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[10] 中島敦みたいに書きたい。
 唖魔斗 - 2004年09月22日 (水) 23時36分

闇を纏いし打擲の幻影
〔やみをまといし ちょうちゃくのげんえい〕


その樹海〔もり〕は樹々が棘〔おどろ〕と腕を伸ばして空を隠す。
まるで迷路のように隘路〔あいろ〕を型〔つく〕っていた。
さらに空は暗雲に覆われて、樹海には日の光はほとんどない晦冥〔かいめい〕である。
この樹海は一年のうちのほとんどはこのような天候だ。
暗雲は霧のような啾霖〔しゅうりん〕を降らせる。風もなく、稲妻もない。
樹の葉は露に濡れ、雫がつたりおちる。
樹海の地も盤根錯節〔ばんこんさくせつ〕とした根がはびこり、平地は皆目ない。
屡次〔るじ〕つまづきそうなおうとつにあふれた、道とはいえない道が続く。
そんな樹海の中を、ゆっくりと分け入る一人の若者。
地を踏み往〔ゆ〕くブーツは、つま先をはがねで頑丈に補強してあった。
服は黒く、すそがとても長くて、ブーツのところまで届いていた。
それ以上に長く垂れているのが黒いマフラー。
その若者の頬から肩までを覆い隠している。
そしてこの暗い中、何の目途〔もくと〕か、サングラス。
全身が黒に包まれていて、暗いとばりのおりた中に完全に融〔と〕けこんでいる。
だがそんな中でも、その若者の髪だけは確認することができた。
とどまることなく降り落ちた雫にしっとりと濡れた、つややかな銀色。
その髪に隠れた左耳には金色のリングが二つ、この暗闇の中、きらりと光っていた。

日の光に遮蔽〔しゃへい〕された大気は湿り、冷たい。
やすりをこすりつけるような皮膚への刺激。
若者の小さく静かな息は、暗闇に濡れた白に変わる。
歩調はゆっくりだった。漂泊〔ひょうはく〕のごとく。後ろを振り返ることもない。
跫音〔きょうおん〕さえも聞こえぬ。黒がすっと動くだけ…。

―――静寂。
音は雨の粒が葉に当たる音だけ。
さわ、さわ、と……。

不意に背後から、静寂を切り裂く音がする。
地からうねりでた根を踏み砕く、重々しい跫音。荒々しい阿吽〔あうん〕。
吐く息は、冷たく澱む大気に荒く、白い渦をまく。
吸う息は咽頭〔いんとう〕に響き、猛獣特有の唸〔うな〕りが聞こえる。
若者の背後の暗闇から、赤く、鈍く光る双眸〔そうぼう〕が覗く。
その下には鋭くとがった白い牙。
上にはこちらがわに突き出した、太くまっすぐな二本の褐色の角。
牙と角の持ち主は体勢を低くし、虎視眈々〔こしたんたん〕とこちらを凝視する。
今にも跳びかからんと蠕動〔せんどう〕していた。
やがてその巨体もうっすらと見えるようになる。
胴頂になびく、灰色のたてがみ。
赤と黒の絵の具を混ぜたような色の、たくましく巨大な体躯〔たいく〕。
それをささえる、丸太のような強靭〔きょうじん〕な四肢〔しし〕。

大魔獣、クーザー。
獰悪〔どうあく〕で、狡獪〔こうかい〕で、残忍な魔獣。
世界の魔物の中での十指に入る魔獣ベヒーモスの右腕ともいわれる魔物だ。
この樹海には多くの魔物が潜み、相対的にレベルも高い。
なかんずく英俊〔えいしゅん〕なのがこのクーザーだ。
そんな魔獣が背後にいようとも、若者は歩みを止めただけで、後ろを向こうとはしない。
呼吸はかわることなく、静かだった。
そんな反応に触発されたのか、爆風のような鼻息を鳴らす。
そして若者に向かって跳躍した。
その巨体からは想像もつかぬほど迅〔はや〕く、そして高く。
巨大で真っ赤な口腔〔こうくう〕を大きくのぞかせたまま。
巨体に触れた樹々の枝はたやすくへしおれた。
若者の目睫〔もくしょう〕に着地するや否や、上顎と下顎を一気に合わせた。
大きな頤〔あぎと〕が若者を……捕らえはしなかった。
頤が噛んだのは影。漆黒の、融けるような影。
魔獣ははっと右をむいた。魔獣の眼に映ったのは黒と銀。
そして弦〔つる〕のように細くまっすぐな線。
耳には風をきるような、奥を打つ細く鋭い音。

