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[40] レアクリース物語 第1節「邪悪の瞳」 第4章
健良 - 2004年10月25日 (月) 01時15分

 夕刻。空は沈む夕陽のために、見事な茜色に染め上がり、日中の暑さとはうってかわって、冷たい風を吹き付けてくる。

 アルファルファは窓辺にもたれて、手に持った真鍮製の笛を玩びながら、その金属特有のひんやりとした肌触りを楽しんでいた。

 エルフの繊細な耳には、金属の笛の発する甲高い音が耳障りに聞こえるときもあるのだが、アルファルファはその澄んだ音色を愛していた。もちろん、木製の笛のあたたかな音色も同じように好きだったのだが。

 アルファルファは笛を静かに口に当てると、エルフの楽士の間で特に高度だと言われている旋律を奏でた。その複雑な指の運びを、微妙な息の強弱を、いかにうまく再現するかは、アルファルファにとってはいつも、ちょっとした挑戦だった。

 剣を学ぶことにも弊害はある。剣術に求められる腕の力強さは、演奏に求められる指先の繊細な動きをそいでしまうのだ。アルファルファは演奏を終えると、自分にはどうしてもできなかった指使いを思い出し、顔をしかめた。

 顔を上げたアルファルファは、部屋の入り口にマリーが立っているのに気がついた。彼女は、何か意外なものを見てしまった、と言う顔をしていた。

 「僕が笛を吹いているのは、そんなにおかしなことかな」

 「いいえ。ただ、あまりに美しい曲でしたので……」

 アルファルファはマリーに礼を言った。そこで彼女は職業意識を取り戻したようだ。マリーは自分のやってきた用向きを彼に伝えた。

 「あなたにお会いしたいという方が」

 マリーの言葉に含まれる奇妙なニュアンスを、アルファルファは敏感に感じ取った。どうやら、彼女はその来客を良く思っていないようだ。

 「いったい誰だい。そんな、酔狂な人は」

 「アリアトリムのファラドーラス様です」

 ファラドーラス。親愛なる“青”の導師を待たせてはいけない。

 「すぐに、お通ししてくれ」

 マリーはそのアルファルファの反応に怪訝な顔をしたが、職業意識の強い者に見られる徹底した無感心をしめして、自分の役割を果たした。

 すぐにアリアトリムの導師は部屋に通された。

 「ファラドーラス。よくいらっしゃいました。フサには、どんなようでいらっしゃったのですか」

 導師はアルファルファに微笑みかけ、傍らに立つマリーに素早い視線を走らせる。アルファルファはその意味をすぐに察した。

 「マリー。すまないけれど、席を外してくれないか。何かようができたらこちらから呼びにいく。それと、ソニアに来てくれるように頼んでもらえないかな。彼女が忙しくなかったらだけど」

 「かしこまりました、アルファルファ様」

 マリーは手に持っていたお茶の道具一式を卓に置くと、足早に部屋を出ていった。アルファルファはマリーの返答を聞いて溜息をついた。

 「あなたはここで、いったい何をやらかしたの、アルファルファ。たったひとりのエルフのせいで城中が大騒ぎになるのなんて、初めて見たわよ」

 「変化に乏しい社会に、ちょっとした刺激を与えただけですよ」

 「ちょっと、刺激が強すぎたわね。お歳を召した貴族の中に人が出なかったのが不思議なくらいよ。それにしても、フサとは。ファリナはあなたを、アリアトリムによこしたがってるって思っていたのだけど」

 幼い頃の選択は決して周りから忘れさせてはもらえないようだ。これがアルファルファの気を重くする原因のひとつではある。

 「解かっていますよ、ファラドーラス。僕は母に一生かかっても返し切れないほどの借りをつくっています」

 「坊や。母親というものはね、たとえどんなに息子に迷惑をかけられても、それで借りをつくったなどとは考えないのものなのよ。ただ息子が立派になってくれさえすれば。それが母親の誇りなの。ファリナを失望させてはいけないわ。彼女はあなたの意志を尊重したのよ。彼女はあなたを信じているんだわ」

 彼女の輝く表情から、自分の息子のことが念頭にあるのがよく解かる。彼女の息子のエイシルは両親の能力を一身に受け継ぎ、六十二歳の若さで見習期間を終えた。アルファルファが母から聞いた話しでは、若きエイシルが師範となるのもそう先のことではないとのことだ。

 「エイシルは、今どうしていますか。前に会ってから、ずいぶんたっているような気がしますが。彼は元気ですか」

 息子の事を尋ねられた途端、ファラドーラスの顔が輝きを増す。この一事で、彼女がどれほどエイシルを誇りに思っているか解かろうというものだ。

 「ええ。彼は元気よ。親の私が言うのもなんだけれど、あの子はずいぶん良くやっているわ。魔法の技術も上達してきてる。今に私たちを越えてしまうわ」

 自分は母に誇りに思ってもらえるほど、立派な息子だろうか。エイシルが見習期間中に休暇を取ってメリアセリアスに帰ってきたとき、アルファルファは彼に会ったことがある。彼の顔はいつも自信に満ちあふれていた。

