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[22] 第1部「破者」(2)
健良 - 2004年10月17日 (日) 00時34分

王都の外れに、深さ3メートルもの穴が幾つも掘られ、中ではそれぞれ、囚われた数十人の儒生たちがさらに穴を掘り下げていた。

穴の直径は6メートルもあろうかという巨大な穴で、ほぼ円柱状に掘られ、穴の底には縄ばしごで下りるしかない。

「そろそろ、良さそうだな。始めよ」

左宰相の李斯(りし)は、近くにいた兵士にそう言って肯いた。それは、同じように何人かの兵士に次々と伝えられていく。兵士たちは、穴掘りの作業にあぶれ、それをぼんやりと見ていた他の囚人たちを引っ張ってきた。すべて、秦国の国政を批判したという罪で囚われた学者たちである。

穴の縁まで連れてこられた囚人数人を、まず一人の兵士が、槍で強く殴り付けた。囚人は潰されたような声を上げ、ダンゴ状態になって穴の中に転がり落ちていく。

穴を掘り進めていた者たちも、次々と突き落とされる仲間たちの姿を見、それに押し潰され、穴の底を逃げまどう。

「穴を埋め戻せ!」「埋め戻せ…」

命令は次々に伝えられ、いくつもあった穴が一斉に埋められていく。囚人たちの悲鳴は、あっという間に聞こえなくなり、あとには、穴の数だけ、こんもりとした土まんじゅうが出来上がる。

李斯は馬に乗り、その山々の上を歩いた。

「これで、陛下も満足されるであろう…」

彼はニヤリと笑い、兵士たちに、穴から出てくるものがいないよう、夜通し見張ることを命じた。長い夜が始まる。

「今夜一晩置けば、もう誰も這い出ては来るまい」

李斯宰相はまた笑い、墓場と化した荒れ野を見回した。

「ここに、我が宮殿を建てるのも、遠い夢ではなかろう…」

坑儒…坑とは、「穴(坑)埋めの刑」を意味すると言われている。


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どんな女だったのか……

始皇帝・政(せい)は、苦笑してため息をついた。

第一皇子・扶蘇を産んだ正妃。名前も憶えていない。後宮にひしめく数多の女の中で、家柄のおかげで正妃となった女だった。あの当時は政も若く、彼自身も、そして秦国もまだ弱かった。女の数も今ほど多くはなかった。

何人かの女を日替わりで抱き、その中で運よく一番最初に妊娠し、男児を産んだのが、たまたま正妃の彼女だったのである。

可憐な美少女だった…

そう、まだ『少女』だったのだ。幼く、大人しく、いつも俯き気味で、政を恐れているようであった。

小さな蜀の明りがゆらゆら揺れる。

心も体も大人になりきった妾ばかりのなか、唯ひとり、家柄の良さと家長の出世欲ゆえ、あの年で後宮に来るなど、政自身も気の毒に思った。他の姫たちから、相当いじめられたはずだ。

扶蘇は、彼女によく懐いていた。政も、二人に逢うためだけに後宮に通っていた頃があった。その後、彼女が孕むことは無かったが、皇子は他に何人も生まれた。

扶蘇は文武に長けていたが、何事に置いても控えめな皇子だった。母親に似たのか、あまり多くは求めていないようだった。

ただ、他の妃や皇子と違い、下心を見せることなく上手に甘えてきた。だからこそ、一番可愛がっていた。

宮殿を抜け出すことや、釣り遊びを教えたのも政である。数人の腹心を連れ、扶蘇を楽しませることだけを心がけた。王としてではなく、父としての姿も、彼に見せておきたかった。

そして、その関係が壊れたのは、自分の欲望と、学者たちのあの言葉!

