自棄になって放った一撃が、偶然にもフリーダムのシールドを捉え、真っ二つ。使い物にならなくなったシールドを海面に落とすキラ

「当たった?」

予想外の攻撃。突拍子もない攻撃を次々と繰り出すシンに、キラは疑問を覚えるほどだった

タダでは攻撃を受けない。肘打ちでエクスカリバーの切っ先を下へ向け、右足で蹴り
そして、そのまま宙返りして一斉射撃

「……ッ!」

避けきれない。そう判断し、本能か何かが体を動かし、衝撃に備え身構える

しばらく待っても、衝撃は来ない。ふと目を向けると、白いザクが目の前で破砕されていた
コクピットから金髪の少女が見えた。


「ス……ステラ……?」

ステラがバーニアと両腕まで修理が終わったレイのザクを無断で奪い、自分のインパルスの身代わりとなった

ザクはキラの戦法だからこそ直撃を免れたが、再度中破
コクピットからステラだけが放り出されるの様子が瞳に映る

そこまでの事実確認に要する時間は、然程なかった。何故医務室を抜けたか、そんな疑問も、何も浮かばなかった
そして、そこから種が弾けるのも、あまり時間は要しなかったのだ

「あ……」

インパルスの限界を超えた稼動でフリーダムの両足を切断し、反撃として放たれたレールガンを、キラをも越える反応で避ける
機体耐久度が限界を超えたため、軋む音が警告音に紛れて聞こえる
それさえも聞こえない。ただ写る目の前の自由へ剣を振り下ろす

「お前はまたッ!なんでそうやって大事な人を奪うんだよ!フリーダムッ!」

「くっ……憎しみに振り回されちゃダメだ!」

「自分が憎しみを生んでるんだ!気づけよぉぉッ!」

インパルスのエネルギーも機体もガタガタ。この一撃で決める
換装している暇はない。せっかくのチャンス、逃しはしない

聖剣の名を冠する対艦刀が、フリーダムの胸部を切り裂くが、ワンステップ差で致命傷は避けられる。
同時に、インパルスが崩壊を始め、ばらばらになってコアスプレンダーのみが空に残った

撤退するフリーダムたちを怒りを灯した目で睨み、すぐに換装。
ウィンダムたちを次々と蹴散らす。
今の状態のシンに、最早ウィンダムのパイロットの技量では追いついてはいけなかった

「紫!お前だけでも落とす!」

「付いて来るか!この化け物!」

カミーユたちの援護も有って、すでにウィンダムは全滅。ネオのウィンダムのみが残っていた

「やめろシン!深追いは禁物だ!」

アムロが一喝し、瞳に光が灯っていく。がくんと、体が地に吸い付くような感覚が来る

「畜生……ッ!」

レバーを握り壊す勢いで腕に力を込める。
一瞬、海に手を伸ばす紫のウィンダムの姿が見えたが、今の自分にはインパルスは操縦できない

海へと落ちていくインパルスをZガンダムが受け止め、よろよろとミネルバまで運んでいく

Zがフリーダムの一斉射撃の標的の一つとされ、背部バックパックに被弾、νガンダムがサザビーとの激闘の末中破、パーツを回収したが、しばらくは運用を停止するらしい

アムロは自室に篭り、なにやら考え込んでいるようだ。暗い様子ではなかったため、アスランはあまり心配していない

あの時、ステラに弾き飛ばされた自分は、事を知っていた。

医務室を強引に飛び出したステラ。止めようとする警備兵もエクステンデッドのステラはお構いなく格闘で黙らせる

艦橋へ出たステラは、モニターでフリーダムに追い詰められていくインパルスを目撃し、その後は―



身代わりなど、余程の事がなければ出来ないものだ。
アスランは止められなかった事が歯痒い
何もかも、自分の失策で失っていく気さえした

シンは、自室でレイとPCを立ち上げ、映像を見ていた
なにやらアブナイものではなく、MSの戦闘データだ

「フリーダム……」

より一層打倒フリーダムを誓うシン、憎しみだけではない使命感、悔しさ、さまざまな感情が入り混じる中、強い決意を瞳に宿したまま、その海域を後にした
微かに、『ステラは生きている』、そう信じて

いよいよ、ジブラルタル基地へと入港する

[920] 18 「正義 奪還 ―アスランの運命 前編―」
じゅう - 2007年03月22日 (木) 00時04分


やっとの事でジブラルタル基地へ入港したミネルバは瀕死の状態だった
イゾルデ、ミサイル発射管が5つ、大まかに説明すると、コレだけの装備が残されており、タンホイザーも、他のミサイル発射管も全て破壊されていた
MSもスクラップとなったザク一機に加え、大破、中破したMSが多数
ルナマリアが重傷、ステラが行方不明。
これまでで一番苦しい道のりであった

基地へと入港するなり、総がかりで修理が行なわれる。
修理不能のルナマリアのザクは、早々とパーツだけを剥ぎ取られて再利用されていく
まさに休む暇もない。

ここまでメカニックが必死になっているのは、連合軍本拠地「ヘブンズベース」攻略が迫っているからだ

デュランダルの演説、それに加えてユニウスセブン、オーブ防衛戦の時から急転換したザフトの意向―難民などの援助を積極的に行なうことによって、ゲリラの動きが活発化

これに危機を感じたジブリールがヘブンズベースへと逃げ込むこととなり、その報を受けてから、ザフト軍はジブラルタルへその戦力を集結しつつあった

「凄い数だな、これで本拠地を叩くというわけか」

すでに入港したザフト艦がずらっと海に並んでいる
当然、MSもかなりの数があり、壮観だった

それよりも、アムロが気になるのはコウの処遇だ。ゼフィランサスも未知の機体であり、改修されたとはいえルナ・チタニウム合金が所々に施されているのだ
自分の考えとしては、この世界にU.Cの情報をばら撒くのは避けたい事である

そう考え耽っていると、ミネルバから兵士に連れられるコウの姿が見えた

ゆっくりコウに近づき、兵士に同伴させてもらうよう願うと、あっさり了承を貰った
戦果はずば抜け、階級もそこそこ高いので、反論する余地はなかったのだろう
どうせ仮染めだ、そう自嘲気味になりながら廊下を歩く

兵士の低い声とともに、ガチャリとドアの扉が開く

ここの司令官らしいその人は、あごひげを生やしており、いかにも、といった面持ちだ
だが、同時に少し穏やかな雰囲気さえ漂っている

「君がアムロ・レイか、聞いている。凄まじい戦果だったそうだな」

「有難う御座います」

「で、どうして君がここへ……」

「この捕虜……コウ・ウラキの処分はどうするつもりですか」

「銃殺刑だろうな、軍艦に攻撃を仕掛け、重大な被害を被っているのだから」

予想通りとはいえ、アムロは咳払いをし、コウを見た
覚悟していたのだろうか、あまり動揺は見られない

「それを取り消してくれませんか」

「なんだと?」

「このコウ・ウラキも私と同じU.Cの人間です。ここで銃殺刑にすれば時代が歪むかもしれない。全く持って非現実ですがね」

「だが、こちらの世界に関係のない世界を持ち出しても、罪は消えないぞ、アムロ君」

「この青年は、我々に協力してくれると言いました」

アムロに驚愕の視線を一瞬向けるコウだったが、すぐに開き直る形で表情を引き締める
もちろんハッタリだ。見抜かれればおしまいかもしれない

「手伝います、僕は傭兵です、普通の兵より下の給料でもいいです、雇ってください……!」

口元は震えていたが、何とか言い切る。給料といったのは、無意識にだ
気が強い方ではないコウは、自分から見れば平然としているアムロがうらやましい
もっとも、アムロも少なからず緊張しているが

「……いいだろう、今は少しでも戦力がほしい。ただし、報酬は通常の4分の1……いいかね?」

「はい、出来ればこの戦争が終わるまでは雇ってほしい所です」

「了承した。珍しい傭兵だな、君は」

静かに微笑む司令官に、コウの顔が僅かに綻ぶ。
部屋を出て、ミネルバへと戻ったときにはアムロに礼を言おう、そう思った

艦隊の集結まで、あと3日程度らしい
何せ、連合の本拠地だ。戦力は整えなければいけなかった
特にミネルバ隊の特機は重要視され、修理ペースは凄まじい

シンはそれに何か痒いものを感じつつも、フリーダムを倒す事に闘志を燃やして今もシミュレーションを続けている

「レイ、フリーダムって武装しか狙わないな」

「確かにな、攻撃がコクピットに直撃した画像が一個もない」

画像からフリーダムの挙動、武装、回避パターンを分析する
無論、実戦となれば気休めにしか過ぎないかもしれないが、参考になることは確かだ

「じゃあ、武装に気を配れば……」

「勝てるかもしれないな、フリーダムに」


そんな二人の所へシーブックが駆け込んでくる
息を切らしたその姿を見て、シンは驚きながらシーブックの話に耳を傾ける

「フリーダムが……航行中のザフト艦隊を襲撃して、壊滅させた」

「フリーダムが……」

「しかも新型のフリーダムと旧フリーダムとジャス……なんたらと、赤いのも一緒にな」

「ジャスティスだ」

不意に後ろから声がする。アスランだった


「まさかこんなことまでするとはなぁ、予想外だ、まったく」

鈍い音がシンの耳を打つ。アスランの拳が壁を叩いていた

「……あいつ等にこんな力を与えておくわけには行かない、ジャスティスを奪い返す」

その宣言は非公式なもので、敵軍にザフトの許可もなく潜入するということは不可能であろう

司令官を説得しには行ってみたものの、やはり許可は下りなかった
元々、白兵戦、奇襲のスキルはあっても、スパイ活動などやったことはないのだ
ここでアスランと言うパイロットを失うのは惜しい。
それに、司令官にはデュランダルからある命令を受けていたのだ


「許可を取る時間なんかない、シン、手伝え!」

「え……俺?」




その夜。

インパルスは海中を探索していた。ある目的の為だ
軍には偵察ということで許可を得たが、問題はここからだった

「万に一つの可能性に賭けるって事か、アスラン」

偵察範囲を大きく外れたコース。
情報から、アークエンジェル達はここへ向かっている。
基地から大幅に離れた所にいる可能性があったのだ、が。

どう考えても圧倒的に分の悪い賭けだった
もし失敗すれば死、成功してもどうなるかはわからない


「ん?」

アークエンジェルでもエターナルでもない。
そこには一隻の艦。
確かにロゴスを撃つ為、義勇軍も集まっている。ザフト所属以外の艦が来てもおかしくはない
だが、一隻だけが、こんな時間にいるというのは明らかに不自然だ。

ミネルバこそザフトの識別コードを持っていたから良いが、義勇軍は連合からの艦もある。
だが、甲板に立っているMSを見て、確信する

「ザクもどき……間違いないな、ヤツらの船だ!」

恐らく遠くから様子見のつもりだったのだろう。だからといってラクス達しか量産出来ていないギラ・ドーガを護衛として乗せるのは迂闊だ
結果として、楽なのだが

「アスラン、あいつらを確認した」

『そうか……』

無線で話す。アスランは無線の有効範囲ギリギリの所から、急いで格納庫へと向かう

「これでいいか」

選んだのは正式に量産されたグフ―それに乗り込むと、無断で出撃。
当然、アラームが鳴り、基地は大騒ぎ
この瞬間、『脱走者』アスラン・ザラが出来上がった

「来た……」

インパルスに近づくアスランのグフ。
適当に牽制し、あたかも交戦しているように見せかける
遠くの戦火に気づくあの艦。それにはバルトフェルドが乗っていた
あの時、ジャスティスに乗っていたのもバルトフェルドだ
今、甲板の上のギラ・ドーガには一般兵が乗っている


通信ログでばれると厄介だ。そう呟いて通信機器を一切遮断。
無言でインパルスのサーベルを振りかざし、グフの四肢を丁寧に奪う。

キラのように、素早くは出来ないが、上出来だった

後はグフを海面に叩き付ける、そのグフはバルトフェルドの艦へと向かっていった

(後は頼んだぜ……)

アスランの作戦―それはあまりにも無謀な、自分には決行する勇気がない作戦だった

脱走すれば、軍からは見放される。それは当然だ
だからこそ、アークエンジェルとも楽に接触できる
そして、機体を奪い、少しでも戦力を弱体化させようという作戦だった

ラクス達にはMSが少なく、一機一機の能力で賄っているようなものだ
一機が抜ければ、がくんと戦力は落ちる

それだけではなく、こちらの戦力はアップ。
元より、ジャスティスはザフト所有のもの。アスランが受けとり、そのまま離反し、ラクスに渡り、今回また取り返す
まさに盥回しだ

「……こちらインパルス、脱走者を撃墜しました」

心底ではにやりと笑って報告する
翌日、アスランの姿は当然ながらミネルバにはなかった

事情を知っているのはシーブック、レイ。
それ以外の人物には「アスランが脱走し、死んだ」、層としか報告はされていなかった

ルナマリアが松葉杖をつきながらシンに問うてきた
ある程度予想はしていたが、真実を今話すわけには行かない

「ねぇ、アスラン、生きてるよね……」

「ああ、生きてる」

本来、アスランが死ぬかどうかのことなので、笑える状況ではないが、あえて微笑んでそういった
ルナマリアもつられて笑みを浮かべ、医務室へ戻っていく

(……)

作戦を話されたとき、シンはかたくなには反対したが、諦めないアスランについに折れた
その時、執拗に何度もこういったのだ。
「生きて帰れ」と
レイから「そういうことを言うと不吉な予感がする」と言われたが

「はぁ、そういやぁ、ゼフィランサスって機体どうなったんだ……?」

コウが搭乗する事になったゼフィランサス。
その様子を見にドックに行くと、異様な光景がそこにあった

「両腕が……インパルスって……」

加えて両脚は装甲を極限まで外され、軽量化されたザクの足
インパルスの腕のスペアはまだあったため、このような形で試用されることになった

自分の戦法からして損失率の高いパーツ。その数が減るというのは辛かった

「あ、そうだ」

コウとシミュレーションで対戦しよう
そう考え、コウに話しかける

「いいよ」

あっさり了解。

シミュレーターを繋ぐ。ゼフィランサスにはデータ上では有るが完璧な状態のゼフィランサスのデータがあるため、それが使用された



「負けた……」

地上戦。空中から攻められるこちらが有利かと思えたが、ジャンプするように空中へ飛ぶゼフィランサスのトリッキーな動きに翻弄される
何度か言ったが、この世界は空中戦が主流なのだ。
地上戦用のMSが結構な高度の空中に飛び上がるなど、ありえなかった