 自分も魔法を学んでいたらあるいは……。いや、母の望んでいたのは決して、自分の意のままに動く人形ではないはずだ。

 アルファルファはなんとか気分を切り替えようとする。とにかく、今は問題が山積みなのだ。過去を振り返って自己憐憫に浸っているほど、無益なこともあるまい。

 「ところで、ここへは何をしにいらしゃったんですか。まさか、僕に会いに来ただけではないのでしょう、ファラドーラス。フサの領主が戦争を望んでいるのをご存じですか。しかも、相手はメリアセリアスなんですよ」

 ファラドーラスの顔が途端に雲る。すると、アリアトリムの魔術師達も事の重大さは理解しているのだ。彼らがどうするかは別にして。

 「ドリアンがそこまでやるとは、正直言って考えられなかったのよ。でも、あの男の欲深さを考えれば、警戒してしかるべきだったのかもしれない。ダラスの報告にもそう……」

 意外な人物の名前を聞き、驚いたアルファルファがいきなりファラドーラスの話しを遮った。

 「いったい誰の報告ですって」

 「ダラスよ。気が付かなかったかしら。彼は“赤”の魔術師よ」

 「彼は灰色の長衣を着ていましたよ。それに、色にいったいどんな意味があるんです。彼はドリアンの側近なのでしょう」

 「どうやらファリナには、あなたを魔術師にしようという熱意が欠けていたようね。ファリナは話してくれなかったのかしら」

 アルファルファは首を横に振った。確かに小さい頃はよく、母にアリアトリムの話しを聞いていたが、彼が剣術を学び始めてからはまったく話してもらっていない。ただ、森の外の世界のことはよく話してもらっていたので、あまりその事を不思議には思わなかったのだ。

 「赤は戒律の守り手達の色よ。現行の社会体勢や治安状態を著しく変化させる手段に魔術の用いられている形跡を発見すると、それが現在の倫理感にそって行なわれているのか調査する必要があるの。つまり、大多数の民衆に受け入れられうるものかどうかをね。これは魔法という技術が進歩し、その能力の拡大によってこの世の破滅が現実に起こりうるようになってから、それに対する防御手段として行なわれるようになったのよ。魔術による無謀な試みや、大衆にはとうてい受け入れられない行為が行なわれているのを発見すると、それを抑止するために“赤”の魔術師たちが送り込まれるの。彼らは魔術師組合の戒律にそって、違法行為を行なっている魔術師を監視し、必要なら妨害、排除と言った手段を取ることもあるわ。彼ら“赤”の魔術師はそうした任務に向くように、特別に訓練されているの。ダラスはその中でもかなりの凄腕の魔術師だわ。今回の事を考えれば、彼が送られるのも当然ね」

 「しかし、フサには魔術師はダラスしかいませんよ。街の中はどうだか知りませんが。この城に容疑者がいると思うから、彼はここにいるのでしょう。理屈に合わないじゃないですか」

 「今回、監視の対象になったのは魔術師ではないのよ。魔法的存在を封じ込めるための“鍵”よ。封印は、封じ込めた逆の手順で魔法的存在を解き放つ事も可能なの。そのために必要な“鍵”のひとつがここにあるのよ。ここ、フサにね」

 アルファルファも、いくつかの“鍵”の存在を知っていた。封じ込める魔法的存在、たいていは異次元から呼び出され、送還することができなかったものたちだが、その性質により“鍵”の形状や素材は変わっている。

 例えば、邪竜バーグダントエラスを封じ込めたときに用いられた“鍵”は銅製の浮き彫りされた円盤で、今でもアリアトリムの魔術師組合本部に保管されているときく。

 「ここにある“鍵”というのは、いったい何なんです」

 「あなたは“ダ=ライの両目”を知っているかしら」

 アルファルファは知っていた。それはダ=ライを封じ込める際に使われた二つの宝石の事だ。

 ひとつは“右目”と呼ばれるルビー。もうひとつは“左目”と呼ばれるエメラルド。どちらも子供の握り拳大もある、見事な宝石だと言われている。常に冷たい光りを放ち、まるでダ=ライ自身の目と見違うくらいだとも。

 「フサの領主ドリアンは、どうやってかは知らないけれど、“ダ=ライの右目”を手に入れたようなの。“鍵”の厄介な所はね、使う者が、必ずしも魔法の能力を持っている必要がないということなのよ。ただ“鍵”をそろえて、必要な手順さえ踏めば子供にもできるというわけ」