.「不老の人魚の血肉を食らえば、食らった者も不老になると言います。“したがって”お妃様を食らえば、食らった者もきっと不老になれます故…」

正妃は、殺される時も抵抗しなかった。小さな悲鳴を上げたきり、時々ぴくぴくと動いた。宮廷の有能な料理人たちが使い切れなかったのは、骨と爪だけだった。

しかしそれも、翌日には薬師の手によって粉末となり、薬膳料理として彼の腹におさまった。

長い髪は切り刻まれて香に練り込まれ、煙になった。

「扶蘇よ… 笑うがいい。何よりも自慢の我が正当なる後継者に、激しく嫉妬するこの醜悪な父を…」

-------

「皇子!皇子!!」

闇の中に、松明の明りが幾つも浮かぶが、それでも明るいと感じられないほどの闇が、東宮御所を包む。

「江良差か… 何ごとか」

扶蘇は、寝台の上に体を起こした。

「今夜より、陛下が儒学者たちを穴埋めにしているようです。そのせいか、東宮を怪異な空気が包んでおります」

と、江良差は扶蘇の足元に跪いた。女官や兵士も、恭しく端に控える。

「万が一に備え、兵士をこの部屋に置いておきたいのですが…」

「頼もしいことだが、怨霊ごときに余の結界は破れぬよ…」

「ということは、俺は怪異ではなかったと、そういうことだな」

兵士と女官たちが、ぎょっとして振り返る。開け放った窓から入ってきたのは、逮捕の令が出されている方術士・盧生(ロセイ)だった。

「盧生、貴様どこから…」

江良差たちが、剣に手を掛ける。が、扶蘇は彼らをやんわりと止めた。

「よい、お前たちは下がっておれ」

「ほう。陛下と違って、部下を下がらせ自分が出るか」

彼は、背よりも長さのある錫杖を肩に掲げ、青白い顔でニヤリと笑う。

「皇帝陛下は、残酷なことをする。散々世話になった俺達を、一気に埋め殺そうっていうんだからな。それに引き換え、東宮閣下のなんて慈悲深くて部下思いなこと!それを見込んで、今夜は怪異が、多数お参りにきているな。指図め、反魂(蘇生)術でなんとかしてくれということなんだろうが」

