【広告】Amazon.co.jp コカ・コーラが最大20%OFF玄関までお届け開催中

小説投稿掲示板

このページはみなさまの思いついた小説を投稿する掲示板です!!

ドラクエとは!!へ戻る

名前
メールアドレス
タイトル
本文
URL
削除キー 項目の保存


こちらの関連記事へ返信する場合は上のフォームに書いてください。

[34] レアクリース物語 第1節「邪悪の瞳」 第3章(2)
健良 - 2004年10月21日 (木) 12時39分

 確かに、密猟はエルフを挑発するにはいい手段だし、今までのところ、かなりうまくいっていると言えよう。被害をうけたのはアルファルファの村だけではなかったし、アルファルファが村を出たころ、評議会ではちょうど制裁処置について話し合われていたと聞いている。

 「なぜエルフと戦争を。軍の維持さえできないのに」

 「そもそも、なぜ軍を拡張したのかしら、アルファルファ。伯父の狙いは最初からひとつだったのよ」

 アルファルファは両手で顔を覆った。信じられない。まさか、フサの領主が戦争を望んでいるなど。

 「でも、伯父上はメリアセリアスを甘く見ているんじゃないか。こちらにだって軍はあるし、よく訓練されているんだ。フサとなら互角以上に戦える。条件次第で、サリアノースだって押さえ込めるほどだ」

 「だから、伯父は最初の一撃を、まずエルフから打たせようとしてるのよ。その後で、他の都市に援軍を送ってもらうつもりなんだわ」

 「みんなで危険を分配しようというのか。でも周りがそううまく動くだろうか。他人の争いに首を出すことは、時には命取りになるものだけど」

 「伯父の息のかかったものがサリアノースや、クリムヒルト、ハビィヌニスにさえいるわ。餌をちらつかせて相手を動かすのはおてのものよ」

 確かに、彼らもエルフの肩を持つよりは人間に味方をするだろう。正義がどちらにあるかは別にして。

 正義は決して、普遍的なものではない。政治の世界では力の配分によって、正義は容易く裏返るのだ。ドリアンにはそれをやりとげる自信があるのだろうと、アルファルファは思った。

 「君の伯父上の望みはなんだ。エルフを打ち負かしてなんの得がある。君の伯父上はひょっとして、エルフが悪魔だと信じているのか」

 ソニアの口もとに皮肉な笑みが浮かぶ。

 「どうかしらね。伯父上だったら悪魔を滅ぼそうとするより、取り入ろうとするんじゃないかしら。あの人に倫理なんて、あるようには思えないわ」

 アルファルファは恐慌に陥る一歩手前だった。異種族に対する嫌悪感は、人間、エルフの双方に深く根付いている。互いに協力して妖魔に立ち向かうために作られた盟約も、長い休戦状態のうちに朽ち果ててきた。

 そこへ今、フサの領主という火種が入り、もはや両種族間の争いは避けられないように思われる。

 いったいこれをどうやって防げばよいのだ。自分は一人の兵士にすぎないというのに。

 

 翌日から、アルファルファは騎士の日課をこなしはじめた。今は、エルフ達との緊張が高まっているとはいえ、フサはどの都市とも戦争状態には入っておらず、一部、軍の指揮を任されているものを除き、多くの騎士はただ、自分の体調だけを気遣っていればよかった。

 政治的な駆け引きによって他の都市に派遣される騎士もいたが、アルファルファはそこから完全に除外されていた。ドリアンがエルフを信じていないのだから当然と言えるし、そんな仕事がまわってきたらアルファルファだって困ったことだろう。だいいち、ソニアが許すはずがない。

 そんなわけで、アルファルファの日課は中庭での戦闘訓練になるのだが、騎士の多くはエルフが騎士になることを認めておらず、ソニアの手前、あからさまな侮辱こそされないものの、アルファルファは完全に無視されていた。

 そんな中でただひとり、彼を相手にしてくれる騎士がいた。ロベルト・アバティエロと言う老騎士で、彼は先代の領主の時からフサに仕えており、ソニアの現在の境遇については同情的だった。