 「でも、彼は“左目”を持ってはいないのでしょう。なにが問題なんです」

 「ドリアンが“左目”の在りかを知っているとしたらどうかしら、アルファルファ。そして、それがメリアセリアスにあったとしたら」

 「そんなはずはないですよ。僕はそんな話は聞いていないし、“左目”の存在はこの二百年間、ずっと闇の中だったんですよ。それがどうして、メリアセリアスにあるっていうんです」

 「“左目”の存在がはっきり確認できなかったのは、著しく形が変わっていたからなのよ。今は宝杖の宝石飾りのひとつとして、杖の先端に埋め込まれているの。その杖はメリアセリアスの評議委員の手にあって、彼が得意げに評議会に持ってきているのを、アリアトリムの監察員が確認しているわ」

 アルファルファは愕然としていた。メリアセリアスの評議会は絶対不可侵とされている。それなのに、アリアトリムは評議会に間者を送り込んでいるのだ。アルファルファが猛然と抗議すると、ファラドーラスは顔をしかめた。

 「熱くならないで、坊や。間者というのは人聞きの悪い言葉だわ。彼らは監察員よ。多くの若者達が信じているように、今までこの世に生まれ出てきたエルフが全部、善良だったわけではないし、邪なものが評議委員になった例もないわけではないわ。だいいち、秘密会議自体に問題があるのよ。私達は彼らの人格に頼るしかないんですものね」

 これはアルファルファが政治家になるのを拒んだ理由のひとつだ。村ごとに、あるいは街ごとに何人かづつ代表を選び、会議をひらく。

 本来なら、政治はすべての民衆から意見を聞き、その上でどんな方針を取るか決めるのが理想だが、そんなことは物理的に不可能なことだし、早急に取り決めを行なわなくてはならないことも、しばしば起こるものなのだ。そんなときに全員の意見を聞き入れるなど、どうやってできるというのか。

 だから、今の代表会議制に不満はない。しかし、評議会そのものを秘密会議にすることが、なぜ必要なのか、アルファルファには解からなかった。

 民衆は決定された事項だけを知らされ、それが導かれた過程が説明されることは滅多にない。

 その秘密会議の持つ薄暗い部分が、根が陽性であるアルファルファには嫌でたまらなかった。華やかな英雄願望に取り憑かれたのもそのためだったのかもしれない。

 「今日は政治談議をしにきた訳ではないから、話しをもとに戻しましょう。メリアセリアスに“左目”があるかぎり、ドリアンがエルフに戦争をしかける動機は十分にあるというわけなのよ。どうやってこれを阻止するか、ダラスは色々な案を提示したけど、どれもいまひとつね。もっとも確実なのはドリアンを殺してしまうことだけど、アリアトリムが直接手を下すわけには行かないわ。理由は解かるわよね。魔術師というイメージの中に暗殺者という影が含まれるのは、私たちにとって大きな痛手になるでしょう」

 「それなら、僕が……」

 「ドリアンを殺すと。それこそ、戦争のもとよ。しくじれば、彼にいい機会を与えるでしょうし、成功しても、他の貴族達が黙っているかどうか。とても、同意できるものではないわね、アルファルファ」

 それなら、どうしたらいい。指をくわえて見ているしかないのか。

 「私はダラスと今後の方針を立てるためにきたのよ。しばらくの間、あなたには騒ぎを起こしてもらいたくないの。ひょっとしたら、手を貸してもらうことになるかもしれないわ。ダラスは、あなたはなかなか見所があるって言ってたわよ、諜報員としてね」

 「僕はメリアセリアスの命令は受けていません。ここへ来たのは僕の意志ですよ、ファラドーラス」

 「あら、そうなの」

 「ええ、そうですとも。まあ、方針を立てるのでしたら早くしてください。評議員達の忍耐がどれほどのものか誰にも解かりませんから」

 「彼らは決して愚か者ではないわ。そう簡単には挑発にのらないでしょう。でも誰にだって限界はありますからね」

 ファラドーラスがおかしそうに、くすっと笑う。この人は事の重大さを本当に理解しているのだろうか。アルファルファは心配になった。

 扉が開かれてソニアが部屋に入って来る。部屋にもうひとり、エルフがいるのを見ても驚かなかったところを見ると、ソニアはマリーからこの客について聞いていたのだろう。

 「彼女はフサの領主の養女、ソニア姫。僕の主です。ソニア、この人はアリアトリムの“青”の導師、ファラドーラス」

 互いに紹介されると、二人の女性は儀礼的な挨拶をする。ソニアの動きは堅くぎこちなかった。ファラドーラスはしばらくソニアの顔を見つめた後、訳知り顔でアルファルファに笑いかけた。