飛び上がったところで狙撃され、撃墜。ゲームオーバーのはずだったが、横へのスラスター噴射をうまく使い、ライフル一発。

僅か56秒でシンは敗北した

「惜しかったね」

「惜しくなんてない……明らかに完敗でしょ」

何故か避けられなかった。精密な射撃。
元々、コウはU.Cでは飛びぬけた才能を持っていたわけではない
ただの一パイロットだ

「油断してました、次は負けません」

2回目

インパルスのバーニアを吹かし、加速。空中から射撃を繰り返していくが、ワンステップ差で避けられていく
反撃のライフルが何故か速く感じる。右腕を失った後、右足を打ち抜かれたが、お返しに胴体へライフルを当てる

だが、倒れない。強固な装甲だ。直撃させれば良い。そう考えてシンは横へ滑るようにライフルを連射

シールドで防いでいる間に接近し、サーベルで一刀両断。勝利した


「勝ったー……」

空中用機体が地上用機体にここまで苦戦するなんて。
そう思ったが、やはりアスランのことに思考が行ってしまう

「あ、ありがとうございました」

「やっぱり反則的だよここのMS、ほぼ全部空飛べるなんて」

その後、ものめずらしそうにコウはMS群の中に消えていった
データを見ているのだろう。


シンは気を紛らわそうとしても紛らわせない。
一人でシミュレーターをやるが、すぐに撃墜判定を喰らった

ベッドに倒れこみ、一度軽く息を吸った

「……アスラン」


ポツリ、そう呟いた






[924] 19 「正義 奪還 ―“運命”を背負って― 後編」
じゅう - 2007年03月23日 (金) 00時26分

グフがバルトフェルドの艦に拾われ、アークエンジェルへと運ばれる
電流が伝う機体を慎重に下ろし、ドックに収納する

「アスラン……?」

駆け寄ってきたキラは、コクピットから出るアスランの姿を見た

「脱走したの?」

「……ああ」

出来る限り微笑んでみる。本心ではほくそえんでいるが。

「良かった、これでやっと揃ったんだ、パイロット」

キラの笑みを見ると気の毒にも思えるが、変わってしまったキラに協力することは出来ない
息を吐き出すと、キラに話しかける

「この機体は?」

「インフィニットジャスティス、君の機体だよ」

長い名前だ、アスランは見られないように少し笑う。

「兎に角、アスランは部屋で休んでて、見た限り、海に落とされたみたいだし」

「そうさせてもらうよ」

素っ気無く返事するが、キラは全く怪しんでいない。
俺も変わった、キラも変わった
何気なく時の流れを感じ、ベッドに身を任せた
無論、眠れる心境ではない、心臓の高鳴りが自分に届く

仮にも、『敵』の艦に居るのだ。こういうことには全く慣れてないが故、そこはかとなくぎこちない挙動が表に出てしまう

(とりあえず)

実行の時を待つ。今日の深夜3時。
只今朝8時20分。艦隊集結完了まで後1日ほどか

一度窓を見る。もう、ジブラルタル基地は見えなくなっていた



アスランから見て水平線の向こう――ジブラルタル基地では仕上げ段階に入っていた
艦隊のほぼ80%ほどが集結。戦力は十分。
フリーダム等による襲撃で一艦隊を失ったが、ヘブンズベースを攻め落とすには十分と踏んでいる

義勇軍の所有する連合製MSなども、今ではザフト基地において整備を受けている
分け目なくロゴス壊滅を目的にし、動いている事の証明だった

「……よっと」

インパルスのOSをなんとなく弄る。
シンはいつの間にかコクピットの狭い空間が落ち着けるようになっていた

ドリンクをちょびちょびと飲みながらコンソールに片手を伸ばす
かたかた、かたかた。同じ音が何度も続く。逆にリラックスできるが

「シン」

「んぐっ」

突然として現れたジュドーが声を掛けた途端、不意を突かれたシンは咳き込む

「な、なんだよ」

「インパルスの予備パーツの装甲使わせてもらう事になったから、じゃ」

「お、おい!」

また自分が使用できるパーツが減っていく
余裕がなくなってきた。そう感じたシンは後々の事を考え、げんなりした様子でコンソールを打つ
インパルスは予備パーツが豊富、そして装甲も強度が高めの為、高性能MSの修理に使用されていた

「なんだと思ってるんだよ……」

ブツブツと愚痴る。メカニックからは使い回しが聞くと評価されているのは別の話
退屈そうに、まだコンソールを弄る
ふと、目線を画面へ移したとき、無意識に口にする

「ガンダム、か」

横書きで表示されるOSの文字列
その一番前を縦に読んでいくと「GUNDAM」、ガンダムと読める
U.C機体にガンダムがいることを思い出し、思いがけない偶然に少し関心しながらも、作業を続ける


「だいぶ骨も治ってきたけど……」

ルナマリアの骨折は、コーディネーターならではの回復力によって、もうすぐ回復するところまで来ていた
治りかけだからこそ、安静にしている
もうすぐ決戦なのだ、出撃できないのは歯痒い事この上ない

「よう、ルナマリア」

「あ、ハイネ」

「アスランの事、落ち込むなよ?死んでもらっちゃ困る」

「うん」

ハイネもアスランの事は知らない。アークエンジェルに居るなど想像もつかないだろう
そもそも、アスランがジャスティスを奪還する事にしたのは、新しいフリーダム―ストライクフリーダムがキラ専用であり、他のパイロットには100%の力を発揮できないから―と言う理由は当然知る由もない


かつて自分が使っていた愛機がテロ紛いの行為に使われるのは我慢ならない
自分が種を撒いたような物だからだ

奇妙な意地と責任感があったからこそ、この行為に踏み切った
キラ達の様子も見れる。少しでも不穏な動きを見せるならば、思い切り反対してやろう、そうも考えている


カミーユとアムロ、シーブックが一ヶ所に集まっていた

「シーブック、アスランのことについてだが」

「……」

内心見抜かれた、とドキドキしている。カミーユのNT能力が「なんとなく」何かあると捉えたのだ
ここまで肥大化しているNTとしての能力は、やはりZに人の思いを宿らせるほどの現象をやらかしたことから証明されている

「なんでもありませんよ、アスランをシンが撃墜した、それだけです」

「……まあいいや、アスランには何かあるな、きっと」

アムロとともに、シーブックの元からカミーユが去る
ほっと胸をなで下ろし、叶わない、そう思った


ある一つの格納庫に、デュランダルの姿があった
まだ名前も付けられていない出来立ての機体―
ロールアウトはヘブンズベース戦の日。ある二人の人物に渡す予定の新鋭機。

改めて、その機体を見る

「ニュータイプ、か」

そっと呟く。少し微笑んだ。
着々と続けられる作業。それに不似合いな笑みだった

そうしているうちに、いつの間にか外は闇夜に包まれている
今日は一日中コンソールを叩く事と修理工具運びに没頭していたシンはぐったりと自室へ戻る

あの後、シンとレイに新型機が受領された。
まだロールアウト前で、名前さえも決まっていないが、高性能機体だ
デュランダルから直々に渡されたので、緊張も一入だった

「っと、そうだそうだ」

思い出した瞬間、体に緊張が走った
艦隊はすでに集まっており、整備がもうすぐ終了、今は夜の2時54分
コンソールを弄っていたらこんな時間だ。ある意味ボーッとしているとも言って良い

「………」

頭の中が真っ白になってくる。アスランの作戦が実行される時間が間近に迫っているのだ。即ち、死の危険もある

無事に帰ってこられるだろうか。いつの間にかシンは拳を握り締め、自室で落ち着かない為か、歩き回っていた




アスランも、緊張で今にも胸が張り裂けそうだった
不安、緊張、二つ、感情が入り混じる
視線を、ドアに移す

一度、深呼吸。手に握るアサルトライフルのグリップ。銃は一応隠し持ってはいたが、バレるのではないかと思っていた
だが、別に何を持っているかも調べもせず、部屋に招きいれた
御人好しが、かえってアスランに好都合だ。やはり気の毒だが。

弾丸は十分。防弾チョッキもある。
使い勝手が良いハンドガンはもちろんであるが、アサルトライフルは連射できる為に強行突破には重宝する

たとえ、前にキラがたっていても撃つ覚悟があるのか
アスランとて超人ではない。完璧ではない。
このような作戦を行なうとなれば、自然と迷いも生じる。汗が尋常ではない。


クライン派の兵がどれだけの能力を持っているかは知らないが、恐らくコーディネーターが大半だ

シンやレイ、シーブックにああ言ったものの、結局は中途半端な覚悟ではないか。
そう考えると、アスランは居た堪れなくなる

後一歩、後一歩が踏み出せない
踏み出し、銃を構えた時点で自分は兵士の攻撃に晒されるのだ

一滴、汗が光って床へ落ちる。何回も、深呼吸をする
落ち着かない。諦めたくなる

戦闘に介入するのを待って、ジャスティスを奪うという事も考えた
ヘブンズベース戦にも介入する、と言うことをキラから聞いたからだ

だが、結果としてそれは奇襲を許す事になる。
真っ先にミネルバを攻撃するであろう事は目に見えていることだ。

(行くしか……)

葛藤。こんなに悩んだ事は今は亡き父、パトリック・ザラからジャスティスを受領し、そのまま裏切った時以来だ

静かに、自動ドアが開いた。
今にも倒れそうになりながら、そーっと、そーっと進む。
当然、交代しながら見張っている兵士がいる。

宛ら、嘗て住んでいた月面都市コペルニクスでやったことのある、某ステルスゲームのようだった

(まぁ、多少の言い訳は聞く……か?)

見つかっても怪しまれないよう、銃を懐に隠す
アサルトライフルはパイロットスーツの中に強引に押し込んだ

ここに来てからずっとパイロットスーツだったが、空調は完備されているのであまり気にならなかった

壁際に隠れ、兵士が来るのを待つ。
兵士が持った銃が通路からチラッと見えた瞬間、顔面に拳を叩き込む

5回ほど腹に膝蹴りを加え、顔面を数回殴打。
ハンドガンのグリップで頭を殴りつけ、気絶させる
緊張が度を過ぎているので、些かやりすぎたが。
とは言え、コーディネーターを相手にするのだから、妥当かも知れない

恐らく、次にここを巡回する兵士に見つかるだろう
矢継ぎ早に通路を抜け、格納庫へと急いだ

「アスラン?」

……最悪だ。アスランが冷や汗を垂らしながら振りむく
そこには茶髪の青年、キラ・ヤマトが立っていた

「キラか、ジャスティスの様子を見に行くだけさ」

「嘘だよね、汗が凄いよ。何かあるはず」

こういうことに関してだけは観察力を発揮する。

「寝られないんだよ、だから構わないでくれ」

「やっぱりまた裏切るの?」

無言でジャスティスの元へ行こうとするが、銃声が響き、頬を銃弾が掠めた
頬を赤が染めていき、痛みが遅れて来る

「撃ちたくないんだ!撃たせないでくれ!」

「甘ったれるなよ、なら戦場に出るな」

銃声を聞きつけて兵士が集まってくる

「キラ様、下がってください」

「……アスランは殺さないで」

アスランのハンドガンから弾が弾き出された
お返しとばかりに、この弾丸はキラの頬を掠める。
それに過剰に反応したクライン派のうちの二人が発砲

放たれた弾丸が、鮮血を浴びた

アスランの左足に一つ食い込み、脇腹を捉えた弾丸が、防弾チョッキに阻まれて床に落ちる
急に左足から力が抜けるが、パイロットスーツを脱ぎ捨てて一人の兵士に投げ、アサルトライフルを取り出してトリガーを引き続ける

数珠繋がりに連射される弾丸。兵士が数人、地に突っ伏した
壁を頼ってジャスティスへと走る。
黙ってみているわけがなかった。兵士のマシンガンが発射され、アスランの防弾チョッキを砕いていく
衝撃が体に伝わって、激痛に変わる

MSの装甲を再利用している為、それなりの強度は持っているが、マシンガンの連射の直撃に耐えられるほどではない
床が赤く染まっていく。

ジャスティスに乗り込むため、ワイヤーに掴まってコクピットを開放
乗り込む寸前、耐えかねた防弾チョッキが地に落ちた
その瞬間を見つけた一人が、マシンガンのトリガーをここぞとばかりに引いた

声を挙げる間もない。

荒い息を上げながら、ジャスティスを起動。
ビームライフルを放ってハッチを開け、フットペダルを最大限踏み込んで発進した

「……ッ」

意識が朦朧とし、目から光が失われていく
海面スレスレを飛行し、ジブラルタルを目指す
ファトゥム−01が高出力なので、凄まじい速度で進むジャスティスを、ギラ・ドーガが追尾してくる
ビームマシンガンを放つが、アスランはリフター任せで回避する
空中の移動能力なら、ギラ・ドーガよりもジャスティスのほうが圧倒的なのだ


