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[23] WILL
健良 - 2004年10月17日 (日) 14時17分

「お、終わらない……」
真っ黒な背景に、白く小さな英数字が明滅するディスプレイを前にして、一人の青年が全く生気のない表情で呟いた。

「コラ、尾澤。手ェがお留守なってんぞ」

魂が半分口から出かかっている彼の頭を、隣りに座ってキーボードを叩き続けている
先輩らしき男が軽く小突く。

「あ、すいません……」

尾澤と呼ばれた青年はあわてて作業を再開するが、すぐにまた焦点の定まらない目に
なってしまう。

……ここはとあるゲーム制作会社。現在家庭用ゲーム機器の新作ソフト発売直前の仕上げ
段階である『デバッグ』という作業中。

『デバッグ』とは、完成したゲームをプレイしながら、プレイ中に起こる不具合の元を探して
修復していくというもの。

地道で、正直なところ下っ端のやる仕事だが、また最も人手が必要とされる作業である。
ちなみにこの作業を行う人を『デバッガー』と呼ぶ。

「……尾澤。お前一旦ウチ帰ってええで」

仕方なさそうにため息を付くと、彼は尾澤の肩を軽く叩いた。

「…………」

だが、返事はない。

「おい、聞ーとるか?」

少し大きな声で呼びかけると、やっと尾澤が振り向く。

「な、何スか!?鷹津さん」

「相当キてるみたいやな。お前何日目や?」

「えーっと、もうかれこれ4日は寝てないっスねぇ。って、そんなに……」

指を折りながら改めてその事実に気付かされると、がっくりと肩を落とす尾澤。

「そっか。そら疲れるわな。何だったらウチ帰ったらどや」

「え……い、いいんスか?鷹津さんだって1週間は帰ってないのに」

「オレは時々仮眠とってるからな。ホラ、早う帰らんと時間もったいないで」

「あ、ありがとうございます!」

ヒザに頭をぶつけるんじゃないかという位の勢いで頭を下げると、鷹津はカンヅメブロイラー
状態の部屋から走り出た。

「……めっちゃゲンキやんか。アイツ」

「ただいま〜……」

電気をつけ、床に散乱したモノたちをかき分けかき分け進んでパソコンの前のイスに座る。
たまりにたまっているであろうメールチェックの為だ。

「うっわ、こんなに来てるよ……」

四日開けて八十六通。尾澤はキーボードに突っ伏す。

「うー、めんどくせェ……」

まずダイレクトメールを片っ端からゴミ箱に突っ込んで、ぶつくさ言いながら受信箱の整理を
していると、いつの間にか狭い部屋は茜色に染まった西日で一杯になっていた。

「げっ、もうこんな時間か。いい加減寝ないと」

万年床に滑り込むようにして横になった彼の頭に、CDケースが触れる。

「?っかしいなぁ。ソフトだけはちゃんとかたしといたのに」

俯せになってそれを視界に入れると、見たことのないソフトがそこにあった。

「誰かから借りたっけ?こんなの……」

市販のCDケースに、市販の書き込み用CD、タイトルはそのどちらにも書かれていない。

音楽CDか何かだろうと思い、尾澤はコンポよりそばにあったゲーム機に手を伸ばした。
このゲーム機は対応ソフトだけでなく、CDやDVDも再生できるからである。

……いつも通り、そのゲーム機を作った会社のロゴが出てきて、その後は当然CD再生
画面になると思いきや、暗くなった画面に突然出てきたのは青白いシンプルな書体の、
タイトルらしきもの。

『WILL』

「……これ、ゲームだったのか。にしても知らないタイトルだな。デモ版にしたって受け取った
覚えはないし……」

そのまま放っておくと、間もなくCDの扇風機に似た、風を切るような音がして『PRESS
START BUTTON』の表示。彼は言われるままにスタートボタンを押した。

文字がフェードアウトし、オープニングムービーが始まる。

「……ッ!?」

何度も瞬きをして、息を飲む。

ただのCGムービーではない。

その完成度、美しさ、全てにおいて従来のものから飛び抜けているのだ。

「このハードの性能をほぼ完全に引き出してる……一体ドコが作ったんだ?」

彼が持っているハードは、まだ発売して三ヶ月程度しか経過していないし、対応ソフトは
数える程度しか出ていない。

各社もこれからどんなものを作っていくか研究しているときなのに、いきなりこんなゲームが
出るとは……。

考えられない。と思っても実際ソフトは起動して彼の目の前にあるのだ。
感動と困惑が消化され切らない内に、本編が始まった。

「す、すごい……!」

一見するとRPGの様だったがシステムはかなり斬新なものだったし、感情移入できる
キャラクター達、説得力のあるシナリオ……どれをとっても『売れるソフト』の条件を全て
満たしている。

しかもそう意識して作ったのではなく、作る側も楽しんで作ったのではないかという
雰囲気が、一応の同業者として感じ取れる。

彼は結局眠らずにそのゲームをクリアしてしまった。

「はぁ……俺もいつかこんなゲームを作れるくらいになれたらいいな・・・」

本体の電源を切ると時間はすでに午前八時過ぎ。
出社まで後二時間を切っている。

「仕方ない、か」

苦笑して一時間だけ仮眠をとると、まだ少し疲れの残る体を引きずって彼は車を走らせた。
その後、彼らが必死で作業をしたソフトは無事予定通りに発売され、まずまずの売り上げを残す。

尾澤は例のソフトを他の同僚にも貸そうと会社に持ってきていたが、誰がやってもその
ソフトは空っぽだったと言う。

そして彼が2週目をプレイしようとしても、ソフトはむなしく本体の中で回転してはすぐ
止まってしまうのだった。
残念に思いながらも彼はそのソフトを記念として机の引き出しにそっとしまっておいた。

……ソフトは待ち続ける。彼の手によって再び何万人もの人々に
感動を与えるデータを焼き付けられる日まで。

自分が生み出された日に、日付が進むまで。

fin



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