 「ご両親はご存じなのかしら、アルファルファ」

 この一言で、アルファルファにはファラドーラスがなにを考えているのか、はっきり解かった。と同時に、アルファルファは怒りを感じる。

 「僕はもう、自分の面倒も見られないような子供ではないつもりですよ、ファラドーラス」

 思わず口調が厳しくなり、アルファルファは言ってしまってから後悔したが、ファラドーラスは何とも思っていないようだ。それどころか、口許には笑みさえ浮かべていた。

 「時の流れを感じる瞬間ね。気を悪くしたなら謝るわ、アルファルファ。年寄りのたわごとだと思って、聞き流してくれると嬉しいけど」

 ファラドーラスはアルファルファの肩に軽く手をのせ、謝意をしめした。

 「さっきも言った通り、これから用事があるの。もし、あなたの手を借りることになったらこちらから連絡をつけるわ。それまで、くれぐれも無謀な事はしないでね」

 その言葉には優しい気遣いがあふれていた。ソニアの目に凶暴な光りを見て、アルファルファは、おやっと思った。

 ファラドーラスは別れの言葉を告げて部屋を出ていった。

 「彼女はいったい、あなたの何なの」

 「何って、彼女はアリアトリムの“青”の導師で……」

 「彼女が魔術師だって事は解かっているわよ。あなたにとって何なのか、それが知りたいの」

 アルファルファは突然、笑いの発作に襲われた。今の台詞でようやく、彼女が何を誤解しているのかに気がついたのだ。その彼のようすを見て、ソニアはますます腹を立てる。

 「なにがおかしいのか説明して欲しいわね、アルファルファ」

 ソニアの真剣な物言いに、アルファルファはぴたりと笑いを止める。

 「君は誤解してるんだよ、ソニア。彼女は既婚者だし、子供もいる。もう子供って歳でもないな。僕とそう変わらないはずだ。それに何といっても、彼女は僕の母の幼なじみなんだよ」

 「そんな。あなたのお母様はもっと……」

 「老けてみえるかい」

 「いいえ。そうじゃないわ。こう言おうとしたの。あなたのお母様はもっと落ち着いて見えたわ。それに比べて、あのファラドーラスという人からは、そう、ずっと華やかな印象を受けたわ」

 「まるで、ジョアンナみたいに。ふうん。そんなふうに考えた事はなかったな。確かに、ファラドーラスはいつも生命力にあふれてる。近くにいるとこっちが削り取られていくような感じがするんだ。おまけに彼女は僕を小さな頃から知っているから、どこをどうすると痛がるか良く解かってるときてる。一緒にいると気詰まりしてくるんだ」

 アルファルファはいかにも疲れ切ったような表情をしてみせた。

 「それを君ときたら。まさか、僕が彼女とどうにかなるなんて、本気で考えてたのかい」

 「酷いわ、アルファルファ。そんな言い方って。だって、マリーはただエルフの女性がやってきたって言うだけで、詳しい事を教えてくれないし、あなたはマリーを追い払ったっていうじゃない。部屋に来てみれば、彼女はあんなに奇麗で……あなたは彼女と親しそうに話しているし……」

 「君のこれまで歩いてきた道を考えると、疑心暗鬼になるのも無理はないと思う。でも、僕の言うことを信じて欲しい。君を好きだっていったのは絶対に嘘じゃない。“黒”のアリーシアだって、僕の心は動かせない」

 アルファルファの口からまた女性の名前が出てくるのを聞いて、ソニアはいらいらし始めた。

 「アリーシアっていったい誰なの」

 「アバロニスの女王。エルフの中で、もっとも美しいと言われている。でも、外見なんてどうでもいいんだ。歳をとれば誰だって醜くなる。美しさは、主観によっても変わる。場合によっては、外的作用で容易に変わる事もある。そんないい加減なもので人が判断されるなんて間違ってるよ。人の価値は、そんなもので決められちゃいけないんだ。僕はそう信じてる」

 「でも考え方はどう。私は人間だし、あなたはエルフよ。中身でも、私はあなたにとって好ましい女なのかしら」

 「僕は君と波長が合うから一緒にいるんだよ。そうだ、波長が合うっていうのは、この場合によく合う表現だと思う」

 「でも、私はこの通り嫉妬深いわ。本当に嫌な女ね。あなたは幻滅したんじゃなくて、アルファルファ」

 アルファルファは笑った。

 「それは僕に対する好意だと思っているよ。それとも、ほんとは違うのかな、ソニア」

 「またからかっているのね、アルファルファ」

 「ソニア。君は素敵だよ。僕が今まで会った女性の中で、一番」

 アルファルファはそう言って、ソニアに微笑みかけた。

 「あなたって、女殺しだわ。……信じてもいいのね」

 アルファルファはうなずいた。

 「マリーが詳しい事情を話せなかったのにはわけがあるんだよ。ファラドーラスと話しを始めるまえに、彼女には席を外してもらったからね。君に話した程度の事しか彼女は知らなかったんだ。アリアトリムがこの件に関して秘密にしたがっているのが、ファラドーラスの様子で解かったから、人払いする必要があったんだ」