差が開いていき、やがて追跡してくるギラ・ドーガは見えなくなった





「あれは……」

ジブラルタル基地から、目視でジャスティスを確認する。
もちろん警報のアラームが鳴る。

迎撃されては困る。シンはインパルスを発進させ、ジャスティスの元へと駆けつけた

ジブラルタル基地から離れた陸地に着地する二機。
ルナマリアとアムロを乗せたνガンダム、カミーユとレイを乗せたZ、ハイネとシーブックを乗せたF91もそこへ着陸した

追撃のMS、ジュドーと一兵士を乗せたゲイツRとザクウォーリア2機が来るが、ジャスティスが倒れこんだのを見て、パイロットがコクピットから降りてくる

「アスラ……」

シンの声が途切れた。コクピットから出てきたアスランは血まみれで、とても立っていられる状況ではなかった

アスランを支えると、肩を貸す。

「……シン」

「声、出すんじゃない。傷深いんだ」

ドクドクと湧き出るように血があふれ出る
アスランの服を千切り、腹に巻いて止血する

「……ジャスティスは」

「え?」

「ジャスティスは、お前が乗れ」

「……」

死期を悟ったかのような言葉が、シンの耳に響いた

「あれはアスランの機体だろ、俺の機体はインパルスだ」

「……分かってるだろ、俺はもうもたない」

一つ一つの言葉に力がない。
アムロが、アスランを運ぶのを手伝う

「アスラン、お前はまだ死ぬべき人間じゃないだろう、お前の親友を正すまで」

「……人って、どうにもならないこともあるんですよ、アムロさん」

いつにない弱気な言葉、インパルスにアスランを乗せる。

基地へ急いで戻っていく。νガンダムとZはジャスティスを運ぶ
医務室へと運び込まれるアスランだが、息絶え絶えとなっており、銃弾が脇腹を貫通していた

パイロット二人も、そこにいた。

「……なぁ」

「だから、声は出すなって……」

「キラを、ラクスを止めてくれ」

「何言ってんだよ、当たり前じゃん?」

アスランの血に混じる透明な水滴
ジャスティスは、すでにドックに運ばれてエンジニアにデータの解析を受けていた

「まさかこんな死に方とは思わなかったよ」

「おい……何言ってんだ、自分勝手すぎる」

シンが意識を保とうと、アスランの体を揺さぶる。
たかが必要ない機体を奪う為だけに命を失うなんて事、馬鹿げていた

「機体奪うのは二度目だが」

「……」

「命令とは違う、目的があったからな。頼んだぞ」

アスランの瞳が閉じられた。不思議と、涙は出てこない。


「あれほど言ったのに、さ」

頬を叩いた。

「はぁ……馬鹿の見本だ、アスランは」

ようやく溢れた水滴を拭って、ベッドに潜り込んだ

眠る事は、出来なかった




翌日、艦隊出航の日。

デュランダルの元に、シンの姿があった

「X42Sとジャスティスを?」

「ジャスティスの機体をベースに、両肩をX42Sのものに付け加える事は可能なはずです。元は同じザフト製なんですから、接続コネクタも」

「君の機体だ、好きにすればいい。して、機体名はどうするのだ」

「……」

しばらく沈黙してから、口を開いた

「デスティニー……デスティニーガンダムです」


アスランは、プラントへ逝った。
その代わりに、正義を残して

「まずは、ロゴスを倒す」



連合軍本拠地 ヘブンズベース攻略戦。 開始

[925] 20 「ヘブンズベースを駆けろ ―彼岸花と運命 『破壊』を討て―」
じゅう - 2007年03月24日 (土) 13時41分

蒼穹の青空の下、蟻の様に続々と集まる艦隊
水しぶきを受けた戦艦の横腹が、光を受けて煌く
真っ青な海には、上を通過する全てのものが映りこんでいた


不釣合いな、機影。
それも、数機だけではない、何十、何百と。蜂の巣を突付いたかのように出てくる

「来たわ、MSの出撃準備は?」

「出来てます!」

「分かりました、発進させて頂戴!」

「了解ですとも、おーい、おめぇらー!MS発進させろ!」

マッドの声がドック内に反響する。
シンはデスティニー、レイはレジェンドと名づけられたシン曰く「ガンダム」、ルナマリアがインパルスに搭乗していた
ZZも、何とか復旧。
ハイネは、ジャスティス―機体はX42Sで、両肩だけがジャスティスのパーツだが―に乗っていた。

「シン・アスカ、デスティニーガンダム、行きます!」

サーモンピンクだった機体は、蒼く染められている。いわゆるパーソナルカラーだ
それだけ戦場では狙われやすくなるが、故に返り討ちにして戦力を減らす事も出来る

逃げない、と言う決意の現れであるかどうかは、当人しか分からない事だ

「数ばっかりゴチャゴチャと!」

X42S―つまり、デスティニーの元となった機体の両肩パーツには、フラッシュエッジが仕込まれている
ソードインパルスのものと同じだ

一つ投げると、大きく弧を描いて二機を撃墜。
もう一つ投げると、一機撃墜。

そして、手元に戻ってくる

「機体性能が段違いだ、やれるか!?」

ライフルでウィンダムを次々と撃墜する、ファトゥムのおかげで機動力も段違いだが、それはファトゥムをなくすと機動力が大幅に低下することを意味している

ビームキャリーシールドからビームブーメランを取り出す
フラッシュエッジよりも刃が長い
投げる。それに連動していくつもの爆発。

「そんなに集まってるから!」

最大加速で敵陣中央に突っ込み、体の彼方此方に搭載されたサーベルを展開
敵を見つけては斬り、敵を見つけては斬り。
返り血―オイルはビームで蒸発する

突如として、一瞬で駆け抜けるトリコロールカラーの機体。
置き土産にビームを何発かウィンダムにお見舞いし、去っていく

「ゼフィランサス?速い!」

コウのゼフィランサスは本格的な改修を受け、装甲をぎりぎりまで減らし、スピードのみに特化させている
だからこそ、かなりの耐性を誇っていたMSのマシンガンでも胸部に命中すれば終わりだ

そのデメリットを振り切るように、海を裂くように進んで次々とウィンダムを撃墜していく

ウィンダムの速度ではとても追いつけない

あっという間に敵陣の奥まで侵入したコウの目に映ったのは、巨大なガンダム―

「コウか、ザフトに入ったんだな?」

巨大なガンダム―デストロイは全部で5機。そのうち3機は少し武装を減らされている

「モンシアさん!」

「このガンダムでけぇだろ?お偉いさんがナチュラルにも使えるようチューンしてくれたんだぜ?たかが3人のパイロットのためによう!」

ネオがミネルバ追撃の任から解かれ、他の部隊との戦闘を主としているとき、モンシア、ベイト、アデルの3人はコーディネーター相手に絶大な戦果を上げた

やはりパイロットとして年季が入っている3人にとって、この世界のパイロットは若干弱いようにも感じた
コーディネーターには遺伝子におぼれて努力を怠るものも少なくはないからだ

その戦果と3人がデストロイの適正テストを無理を言って頼んだ結果、下手なエクステンデッドよりも高い適正数値をたたき出した

他のエクステンデッドも漏れず合格となったが、3人はここの守備に付く様命じられた

これが大体の事の経緯だ

「武装は結構減ったが、お前には負けやしねぇ!」

「何がデストロイだ!逆に破壊してやる!」

「コウ……さん、俺も手伝うって!2機は任せといてください!」

ライフルを放つが、陽電子リフレクターによって止められた。
一度舌打ちすると、接近してサーベルを叩き込もうと画策する。

虹のように放たれたプラズマ。次々と、放たれていく
全てを破壊する閃光が、ザフト艦隊を巻き込んだ

「コイツ……化け物かよ!」

胸部にサーベルを四肢を駆使して連続で何十回と斬りつけるが、分厚く硬い装甲に阻まれる
それどころか、頭部、人間で言う口の部分から放たれるプラズマが、右肩のフラッシュエッジの部分だけに命中

爆発はしなかった。溶けた

それだけではなく、機体の排熱量を越えた一撃。
急いで離れ、ファトゥムのハイパーフォルティスを撃つが、やはり止められた
シュトゥルムファウストが執拗に迫り、ビームを放っては離れ、そこからまたビームを放つ
それに加え、フリーダムをも楽々と越える絶大なる火力。
前に出すぎていた艦隊が次々と沈んでいく

「やめろぉぉーッ!」

コクピットを、何度もサーベルを展開した足で蹴りつける
右手に握っていたサーベルで突き刺すように装甲を溶かす
そして、ある程度貫いたことを確認し、内部から一気に切り裂いた

「……スティング?」

緑に染められた髪、アーモリーワンで出会った少年
コレだけの火器を同時に操縦できる事からある程度は予想していたが、いざ本当となると動揺してしまうものだ

**ッ!」

胸部から放たれるスーパースキュラ。ジャスティスの右足を奪い去っていく

「……ッ!」

反射的にライフルを撃った。リフレクターに弾かれ、反撃の拳を叩き加えられる
PS装甲でも防ぎきれない一撃。

吹き飛ぶ機体をコントロールし、もう一度接近してスティングを救おうと手を伸ばした

コクピットのすぐ右を突き刺すサーベル。友軍のゲイツが繰り出したビームクローだった

「あ……バカ野郎!」

マニピュレーターを操作し、指でスティングをはじき出す。
海に落下するスティングを救出する暇はなかった
その後もデストロイに攻撃を加えたゲイツにより、動力部に深く傷を受けたデストロイが、最後の怨念とばかりにゲイツを巻き添えにした爆発した


「生きろよ、死ぬんじゃない……」

スティングを一瞥し、次のデストロイに向かう

「そうだ……」

スティングが乗っていたのなら、コレもエクステンデッドが乗っている
その予測は、あながち外れではなかった

コクピットを狙わずに、武装を狙っていく。
シュトゥルムファウストを撃墜し、脅威となる円盤型バックパックに搭載された火器を次々と切り裂く

巨体ゆえ小回りの利かないデストロイは、背面に回りこまれると何も出来なかった

あらかた武装を奪い、コクピットを切り裂いていこうとした瞬間、カオスの姿が見えた
ポッドを器用に操るパイロット―ネオ・ロアノーク。

「ぐぅ!周波数を……」

急いで通信の周波数を合わせようと機器を操作する
偶然にも、案外すぐに見つけることは出来た
その周波数を通り過ぎたので、もう一度調整してつながった

「お前!あれに乗っているパイロットは誰か答えろよ!機体スペックじゃ勝ってる、容赦しないぞ!」

「教えるわけには行かないな!」

ポッドがミサイル、ビームを発射し、ファトゥムの片翼を貫き、爆散させた
ライフルをビームシールドを発生させる事によって防ぎ、接近戦に挑む

片翼はやられたが、ブースター自体は死んでいない

「このッ!無理にでも引っ張り出して喋らせてやる!」

シンの『種』が弾けた。不思議と、怒りに駆られてはいない。
敵の攻撃が『見える』。

今までになかった感覚。

「見えるッ!」

「何ィッ!」

ビームクローとポッド、サーベル二本の連続攻撃をバックステップからシールドから放ったグラップルスティンガーでサーベルを二本とも絡めとり、奪い取る

絡まった状態のまま、それをサーベルの刃が消える瞬間にカオスの横腹に撃ちこんだ

「これは……」

見える。デストロイが狂ったように放つ全火力。
合間を抜け、数えるのを憚る量のミサイルを斬りおとし、反撃としてフラッシュエッジを二本投げ込んだ

後ろから迫るカオスに、分かっていたかのように左腕のサーベルを後ろへ振った


胸部を掠める一太刀。振り向き様左足のサーベルの蹴撃を残撃へと昇華させた

両脚をまともに斬られたカオスのバランスが一瞬崩れ、その隙にカオスと向き合い、両腕のサーベルを振り下ろした

「うおぉ!?」

淡い光の刃が混沌の両腕を打ち砕く。戦闘能力がほぼ皆無となったカオスのバーニアを破壊、海面へと投げつけ、機能を停止させた

どういうわけか、デストロイの動きが一旦止まる。
その隙にカオスに取り付き、コクピットからネオを引きずり出した

「誰だ、アレに乗ってるのは」

「……参った参った、と。ステラだよ、ステラ」

「やっぱり!そうまでして一人の子供の人生台無しにするのか!あんた達は!」

「上からの命令にゃ逆らえないさ。出来る事なら救いたいものだけどね」

「……なら、小さい事でも行動を起こして見せろよ!」

「分かった分かった。周波数、っと、通信コードだけ教えてやるよ」

聞くなり、すぐにデスティニーに乗り込んで発進する

デストロイに向かうシンを仮面越しに見つめるネオは、頭をくしゃっと掻いた

「お前ならやれるんじゃないのか?坊主君」

呟く。そして、その場でへたり込んで味方に通信。
担がれていくカオスの中で、ネオは小さく微笑んだ


「ステラ!俺だ!シンだ!」

「ネオを!ネオをよくもぉぉーッ!」

再び放たれるフルバースト。蒼穹を突き抜ける全てを破壊し尽くす赤い奔流
ビームシールドで防ごうとするが、弾き飛ばされる

くるくると何回か宙で縦に回転し、なおも通信する

「ステラ!君はそんなのに乗ってちゃいけないんだ!」

「頭が……割れる!近寄るな!」

MA形態に変形し、どこかへ向かってゆっくりと進む
いくら問いかけても、通信が遮断されて会話する事は出来なかった

デストロイが向かった先は、偶然にも他の連合基地の方角だった


「ステラ……」

放心する間もなく、向かってくるウィンダムを切り倒す。
横へ薙ぐ。海中へと沈んでいくウィンダム。
『種』と共に『何か』に覚醒しつつあったシンを捉えることはできず、ウィンダムは次々とその屍を海に晒すだけだった






「うああぁッ!」

ゼフィランサスが疾走し、デストロイが破壊の奔流を生み出す
殆ど回避していたが、一撃も攻撃を加えられていないコウ。
ライフルはリフレクターに無効化され、サーベルで近づこうにもコウの性格からか、なかなか一歩が踏み出せないでいた

持久戦ではこちらが劣っている。腹を括るしかない。
そう考え、一気にアデルのデストロイに近づいていく
ナチュラル用のデストロイは、武装の内シュトゥルムファウスト全てとバックパックのネフェルテム503を10門減らしている。

火器管制の負担が少なくなっており、若干性能が全体的に低いが、それでも強力無比な機体だ
エクステンデッドと違い、精神が安定している為、射撃も正確だった


コウは、一度深呼吸する。

「やるんだ!モンシアさんたちに勝つ!」

ゼフィランサスのバーニアが凄まじい音を立てて加速する

「足を狙えば!」

横に沿って斬る。だが、足の装甲は体重に耐える為かかなり強固だ
回避を考えていない機体と言うのがよく分かる

「ダメなのか!?砲口で!」

砲口を狙うのは危険も伴う。だが、そうでもしないと火力・攻撃力不足のゼフィランサスでは倒せない

「うわああああぁぁッ!!」

メインカメラの砲口にサーベルを突き立てる。チャージ中の攻撃。爆発がゼフィランサスのただでさえ薄い装甲を傷つける
爆発した頭部跡からサーベルでザクザクと切り刻み、装甲を削る

モンシア、ベイトの援護射撃が時々厄介だが、なんとかサーベルが動力部に到達……はさせない。
内部からの攻撃でコクピットをマニピュレーターで無茶苦茶にし、アデルは生かした

しかし、今度はモンシア達も警戒している、一筋縄ではいかないだろう


ベイトに攻撃を仕掛ける。
ツォーン、スーパースキュラ。右に回避。ライフルが弾かれる。
ミサイルが右腕を直撃。吹き飛んだ

近接し、アッパーの如くサーベルを装甲に接する。
途中でスーパースキュラが両足を奪った。

「落ちてくれぇぇぇーッ!!」

スーパースキュラを滅茶苦茶にサーベルで掻きまわす。
突き立て、そこにパンチが飛んできた、諸に喰らう

「わあああぁッ!!」

腕を失った右肩が吹き飛び、同時に機体が拉げる。
打たれたボールのようにぽーんと飛んで行くゼフィランサスは、バーニアで踏みとどまり、頭部のツォーンにサーベルを振った