「死にたくなかったのなら、あまり、突飛なことを言わねばよかったのだ」

と、扶蘇は膝を立てて顎を乗せるようにもたれかかった。

「父上は、自分の考えにそぐわない儒学者を消したいだけのこと」

そして、低く笑う。

「貴殿ら方士を、排したいわけではない」

「儒学者だけでなく、尽くしてきた我ら方士にも、逮捕されて殺された者がいる」

「ほう… 貴殿と競った方士・徐福は、遇されているようだが?」

扶蘇の言葉に、盧生の顔が怒りで、一瞬にして赤らんだ。彼は深呼吸し、錫杖を握り直す。

「あのイサカマ野郎が…。皇子のはらわたを食らって永寿を得て、あのイサカマ野郎より、俺のが仙人に近い存在なのだと報せてやる!」

「食えるものなら、いくらでも」

「この程度の結界しか張れぬようなら、我が敵ではない! 丸焼きになるがいい!」

扶蘇に向かって振り下ろした錫から、炎が吹き出る。

が、その炎は扶蘇の手前で、壁に当ったかのように遮られて散っていく。

「怪異に気を取られて、暗殺者のことは忘れていたよ。そうだった。貴殿のような、普通の人ではない侵入者にも、気を配らねばならぬのだった」

「皇子、貴様…」

「我が術のほうが、貴殿よりも上を行くと思うが…」

散った炎は、扶蘇の前で、再び集まり、小さな火の玉となった。

「冥土の土産に、いいことを教えてやろう」

扶蘇は、にっこりと微笑む。

「貴殿を排するよう父に進言したのは、余だ」

「なにいっ!?」

「貴殿のような大ホラ吹きの下級方士より、徐福のほうがいくらかましですよ、とね。もっとも余は、徐福も信用してないが…」

「きさま…」

「権力だけを切望する餓鬼め。自らが発した炎で、灰と化すがよい」

火玉はカッと光を放って大きくなり、一瞬にして盧生を包み込む。

「ギャアア!!」

「いい気味じゃ…」

火だるまの盧生は、悲鳴を上げて手足をばたつかせ、クルクルと回転し、ついには膝をついた。江良差たちは、唖然としたまま動かない。扶蘇は、喉の奥で笑い声を立て続けた。

「皇子…」

盧生が扶蘇のほうに手を差出したその時、彼の焼け爛れた姿は、ふっと消えたのだった。

「何!?」

予期せぬ事態に、扶蘇は寝台から降りた。

「…………恨みを持たせたまま取り逃がしたか…。厄介だな」

「皇子、危険です。この空間に何があるのか…」

駆け寄った江良差を、扶蘇は振り返る。

「心配は要らぬ。しかし、我が結界から炎を帯びた者を引き抜くとは…」

「徐福でしょうか?」

「いや、あの男ではないな。これほどの術は、無理だろう。とすると…。見当もつかぬ。更に、厄介だな」

扶蘇は、溜息をついた。


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大瓶の水にうつる扶蘇たちの姿が、ふっと消える。

羨は、羅紗に視線を移した。西の砂漠の民のような、薄手で裾の長い、象牙色の衣装をまとった彼女は、天界や仙界の者を相手に、占いを生業としている仙女である。

彼女は、褐色の巻毛を耳にかけた。

「すごいわね、この扶蘇っていう皇子さま」

見かけは10代半ばの美少女だが、実際の年齢は、十数年どころではない。

「羅紗、盧生を連れ出したのが誰だか分かるか?」

「そこまでは無理ね。強い力で、自分が何者かを封していたもの。相当の術士よ」

「徐福ではなかろう。あとは… こちらが知らない術士が、居るんだろうか?」

「可能性はあるわ。自分の気配を封じることが出来るのだから、我々には気付かれてないのも、仕方ないわね」

「まいったな。そういうのに限って、寿命に関する術が、完成していなかったりするんだ。盧生を助けた以上、扶蘇のはらわたを狙うつもりと見て間違い無いな」

「そうね」

と、羅紗も息をつく。

「でも、あの皇子さまのはらわたって、本当に永寿の妙薬なの?」

「確証はないが、多分そうだろう。なにしろ、扶蘇皇子の祖母が、海の者だからな」

「海の者?!」

羅紗の反芻に、羨は肯いた。

「そうさ。食らえば不死を得られるという、人魚の血肉…。特にはらわたは、珍味で効能が高いという。海の者であった扶蘇の祖母…彼女は夫に愛され、食われることはなかった。だが、扶蘇の不老に気付いた始皇帝は、扶蘇の母・正妃を食った」

と、羨は杯に酒を注ぐ。

「つまみ食いした料理人たちは、中毒して死んでるよ。だが、始皇帝は中毒もせず、不死にもなれなかった。…だから、不老を得た皇子が妬まれるわけさ」

「…不老なんて、修行しないと得られないのに」

「お前が言っても、説得力ないぞ、羅紗」

「羨にも言われたくないわね。どちらにしろあの皇子は、破を招く相の持ち主よ」

と、羅紗は羨の隣りに移った。

「破を招く相か…」

「羨、あなたは何をするつもり? あの皇子に、何故そんなにかまうの?」

「あの者の潜在能力は、天帝さえも凌ぐかもしれない…。野放しにしておいたら、神・人・仙の三世界を混乱させることになる」

「まさか天帝は、あなたに『人界の者』の暗殺を頼んだんじゃないでしょうね!」

「勝手な憶測だ」

羨はいきなり、羅紗の首に腕を回してそのまま自分の下敷きにした。

「天帝のなさることを、あれこれ詮索しないほうがいいぞ、羅紗」

「協力せておいて、それはないんじゃないかしら?」

と、羅紗は微笑む。

「協力した見返りは、当然頂けるんでしょうね?」

「天帝は御病身だ。おまえに食いつかれたら、朝まで持たないね。だから俺で、我慢しておけ」

羨は、羅紗の唇に息を吹きかけた。



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