 アルファルファはその日の午前中いっぱいこの老騎士と剣を交え、自分の欠点を知らされることになる。

 「君の技術は洗練されているし、かなり高度な段階まで達成されている。だがそれだけだ。戦場で生き残るにはそれだけでは足りない。君には柔軟性が足りないんだ。頭の切り替えができない。動きが一本調子になる。最初の一分で倒せる相手ならそれでもいい。だが、そうでない相手の方が多いだろう。彼らには君の動きが読める。後は簡単だ。ちょっと頭を切り替えて、右手を一振りすればいい。それで君は、終わりだ」

 「それはライアード師にも指摘されました。そういった柔軟性は、場数を踏んで身に付けるのだとも」

 これを聞いて、ロベルトはにやりと笑った。

 「確かに実戦で身に付けるのが一番速いが、運よく生き残るとも限るまい。運の良さも強さのうちというが、それにばかり頼っては命がいくつあっても足りんよ、アルファルファ」

 アルファルファはうなずいた。老騎士のいったことは正しいし、それ以上に自分には時間が足りないのだ。こんなことを考えるエルフは非常にまれだった。

 「あせらん事だと言いたいが、君の今の状況はいかんともしがたい。ちょっとでも強くなりたいというのが本音だろう、お若いの」

 老騎士のこの呼びかけは正確とはいいがたい。アルファルファは彼と同じか、それよりもっと歳をとっているはずだった。だがアルファルファの容貌と戦士としての経験の浅さからすれば、妥当なものかもしれない。

 「ひとつだけ方法がある。実戦をする機会がないなら、訓練を実戦に近付ければいいんだ。さあ、アルファルファ。君が本当に強くなりたいなら、刃引きの剣など捨ててしまえ。そして、君の剣を持ってくるんだ。私も自分のを持ってこよう。一番、切れ味のいいのをな」

 この試みはアルファルファの同意を得て、その日の午後からすぐに始められた。他の騎士達はこの訓練をにやにやしながら見ていた。特に、ロベルトの剣がアルファルファの手足を浅く引き裂いた瞬間には。

 ロベルトは、アルファルファの隙をついては鋭く切りかかり、アルファルファには気を抜くことがまったくできなかった。それは彼にとって不具になることを、最悪の場合には死を意味していたからだ。

 その日は、アルファルファが両手両足にそれぞれ二箇所ずつ傷を負い、彼の剣の柄が流れる血で滑り始めた時、老騎士が訓練の終了を言い渡した。

 「目的は、一日で燃え尽きてしまうことではない。今夜はゆっくり休んで傷を癒したまえ。続きは明日にしよう」

 アルファルファは痛む足を引きずって、渋々部屋に引き返した。背中に騎士達の嘲笑を感じながら。

 

 部屋に戻るとマリーが待ち構えていた。老騎士と彼の一見無謀と思われる行為は、すでに城中に広まっているのだろう。マリーの顔を見れば、まだここに来て日の浅いアルファルファにも、それがよく解かった。

 「こんな無茶をなされて。私は、ソニア様になんと報告すればよいのですか。あなたにこんな怪我をさせてしまって」

 アルファルファは傷口に軟膏を塗られ、きれいな布をあてがわれた後、あらがう間もなく包帯で両手両足をぐるぐる巻きにされた。

 「君には関係ない。そうソニアに報告すればいい。ちょっと、おおげさ過ぎないか、これ」

 両手を目の前にかざしたアルファルファを、マリーは怖い顔で睨み付ける。

 「戦時以外に城内で真剣を振り回すことは禁じられております」

 それを聞くと、楽しそうにアルファルファは笑った。

 「そうなのかい。他の騎士達は何も言わなかったけど」

 「彼らはあなたに悪意を持っています。あなたの傷付くのを見て喜んでいるような、視野も心も狭い連中です。正面きって、何も言うことができないくせに。彼らの中には、騎士の名に相応しいものはごく僅かしかおりません」