「え?」

発射されたツォーン。下半身が吹き飛び、足を後ろに引っ張られるような体勢から装甲に突き立てた。

だが、同時にサーベルも頭部を破壊。チャージや装填の隙が大きい為、誘爆を狙うのは容易い

もう一つのサーベルでバックパックの隙間に入り込み、死ぬ思いで何回も、何回も斬りつけた
バックパックが海に落下。大きな水しぶきをまともに浴びる
接続コネクタにサーベルを突き刺し、その上後ろから両肩に改修を受けてから装備されたグレネードを投げ、起爆させた

「強いように見えて、欠陥は多い!勝てるかもしれない!」

どこを攻められても、鈍重さとパーツの一つ一つの重さが仇となる
少し接合部分が緩んだだけで、重さで両肩が落下。
ベイトのデストロイも戦闘能力を失った

残るは―モンシア


「コレで決着だ!モンシアさん!」

「けっ!やられるかよ!」

機動性が低下しているゼフィランサスに誘導性が高めのミサイルが命中
ブースターが一部吹き飛んだ

「どうなってもいいから、落ちろ!」

やはり砲口狙い。わざとチャージ中を狙い、誘爆。
ゼフィランサスの外装が剥がれ、フレームがむき出しになっていく
4個の内二個を使ったグレネード、一個をサーベルでこじ開けた穴に嵌め、バルカンで起爆させた

残りは一個。有効に使うべきだ。

ミサイルが次々と命中し、メインカメラも吹き飛び、機体はがたがた、ブースターもほぼ機能しない
右腕で頭部に辿り着いた瞬間、ツォーンでメインカメラ付近の装甲が吹き飛んで、機体の熱が急上昇し溶けて行く

ツォーンの砲口にサーベル。狂ったように。
掻きだす様に貫いていく。

突き刺されたサーベル。グレネードを手に取る。




「これで、ダウンだぁーッ!!」



デストロイとゼフィランサスを包み込む光。
吹き飛んだ両機。

彼岸花が、空に舞い散った


「……」

爆発し、粉々に砕け散ったゼフィランサスをみて、思わず涙を流した
機械に愛着を持つ彼にとって、愛機の大破は只事ではなかったのだろう
それも、異世界に来てから生き抜けたのはゼフィランサスのおかげでもある


「……ゼフィランサス以外に操れる機体……あるかな?」


脱出し、海にその身の半分まで浸かった。
ふと目に映ったのは、放り出されたスティングだった

「これ……エクステンデッド?」

気絶している事を確認し、泳いで連れて帰ることにした
シンが話していた、無理やり改造された少年なら、放って置けるわけがない

戦乱の中、そんな二人に目を向ける者などなく、流れ弾におびえながらミネルバを目指していった



「どういうことだ、ジブリール」

「デストロイ5機の内一機が脱走、4機は戦闘不能……どう見ても敗北だろう」

ヘブンズベース内。
ロゴスメンバーの老人達に、ジブリールが責められていた。
だが、悪ぶれる素振りもなく、あっさり言い放った

「いいのですよ……私は逃げますからね」

一瞬、その場の空気が凍った。

「な、なんだと!」

「さようならです、老人達」

ジブリールはゆっくり歩いてヘブンズベースに用意されたシャトルに乗り込み、宇宙へそのまま逃げていった。
ジブリールはドアをロックし、老人達を閉じ込めたのだ


「あれは!」

シャトルを見つけたシンは、全力でフットペダルを踏み、シャトルを追いかける

「当たれぇぇぇ!」

ライフルを何発も放つが、最大限速度を出している状態ではロックオンマーカーがブレて、なかなか当たらない

ついに大気圏外への逃亡を許し、コクピットの中で悪態をつきながらヘブンズベース基地に舞い降りた


制圧された基地内からロゴスメンバーを発見し、拘束。
これにて、ヘブンズベースは一応の陥落となった。

「だが、ジブリールは宇宙へ行った」

老人達が、ジブリールを恨んでザフトに全て情報を流したのだ
ジブリールの行き先が、宇宙―連合軍の月面基地へと逃げ込んだことを。

「……ステラ」

やはり記憶を消されている。声を聞いてももらえなかった

「何か、変だったな」

苦しみの波動―それがシンに伝わってきた。
それだけではない、敵の攻撃を読めた。
今までとは違う感覚―それは逆に気味の悪いものだった








[928] 21 「タタカイニ サヨナラ ―ステラ―」
じゅう - 2007年03月25日 (日) 23時28分

ミネルバ含め、損傷した艦隊はジブラルタル基地にて補給を受けていた
老人達が流した情報の中には、プラントや地球を狙い撃ちできる大量破壊兵器―レクイエムが月面に設置されているという情報もあった

その為、補給が終われば前大戦で破壊され、今ではすっかり修理されたオーブのマスドライバー「カグヤ」を使用し、ミネルバは月へと向かうことになる。補給や修理は急ピッチで進められていた。

オーブがザフトにマスドライバーの使用を許す名目は「レクイエムの破壊による自国の防衛」。
少なからず、理念に反してはいない


「コウはどうするんだ?」

「……ザクでも、乗ろうかと」

搭乗機のゼフィランサスが木端微塵になったため、コウの乗る機体はない。
今、ミネルバに搬入されているザクが新たなコウの機体となるのだが、如何せん操縦機構が違う為、マニュアルを見ながら慣らしていくこととなった

キャットウォークの上で、そんな傷心のコウと会話していたアムロ

そのすぐ隣に、柵に凭れるシン。
ボーっと、デスティニーを見つめていた

「……シン?」

「………」

「……おーい」

「………」

本気でボーっとしているシンは、その呼びかけが他人事のように聞こえている

「ていっ」

「!?」

ばしーん。軽快な音がドックに響いた。
ルナマリアが後ろからシンの背中に平手打ちを放ったのだ
咳き込むシン。ケラケラと笑うルナマリア。宛ら女帝だ

アムロは見ていない振りをした。目を点にしているコウに無視するよう呟く

「何す……げほっ、手加減と言うものを知れよ馬鹿!」

「ごめんなさい、知りませーん」

「ごふっ」

再び三発。本心、シンはアスランのことでルナが落ち込んでいるかと思っていたが、そうでも内容で安心した
ある意味で彼女らしい

「こっち来なさい!整備班手伝うわよ!」

「ちょ、耳引っ張るな……」

そう、ある意味彼女らしいのだ。
消え行くシンの悲鳴。レイは相変わらず傍観している。


怒号と返事が飛び交うドック。工具は盥回しにされ、見る見るうちに代用コードを含む様々な細かい箇所に使われるパーツがなくなっていく


「艦長、そろそろ発進しましょう」

アーサーがその様子を見て、タリアに言う

「そうね。ミネルバ、発進します!」



ジブラルタル基地を出航し、その自慢の航行速度を生かしてオーブへと一直線に進む

「いただきます」

シンは一人寂しく食事を取っていた。他の者はあらかた食事を終えていたのだ
出航までボーっとしていたシンは食べる間もなくルナに整備の手伝いを強要され、今に至る。

「……」

「うわ」

気づかなかった。食堂の隅のテーブルでボイルされた人参と睨めっこしている人物がいた


「……コウさん。人参嫌いなんですか?」

「……ああ。その通り」

「軍人なんですから、栄養とって置かないと……」

「それでも無理なもんは無理だ」

苦笑いするコウ。つられて愛想笑いするシン。

気まずい。

「じゃ、じゃあ俺、先に行ってますんで」

「あ、ああ」



逃げるように自室へ戻った。

「……」

またボーっと、何か神妙な顔つきで考えごとをしていた。
脳裏に浮かぶのは、金髪の少女。

「ステラ」

一言だけ呟くと、小さな箪笥から貝殻の入ったビンを取り出す。
じっと見つめ、ため息を吐いた。
また、護れないのか。自嘲気味になった自分自身に喝を入れるため、頬を思いっきり叩く。

「ダメだ、こんなことじゃ!」

シンは医務室へ向かった。そこには、自分が海に弾き落としたはずのスティングが拘束された状態で眠っている
コウから報告を受けていたため、此処に居る事は知っていた。

横目でスティングを見て、そのまま医務室を去る。

気分転換のため、艦内を散歩する。
艦橋を覗いてみると、相変わらずアーサーとタリアが進路や今後の作戦について語り合っている

甲板に行くなり、心地よい潮風が吹いてきた。

「シンか」

先客―ハイネが居た。

「シン、気負うなよ。なんかガチガチしてるぞ」

「そんなことないって」

「次の戦場は宇宙なんだぜ?ホームグラウンドじゃねぇか」

「ああ、もういいから」

「素っ気無いな」

笑いながらハイネは言う。
知らないうちに陸地に近づいていたのか、鴎がそこら中に飛んでいる

「釣り道具でも持ってくりゃ良かったか」

「戦艦で釣りなんて聞いたことないですよ」

「違いない」

次第に、ミネルバとオーブの距離が縮まっていく
シンは薄めで海を見つめてボーっとしていた。今日何度目か。
その横で、釣られる様に何もしゃべらず、ただ沈黙して波の流れを目で追うハイネ

「………」

「………」

何だか、眠くなってくる。
空を優雅に飛び交う鴎を数えていたからだろうか。羊じゃないのに

とにかく、眠いものは眠い。


その眠気は、数秒後に目の前の光景によって水平線の遥か彼方へと吹き飛ばされることになったのだが

「あ……デスト……ロイ?」

「シン、出撃命令が出るはずだ、早めにドックに行くぞ!」

「お、おう!」

予想通りコンディションレッド。MSの出撃が命令された
オーブに向かって進行しつつあるデストロイ―そして数百機のウィンダム、数十隻の艦隊、空母。
恐らくレクイエムへ向かうミネルバの宇宙への航行手段を潰す為だろう

オーブは国だ。国にデストロイのようなMSが来れば、どうなるかは安易に予想がつく


「ステラなのか、あれはッ! デスティニー、出るぞ!」

矢継ぎ早に発進するデスティニー。
コウは出撃しない。まだ操縦できるほどではないのだ。動かすのがやっとといった所か

早速、白の中に混じっている紫―ネオのウィンダムを発見する
カオスが大破した為、ウィンダムに乗っているのだろう


早速突っかかろうとする。途中のウィンダムは無視しつつ、避ける
強引に邪魔しようとするものは全力で切り伏せ、ようやく辿り着いた

「お前!またステラを!」

「偶然ステラが連合基地に行ってたものでねぇ。仕方ないのさ」

「仕方ない仕方ないで済ませられる問題じゃない!」

「……お前が」

「?」

「お前がステラを止められたら、その時、お前に重要品渡してやる。ま、頑張ってみるこった!」

「なめるなよ!必ず止めてみせる!」

「シン、俺たちが進路を作ってやる!」

ハイネがジャスティス『改』のライフルを連射し、一発一発をウィンダムに当てていく
撃ち漏らした敵の足止めを、νガンダム、F91が勤めた

「シン、お前しかステラを止められない。彼女の記憶に一番残っているのはお前のはずだ」

「やってやれ、シン!」

幾筋もの凄まじい勢いで突き進むビーム。
Zのハイメガランチャー、ZZのハイメガキャノン。

「2人目のフォウは作らせやしないぞ!」

「強化人間が必ずしも戦場で死ぬなんて訳じゃない!」

デスティニーに寄り添うインパルス。接触回線が開く

「お膳立てしてあげてるんだから、頑張ってきなさいよ」

「分かってるさ!」

オーブを全力で潰すつもりの連合。数はピカイチだ。
ミネルバから次々とミサイルが放たれ、数々の光条が戦場へ向かう

「チェン、デストロイのコクピット周辺への直撃は避けて、シンが行ってる!」

「言われなくてもわかってます、艦長!」

「艦長、アークエンジェル、エターナルを確認!」

「来たの?いいわ、応戦して!」

ミネルバの進行方向からくる二隻の戦艦。アスランのことでヘブンズベース戦には介入できなかったが、その分整備は万全となっていた

Sフリーダム、フリーダム、サザビー。
そして、艦上でギガランチャーを構えてウィンダムを撃ち落す新型機「ドムトルーパー」3機。
パイロット―ヒルダ・ハーケン、ヘルベルト・フォン・ラインハルト、マーズ・シメオン。
3人共にハイレベルな操縦技術を持つパイロットであり、扱いの難しいドムトルーパーを使いこなす事が出来るのもこのためだ


「あの大量破壊兵器を止めます……キラ、アスランのこと、乗り越えなければなりません」

「分かってるよ、ラクス。オーブを護らなきゃ」

Sフリーダムは大気圏での使用が出来ないドラグーンをあらかじめ外し、ウィンダムたちを斬って行く

「やめろぉぉーッ!」

デストロイまであっという間に近づいて、バックパックを斬りつけようとする

その腕が、一つのMSのマニピュレーターで掴まれた

「そこまでだ、キラ・ヤマト!」

アムロのνガンダムが、振り下ろされようとした腕を掴んでいた
ライフルでトドメを刺そうとするが、キラは振りほどいてフルバーストをお見舞いする

それを回避したアムロ。だが、その隙にデストロイのバックパックに零距離のフルバーストを叩き込もうとするSフリーダム

「お前!シンがあの子を救おうとしてるんだ!破壊したらあの子が死んじまうだろ!」

シーブックがF91のヴェスバーを発射し、フリーダムを止める

「でも……このままじゃオーブが危ないんだ!それを分かろうとしてくれ!」

「あーあー、空気読めよ怪物君」

「まったくよ、スーパーコーディネーターさんは、空気だけは読めないのかしらね」

ハイネとルナの罵倒しつつの攻撃をシールドで防ぐ
お返しでフルバーストを放つが、急に方向転換した3機はそれを避ける

「あなたは!事情も分からずにまた出てきて!」

「それでも止めなければなりません、強大な力は争いを生むのです。あなたたちも使い方を見誤らないでください」

「あんたの力の使い方は間違ってないと断言できるのかよ!他人の意見も少しは聞けってんだー!」

カミーユとジュドーがドムトルーパーたちの相手をする
サザビーは、νガンダムと熾烈な撃ち合いを繰り広げていた


デスティニーがデストロイの正面に佇んでいる。
背後に青い海と空を蔓延らせ、ネオから教えてもらった通信コードでステラに話しかけた。

「……ステラ、君は戦っちゃいけない」

「来るな!」

スーパースキュラがジャスティスに牙を剥いて襲い掛かる。
右へバーニアを吹かして避ける。

「……これ、覚えてるかな」

すっと取り出したのは貝殻の入ったビン。
モニターに移るステラの顔が、苦痛で歪む。

「今、そこから出すから」

近づくジャスティスにスーパースキュラが至近距離で放たれた。
ビームシールドで防ぐが、防ぎきれなかった部分が損傷する

「………恐く、ないからな」

「……シ……ン?」


ゆっくり、サーベルでコクピットの装甲を溶かしていく


だが、横っ腹をレールガンが直撃した

「うぐッ!?」

衝撃で頭を打ちつけるシン、激痛が走った。
見れば、手が赤く染まっている。血。

「そんなところで!死にたいのか!」

キラのストライクフリーダムがインパルスの両腕をもぎ取り、強引にデスティニーを撃ったのだ
それでも、「人を殺さない」と言う信念の元、PS装甲で無効化されるレールガンで弾き飛ばした