 ソニアはアルファルファを見つめかえした。

 「それじゃ、あなたは何か情報を手に入れたのね」

 「うん。今から話してあげる。君の伯父上はフサを手に入れるだけでは飽き足らず、世界すべてを手に入れたがっているんだ。そうするための手段がメリアセリアスにはあったんだ」

 アルファルファは、ファラドーラスから聞いた話しを全部、ソニアに話してやった。ダ=ライの封印について。二つの“鍵”について。そのひとつ、“ダ=ライの右目”がドリアンの手にあること。“左目”は今、評議員の一人が所有していることも。

 「とても信じられないわ。伯父がダ=ライを復活させようとしているなんて。でも、本当なら、今までのことはすべて辻褄が合うわね」

 ソニアは首を少し傾ける。長い黒髪が肩からこぼれ、服の布地と擦れ合って、さらさらと音を立てる。

 「どうしたら今の状況を打開できるかしら。……こんなのはどうかしらね。“ダ=ライの両目”は二つ揃わないと役には立たないのよね。だったら、伯父の持っている“右目”を盗みだしたらどうかしら。伯父は、メリアセリアスに攻め込むのを諦めるんじゃない」

 「それはどうかな。手に入れる順番が変わったと思えば。先に“左目”を手に入れて、それから“右目”を探そうと思うかもしれない。それに、その二つを同時に行なってはいけない理由など何もない。盗みだすことも決定打にはならないと思うな、僕は」

 「なら、どうしたらいいの。何もできないの、アルファルファ」

 「解からない、解からないよ」

 アルファルファには、どう動いても逆効果になるような気がしてならなかった。もっと早い時期だったなら何か打つ手があったのかもしれない。だが、今は何も思い浮かばず、ただ、黙ってみているほかはないように思う。

 「しばらく様子を見ているつもりね、アルファルファ」

 アルファルファは浮かない表情でうなずくことしかできなかった。

 

 ソニアが部屋を去った後、思わぬ来客があった。アリアトリムの“赤”の魔術師、ダラスがやってきたのだ。

 「アルファルファ、大変な事になってしまった」

 ダラスはひどく慌てている様子だった。アルファルファの顔を見るなり、いきなり話しを切り出した。

 「ドリアンは傭兵をつかってエルフの村を襲わせるつもりだ。依頼は例のごとく、偽名を使って行なわれた。直接攻撃を始めるとは、ドリアンもしびれを切らしたのかもしれない。とにかく、阻止しなければ大変な事になる」

 これを聞くなり、アルファルファは部屋を飛び出そうとしたが、ダラスに抑えられた。彼は思いのほか力が強かった。

 「待つんだ、アルファルファ。君一人に行ってもらっても仕方がない。相手は三十人近い集団だ。なぶり殺しにされてしまう」

 アルファルファはヒステリックに喚いた。

 「なら、どうしたらいいんですか。指をくわえて見てろとでも」

 「落ち着け、アルファルファ。君一人じゃ駄目だといったんだ。こちらも人を集めた。十五人ほどだが、街の酒場に待たせてある。君には彼らの指揮をとってもらいたいんだ」

 「解かりました。酒場の場所を教えて下さい。マリー。マリー、来てくれ。馬の準備を」

 それから慌ただしい準備が始まった。まずアルファルファは、ソニアから贈られた黒い革製の鎧をきこんだ。

 本来、騎士には板金鎧が与えられるのだが、完全受注生産のため、鍛冶屋に注文はしたものの、アルファルファの手元にはまだ届いていなかったのだ。

 革製の鎧は、それが届くまでの間に合わせだが、アルファルファはこの軽い革製の鎧の方が気に入っていた。

 「アルファルファ、馬の支度ができました。中庭に待たせてあります。水と食料も積んでおきました。何日かかかるのでしょう」

 「ああ。ありがとう、マリー。ソニアにはダラスから事情を聞くように言ってくれ。彼は味方だ。彼女に挨拶できないのが残念だけど、今は、一刻を争うんだ」

 マリーは、かしこまりました、といって部屋を出ていく。アルファルファもすぐに中庭に降りっていった。下男が彼の馬の手綱を持って立っている。

 アルファルファは積まれているものもろくに確かめず、馬に飛び乗ると城を駆け出ていった。この事を後で嫌という程後悔するのだが、今は襲撃される村の事を思い、ただ気が急いていた。

 

 アルファルファは酒場でダラスの雇った男達と合流すると、すぐにフサの街を立った。男達は傭兵の集団で、ダラスに雇われるのはこれが初めてではなかった。彼らはよく訓練されており、ゲイリー・ブルーアローという有能な指揮官に統率されていた。