 アルファルファはマリーの言葉の激しさにたじろいだ。

 「僕も人のことはいえないんだ。この通り僕はエルフだし、以前信じていたほど、自分は強くないらしい」

 マリーはこの自己卑下的な台詞を完全に無視することに決めたらしい。彼女はアルファルファの手を取ると、言葉に少し力を込めて訴える。

 「今日のようなことは、もうお辞め下さい。あなたに万一のことがあれば、ソニア様が悲しまれます。どうか、お願いですから」

 「だめだ、マリー。僕には時間がない。今日、ロベルトはそのことへの解答をくれた。僕は彼について行くしかない。今日はもう疲れた。休ませてくれ」

 マリーは口を開きかけるが、消耗しきったアルファルファの顔に目が行くと、口を堅く結び、静かに部屋を出ていった。

 

 それから三日の間、同じような日が続いた。昼はロベルトの剣と騎士達の嘲笑をかわし、夜はマリーの説教と泣きごとをかわし。こうして日毎にアルファルファがロベルトに傷つけられるまでの時間は延びていった。これはアルファルファの上達を意味していると、老騎士は断言した。

 訓練を始めて五日目の早朝。中庭に出ていく準備をしていたアルファルファのところに、意外にもソニアがやってきた。

 「とうとう、マリーは君のところに泣き付いていったようだね」

 「彼女はそんなことしなかったわ。私があなたに泣き付きにきたのよ」

 ソニアはそう言って、アルファルファに抱き付いてきた。

 「どうして、こんな馬鹿なことをしているの。ロベルトは、フサでは一番の使い手よ。レアクリース全土の都市対抗試合でも、常に上位をしめているわ。これ以上続ければ怪我だけではすまなくなる。そうしたら、私はいったい、どうしたらいいというの」

 「僕は、どうしても強くならなきゃいけないんだ。ガルベールのことは憶えてるだろ。僕は、彼には勝てなかったよ。あのまま続けていたら、僕の首はあそこに転がっていただろう。あの時は君に助けられたけど、今は僕が君を助けなきゃならないんだ。それにはどうしても、今の僕では力不足なんだよ」

 「私のためにこんなに怪我をするのだったら、もう守ってもらわなくてもいいわ。あなたを死なせる訳にはいかないのよ、私のために」

 アルファルファはソニアの肩に手をおいて、ゆっくりと体を離す。彼女の目には涙が浮かんでいた。

 「君は忘れているようだね。僕は騎士の誓いを立てた。あれは守られなければならない。誓いは決して、君に強要されたものではなかったよ。事実、エルフにものを強要するのは、すごく難しいことなんだ」

 ソニアは、アルファルファの両腕についた傷にそって、優しく指を走らせた。治りかけの傷に触れられるのはちょっと辛かったが、アルファルファはソニアを心配させないためにやせがまんした。

 「でも、こんなに傷だらけにされて。痛むはずだわ」

 「大丈夫。ロベルトの太刀筋はすごく鋭いんだ。だから切り口もきれいなもんさ。しかるべく押さえておけば、翌朝にはふさがってる」

 見つめ返すソニアの顔が心配そうに見える。

 「君には解からないだろうな。今、僕がどんなに喜んでいるのか。ロベルトに教えてもらっていることじゃないよ。君を守ることをね」

 アルファルファは思い返していた。自分の、最初の挫折の瞬間を。

 「僕は、父に逆らって剣術を始めたっていったよね。その時の動機はすごく子供っぽいものだった。自分も剣術を学べば、我らが英雄カーライルと同じようになれるんじゃないかって」