「敵……!?シン!」

混乱したステラが全ての砲門を開いて無差別に射撃する

「やっぱり、これを壊さなきゃ!」

サーベルで次々とデストロイの武装を破壊する。

破壊の名を冠するMSが、破壊されていく

「貴様!」

「コレで、終わりだ!」

Sフリーダムの狙い済ましたサーベルが、コクピットの上を切り裂く
もう一撃、それで勝負が着くはずだった


「……お前は」

「!?」

「お前は憎しみしか生まない!キラ・ヤマト!」

紫色に輝くZ。それを見たキラは思わずその手を止めた

「これは……」

カミーユのZに感応するかのように、νガンダムがエメラルドグリーンに光る
ZZも、紫に輝いていた


νガンダムの光―サイコフレームの光が、戦場に広がっていく

小規模だが、温かい、優しい光

「あ……あれが……MSだというのか!」

ヒルダが荒々しい声を挙げる

目の前のZ、ZZのサーベルの刀身が、伸びた

「な、なんなんだ……!」

「ここから……ここからいなくなれぇーッ!」

ウェイブライダーに変形したZが突撃し、Sフリーダムを突き飛ばす
PS装甲は破れないが、十分な距離を取る事が出来た

「シン!」

ZZが伸びた刀身でコクピットの表面を焼ききった
ステラの顔が、垣間見える

「早く飛び移るんだ!」

ZZの手に飛び乗ったステラ。ジュドーがデスティニーの近くへステラを持っていくとそのままコクピットに乗り込んだ


「……シン、これ持ってけ!」

ネオがコクピットを開け、資料ファイルと薬を投げ渡した

「……もうステラに俺の記憶はない、安心しろ。それが連合軍のエクステンデッドの研究資料。後はザフトのほうでステラの体を元に戻してやってくれ、んじゃな」

「ま、待てよ!名前は!俺、シン・アスカ!」

「……ネオ・ロアノークだ!」

撤退していくネオを見送って、再びサーベルを構える

「……こんな機体、もう必要ない」

デストロイの空になったコクピットにサーベルを叩き込んだ。
爆発し、崩れていくデストロイを、ステラは虚ろな目で見つめていた

戦況不利と判断するなり、連合軍は撤退して行った。
ラクス達も、同様に。



「……ステラ」

「?」

「……戦いに、さよならだ」


海中に沈み行くデストロイ。
先ほどまで瞬いていた光が消えた戦場に、デスティニーの姿がぽつり、一つあった。









[929] 22 「“鎮魂歌”を破れ ―決戦 ネオ・ロアノーク―」  
じゅう - 2007年03月26日 (月) 18時11分

カグヤを使用し、宇宙へ上がったミネルバ。
コウもコツを掴む事が出来、大分ザクウォーリアの操縦に慣れた。

宇宙のザフト別働隊がすでにレクイエム攻略作戦を実行している。

ビーム偏向装置「ゲシュマイディッヒ・パンツァー」が搭載された廃棄コロニーを通して月の裏側から自在にターゲットを狙い撃ちできる
それがレクイエムの長所だ

そのため、コロニーさえ破壊してしまえば、レクエイムはただの砲台に成り下がる

ジュール隊含めるザフト艦隊が、連合軍のMSたちと激戦を繰り広げていた


「艦長、目的地にそろそろ到着します、戦闘準備を」

「パイロットはMSにて待機して!メイリン、敵機は?」

「数不明、ウィンダムとダガーLが主力のようです。ジュール隊が交戦中!」

そろそろ慌しくなり、シンはデスティニーに乗り込む
ステラとスティングはミネルバに乗っているが、無論戦闘に出すわけがない
というより、出る機体などない。

(ミネルバを堕とされるわけには行かない……)

久し振りの宇宙。何故か感覚が広がるようだ。
今までと少し違う印象に頭を傾げながら、一面を黒と白に染めた虚空へと飛び立った

「中継ステーションの破壊を最優先にして!ZZとインパルスは狙撃を!」

「射撃苦手なんだけどな……」

苦虫を噛み潰したような顔で、ルナマリアは一人愚痴る。
なら何故ガナーザクに乗っていたのかと聞かれると、返答に困る
ブラストシルエットに換装したインパルスは、補給がすぐに受けられるようミネルバから離れない

出撃するや否や、ZZのハイメガキャノンが中継コロニーを寸断していく
だが、もちろんコレだけでは破壊できない。

「くそぉッ!お前ら!ビームが来たら終わりだ!一点に集中して壊せ!」

「はいはいっと、了解」

イザークの怒号にディアッカが茶化すように答えた。
ガナーザクが一斉に放ったオルトロスの閃光がコロニーを破壊していく

スラッシュザクファントムのガトリングがウィンダムたちを牽制、もしくは撃破し、ガナーザクを援護する

「お?ミネルバ来たみたいだぜ?」

「……少し悔しいが、戦力はあちらの方が圧倒的に上だ。射線開いて置けよッ!」


シンは主に敵機の撃破に専念していた。
火力では少し心もとないのだ。元々、デスティニーの元となったジャスティスは接近戦に特化した機体だ。
乱戦には滅法強いが、こういう破壊作戦には向いていない


「かかって来い!もっとこっちにこいよ、ほらほら!」

引き寄せて、一気に切り裂いていく。ウィンダムの装甲が紙のように引き裂かれ、爆発する

ダガーLのビームカービンが二発シールドに被弾したが、それほど問題はない
また、一機のウィンダムに切りかかる。
一回目の斬撃を受け止められ、ビームライフルが閃光を吐き出そうとしたが、寸でのところで足のサーベルによってそれを斬り飛ばし、こちらのライフルで撃墜した


後ろから迫るダガーLに斬撃とほぼ変わりのない後ろ蹴りを食らわせ、そのまま爆発させ、右から飛んできたライフルにビームシールドを展開して対処する
そして、ライフルのトリガーを引き、元を辿る様に進むビームがウィンダムの胸部に命中。撃破。


無謀にもサーベルで突進をかけてきたウィンダムの胴体に右足の蹴り―こちらもサーベルをお見舞いする

綺麗に真っ二つになったウィンダムをかかとで蹴り、爆発に巻き込まれない位置まで蹴り飛ばした

一回、深く息を吐いてからファトゥムのハイパーフォルティスでウィンダムの群れを乱射して撃破していく


「……うっ!?」

予期せぬ方向からの射撃。一つ、ポッドがその場で浮かんでいる

「ガンバレルだと!?一体……」

軍の教科書にも乗っていた、レジェンドのようなドラグーンシステムとは言えカオスの機動兵装ポッドの元とも言えるオールレンジ攻撃が可能な兵器―ガンバレル。

但し、高度な空間認識能力が必要であり、並のパイロットには扱えない代物だ

「……ネオ!?」

ネオのパーソナルカラーである紫にカラーリングされたガンバレルダガー。
少し違うのは、デストロイのシュトゥルムファウストの技術を応用したのか、少し威力は低いがガンバレルの射撃がビームになっていたことだ

「シン!今日で決着だ!」

「……アンタが望むのなら、こっちだって全力で!」

4基のガンバレルの射撃を潜り抜け、サーベルによる接近戦に持ち込もうとしたが、そうは問屋が卸さない

「そいつの得意な接近戦、やられるわけにはいかねぇからな!」

「くっ、ガンバレルがしつこい!」

オールレンジで攻撃できるガンバレルがあるネオにとって、確たる射撃武器が少ないジャスティスは不利だ
射撃しても、これだけ距離が遠いと流石に避けられてしまう

追いかけても、追いかけても。ガンバレルの足止めを喰らい続ける。
グラップルスティンガーも届かない

「……行けッ!ファトゥム!」

ある程度の遠隔操作の出来るファトゥムで勝負に出る。
しかし、シンには空間認識能力などない『はず』だった

「操れる!?」

「何ッ!」

ぎこちない動作から、いきなりスムーズな動きへと変貌する
グリフォン2ビームブレイドがダガーの右腕を切り落とす

「……そこだぁっ!」

種が弾けた。自在に動くファトゥムを射撃するネオだが、軽快な動きに翻弄され、当てられない

「……下から!?」

だが、ネオも静かにトラップを仕掛けていた。隙を突いて近づこうとしたデスティニーに、隕石に隠れさせていたガンバレルの十字射撃をまともに受けさせたのだ

マシンガンのように放たれるビームがデスティニーを損傷させ、右肩を吹き飛ばした

裏を掻いて接近するダガーへの対応が遅れ、サーベルの真一文字の一閃にメインカメラまで吹き飛ばされた
左肩はファトゥムがカバーし、事なきを得る


「一瞬で形勢が!?やっぱり強い!」

雑音を残して消え去るモニター。
一か八か、コクピットを開放。これで目視できる

「正気か!?」

「正気さ!」

ダガーのライフルから放たれたグレネードが胸部に直撃するが、踏みとどまる

サーベルでの接近戦。危うくコクピットから放り出されそうになるが、操縦桿をがっしり掴んで離さない

横へサーベルを振る。それを受け止められ、足による斬撃。
下へ移動する事でそれを避けると、ライフルで射撃するが、宙返りでシンは避ける

ファトゥムに攻撃するガンバレルだが、一基一基は火力不足なのが露呈する

ハイパーフォルティスによる射撃をネオはシールドで防ぎ、そのシールドをデスティニーに投げつけ、目くらましにする
その隙にデスティニーの上へ移動し、サーベルを投げつける


「簡単にやられるかッ!」

目くらましになっていたシールドをサーベルに対抗するよう上へ放り、阻む
距離をとりつつライフルを連射するダガーを見て、シンは少し微笑んだ

「後ろだよ」

「しまった!?」

ファトゥムが後ろからの特攻を仕掛け、ビームブレイドでダガーの両足を奪った

衝撃でデスティニーに引き寄せられるダガー

「これでラスト!」

「うおおおぉッ!」

サーベルが、ダガーに振り下ろされる。胸部を真っ二つにされるダガーだったが、ガンバレルが4基全てデスティニーに突撃。
デスティニーも中破する

「……シン、お前なら、不可能を可能に出来るはずだ」

「何を……早く脱出しろよ」

「俺は負けたんだ。それに、もう人生に疲れちまったぜ」

「……ッ!」

目の前が光で包み込まれる
爆風でデスティニーの体が流されたと気づいたのは、数秒たってからだった



「バカな!兵量では私達が勝っていたはずだ!」

「しかし、すでに4基のコロニーが破壊されました、充電率は48%です」

「……どうやってもあそこにいるデュランダルを殺さねばならんのだ!かまわん、アプリリウスへ撃て!」

「敵MS侵入!コントロール回路が寸断されました!」

「なんだと!」

「こちらへ向かってきま……」

ジブリール共々、粒子で形成された刃に裂かれ、断末魔の叫びを上げる間もなく消滅
ハイネのジャスティス改による一撃だった




「こちらジュール隊、作戦は成功した。援護、感謝する」

その通信の後、ミネルバに全員が帰艦した。

「シン、コレで戦争、終わりだと思うか?」

ハイネが聞いた。

「いや、まだラクス達がいるし……あいつらも止めないと」

「緊急通信です!プラントから……!」

アーサーが血色を悪くして叫んだ。


「デュランダル議長が、クライン派の兵士に殺害されたと……」







ハイネの予想通りだった。

まだ、戦争は終わっていない。

[930] 23 「最後の戦場へ ―決戦へのインターバル―」
じゅう - 2007年03月27日 (火) 07時59分


「………」

本当に唐突に、そんなことが告げられれば黙りこくっても何らおかしくはない
ハイネはデュランダルに信頼を寄せ、尊敬していたからこそ、何も言うことは出来ない
沸々と複雑に絡んだ感情が湧きあがる

レイは、デュランダルの死に悲しみを感じるより先に怒りが来るが、それを押し留め、落ち着く。
伊達にポーカーフェイスではない。周りはレイの心の奥にそんな感情があったことは知る由もなかった


「尚、デュランダル議長の遺言によると、ミネルバは独立し、新しい議長になったラクスを止めろ、と」

「独立!?つまり、ザフトから完全に孤立するんですか!?」

シンの驚愕を含んだ声も、アーサーに飛んだ

「いや、クライン派ではない兵が半数以上を占めている基地は大抵反乱などは起きていない。そこで補給などを行なう」

それを聞いて、シンはほっと胸をなで下ろす。ラクスを止める事自体には反対しないが、補給が受けられないとなれば一大事だった


「……まとめると、ラクスが今いるのはアプリリウスではない、メサイヤだ。そこを叩く為の独立部隊として今後動く。つまり、決戦の鍵にもなるかもしれないんだ、我々は」

「とんでもない大役だが、逃げるわけには行かないね」

ハイネが咎める様子もなしにすんなり答える。

「同意だ。ここまで介入した以上、俺たちもやってやるさ」

「俺も逃げるつもりはないですし、逃げられないでしょ、もう」

「違いないや」

「まあ、現実だよな」

「俺だって仮にも傭兵さ。雇われてる以上、命令には従います」

異世界からの来訪者5人含め、総員が同意した

もう引っ込みはつかない、前へ

「じゃあ……まだラクスに接収されてない基地があったはずだ」

プラントなどへはクライン派が目を光らせているため寄航は出来ない
ラクスではなく、「ザフト」が接収したばかりの元連合基地のアルザッヘル。
ミネルバはそこへ向かい、その後メサイヤ陥落を目指す