 「四時間の遅れなら、明日の夕刻までには取りかえせますな、騎士殿」

 ゲイリーが“騎士殿”という時、わずかに笑い声が忍び込むのをアルファルファは聞き逃さなかった。

 「無理して、騎士殿、なんて呼ばなくてもいい、ゲイリー隊長。僕にだって、そんな地位に実感がわかないんだ」

 「そんなもんですかね。自分も、子供の頃は騎士になりたいなんて思ってたもんですが。今じゃ、こっちから願い下げって気分ですよ」

 アルファルファには何となく解かる気がした。この男も自由人なのだ。

 「ダラスと傭兵団という繋がりが、いまひとつ解からないんだ」

 これを聞いたゲイリーは笑って答えた。

 「そうでしょうとも。俺達にだって、解かってるかどうか怪しいもんだ。まあ、魔術師の任務にも力押しが必要なときがあるんでしょうな。例えば、今がそうでしょう」

 アルファルファはうなずいた。どうしても、魔法の力を借りるわけにはいかないときがある。

 例えば今、ダラスが村の襲撃を阻止したとして、アリアトリムが干渉していることを隠し通すのは不可能だろう。魔法を使う者はすべて、アリアトリムの魔術師組合に登録しているはずだから。

 「君たちには迷惑をかけてしまったな」

 「なに、訳の解からない事を言ってるんです。これが俺達の仕事です。こういう依頼がこなければ俺達は飯の食い上げですよ」

 アルファルファは自分でもおかしな事を言ったと思った。だが、ただ金のために戦うというのは、メリアセリアスで生活してきたアルファルファには理解しづらいものだったのだ。

 「今夜は進めるだけ進んでから休息しよう。敵が森に入ってしまう前に追い付かなくては」

 アルファルファはさらに馬に拍車をかけ、速度を上げた。

 

 翌夕方。アルファルファ達はドリアンの雇った傭兵達に追い付いた。彼らは丘のふもとで広がって火を焚き、夕食の準備をしているようだ。まだ、こちらには気付いていない。

 「敵さんは余裕ですな。あんなに広がって、食事の準備ですか。まあ、襲う相手は森の中ですから、敵襲を受けるとは思っちゃいないんでしょうが」

 「襲いかかるなら、今がチャンスだな。こっちは、向こうより数が少ないんだ。奇襲でもしかけなきゃ、勝ち目はない」

 ゲイリーはあざけりを含んだ声で言った。

 「でも、そいつは騎士の流儀じゃありませんよ」

 アルファルファはとぼけた声で答える。

 「騎士の流儀なんか知らないさ。僕は騎士になってからまだ、一週間もたってないんだ」

 ゲイリーは大きく目をみひらいた。と、すぐ大声で笑いだしそうになり、あわてて両手で口を押さえた。

 「いや、失礼。ただ、騎士でも色々あるもんだなと。気にいりましたよ、アルファルファ。優れた指揮官は、つまらん誇りよりも、部下の命を大切にするもんなんです」

 そう言って、ゲイリーは部下に指示をだし始めた。やがて準備は整い、アルファルファの号令を待つばかりとなる。

 「よし、ひっかきまわしてやれ」

 アルファルファ達はときの声を上げ、一気に丘を駆け下る。敵は油断し切っており、奇襲を受けたと知ると完全に浮足立った。

 中にはすぐに武器を手にして立ち向かってくる強者もいたが、背中を見せて逃げ出すものも多かった。

 アルファルファは立ち向かってくる者を剣でなぎはらい、時には馬の蹄にかけて打ち倒した。アルファルファの耳に、突然、聞き覚えのある怒鳴り声が飛び込んできた。

 「馬鹿野郎ども。なにしてやがるんだ。敵をよくみろ。こっちのが数じゃ上なんだ。槍だ。槍で突き落とせ。逃げようとした奴は俺が叩き殺してやる」

 アルファルファは怒鳴りながら、その声の主に馬を向けた。

 「ガルベール、ガルベール」

 ガルベールが振り向く。彼はアルファルファをみとめた。アルファルファは、ガルベールの側まで来ると馬から飛び降りた。

 「ふん。また貴様か。いつも俺の邪魔ばかりしおって。わざわざ殺されにきたか。今度は助けてくれる女はいないぞ」

 ガルベールは剣を振り上げ、アルファルファに打ちかかる。アルファルファは軽くそれをかわした。ロベルトとの訓練は無駄ではなかった。老騎士の正確無比な打ち込みに比べれば、ガルベールの技はかなり雑なものに見える。ガルベールは以前と勝手の違うエルフの動きに戸惑っていた。

 「僕を剥製にするのではなかったのか、ガルベール。それともあれは、ただのはったりだったのか」

 ガルベールは、アルファルファの挑発の言葉に簡単に引っ掛かった。ガルベールはますます大振りになっていき、無駄な体力を使っていった。

 アルファルファは動きの鈍くなったガルベールの右手に切り付けた。ガルベールは剣を取り落とす。

 「俺はエルフになんぞ、命乞いはしないぞ。さっさと殺すがいい」

 アルファルファは剣を振り上げる。鋭く睨み返してくるガルベールの目に見入った。アルファルファはためらいを感じ、この男の犯した罪を思い返して、なんとか剣を振り下ろそうとした。