刹那、クーザーの太い首から血飛沫が飛ぶ。
風をきる音は、首を裂く音だった。
そして弦のような線は若者の右の指先が発した、かみそりの様な真空の刃だった。
魔獣の悲鳴が谺〔こだま〕し、大きな体躯はがくがくと振るえる。そのままゆっくりと地に沈んだ。
地に伏したクーザーはだらしなく口を開き、血と涎〔よだれ〕の混ざった液体が垂れる。
首からはまだ血が勢いよくふきだしている。
若者はクーザーを一瞥〔いちべつ〕した。
まだ息はあったが、身体は震えていて立てそうになさそうだ。
とどめはささなかった。そのままきびすを返し、歩を進めようとした。
だが数歩進んで、背後のクーザーは再度はむかってきた。
大きなうめき声を上げ、若者の予想とは裏腹に力を振り絞って、四肢を支える。
そして若者に向かって腕を伸ばすと、鉄も引き裂けそうな、鋭く硬い爪を振りかざした。
爪は、ふっとこちらを向いた若者の顔をかすめる。
俊敏にかわすも、わずかに触れたサングラスははじかれて、若者の足元へとおちた。
その瞬間から樹々がざわざわと音をたてはじめた。

サングラスの奥に隠れていた瞳が著〔しる〕く表に出る。
若者の眼は蒼い眼だった。それも左眼だけ。
右の眼は黒い、すべてを吸い込むような漆黒だった。
だが左眼は蒼く―――蛇のような眼をしていた。すべてを見透かすような慧眼〔けいがん〕。
その眼はまっすぐクーザーを睨んでいた。
怒りのパトスに染まった、深い深い睥睨〔へいげい〕。
蒼い眼は淡く光り、闇のような森に浮かんだ。
刹那、耳をつんざくほどの、耳の奥を針で刺されたような鋭い音が響く。
若者の眼は先ほどの淡い光から、一瞬だけ強い光へと変わった。

樹々はさらにざわめいた。
目には見えなくとも、若者から出る甚大〔じんだい〕な闘気。
邪悪にも、怨嗟〔えんさ〕にも似る、おぞましい気。
これは人が発するものではない。魔物が発する特有の瘴気〔しょうき〕。
やがてうずまく気は落ち着きを取り戻していく。―――嵐の前の静けさだった。
一抹の静謐〔せいひつ〕が場を支配する。

須臾〔しゅゆ〕、肉体が激しくぶつかる音が響く。
稲妻のように瞬間的にクーザーの目睫まで来た若者の、強烈な左の蹴り。
体重1トンはあろう巨体が軽々と吹っ飛んだ。
太い樹を何本も何本もなぎ倒し、木クズに変貌させながらもとどまるところを知らない。
十数メートル飛ばされて、やっと巨体は動きを止めた。

しばらく……クーザーはまだ生きていた。
幾度となく叩こうが、余すことなく切り裂こうが命ある限りはむかい続ける。
それが大魔獣クーザー。その執着心と生命力は魔物の中でも一、ニを争うほどだ。
まだ丸太の四肢を踏み縛っている。体中のあちこちからは血がでている。
クーザーはうめきながら頤を下げ、口腔に明るく光り、赤い帯をまとう炎球を作り出した。
ともにたてがみも燃えるように、明るい光を放つ。
クーザー最強の技、フレイム・オブ・パンデモニウム。
炎球自体は一握〔いちあく〕で、最強には似つかぬ大きさ。
だが、その秘めたる威力は凄まじく、人を焼き尽くすことなどいともたやすい。
地獄の業火とも謙称〔けんしょう〕されるほどの強烈な一撃。
クーザー自身は窮地〔きゅうち〕に陥った時、起死回生をはかるためだけに繰り出す。
そのため、お目にかかれるのは非常に稀〔まれ〕な技だ。
そんな炎球が若者をめがけて一閃〔いっせん〕をえがいた。