レクイエム攻略戦を行なっていたミネルバは、比較的早くアルザッヘルに着いた
向こうも受け入れを許可している


「しかし艦長、命がけで私達を潰しにくる奴もいるんじゃ……」

「そんなこといってちゃ、一生此の艦、補給できないわよ」

どうやらここも、デュランダルの遺言が告げられ、士気はぐんぐん上昇しているようだ

「ここにはクライン派の兵士は少ないはずだ、極端にな」

イザークが忽然と出てきて周りを見渡すシンに話しかける
シンは声に反応する形で振り向いた

「古来オーブでやっていたある宗教を見つけ出す手段でな、「踏み絵」というんだが、案外多数が引っかかったよ」

イザーク自身もラクスのファンではあったが、事実上乗っ取りに近いこの事件ですでに愛想は尽きている

それどころか、デュランダル議長の意思を引き継ぐ事でやる気は有り余るほどある

「それより、だ」


格納庫に収容されている巨大な「MAのようなもの」。
そして、その横にぽつんと立っているMS。

「MA」はアルザッヘル基地のような巨大な基地だから入るものの、戦艦にはとても収まりそうにないサイズだ

「残骸を組み上げたのはいいが、とても扱える代物ではなくてな」

「ああ!デンドロビウムが何でここにーッ!?」

コウが叫んだ。周りの視線が一斉にコウに刺さる。

「お前の機体か?」

「もちろん!うわあ、こんな所にあったのか!」

「組み上げるのに苦労したらしいぞ。やれ基地には入りにくい、やれどういう構造か分からない、そんな苦情が殺到したからな。アルザッヘルに来て、やっとドックに入れることが出来た」

「あ、ありがとうございます!」

なんというか、勢いでお礼を言ったが、嬉しい事には変わりなかった。
ザクの操縦訓練は無駄になったが、まぁ、いいだろう

「この感覚……間違いない、ステイメンだ!」

「MA」―オーキスのコアユニット、「MS」―ステイメンに乗り込むコウ。
改修されたゼフィランサスには劣る機動力だが、それ以外のスペックは遥かに上回っている

懐かしさと嬉しさを噛み締めながら、決戦へと、ステイメンを調整していた。


「……シン」

アムロがシンに声を掛ける。見れば、νガンダムの装甲の本当に一部が剥がされ、デスティニーのコクピット周辺の装甲に溶接していた。
少し不恰好にも思えるが、硬いνガンダムの装甲が生存率を高めるだろう

「νガンダムの装甲、硬度落ちちゃいますよ?こっちの世界の装甲だし」

「いや」

アムロは、顔を横に振り、笑顔で、どことなく含みを持たせながらこう言った

「当たらなければ、どうってことはない」




アルザッヘル基地からザフト艦隊が出撃していく
ミネルバも続いて、宇宙へ飛び立つ。クルーの緊張はいよいよ高まってきた

「これから向かう戦場にはフリーダムも、あの赤いMSもいるわ、油断しない事!」

「了解!」

一斉にブリッジがその声で埋まった。
タリアは真剣な顔つきになり、アーサーに命じた

「目的地はメサイヤ!作戦目標、ラクス・クラインの確保!死に急ぐ事はしないこと、各員、第一戦闘配備!」


変わった「運命」。過酷な「運命」。

それに抗うものたちが、立ち上がった。


[931] 24 「虚空の宇宙(ソラ)へ ―思いだけでも、力だけでも― 前編」
じゅう - 2007年03月27日 (火) 20時43分


メサイヤ周辺宙域

ラクスに味方する者たちが戦力を展開し、ザフト対ザフトといっても過言ではない光景だ
こちらも、ジュール隊旗艦、ゴンドワナ、ミネルバ、そして11隻の艦隊から次々とMSが出撃する

まだ、双方共に戦闘は開始されていない


「皆さま、おやめください」

戦場に歌姫の声が届く。シンは舌打ちしながらも、黙って聞いた

「ザフトとザフト、同じ軍隊が戦うなど許せる事ではありません。それではいつまでも憎しみの連鎖は続くばかりで途切れる事はないでしょう。……イザークさん、部隊をこちらへ渡してください。
罰も与えません、私はただ降伏してほしいだけなのです」

「よく聞こえなかったからもう一度言ってくださーい」

怒りを含んだ満面の笑みでシンはそう叫んだ。
ラクスは無視して話を続けていたが、それが癪に障る

「考えてください、ここで戦う理由などないはずです。もう戦争は終わっています。剣を捨て、今一度、私達とともに歩む道を選んでください……」

「お断り」

黙々とラクスを挑発するシン。他のザフト兵も『何を言っているのか』と、『お前らはザフトを乗っ取ったのと同じだ』と連呼している。シンもまた、笑みを浮かべながら言う。
それに動じる様子は全くない。話を聞いていないようにも見える


「……自分の仲間じゃないヤツらの話を全く受け入れないラクスが議長ってどう思う?俺たちは自分なりの考えを述べてるのに上手くはぐらかすんだぜ?」

シンがわざと大声で言った。ジュドーが相槌を打つ

「だよなぁ、歌姫さーん、ヘッドホン付けてるのかー?」

実際、これは挑発であり、引っかかるようなことではないことは分かっている。
ただ、ジュドーやNTの4人はラクスが『苦労』しているようにも感じていた
何か、声から疲れを感じられる。それを何故かニュータイプではないはずのシンも感じていた


「……お願いです、降伏を……」

「戦いなぞやりたくてやるわけじゃない!貴様を止める為なんだ、この戦いは!ラクスッ!」

ハイネが咆哮し、それに続く形で決戦の火蓋が切って落とされた

「ラクス、任せておいて、誰も死なせやしない、殺しはしない」

ミーティアを装備したSフリーダムとフリーダムの『二つの自由』が出撃する
その間に、ラクス軍の内の3機が撃墜された


デスティニーのフラッシュエッジがどんどん敵機を切り裂く
ザクウォーリアがビームトマホークで斬りかかって来るが、それを右足のサーベルでいなし、左膝でコクピットを打撃する。
錐揉みしながら飛んで行くザクウォーリアがギラ・ドーガに直撃し、そこへライフルを撃ち込んで二機とも撃破する

ギラ・ドーガのビームマシンガンが機体を何回も何回も捉えるが、直撃は避けて耐える。元々一発一発の威力は低いのだ

ビームマシンガンをシールドで押し止めながらギラ・ドーガに接近、サーベルが胸部を貫いた

最後の抵抗か、ビームマシンガン本体をジャスティスに投げつけるが、虚しく弾かれて行った
装甲が硬い所為か、斬り難い感触だ


「そんなところに……隙を作ったまま出てくるから!」

シンがトリガーを引くと、光が目先の隕石に隠れていたギラ・ドーガを捉え、爆散させた
後ろ、横、下、上、前、右、左。
全ての方向から包囲するようにギラ・ドーガが襲い掛かってくる

「それだけじゃくたばんないぜ!」

下に右足のサーベルを縦一閃。両腕にサーベルを持たせ、双剣を右と左へ一太刀ずつ、上にファトゥムがハイパーフォルティス
前にグラップルスティンガーを撃ち込み、引く。斬る。
一瞬で7機を撃墜。

目の前にふと現れたゲイツを何気ない仕草で真っ二つにすると、その爆発寸前の残骸を盾に、ギラ・ドーガに特攻。
爆発しそうになると、投げつけて爆弾代わりにし、損傷させて隙を作らせ胴体をサーベルで一閃

宇宙に刃の光、爆発の光、銃口から放たれる光が瞬き、煌き、消える。
ビームマシンガンを軽く避けると、反撃のライフル。それを避けられた事を確認し、二発目。コレも避けられる

上下左右の感覚がない宇宙で、相手と逆の逆さになりながらライフルをもう一回。命中し、四散した

その爆発の向こうに見える巨大な機影。関節が金に染められた目立つ機体。

「フリーダムか!」

フリーダムはフリーダムでも、シンが指すフリーダムはSフリーダムだ

長距離からの狙撃。出来るか

感覚が、宇宙に広がった

「ッ!いけぇッ!」

大量に僚機を撃破するミーティアに引導を渡す。
寸前で切り離し、狙撃したMSが誰かを見抜き、キラは黒い背景に一つ浮かぶ蒼いMSへ向かっていった

「来た……フリーダム!これで戦争を終わらせる!」

「なんでラクスの言うことが分からないんだ!平和を求めてるのに、何で邪魔を!」

「分かってるから邪魔してるんだよ!」

デスティニーが踵落としの様に足のサーベルを振り下ろす。
ハッとした。一瞬背筋に寒気が走る

(……くぅぅッ!)

ギリギリ動いていた右足を引き、Sフリーダムの攻撃を避ける
ライフルを収納し、サーベル2本を腕に託して力任せに振った
空振り。また寒気。

姿勢制御スラスターで横へ全力で避け、大きく距離をとることになる

まるで首筋に冷たい刃物でも当てられているように、一瞬のミスや隙が敗北に繋がる、絶対的強さ。

(……やっぱ、強い!)

歯を食いしばり、バッタのように横へ横へとジグザグ移動しつつSフリーダムにハイパーフォルティスの方向を向け、横回転しながら放つ

それも全て避けられ、気づくと自分のすぐそばに寄られていた

両脚を振り上げる。斬撃へ昇華

「遅いよ」

「う……!」

両脚のサーベルをビームシールドで封じ込まれ、全ての砲身がこちらへ向いた
つーっと、一筋の汗。目の前に浮く。

デスティニーのビーム突撃砲が両肩をかすめて行き、カリドゥスをビームシールドで受け止める
シールドごと向こう側へ押されるが、シールドをテニスのラケットに見立て、打ち返す様な素振りで踏ん張る

「このォッ!」

続けて放たれる一面の黒に描かれる無数の閃光。
横へと大きく逸れる事で回避し、サーベルを一度離し、フラッシュエッジ2個とシャイニングエッジを投げつける

それら全てを避け、瞬時に斬り壊すと、Sフリーダムがライフル二丁を連結させ、ロングライフルにして発射。
高出力のビームが迫りくるが、避けてハイパーフォルティス。
読まれていたかのように、それは虚空を裂き、虚しく遥か彼方へと消えていった


「ええいッ!」

キラがドラグーンを射出し、オールレンジ攻撃を仕掛ける。
全ての方向からのビームが、ジャスティスに次々と当たる。

「強行突破ァーッ!」

追尾してくるドラグーン、前へ立ちふさがるドラグーン。デスティニーはシールドを前へ構え、突撃する。 ―Sフリーダムへと
ドラグーンを完全に使いこなしているわけではないキラは戸惑い、一瞬ながら自分もドラグーンの攻撃に晒され、数箇所を被弾した

だが、デスティニーより傷は深い

「装甲が脆いな!少しでも当たれば!」

「弱点がバレた!?だけど!」

キラの専用機として開発された当機は、回避の方がメリットは高いとされ、装甲と装甲の間に出来た隙間の所為で防御力が低下しているのだ。
シンは兎に角「当てる」ことに専念し、怒涛の連撃で攻め立て、回避する間をなくしていく
どうせ頭はキラだ、コイツさえ潰せば終わり、という考えで守りを捨てて攻撃していく

その所為か、右腕を容易く斬られてしまった。それでも攻撃は続く

「こんな……相変わらずだッ!」

「押し切れるか!?いっけぇッ!」

決定的チャンス、偶発的両者ともに種が弾ける。
いつの間にかファトウムを射出させ、Sフリーダムの背後を取るが、ドラグーンの集中攻撃の前にファトゥムを損傷。
だが、ハイパーフォルティスは発射され、翼状の背部バーニアの左を破壊、グリフォン2ビームブレイドがSフリーダムの右腕を切断した


「これで終わりだ!」

それを気にせず、Sフリーダムの左マニピュレーターに握られていたサーベルがデスティニーの下半身と上半身の境目に命中せんとしていた

シンが、にやりと笑う。

「フリーダム、俺の勝ちだ!焦ったな、お前!」

「え!?」

左足のサーベルが刹那、目に入った
驚愕した。飛んだ失態だ。足のサーベルを計算に入れていなかったのだ
意地で左足を切断し、距離をとるが、その際グラップルスティンガーにつかまれ、左肩が損傷する

「チィッ!お前、ラクスの事気にかけてるか!?あいつ、なんか疲れてる!」

「気にかけてないわけないだろ!」

「なら何故アイツを休ませないんだ!戦場に元々歌手だったヤツが出ずっぱりで疲れないわきゃねぇだろこのヤローッ!」

ファトゥムがハイパーフォルティスを射撃しながらSフリーダムの背を襲う。
ドラグーンよりも遥かに高い強度をもつそれが、Sフリーダムの右足を切り飛ばした


「来い!俺が引導渡してやらぁ!」



[932] 25 「虚空の宇宙(ソラ)へ ―シンとラクス― 中編」
じゅう - 2007年03月29日 (木) 00時14分

一度、交錯し、切り結ぶ。
光と光がぶつかり合って、火花を散らす
種が弾けた二人の実力は拮抗し、決定打が与えられない状況のままだ

サーベルを淡々と振りかぶり、斬撃
接近戦に強いデスティニーがSフリーダムに一太刀を与えられないのは、キラの操縦技術もあるのだろう

Sフリーダムに、横薙ぎでサーベルを振う
それをバックステップで避け、レールガンをデスティニーに直撃させ、牽制する


衝撃に呻きながら、一度離れて、ライフルを手に取る
トリガーを引いた。閃光。闇に消えていく。何回も引く。
全て当たらず、逆にフルバーストを喰らってしまう

ビームシールドで耐えるが、頭部の右の方にビーム突撃砲がかする。
幸い、メインカメラに損傷はない

ライフルを乱射、エネルギー切れの心配はデスティニーにはない。
超小型核原子炉のおかげだ。
だが、それはSフリーダムにもいえること。正確な射撃が、幾筋も降り注いでくる

ビームシールドは実体攻撃に弱いが、ビーム兵器には滅法強い。それを活用しつつ、回避する
もっとも、ビームキャリーシールド、つまりシールドからビームシールドを発生させている為、実質二重の盾。防御能力は遥かに飛びぬけている


接近しなければデスティニーの真価は発揮されないが、迂闊に近づいても危ない。
中距離からライフルで牽制しつつ、様子を伺う

(……ぐぅッ!)