 「カーライルって、ダ=ライを封じ込めたっていう、あの」

 「そう。あのカーライル。彼は、剣の一振りで世界を救ったって言われてる。事実はどうだったのかは誰も知らない。アバロニス王朝の始祖は彼だったって、アバロニスのエルフ達は言っている。とにかく、僕はそんな英雄になれるんじゃないかって思ったんだ。でもすぐに、そんな子供っぽい夢が、かなうはずがないって解かった。剣術を学ぶうちにね、剣の本質は破壊だって解かったんだ。訓練中に子供の一人が誤って、相手の目に剣先を当ててしまったことがある。当てられた子供は、当然だけど、失明してしまった。その剣は血で真っ赤に染まっていたよ。しばらくその光景が頭から離れなかった。それまで、父や母が絶えず聞かせようとしてきたことを、英雄願望の強い僕の幼い頭がまったく受け付けていなかったのに気がついたんだ。真実はすぐそこにあったのに」

 アルファルファの見たソニアの顔には理解が浮かんでいた。アルファルファはそれに力付けられ、先を続けた。

 「それ以来、僕は剣を握るたびにうしろめたい気持ちになった。それでも、剣の訓練をやめなかったよ。そうするには自尊心が強すぎたんだ。いや、そうじゃない。途中で引きさがれるほど、僕の心は強くなかったってことだろう。何かをやめようとするのは、何かを始めようとするのと同じくらい、難しいものなんだ。こうして、アルファルファ坊やは、剣の修業を終えたんだ。なにかを達成したって気持ちはまったく起こらなかった。君にも想像はつくと思う」

 ソニアはゆっくりと、ごくわずかにうなずいた。

 「でもね、今は違うんだよ。僕には目的ができた。森の中で密猟者を追いかけるよりは遥かにましと思えるのがね。君を守ることだ。君は僕に、明確この上ない目的を与えてくれたんだ」

 「……森より、私が大事だと、そう思ってくださるの、アルファルファ」

 アルファルファは自分の言った言葉を振り返り、自分が本当にそう思っているのに気がついた。これは彼にとって、大きな驚きだ。森より大事なものができるなんて、夢にも思わなかった。

 「……そうみたいだ。自分でも今、気がついた。なんておめでたい作りなんだ、僕の頭は」

 「そんなことないわ、アルファルファ。人を好きになるって、素敵なことよ」

 ソニアはアルファルファの首に手をかけ、自分の顔の前に引き寄せた。アルファルファはそれに逆らわず、腰をまげる。二人の唇があわさる。

 それは、長い、長い、接吻だった。息苦しさを覚えて顔を離した後も、ソニアの顔は不安で雲っていた。

 「お願いよ、アルファルファ。もう、あなたの気持ちを知ってしまったのだから、あんな無茶をさせられないわ」

 アルファルファは、このソニアの気遣いがとても嬉しかった。

 「なら、白状してしまおう。ロベルトは僕が確実に上達していることを認めているよ。近いうちに、彼と互角にやり合えるだろうとも言っている。僕にも手答えはあるんだ。四日間も、ただ切り刻まれていた訳じゃない。それに、ロベルトの指示は的確だしね。だからもうしばらく、黙って見ていて欲しい。これは僕からのお願いだ」

 「でも……いいわ。待ちます。ただ……無理はなさらないで」

 

 アルファルファが中庭に降りてくると、ロベルトはすでに準備運動を始めていた。アルファルファは小走りに彼の方へ駆け寄った。

 「遅いぞ、アルファルファ。君は、時間が足りないと言っていたような気がするが」

 「申し訳ありません」

 アルファルファの顔を見るロベルトの表情が微妙に変わる。

 「なにをにやにやしているんだ。何かいいことでもあったか。まあ、いつもの悲観的な顔にくらべれば幾らかましだが。浮かれた気分でいると大怪我をすることになるぞ」

 アルファルファは自分の心と、にやついた顔を引き締めた。

 「準備はいいか。では、始めるとしよう」

 二人はほぼ同時に剣を抜いた。剣を顔の前に一度かざした後、前にのばし、相手の切先に軽く当てる。軽い金属音が開始の合図となる。

 アルファルファは相手の目と胸もとを均等に見た。目は相手の動きを読むため。胸もとは相手との距離を計るため。

 相手の剣を恐れる気持ちからそればかりに目を留めると、容易く相手の動きに騙される。戦闘において、恐れの気持ちは極力抑えるに限る。それ自体が命取りとなるからだ。

 アルファルファは一撃を放った後、右に体を運んだ。ロベルトはその動きを読んでいた。老騎士と訓練を始めた日に、最初に警告されたのがそれだった。アルファルファは、とっさの時、右に動く割合が非常に多い。ロベルトには、それが容易く読めた。

