何かとご迷惑おかけしております。４月の流星ぺる沢です。新規に書き下ろせるかどうか不安になりましたので、マボロシのデビュー作を上梓致します。「犬、関係ねぇじゃ無ェのよ！」と思われた読書様、参加者様に於きましては大人の度量でひとつよしなにと言うことで何卒宜しくお願い申し上げます。

野良犬、いや負け犬の暮らしか。
　食うや食わず、宿る庇も無い、地べたを這い回る日々。
呼吸し、食らい、排泄する。ただ生きているだけの存在だった。
　いつものように寝床を探し、夜露に湿気たフライドポテトを漁っていたある日、
その男に出会った。
白いシャツ、白い靴、白いコートを纏った全身白尽くめの男。
ただ、サングラスだけは赤く光っていた。
　男は私に近づき、蔑む様子も無く柔和な微笑みを浮かべ、こう言った。
「知ってるかい？世界は勝者が創り、強者がコントロールしてるんだ。
だから敗者、弱者には不条理で理不尽なんだよ。」
　男は腕時計を一瞥し、更に続ける
「時間はあまり無い。着いて来るか？君の世界を変えたいなら。」
　誰も彼もが私に冷たい視線を突き刺してくるこの世界で、
男の言葉に抗えようも無かった。

　あれから十余年経ち、世界は不条理でも、理不尽でも無くなった。
午前4時35分。地上25階のペントハウスから外界を眺め反芻する。
「全てを得たんだ・・私は強者になったんだ・・勝者になったんだ・・。
俺は強者なんだ！勝者なんだ！後悔などあるものかよ！」

反芻すればするほど、かつて左目と腎臓があった場所が疼きやがる。