ドラグーンがいつの間にか後ろに回りこんでいた。直感から後ろを振り向いたシンは、攻撃される前に反応できた為、ライフルを乱射してドラグーンを一度Sフリーダムまで戻させる


「読まれた?勘が強いのか、それとも運か……どっちにしたって!」

フルバースト。回避行動を取りつつ、ファトゥムを操作させる

「いけぇッ!」


ファトゥムが背後から迫るが、Sフリーダムはドラグーンを射出してファトゥムに攻撃。

それを見て、シンはファトゥムを背部に装着する
Sフリーダムから見て上昇し、急降下してハイパーフォルティスを連射して突っ込む

ビームシールドがそれを阻むが、サーベルではなくビームシールド同士を接触させ、右足のサーベルで蹴り上げ、Sフリーダムのライフルを両断した

しかし、いつの間にか周りをドラグーンが包囲していた
一斉発射。ファトゥムのブースターが稼動するが、機体に4発ビームが当たった

めげず、サーベルの攻撃。防がれた
弾かれた反動のまま、最大加速。強烈なGが襲い掛かったが、耐えた

「落としてやる、これでぇぇッ!」

サーベルがサーベルと触れ合う。その瞬間ファトゥムをまっすぐ射出
当然のようにドラグーンで攻撃、ファトゥムの両翼が破壊され、殆どの武装は使用不能となっている

わざと右足を出す。Sフリーダムの攻撃によって破壊されるが、それは思惑通り。

その破壊された足をサーベルが消える前に握り、Sフリーダムに叩き付けた
ビームシールドを貫く足。鎌のように右腕を内側から切り裂く

「ああッ……」

この所為でデスティニーの戦闘力は確かに低下した
だが、そのおかげでチャンスを作り出せた

「行けぇぇぇッ!」

Sフリーダムに特攻するファトゥム、そしてデスティニーのサーベル。炸裂するフルバースト。
両者の最後の力がぶつかり合った




それより前。ドムトルーパー隊とレイ、ハイネ、ルナマリアが戦闘をしていた
3機と3機。戦力にそれほど差はないが、チームワークはあちらの方が圧倒的に上だ

「バカにしてぇぇ!当たれ!」

ルナマリアは元から苦手な射撃を仕掛ける。当然の如く避けられ素早い動きからサーベルによる一撃を3連続で受けていく
シールドはすでにズタズタだ

「ドラグーンさえ避けるか、キツイな……」

楽々とまでは行かないものの、ドラグーンの扱いには長けているレイのオールレンジ攻撃を避けるドム3機。
ハイネも奮闘するが、ギガランチャーの威嚇射撃が脅威となっている

「ドム?リックドムのようなものか」

そこをνガンダムが通りかかる。
この前の戦闘でνガンダムが引き起こした現象を忘れていないヒルダたちは真っ先にνガンダムをターゲットにした

「注意しなよ!只者じゃない!あれをやるよ!」

「今日は光ってないな、覚悟しやがれ!」

「やりますか!」

3機が一列に並び二機目、三機目がギガランチャーを構えた
一機目―ヒルダ機はサーベルを構えている
かと思えば、いきなり先頭の機体が強烈な光を放つ

その光、スクリーミングニンバス。それを纏った3機はビームライフルなどのビーム兵器を無効化し、相手にそのまま攻撃する事も出来る

「こいつ……来るのか!」

サーベルとバズーカで対処しようとする。

「ジェットストリームアタック!」

「あの3機に比べれば、まだマシだぁッ!」

あの3機――一年戦争時に戦った3機のドムで構成された部隊「黒い三連星」。その部隊もジェットストリームアタックを仕掛けてきた
対処法は、ある
あのときよりも高性能なMSに乗っているのだ。

やるしかない

「ええいッ!!」

ブースターで一直線に加速

「態々やられに来たか!」

二機目のヘルベルトがギガランチャーをヒルダの肩の上から発射する

「ここだ!」

「なッ……」

バズーカを飛び越え、ヒルダの機体の肩を踏みつけ、無重力の空間でアポジモーターを調整しつつ、二機目に向かった

「私を踏み台にした!?」

踏んだ時、偶然接触回線でそれが聞こえた。だが、アムロはかつて「黒い三連星」のリーダー。同じく踏み台にされた男「ガイア」もほぼ同じ事を言っていることを知らない


「落ちろぉ!」

「あぁッ!」

ヒルダが悲鳴を上げる。ヘルベルトの機体のコクピットを、νガンダムのサーベルが綺麗に貫いたのだ。
断末魔となる爆音さえ上げず、ヘルベルトのドムは動かなくなった

「へ、ヘル……ベルト」

「二つ目!」

サーベルで押し倒していく体勢からバズーカを放つ
マーズのドムを見事に捉え、豪快な爆発音と共にそれは消滅した

それで、ヒルダは完全に抜け殻となる

「止め!」

「マーズ……ヘルベ……」

言葉の途中でサーベルがヒルダのドムを肩から腰にかけて袈裟切りにした
それを蹴り飛ばし、遠くでそのドムが爆発した

(……最後の一機、コクピットに当てるべきじゃなかった)

アムロはヒルダが戦意をなくしたことを分かっていた、動きが完全に止まったままだったのだ
自分としたことが、失敗した際のリスクを考え、夢中になりすぎていた

「せめて、天国と言うものがあったら」

あのパイロット達は、そこへ行けるのだろうか。
幻想論を抱きつつ、『赤い彗星』を目指して更に奥へと進んでいった





「………」

キラは、Sフリーダムの中で沈黙していた。
諦めたような、そんな印象さえ受ける

最後の一撃。ファトゥムが盾の役割を果たし、フルバーストは防がれた
四散したファトゥムの影から迫った光の刃―

そこからは、成す術はなかった。胸部への斬撃で怯んだ後、武装を剥ぎ取られ、この宙域に置いて行かれた

止めを刺されなかったことに、感謝したいが

(武装も奪われて置いていかれると、こんな気持ちなのか)

自分が幾千と戦場に直接殺さず、叩き落してきたパイロットたちの気持ちが分かった気がする
もう、不思議と恐怖は感じない

「宇宙(ソラ)に、任せよう」

なら、流れるままに。
キラは、そのまま宇宙に身を委ねた



「ラクス様、敵機が接近!」

「あの機体……」

『待ってくれ、攻撃する気はない。ラクスと会いたいだけだ』

シンは、メサイヤに接近し、そう通信を入れた
徐に席を立ち、ラクスは口を開いた

「通しなさい」

「え……あ、はい!」

近衛兵が一瞬意外な表情を見せたが、すぐにメサイヤのゲートを開け、デスティニーを受け入れる

コクピットから降り、やっと見えた歌姫の姿

「いきなりなんだけどさ、言わせて貰うよ」

「どうぞ」

「……無理してるよな」

シンが鋭い瞳でラクスに詰め寄る。ラクスは表情一つ変えず、答えた

「そんなことはありません」

「嘘だな、近くによるとよく分かるよ、俺が初めてアンタの声を聞いたときと、今とじゃ全然違うぜ」

全然かどうかは定かではないが、とにかく少し声が小さかった
いつものような強い意志をこめた言葉。だが、力が感じられない
それに、僅かに目の下にクマが出来ている

シンは、周りの兵をギラリと睨み付ける

「過剰な期待をしすぎなんだよ、あんた達。ラクスだって超人じゃない、一人の人間だ。大事な所は全てラクスに任せて、それでラクスが言った意見に反対するものは誰もいない、そうだろ?」

「何を……」

「それはいつか、ラクスを滅ぼす。確実にな」

「こいつ……」

「おやめなさい!」

ラクスが何時も放っていた気丈な声が、久し振りに聞こえた

「アンタも何で他の人を頼ろうとせず、いっつもいっつも自分で全部背負う?仲間は何のためにいるんだよ」

「……」

「俺が言いたいのは、これからはその考えを改めてほしい、ってことだ。せっかく慕う人が沢山いるんだ。……今はアンタを議長とは認めないけど、これから頑張って行きゃ良い話しだしな」

鼻を擦りながらシンは笑顔を見せて、去っていく
ラクスは、しばらく考え込み、全通信を開いた

「……戦闘を中止してください。私に協力してくれている人も、同様に」

「え……?」

ハイネが思わず素っ頓狂な声を挙げた。周りのMSの動きが止まる

「……私は議長を辞めるつもりはございません。コレまでの事、許していただこうとは思わない」

「……」

「ただ、償いは行動でします。1年、待っていただけないでしょうか。その時、私を議長として認められない人が多数いるのなら、他の人に議長の座を譲ります。ですから、どうか……」

『ラクス嬢、そういうわけにはいかんな』

男性の声。しかし、ミネルバやイザークたちの隊の兵士ではない

声の主は、シャア・アズナブル、その人だった


『避難したいなら今すぐ出て行くことだ、そのメサイヤから』

「どういうことですか?」

『……気づいていなかったようだが、ラクス嬢、あなたたちが開発した核エンジンを流用した、分かりやすくいえば爆弾をメサイヤに仕込んでいる。これを地球に落とせば、質量と核でどうなるかは分かるな?』

「そんな……」

シャアはMSの設計に自信が有るといっていた為、一部のMS、パーツの整備や調達を任せていた
その時だろう、コレを仕込んだのは


「……シャア!お前はまた!」

「アムロ、この世界も地球に住む人類は腐敗しきっている、私が粛清せねばならない!」




それぞれの最後の飛翔。

運命に抗って。



「そんなこと許しゃしない!」

シン・アスカが、赤い彗星に向かっていった



[933] 26 「虚空の宇宙(ソラ)へ ―繋がりし運命 広げられる翼―」
じゅう - 2007年03月29日 (木) 21時15分

メサイヤが、稼動する。
取ってつけたようなブースターがメサイヤを加速する。兎に角巨大だ。簡単に破壊する事は出来ない上、近づけば熱で機体も弾も溶ける
その為、エネルギーで構成されたビームライフルが頼りだ


だが、その守りにシャア自らがついていた。

サザビーは改良されておりドラグーンを応用した名ばかりの『ファンネル』を装備。オールレンジ攻撃が可能。


しかも、メサイヤ内にいたクライン派以外のザフト兵は全てシャアに協力している。
その数は馬鹿に出来るものではない


「ラクス様、脱出を!」

「分かりました、総員、脱出準備を。アークエンジェルを呼び戻して下さい、エターナルの出港準備を」

「はっ!」

メサイヤでも動揺は広がっていたが、ラクスのカリスマ性から、彼女が指揮をとることによって全員の気持ちを持ち直す

着々と脱出準備は進んでいたが、もちろん宙域は戦闘が行なわれている

迂闊に飛び出ることは出来ない


「相手に母艦がないとは言え、持久戦は無理よ!メサイヤの破壊を優先して!」

「バリアが展開されていない今がチャンスだ!全機、一斉射撃!」

アーサーの号令と共に放たれる火線。メサイヤに直撃していく

「艦長!破壊対象の質量が大きすぎます!このままでは……」

「諦めても何の得もないわ、射撃を続けて!」


デスティニーとνガンダムがサザビーを囲む。
だが、周りのギラ・ドーガがビームマシンガン、シュツルムファウストで射撃してくるため、サザビーに近づくことさえ用意ではない
ちなみに、シュトゥルムファウストとは違い、シュ「ツ」ルムファウストはバズーカの一種だ

「ちっ!守備隊を先に撃破し、それからブースターを破壊しましょう!そうすれば……」

「しかし、ここは宇宙だ。一度加速したもの、しかもコレだけ巨大なものを止めるにはそれだけでは!」

言いながら、数珠繋ぎに放たれるライフルの射撃でギラ・ドーガを鮮やかに撃破していく
デスティニーはボロボロだ、ファトゥムも失っている

「シン、お前は一度戻れ。補給した際、腕や足のスペアも受け取ったはずだ。あくまで急場凌ぎだ、若干性能は落ちるがな」

「分かりました……だけど、この赤いのに勝つには……」

『シン・アスカさん、エターナルに着艦してください、ジャスティス……いえ、デスティニーの予備パーツはここにありますから』

「そっか、元はといえばアイツらの物だっけな……その前にザフトのものだけどよ」

エターナルへ精一杯の速度で進む。その後ろをνガンダムがカバーし、サーベルで敵機と交錯した瞬間、ギラ・ドーガたちが撃破される

「デスティニー、着艦します」

そんな声が聞こえた。足も切り取られていたデスティニーはドックに滑り込んだ

「ラクス様の命令でもあり、地球が危ないんだ!手ぇ抜くんじゃないぞ!」

次々とメカニック達がスペアをデスティニーに接合していく
シンは一種の感銘を受けた。
なんだかんだ言っても、コーディネーターも地球を潰したくないのだろう。
一部を除いて。

そして一時が経った。シンはデスティニーに乗り込み、起動させる
エターナルから射出されるデスティニーに、ラクスの視線が向けられていた



「ルナマリア、敵を甘く見るなよ、ベテランが多いようだしな」

「わ、分かってるわよ!」

レイのレジェンドが放ったドラグーンがインパルスの背後に迫ったギラ・ドーガを撃破する
装甲の硬さが段違いだ。実弾系武器では数を重ねて攻撃しなければ撃破出来ない

ラクス軍が味方となってくれたのはいいが、大抵パイロットとしてのキャリアが低めのものが多い。ベテランは殆どが敵。

ベテラン、つまり歳を重ねているからこそ、シャアについていったのだろう。
少なくとも、数人は「どちらかと言えば」パトリック派だ。


「意外と数が多いぞ!厄介だな!」

愚痴りながら一機のギラ・ドーガを宇宙の藻屑へと還す
ハイネのジャスティス改がサーベルを振り回して突撃し、討ち漏らした敵機にF91がヴェスバーを撃ち込んで行く
装甲を貫通しつつ、その閃光が他の機体を数機巻き込んだ

ジャスティス改はすでに左足と右腕を失っている。レジェンドも例外ではなく、左腕は木端微塵。インパルスは一回全パーツの交換をする羽目になっている


「もっとリラックスしろ!出来ないんなら緊張感を持て!アレが落ちたらどうなるか分かってるんだろうな!」

「くそぉッ!」

ハイネの通信を聞いて、カミーユはZをウェイブライダーに変形させ、威力は低いが牽制程度にはなるビームガンを連射しつつギラ・ドーガを蹴散らす

一通り敵機を一蹴すると、メサイヤの加速ブースター付近へと猛スピードで突っ込んでいった

「クワトロ大尉!あなたが一体何をしているのか、分かってるんですか!」

「私はもうクワトロではない、シャア・アズナブルだ!」

U.C時代の事だ。
シャアはグリプス戦役においてクワトロ・バジーナと名乗り、エゥーゴと呼ばれる勢力に参加していた

そこには、カミーユの姿もあり、最終決戦『まで』彼らは一緒に戦っていたのだ

その後、シャアは小惑星基地「アクシズ」を地球に落とそうとし、それをアムロが押し返したのだ、一機のMS―νガンダムによって


まさに、この状況は『第二次ネオ・ジオン抗争』の再現といっても差し支えないだろう

Zのグレネードランチャーを素早く撃墜した後、シャアはマニピュレーターを操作

ビームトマホークを振いつつ、Zのハイメガランチャーを握っている右腕を付け狙う

「そう簡単にッ!」

一度しゃがみ、ビームソードアックスを振りかざしながら特攻してきたギラ・ドーガの下に潜り込む
ギラ・ドーガは瞬時に反応し、左マニピュレーターに握ったシュツルムファウストの砲口をνガンダムへと向けた