若者はそれを避けようともせず、革の手袋をつけた左腕のてのひらを差し出す。
そこにクーザーの炎球が直撃した。凄まじい爆音と爆発が驫〔とどろ〕く。
若者の左のてのひらで、炎球は爆発の渦を巻き、暴れまわる。
すさまじい衝撃に若者は少し後ろに押された。だが両足はしっかりと地面についている。
しかし若者は全くダメージを受けていない様子だった。

やがて炎球の余波も完全に消失していった。
左腕の手袋は焼け焦げ、煙が立ちのぼっていた。
若者はまたクーザーを睥睨する。眇〔すが〕めた目からは憎悪にまみれたまなざし。
まだ煙がほのかにのぼっていた左腕を、その魔獣に向けてかざした。
手のひらから虹色の小さな光がのぞく。
その光は激しくもなく、淡くきらめいているだけの、豆電球のような弱弱しい光だった。
ほんの一瞬だけ冷笑を浮かべた若者は、その光をクーザーのもとへ発した。
光はそのままの明るさで、緩い弧をえがきながら向かっていく。
だがクーザーのもとについた光は消えたかと思った刹那、轟音とともに大爆発へと変わった。
青い炎が魔獣の身体を包み込み、焼き焦がしていく。
クーザーは狂ったように、森全体に響き渡るほどの呻吟〔しんぎん〕をあげた。
その光景は陰惨としていた。
若者は燃え盛る巨体へゆっくりと近づいた。クーザーはこの状況でもまだ生きていた。
死を受け入れぬ眼でこちらを見ている。
この状況でもまだ巍々〔ぎぎ〕としていた。
若者は歯を食いしばると、強烈な右拳を魔獣の眉間に叩き込んだ。
鈍い音がし、拳の波動が髄の髄まで、頭の先から尾の先端まで響いた。
巨体が激しい音をたてて青い炎ごと破裂し、あたりに血潮と肉塊が飛び散る。
いくら生命力の高い生物でも、この状態ではもはや生きているとはいえはしない。
肉塊はしばらくして黒い霧へと変化し、そのまま消えていった。
魔物の肉体は精神と離れると力を失い、このように消滅するのである。

若者は血潮にまみれたその場で佇立していた。
啾霖は変わることなく静かに振り落ち、彼を濡らす。若者は手で左目を覆っていた。
手からは蟒〔うわばみ〕が蟠蜿〔はんえん〕するようなオーラが蝟集〔いしゅう〕している。
呼吸は乱れ、切歯が垣間見える。身体も小刻みに震えていた。
やがて、彼の口からは赤い液体が幾量たれる。
そのまま、時間だけが過ぎていった……。

しばらくして、若者は血をぬぐい、マフラーを再び頬までたくし上げた。
左目を覆ったまま、足元に落ちていたサングラスを拾い上げ、かける。
深いため息をついたあと、そのあとは何もなかったかのように歩を進めた。
そしてまた森の奥へとその姿を暗闇に融かしていく……。


=================================
語彙

隘路〔あいろ〕…通行するのに非常に通りにくい道
晦冥〔かいめい〕…真っ暗な状態
盤根錯節〔ばんこんさくせつ〕…非常に複雑である
屡次〔るじ〕…しばしば
目途〔もくと〕…目的
遮蔽〔しゃへい〕…さえぎる
双眸〔そうぼう〕…両目
狡獪〔こうかい〕…ずるがしこく、容赦しない
目睫〔もくしょう〕…目の前
一瞥〔いちべつ〕…ちらりと見る
著く〔しるく〕…はっきりと
慧眼〔けいがん〕…物事をはっきり見通す鋭い眼力
呻吟〔しんぎん〕…うめきごえ
巍々〔ぎぎ〕…勇敢、尊大な様子
蟒〔うわばみ〕…へび
蟠蜿〔はんえん〕…へびのようにとぐろを巻く、まとわりつく様子


クーザー…FF5から名前と容姿だけ拝借。
フレイム・オブ・パンデモニウム…直訳すると「魔界の炎」
flame of pandemonium.

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読み切り用。



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