 しかし、今回は違う。アルファルファは逆に、それを利用したのだ。彼の読みどうり、老騎士はアルファルファの動きに呼応して突きを放ってきた。

 その突きを軽く逸らした後、アルファルファは老騎士の右腕目掛けて剣を振る。老騎士はとっさの動きでそれをかわしたが、体勢は完全に崩れた。

 アルファルファは勢いに乗じて踏み込んでいった。一度、二度。ロベルトは受け流しを強いられながらも体勢を立て直していく。

 とうとう、アルファルファは攻め切れず、老騎士の反撃をうけた。ロベルトの鋭い剣を逸らしながらアルファルファは後退していった。剣が交差し、押し合いになる。

 老騎士もアルファルファもそれほど大柄な方ではなく、筋力だけ見れば互角だった。ロベルトの年でこの力は驚異的といえる。彼はいまだに衰えを知らない。二人は押し合いが無益だと悟ると、互いに一歩、後退した。

 しばらく睨み合いは続き、二人とも呼吸を整えていた。老騎士がここまで呼吸を乱したのは、五日間で初めての事だ。

 再び、二人は激しく剣を振り回す。一度、二度と叩きつけるうち、さらに力強く打ち込むために、二人は右手で握った柄の先に左手を添えた。

 何度か打ち合いが続いた後、アルファルファは事態を変化させるべく行動を起こした。ロベルトが大きく振りかぶった瞬間、アルファルファは相手の胸もと目掛けて飛び込み、相手の身体を肩口で激しくついた。

 老騎士は体勢を崩しながらも一撃を放った。アルファルファはそれを剣ではらった後、剣を持ち変える。老騎士は一歩下がって踏み留まり、アルファルファの利き腕目掛けて剣を振るった。

 しかし、老騎士はそこで信じられないものを見る。アルファルファの右腕には剣が握られていなかったのだ。その一撃は重荷を背負わない右手に容易くかわされた。

 一瞬の驚愕から戻すのが遅れたロベルトの右腕に、アルファルファの左手に握られた剣が降り下ろされる。彼の剣はロベルトの右手の甲を引き裂き、老騎士は苦痛に呻きながら剣を取り落とした。

 うなだれた老騎士の首筋に、アルファルファは剣を軽く当てた。

 その直後だった。アルファルファは突然、背後から何者かに押さえ付けられ、膝の裏を蹴られて前に倒れこむと、身動きのできないように地面に抑え込まれてしまった。

 そこまで、ほんの一瞬の出来ごとだった。アルファルファが、相手が周りで観戦していた騎士たちであるのに気がつくまで、数秒かかった。

 「いったいなんのつもりだ。彼を放してやれ。そんな扱いをするもんじゃない。彼は騎士なのだぞ」

 「我々はエルフの騎士など認めません。まして、騎士を傷つけるなど」

 その言葉をロベルトは鼻先で笑い飛ばす。

 「認めんだと。いったい、誰が認めないというんだ。彼は騎士に相応しい資格を持ち、正規の手続きを経て騎士となったのだ。君たちにとやかくいう権利はない。彼を騎士に任命したのはソニア姫であって、君たちではないんだ。さあ、彼を立たせてやるんだ、早く」

 アルファルファを押さえていた騎士は老騎士の言葉に含まれた怒気に怯み、アルファルファを開放した。

 アルファルファは立ち上がると倒された時に口に入った土を吐き出し、上着についた汚れを両手ではらった。頭の中はこの不当な扱いに対する怒りで煮え操り返っていたが、何とか悪態をつくのをこらえていた。もっとも、彼の怒りは、その緑色の瞳に宿る光りに、十分、反映されてはいたが。