 だが、駄目だった。この男も傭兵なのだ。ドリアンに雇われ、利用された道具に過ぎない。

 「どうした、エルフ。俺を生かしておくつもりか。俺は、お前を一生付け狙うぜ。お前だけじゃない、お前の家族も、恋人もだ。殺すだけじゃない、その前にたっぷりと辱めてやる」

 「……黙れ。お前に、など与えてやるものか」

 アルファルファは剣を振り下ろした。ガルベールの右腕の付け根に。ガルベールの右腕は見事に切り落とされ、切り口から血が吹きだす。利き腕を失ったガルベールは、傷口を押さえながら大声で喚きだした。

 「糞ったれエルフめ。貴様なんぞ呪われちまえ。俺を生かしておいたことを、絶対に後悔させてやる。絶対にだ」

 アルファルファは急に目の前の相手から興味を失った。辺りを見舞わすと、戦いはもう収まり始めている。ドリアンに雇われた傭兵達は、最初の劣勢を挽回することができなかったらしい。アルファルファは馬にまたがり、掃討戦に加わった。

 「逃げようとするものは逃がしてやれ。殺してしまう必要はない」

 そう指示を出しているアルファルファの傍らに傭兵隊長がやってきて、戦果を報告した。

 「敵は、ほぼ全滅。三人ほど逃走しましたが、当初の目的は達成しましたね。こちらの被害は二人です」

 アルファルファは気分が重くなってきた。これは一方的な虐殺だった。いくら、村を襲撃から守るためとはいえ、これを指揮したのは自分なのだ。人間とエルフが全面戦争を行なった場合の被害を考え、自分を慰めようとしたが、今のアルファルファには難しかった。

 フサの街につくと、アルファルファは傭兵達に後払いにしていた雇い賃の半分を渡して、彼らと別れた。

 アルファルファは後に残してきたソニアの事が気になって、急いで城に戻った。門にはいつもの通り、二人の衛兵が立っていた。アルファルファはその脇を勢いよく駆け抜け、中庭に入ろうとした。

 突然、身体が宙に浮き、次の瞬間には吊り橋の上に叩きつけられていた。アルファルファは衛兵の持つハルバードで突き落とされたのだ。

 背中から受けた衝撃で、しばし呼吸困難におちいる。呼吸を取り戻そうともがくアルファルファを、二人の衛兵は上から押さえ付けた。

 中庭の方から数人の騎士が歩いてくるのが見えた。その先頭に立っているのは、ティバルトだった。

 「わざわざ戻ってくるとは余程のまぬけだな、こいつは」

 アルファルファを取り囲んだ騎士達が一斉に笑い声を上げる。

 「いったいどういうことなんだ、これは」

 アルファルファがそういうと、騎士の一人が口を開く。声で、その騎士がサンドフォードであるのが解かった。

 「こいつは、自分の犯した罪を解かっていないんじゃないか。罪状を読み上げてやったらどうだ、ティバルト」

 「メリアセリアスのアルファルファ。お前には二つの嫌疑がかけられている。ひとつは、騎士ロベルト・アバティエロ殺害。もうひとつは、ソニア姫暗殺未遂だ。証拠は十分集まっている。言い逃れはできないぞ」

 「ソニアが殺されかけたって。彼女の容体は。彼女は……」

 「黙れ、エルフ。とぼけても無駄だ。暗殺に使われたのは、お前の持ってきた石弓だ。矢には、メリアセリアスでしか取れない毒薬が塗られていたことが判明している。容疑者はお前だけだ」

 「何かの誤解だ、僕は今までフサにはいなかったんだ」

 「では、今までどこにいたんだ。説明してもらおう」

 アルファルファには何も言えなかった。正直に話すとなると、ダラスとの繋がりを話さなくてはならない。アリアトリムがここで何を行なっていたのかも。

 「苦しい言い訳はよすんだな」

 「もう一度よく調べてくれ、ティバルト。これは間違いなんだ」

 ティバルトはアルファルファに近づくと彼を引き起こし、殴りつけた。

 「ただのエルフが、騎士を呼び捨てにすることはできん。よく憶えておくことだ。貴様の騎士の位は剥奪された。こいつを地下牢に叩きこんでおけ」

 衛兵はアルファルファの両脇を抱え込むと、建物の一角へと引きずっていった。アルファルファには自分の身に起こったことを信じることができなかった。

 見事に罠にはめられてしまった。城を出るときにはもう、石弓は抜き取られていたのだ。毒の出所もだいたい解かる。おそらく、密猟品の中の一部だろう。ドリアンがすべて手配したのだ。

