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『犬祭4』作品登録リスト(小説部門)

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作品登録リスト(小説部門)

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作品名:「アンダードッグス」 自由投稿

 ノーSF。ノーコメディ。そして、ノーシモネタ。
 ただただ格好よさのみを追求して書き上げた、空気の如きアクション大作。
 月のない夜。瓦斯灯立ち並ぶ煉瓦道で繰り広げられる、犬どもの生き残りを賭けた争い。
 善兵衛が、啼いた。

茶林小一 2010年08月16日 (月) 17時56分(5)
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作品名:「アンダードックス」

 濡れた石畳を照らすのは、瓦斯灯の小さな火。月は雲隠れにして、見しや其れともわからない。暗闇に程近い中央通りを、革靴が二つ、硬い音を立て過ぎてゆく。
 履き古された革靴の上には、接ぎの当ったチェックのパンツ。それから、カラーの変色した、元は白だったと思われるシャツ。シャツの上に引っ掛けたブラウンのフロックは、風にはためき、小雨に降られるままにされている。
 肩の線は丸く、喉仏は見えない。手入れ無用の黒い短髪から覗く唇には薄くルージュ。それから紫煙。歌うかのように言葉が漏れる。
「オーケー、フレンド。こいつは簡単な、とてつもなく簡単な選択肢だ。つまりは今日。今。この時間。この場所で。このあたしに狩られるか。それとも別の日。別の時間。別の場所で。あたし以外のヤツに狩られるか。どっちでもいい。好きに決めりゃあいい。大事なのは。そう、こいつが最も大事だが。それ以外の選択肢はない。分かれ道は、いつだって二択だ。アンタが今探している選択肢は、もっと前の。もうアンタが通り過ぎてしまった場所にあったモノだ。オーライ?」
 無造作に歩を進める。等間隔に並んだ瓦斯灯の一つ。光を受けてその下に、一つの影。輪郭だけでもわかる修道服。胸元に輝く銀色の十字。それを押し上げる豊かな胸。そして、両手で構えられた重量感溢れる大鎌。
「一つだけ。友人として忠告しておこう。こういうことは、早い方がいい。いつだってな」
 修道女が軽く二度跳ねる。問答無用。そういうことだ。
 両手を下げて、腰を落した。
 女が駆ける。瓦斯灯一区間を瞬時に詰める。
 フロックを跳ね上げ、脇からナイフを四本抜き出す。格闘戦に付き合うつもりはない。一動作で投げ放つ。
 大鎌が翻る。金属的な擦暇音。軽い刃は叩き落される。女の勢いは削がれない。
 バックステップ。刃が返され、突き込まれる。振りかぶらずに。突く、突く、突く。スウェー。そしてダック。頭上を風と、銀の十字架が通り過ぎる。
 踵を石畳に打ちつける。革靴の先が鈍く光る。足元を払うように蹴る。捉えたと思った瞬間、紺の修道服は射程外に逃げている。
 ナイフを投射。ワンステップで避けられる。大上段から鎌が来る。中心線をずらして避ける。間髪入れず今度は横から。フロックの釦が飛び、街路に乾いた音が鳴る。
 左手首から鋼線が伸びる。鎌から離れた左手小指を狙って線条の剃刀が飛ぶ。石突が返り、鋼線を地面に縫い付けた。
 鋼線を捨て、距離を取る。残るナイフは三本。仕留められるか。
 フロックを叩く雨が消えた。瓦斯灯からは名残の雫が垂れている。そして十字架を提げた死神の大鎌からも。
「月夜の晩は選ばないのね、あなた」
 女が初めて口を開いた。湿った煙草を道端に吐き捨てる。
「人のまま**(確認後掲載)るならその方がいい。そんなふうに思うだけさ」
「皆、そう言ったのかしら」
「……いや、ただの押しつけだ」
「わかってるなら、いいわ」
 紺の修道服が動いた。速度を上げて距離を詰める。正面激突は分が悪い。円軌道を描いて、横に回り込む。
 斬撃が来る。半歩の距離を刃が掠める。
 三歩下がる。四歩分を、詰められる。大鎌の射程内。旋風の如き横薙ぎ。
 金属音。腰の位置。鎌の内側巻き込むように侵攻を阻んだのは、瓦斯灯の支柱。
 動きを止めた死神に、残りの三本、叩きつけた。
 刃先が紺の修道服に埋まる。胸に二本。喉元に一本。
 口の端から血を引きながら、女が笑う。
 引かれる大鎌。火花を散らして切断される支柱。背中を通り、脇腹へと抜けていった、薄い刃。
 腹を押さえて転がり、死地から脱する。傷口は大きく、出血が早い。脚が震えて、立つのが億劫だ。
 女がゆっくりと歩み寄る。見せ付けるように、頭上に獲物を掲げる。
「終わりね」
 同感だ。
 言葉の代わりに、右腕を突き出す。親指を強く握る。カフスが飛び、袖口が破れて。
 折り畳まれていたボウガンから撃ち出された銀の矢は、過たず女の眉間を貫いた。
 大鎌が石畳に落ちるのと。女が崩れ落ちるのと。いったいどちらが先だったろう。
 フロックを探って、煙草を取り出し、咥え、マッチを擦る。雨が止んだのが、幸いだ。
 気力を振り絞り、立ち上がる。痙攣する修道女を、見下ろした。
 シャツのポケットから小瓶を抜き出す。親指で蓋を開け、無造作に、逆さにした。
「次は、あなたの番よ」
 液体を顔で受けながら、女が言った。
「わかってる。あたしたちゃ飼い犬さ。死ぬまでな」
 空になった瓶をポケットに突っ込む。空を見上げた。雲が、薄くなっている。
「さよならだ、フレンド」
 煙草を投げ捨て、背を向けた。
 雲が切れ、ようやく姿を見せた月が、石畳の街を朧に照らし出す。その一角で、一匹の犬が火に巻かれている。
 瓦斯灯立ち並ぶ中央通りから、靴音は遠ざかってゆく。
 別れを済ませるには、いい月夜だ。

茶林小一 2010年08月16日 (月) 17時57分(6)
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