 「さて、サンドフォード君。君はアルファルファが騎士であることに、不満を持っているようだね。今後、このようなことが起こらぬように決着をつけたほうがいいと思う。さあ、君の手袋でアルファルファの顔をはたくがいい。私が立会人になってやる。どうした、サンドフォード。勇気をなくしたか。いつも自慢している誇り高い血筋が泣くぞ。君の父上は腰抜けではなかったぞ、サンドフォード」

 その騎士は、さっき、エルフを騎士と認めない、といった男だ。彼は老騎士から視線を逸らしていたが、その顔は怒りに染まっていた。しかし、アルファルファに対して決闘を挑むつもりはないようだ。

 「尻込みするのも無理はない。ご覧になったとうり、アルファルファは今、私を打ち倒した。もはや、正式な試合では私と互角以上に戦えるだろうな。他に、彼に挑もうというものはいないか。ジクソン、君はどうだ。君はエルフの影に唾を吐くのがとくいだったろ。面と向かったら何もできんのか、ええ」

 老騎士に睨まれた騎士は、何も言えずにうつ向いてしまった。

 「どいつもこいつも、しょうのない奴らだ。まったく、けつの青い若造だ。ろくに剣も振れんくせにぎゃあぎゃあ喚きおって。お前達が騎士の何たるかを語るなど十年はやいわ。さあ、さっさと訓練に戻れ。アルファルファに文句があるなら、その細い腕に相応の力をつけてからくるんだ」

 怒鳴られた騎士達はこれを機会と、一斉に散っていった。ロベルトはその姿を睨み付け、苛立ちのこもった吐息を漏らすと、首を軽く振りながらアルファルファに歩み寄った。

 「まったく、君はよくやったよ。もう君に喧嘩を売ろうという奴はいないだろうな。奴らときたら、理屈ばかりこねおって、行動がともなわん。権利は主張するが、義務ははたさん。自分が何であるのか、奴らにはわかっちゃいないんだ。君は確かに異端だが、騎士の精神は持ち合わせている。姫は、本当に良い騎士を持ったものだ」

 「私を買いかぶっておられます、ロベルト殿。特に先程の言葉、私があなたと互角以上に戦えるなどと。ほんの偶然ですよ、今のは」

 「まあ、確かに、互角以上というのには、誇張があるな。だが、五本に一本取る位の実力はついたと思うがね。ところで、君は両利きだったのか」

 「いえ。練習はしていましたが、始めたのはごく最近のことです。私の師、ライアードが、以前左利きの剣士と戦った時に苦戦したという話しを聞いて。ほんとに左利きになろうとしたのではなく、相手を惑わすには有効な手段だと思ったんです」

 「確かに効果的ではあったな。他の騎士達も、君ほど向上心があればな。私も今ごろ、引退できていただろうに」

 ロベルトは驚いた顔をしているアルファルファの肩を軽く叩いた。

 「あなたはまだやれますなんて、きまり文句はいわんでくれよ。自分のことは自分が一番良く知っているものさ。まだ引退できんだろうがね。姫様に伝えておいてくれ。ロベルトはあなたにお味方すると。ドリアン殿に忠誠を誓った身ではあるが、……あの方は狂っておられる」

 アルファルファがこの言葉を消化している間に、ロベルトは建物の方へ歩み去ってしまった。彼の従者が主の傷を手当てしようと走っていく。

 ドリアンが狂っているとはどういう意味だろう。アルファルファは汗でぬれた身体が乾いていくのを感じながら、その場にずっとたたずんでいた。



Number
Pass

ThinkPadを買おう!
レンタカーの回送ドライバー
【広告】Amazon.co.jp コカ・コーラが最大20%OFF玄関までお届け開催中
無料で掲示板を作ろう   情報の外部送信について
このページを通報する 管理人へ連絡
SYSTEM BY せっかく掲示板