 アルファルファは急に、ソニアの身が心配になった。毒とは、いったいどんな種類のものだろう。致命的な物でないといいが。

 アルファルファは腕を振りほどこうとしたが、逆にひどく殴りつけられた。

 アルファルファはソニアの名を叫ぶ。彼女の身が心配で、そうせずにはいられなかった。

 

 アルファルファの声はかれていた。咽がひりひりする。エルフの叫び声を無視しようと決めている見張り役に怒鳴りつけるのも、数刻前からやめていた。

 拳は裂け、流れる血で真っ赤になっていた。頑丈な扉は拳ぐらいで破れはしない。こんな痛さぐらい何ともなかった。ソニアはもっと苦しんでいるのだ。

 ドリアンによって見事に踊らされてしまった自分を、アルファルファは呪った。ソニアを守る事ができなかった。自分が立てたあの誓いはいったい何だったのか。自殺することも考えたが、ソニアが生きているかぎり、彼女を助けてやるのが筋だと考え、思い止まった。たとえ彼女に軽蔑をされても。

 扉に押し付けていた耳に誰かが近づいてくる足音が聞こえてきた。その人物はのぞき窓を開けて、こちらの様子をうかがっているようだ。

 「アルファルファ、アルファルファ。大丈夫か」

 驚いたことに、その人物は“赤”の魔術師だった。

 「ダラス。あなたもこれに一枚かんでいるんですか」

 「私が。何を馬鹿なことを。君をこんな目に合わせて、私にどんな得があるというんだ」

 扉の向こうから、何か金属がじゃらじゃらいう音が聞こえてくる。

 「これは私の失策だ。君を行かすべきではなかったのだ。ドリアンには状況をうまく利用されてしまった。私としたことが……」

 ダラスは盛んに舌打ちしている。

 「まったく、なんて数だ。囚人の数は政治の不備に比例すると、本当に解かっている領主がいったい何人いることか」

 「あなたはいったい何をしてるんです」

 「君をここから出してやろうというのさ。私の魔力では男を六人眠らせるのがやっとでね、鍵を開けるだけの力が残っていないのさ。だから、このいまいましい鍵の束をこうして……これだ」

 かちっという音がして扉の鍵が開く。

 「こんなことをして、あなたの任務に差し障りがあるんじゃないですか」

 「なあに、心配はいらんよ。私は現在休暇中で、アリアトリムにいることになっているんだ。それにここの連中は、エルフがすべて魔法使いだと信じているから、君が自力で脱出したと思うだろうな」

 「ソニアは、ソニアは今どこに」

 「彼女は心配ない、アルファルファ。もともと、彼女を本気で殺すつもりなどなかったのだろう、ドリアンには。毒は極く弱いもので、すぐに解毒できた。体力をひどく消耗しているが、じきに回復するだろう。ロベルトのことは不幸としかいいようがない。身体に三本の矢を受け、うち一本が心臓に達していた」

 「ソニアに会いたい。彼女に会わなければ」

 ダラスは首を振る。

 「アルファルファ。君はメリアセリアスに戻ったほうがいいように思う。ドリアンは今度の事件を理由に、正式にメリアセリアスに宣戦布告した。同時に、いくつかの都市に援軍を要請した。ファラドーラス師はメリアセリアスに戻って議会を説得しているが、もう戦争は避けられないだろう。ドリアンを勝たせるわけにはいかないんだ。アルファルファ、君にも解かるはずだ」

 「でも、僕はソニアを守ると誓った」

 「いつまでも子供っぽい感傷に浸ってるんじゃない。目を覚ませ。良く考えるんだ。ここで君にできることは何もない。ソニアに対してもだ」

 アルファルファは叫んだ。

 「僕は、ソニアを愛しているんだ」

 「解かっていたさ。二人でドリアンの執務室に入ってきたときから」

 そのダラスの静かな言葉に、アルファルファは頭が冷えてくるのを感じた。興奮が収まってくる。

 「やはり、僕の思考を読んでいたんだ。でもあの時、自分でもソニアを愛してるなんて気づいていなかったのに、どうして」

 「私は思考を読んだわけじゃない。私は人の感情を読むんだ。あの時、君はひどく心配をしていた。それも自分の身に対してじゃない。彼女に対してだ。あとは推測だがね。こういう勘は外れたことがない」

 「あなたは、僕がソニアのことを愛しているのを知っている。僕自身よりも。それでも僕を止めるのですか」

 「止めるさ。これは君のためにも、彼女のためにもならない。君が彼女に会っていったい何ができる。互いに傷つくだけだぞ。残酷な物言いだが、時代が悪すぎたんだ」

 自分はすでに、一度しくじったのだ。彼女の危機の時、自分はその場にいることさえできなかった。そのうえ、戦争をしかける絶好の機会をドリアンに与えてしまった。

 もはや、メリアセリアスに戻りフサの軍を押し返すことしか、自分にはできないのだ。アルファルファは、ソニアとも、もう会うことはないだろうと思った。



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