だが、それをも上回る反応を見せるアムロ。すでにギラ・ドーガの胸部にはサーベルが突きたてられていた。
爆炎を噴出するギラ・ドーガを掴んで、フットペダルを踏む。

流星のようにサザビーに近づいたかと思えば、そのまますれ違い様にギラ・ドーガをサザビーに投擲。爆発する前に、サザビーは爆発を起こすギラ・ドーガから離れた

ビームショットライフルのトリガーが引かれた。淡い光を纏った閃光がνガンダムのシールドを捉える
そして、十八番ともいえる「ファンネル」を射出した

脱出ポッドのデータを元に出来る限り本当のサザビーに搭載されていたファンネルに近づけた為、その動きは俊敏そのもの

予想できなかったファンネルにアムロは迎撃のライフルを操作するのが遅れる
背後を取られた瞬間、無理やりコントロールスティックを傾け、サーベルで斬り捨てようとした

だが、その必要はなかった

「ドラグーンもどきが!」

シンが咆哮し、同時にファンネルをサーベルで文字通り『消滅』させた

アムロは、シンにシャアを任せる事にした。
ましてや、この世界の問題だ。シンが適任と言える。
自分は、U.Cですでに決着はつけた。


「シン!お前がクワトロ大尉、いや、シャア・アズナブルを!」

周りのギラ・ドーガをZとνガンダムが撃破していく
カミーユにとっては苦渋の決断と言えるかもしれないが、最終的な問題はやはりC.Eの人間に任せるべきだ

シン・アスカに


「君では止める事など出来んよ!」

「やってみなくちゃ分かんないだろ!何の考えがあってこれを地球に落とそうとするんだ!」

「地球の人類は腐敗している!君が助け出した子からも分かるだろう!」

「全てが全てどうしようもない訳じゃない!何で今だけで判断出来るんだ!」

虚空を裂くサーベルを、シャアは右手からトマホークの柄で叩き落す
頭部がサザビーを見た刹那、鋭利な一撃が胸部の上をかすっていた

続けてファンネルの弾幕の中に閉じ込める。
歯を食いしばりながら必死にシールドと拾い上げたサーベルでビームを弾いていく
当然、完全には防ぎきれない。

寸での所で命中していくビームがデスティニーを傷つけていく

Sフリーダム戦でやったようにビームシールドによる強行突破を試みる

「まだまだだな!」

一瞬の内。がら空きの背部をファンネルが一斉射撃する
警告のアラームが鳴り響いた瞬間、シンの種が再度弾ける
そして、感覚がその攻撃を捉えた

「……ファトゥム!これで!」

切り離されるファトゥム。動き出したそれは、回転しつつグリフォン2ビームブレイドによって向かってきたビームを捌く

「遠隔操作ができると言うわけか!」

シャアは舌打ちをしながら、ビームショットライフルを撃った
だが、先ほどとは違う。拡散。


「ビームが広がった!?」

驚愕する傍ら、ビームシールドで凌ぎ、機関砲で足止め。
サザビーはPS装甲を備えていないため、効果は極々少ないとは言え、『全く』無効ではない
こちらに来てから、当然損傷していたサザビーは装甲が少しばかり薄くなっているのだ

「ならば、二つ同時ならどうだ?」

拡散メガ粒子砲と拡散ビーム弾に設定したショットライフルを発射

それは、とてもビームシールドで防げる代物ではない。
避けようと、横にスラスターを噴射する

だが、それを見切ったシャアがシールドに仕込まれたマイクロミサイルを逃げる方向へと発射
思わず動きを止めてしまった

――直撃?

もちろん、PS装甲でもビームを防ぐ事など出来ない

胸部付近に直撃でもすれば、確実に自分は敗北する
目を瞑りたい気持ちになるが、抑えてファトゥムを戻そうとする

間に合わない、そう悟った


「うおぉぉッ!!」

―手を動かし、スティックを握り締め、マニピュレーターを操作。
直撃させなければいい。当たってもいい

「こいつでどうだぁッ!」

無重力ゆえ、物体に進む力が加えられると止めない限り永遠に進む続ける宇宙

サーベルを自分の目の前で回転させる。
凄まじいスピードで回るサーベルが、メガ粒子砲を受けて遥か遠くへ吹き飛ばされていった

その隙に、デスティニーは離脱。左腕をショットライフルで撃ち抜かれて失ったが、撃墜されていないだけありがたい

「一本ぐらい、どうってことないんだよ!」

近接武器が豊富なデスティニーにとって、サーベルの一本や二本ならあまり戦闘に支障はない
全てのサーベルを起動。流線型を描きながらサザビーに両足のサーベルで攻撃

ビームトマホークであっさりといなされるも、粘ってファトゥムを操作し、背面に装着した際に生じた衝撃によって機体を受け止める

ハイパーフォルティスを連射するが、シールドで防がれる
とは言え、ビームシールドではないため、いつかは破壊できるだろう

ひたすら連射。エネルギーは問題ない

「忘れていたか?ファンネルを!」

「……」

シンの瞳に入ってきた『閃光』。それがなんであるかを理解してから行動に移すまで、1秒とかからなかっただろう
ビームシールドでファンネル達を薙ぎ払い、距離をとりつつ全火器を使用して射撃

シャアは、沈むように回避。すぐに姿勢制御バーニアで体勢を整えつつ、ファンネルを回りに蔓延らせて一斉射撃
マイクロミサイルを右へと小さく移動する事で避け、ビーム群をシールドで防いでいく

サザビーの下へと回り込むように移動。機動力ではこちらが上だ
サーベルで切りかかる。ファンネルの弾幕が襲い掛かるが、サーベルとシールドで弾いていく。

ファンネルが円を作り、車輪のように回転しつつ射撃。
デスティニーは、シールドを構えた

その光の群れに、新たな光が介入した
サザビーの射撃を打ち消していき、メサイヤのブースターに直撃
明らかにレーダーの射程距離外。亜光速で迫る高出力のビームはブースターに止めを刺した


「よしッ!当たったぁ!」

ガッツポーズをとるジュドー。以前も射程距離外からの射撃をやり、当たった事があった
まぁ、的が巨大なので無理ではないが

「ジュドー、後は俺に!」

巨大な機体―デンドロビウムがI・フィールドを展開してブースター付近に突っ込む
強大な火力。恐らく、サザビーをも越える火力。
次々と数えるのに疲れるほどのミサイルがブースターを跡形もなく砕いた

「だが、勢いがついた今、すでにメサイヤは止められん!」

いつの間にか、地球と目と鼻の先の距離に近づいていた
シンは冷や汗を掻きながらサザビーに猛攻を仕掛ける
絶え間なく続くサーベルの斬撃。まさに無茶苦茶な攻撃だ
ファンネルによる射撃を喰らい、ファトゥムが大破する
その残骸をハンマーのように振って、サザビーの右部分に直撃させた

「ぬぅッ!?」

続けて迫るビーム。
やっとのことでサザビーの右腕を捥いだが、無理な攻撃をしたためにデスティニーの関節部が多少悲鳴を上げている

シンが勝るのは、パイロット自身の体力と、機動力
じわじわと、シャアの集中力を削る

しばらくは、避けに徹する。コロコロと戦法が変わるのは短所でもあり長所だ

「無理でもやってみせる!」

「ええい、この少年!」

宇宙に浮かぶ二つの影。爆炎を上げて宇宙に漂うサザビー。
デスティニーの左足は根元から爆発している

胸部をライフルとサーベルの攻撃で貫かれたサザビーから、脱出ポッドが射出される
それを掴むと、メサイヤのほうへと視線を向ける

「……アムロさん!」

メサイヤの勢いを殺そうと、νガンダムがメサイヤを押し返そうとしている
愚直な様子でありながら、自分もやらなければいけないような気持ちになる

「止めてみせる……」

デスティニー含めて生き残っているザフト兵たちが、メサイヤを押し返し始める
それでもメサイヤは止まらない。しかし、押し続ける

「もうすぐ大気圏か……どこまでそっくりなんだ、あの時と」

脳裏を駆け巡る、νガンダムが放ったあのエメラルドグリーンの光

「ふふ……よく出来た再現ドラマだ、よもやここまで同じとはな」

メサイヤに押し込まれながら、シャアは接触回線を通じてシンに語りかける

「……忠告しよう。君はもう少し経験を積む事だ。いいパイロットになれるだろう」

「なんであんたにそんな事言われなくちゃならないんだ!」

「見えるのだ。 ……サイコフレームの光が」


大気圏突入間際。νガンダムはステラを助け出した時のような光を放っていた。 小規模ながらも。
安心できる光。死が間近にあることなど、忘れられる

ファトゥムを失ったデスティニーが出せる全ての出力を出す
これだけのMSが居ようとも、メサイヤは微動だにせず、ずるずると地球の引力に引っ張られていく

「……ッ!」

声の無い雄たけびに呼応して、コクピット付近が淡い光を帯びる
νガンダムの装甲が取り付けられた部分だ。


メサイヤ接近の報は地球やプラントにも届いていた。
地球ではすでに大騒ぎとなっており、宇宙へ迎撃用の核ミサイルとMSを打ち上げる計画さえ立てられていた


「カガリ、どうするつもりだい?」

「……お父様が遺した機体、このためなら使ったって良いと思う」

「……仮にも国家元首なんだ。勝手に死なれちゃ困るよ?」

「……ああ、行って来るよ」

金色のMS―アカツキ。
それに搭乗し、カガリは宇宙へと旅立とうとしていた


「……鹵獲ジンか」

「仕方ない、Ez−8や陸戦型ガンダムは宇宙では使えない」

「隊長、心配ない。黙ってみてるよりは良い」

「甘ちゃん、行くよ!」

森林から、宇宙へ上がる為の巨大なブースターと追加アーマーを取り付けた4機のMSが飛び立つ



「コウ君もいますかね、あそこに」

「居るだろうな、アイツの事だ」

「……なぁに、生きるだろ」

不死身の第四小隊―3人の兵士が、海岸でそれを見つめている


「ビーチャ、出るよ?」

「ほっとけるわけないでしょ、あたし、ジンで出る!」

「最後の最後まで出番がないってのも寂しいしな、百式、出るぞ!」

デブリ帯から3機の機影


「……」

「ロウ?」

「……ちょっと出てくる」

その3機と共に行動していた赤いMS。
ジャンクを回収することを止め、メサイヤへ進行していく



「これが依頼か?随分簡単だな」

「それならさっさと、な」

「……だが、これは後回しだ」

ふと、窓に映る光。
かなりギリギリだが、目視でメサイヤが確認できる

「あれを止めるのが先だからな」

「……報酬は少し減らすぞ?」

「かまわないさ」

自分の道を示して死んでいった少年から譲り受けた機体を駆り、漆黒の宇宙へ飛翔する

「カナード・パルス、行くぞ」




νガンダムの光は、大きくならない。
ミノフスキー粒子に干渉して初めて『あの現象』が起きるのだ
アクシズを押し返す、並外れた力―
擬似ミノフスキークラフトから擬似ミノフスキードライブへ

MSと共にこの世界に送られた微量のミノフスキー粒子が少しばかり押す力を与えてはいるが、微弱だ

「限界か……関節への負担が尋常じゃない!」

すでに何十機とメサイヤの質量に押し負けて四散している
いつ、その中に自分が入ってもおかしくはないのだ。当然恐怖も覚える。

刹那、メサイヤにビームが当たる。それこそ連続でだ

「ガンダムが?」

何機ものガンダム、そしてシャトルで宇宙へと上がってきた量産型MS。主にムラサメ、ウィンダムだ

「ネェル・アーガマだ!丁度良いや、砲撃砲撃!」

「U.Cの戦艦なのか……」

νガンダムの頭部がネェル・アーガマを向く
途端、光が強くなった

「バカ!なにミノフスキー粒子撒いてんだマヌケ!」

「え、ええ?」

「……いや、これでいいんだ!」

ビーチャがモンドに叱り飛ばしている所に通信を入れる
だが、ミノフスキー粒子により通信は切れた

「やれる……!」

シンが噛み締めるような声で呟く
メサイヤを、皆が砕いていく
プラントからはメテオブレイカーを持った工作隊が到着し、メサイヤを貫く

νガンダムの光が頂点に達し、その場に居た全員は「何か」の思惟を見た


「……これが、人類の可能性か?シン・アスカ君」

シャアが小さく、問いかけた

「なんだと……うッ!?」


全てを弾き飛ばすように、νガンダムの光は広がる
翼で薙ぎ払われる感覚。そのまま、シンは気を失った









「……通信は?生きてる……」

メサイヤは跡形もなく散った……ような気がする。随分長い間気を失っていたかもしれない
コクピットだけを残して四肢と頭部が弾け飛んだデスティニーから脱出すると、辺りを見回した

あちらこちらに四散したMSの欠片や、まだ生存しているパイロットが見える
その中に、アムロ達の姿はなかった。

何が起きたのか分からなかった。呆然と、心にポッカリと穴が開いたような

「……帰った、っつーことかよ」

自分を求めるように漂ってきたνガンダム―否、サイコフレームの一部分
それを握り締める。

ミネルバも損傷しつつ、その場に姿を残していた

「俺も、帰れるところぐらいあるさ」

パイロットスーツに付けられた背部バーニアを使い、ミネルバに飛ぶ

開放されたハッチから、インパルスやジャスティス改、レジェンドの残骸が見える

その傍らで佇む3人のパイロットを認めた瞬間、瞳から水玉が浮かんだのに気づいた









「………」

エターナルに、Sフリーダムが回収される。
キラも見た。あの光


「そっか……フレイ」

あの瞬間、同時に見た少女の影―
何かを訴えかけられた。理由は分からないが、清清しい気持ちさえする

「頼り切ってた、ラクスに」

ため息を吐いた。

「なら、今度は自分で」

歩いていこう。

それが戦いあったシンとキラ。二人が思ったこと


「シン!」

「うわ、ステラ!」

医務室に、元気な声が響いた

護りきれたのは僅かだけれど。最後まで護りきった人が居るのもまた事実




その先にどんな運命が待っているかは分からない。
兎に角、今は前へ進むだけだ


右手に握った白亜の欠片に誓って





――――――――――――――――――――――――――――――――

後書き

終了です。これはひどい(ぁ
なんと言うか、俺には有言実行と言う言葉がないらしいです(ぁ
オリジナルも作っていきたいけど、そんなに想像力ないしなー


ま、とりあえず終了です。エピローグ書くかも分からんね(何



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