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[19] dice−ダイス
健良 - 2004年10月10日 (日) 13時36分


「おはようございます」

マンションの一階、エレベーター・ホールと呼ばれる場所で、奈紀(なき)は出会った女性にそう言って会釈した。

ここには36の全戸数分のポストと、自治会の連絡事項などを張り出した掲示板がある。2階までちょっとした吹き抜けになっていて、煉瓦の床がしゃれている。このマンション御自慢の、広いエレベーター・ホールだった。

奈紀に挨拶された女性は、驚いたような顔をして慌てて会釈を返すと、そそくさとホールから出ていってしまう。

「外に行くには、寒いカッコだよ」

奈紀は、そう言った連れの少年に視線を落とした。少年は、女性を見送って口を尖らせている。

「他夜(たや)、あなたがふくれることないでしょう」

「でも、寒々しい格好は、見てる人も寒くするよ。ま、あの女は肉襦袢着てるけどな」

「……」

奈紀は他夜の頭を叩き、バックを肩に掛け直した。なにしろ仕事からの朝帰りだ。早いところ自室に入り、シャワーでも浴びてさっぱりしたい。他夜は、叩かれた頭をさすり、大人びたため息をつく。そして漆黒の瞳で奈紀を見上げた。

「奈紀、いい匂いするよ。憎悪の匂いだ」

「憎悪?」

奈紀は、再び他夜に視線を落とした。彼は漆黒の瞳を期待でいっぱいにして輝かせている。奈紀は、彼のその針のような漆黒の髪を撫でた。

「それは、いい匂いとは言わないのよ。他夜もお腹すいたでしょ。早く帰ってシャワー浴びて、ご飯にしましょう」

彼女はコンビニの袋を他夜に持たせ、

「4−901 紗枝 奈紀(SAEDA NAKI)」

と書かれたポストを開けた。中に詰め込まれた、くだらない広告の数々。それを掻き出し、ポストの扉を閉めようとしたときだった。

「あら?」

何か、小さな物が広告の間から滑り落ちる。それは一回だけ弾むと、乾いた音をたてて煉瓦の床を転がり、他夜の爪先で止まった。

「うわあ、さいころだっ♪」

他夜は、嬉々として屈み、指先でそれをつまんで奈紀に見せる。他夜の小さな指先に納まったサイコロは8面のもので、赤かった。それは吹き抜けの天窓から差し込む冬の光で、鈍く光る。

「8面ダイス…」

「奈紀、これきっと、あの女が入れたんだと思うよ」

ホールから出た所は公園のような広場になっていて、簡単な遊具とベンチ、そして大きな花壇がある。その花壇の向こうで、さっきの女性の影がちらちらと動いている。

「こんなもの、もらう憶えはないわ」

「どうして?奈紀は、いっぱい恨まれて不思議はないよ」

他夜は、無邪気に笑った。その笑顔は次第に悪意に満ち、目つきが鋭く変わっていく。

「奈紀はとても綺麗だもの。そのさらさらの髪の毛も、その顔も、体も、同性は羨むと思うよ」

彼の視線が、ジーパンをはいた奈紀の足をなぞっていく。

「絶対、羨むよ」

「そうね」

奈紀は、サイコロを受け取るとコートのポケットに入れた。そして広告を一握りすると、バックを肩に掛け直す。そして、不意に2軒隣りのポストも開けた。

中に広告は入ってなかったが、奈紀のポストに入っていたのと同じサイコロが、ぽつんと置いてある。

「うわあ、せのーのおねえちゃんの所にもいれたのか。ひっどいの」

「……他夜。ご飯はお外で食べようか。お天気いいし、あまり寒くないしね」

「賛成!」

2人がホールから出たとき、ホール前の広場からあの女性が出ていった。

―――――

「いしはら みつこ」

と言いながら、奈紀は束ねたタロットカードを一枚取った。

マンションから少し離れた場所にある公園には、何人かの子連れママがいる程度だった。広い芝生の真ん中にシートをひいて、子供たちを遊ばせながら持ち寄りのお菓子で絶え間なく喋っているらしい。奈紀と他夜が座っている大樹の下のベンチはまだ日陰になってないせいで、暖かい。そして芝生の一番はずれにあるおかげで、子供たちの声も、そんなにうるさく感じなかった。

「奈紀、このたまごのサンドイッチ、食べていい?」

他夜が、2人の間に置いたコンビニ袋から、サンドイッチを引っ張り出す。

「いいけど他夜、そっちのサラダと昆布のおにぎりも食べちゃうのよ」

「わかってる。ヨーグルトも食べるからねっ♪で、何が出たの?」

「CHALICESの9のリバース(逆位置)」

奈紀の返事に、他夜はサンドイッチの端をくわえたまま肩を竦めた。

「食べ過ぎて肥満、衰えた容姿?すごいね。ぴったりだ」

「それからATHAMESの5が出たわ。ラストカードはTheDEVIL。どちらももちろん、アップライト(正位置)」

彼女は、3枚のカードを他夜の前に投げるように置く。

「くだらないわね、こういうの。そのままってカンジよ」

奈紀らしくない言葉使いに、他夜は小さく笑った。

「で、どう解釈したのさ?」

「そのままじゃないの」

と、奈紀は紙パックのコーヒー牛乳を吸う。

「いしはら みつこ。ストレスから来る過食症による肥満。ストレスってのはさしずめ失恋だわね。もともと僻みやすい性格なのよ。これが肥満っていう容姿の崩れから、顕著になっちゃったわけね」

「女って、これだからやになっちゃうよ」

他夜の言葉に、奈紀は彼の頭を叩いた。

「あんた幾つよ?生意気ばっかりいって」

「でも、ATHAMESの5にTheDEVILだろ?」

「……トラブルの接近。呪術信仰」

奈紀は、あの8面ダイスを取り出した。

「人を死にいたらしめる最強呪術のひとつだわね。8面ダイス呪術…素人がやるものじゃないわ」

「簡略したものや、効果のないものなら、趣味の本にも載ってるよ」

と、他夜は叩かれた頭をさすって奈紀を見あげる。

「それ、そうじゃないの?」

「ま、その類でしょ。憎悪は一人前だけど、呪力そのものは返すほども入ってないわ」

「じゃ、呪返しも出来ないね」

「まあね」

奈紀はダイスをポケットにしまい、おにぎりを包むフイルムをはがした。

「でも彼女は、同じことを何度でも繰り返すでしょうね。カードがそう言ってるもの」

他夜は、TheDEVILのカードをちらりと見やり、ヨーグルトのカップを奈紀の膝に乗せた。

「奈紀。俺、これ食べる」

「そのおにぎり、食べてからよ」

奈紀は蓋を開け、附属のプラスチックのスプーンをヨーグルトにさして他夜の横に置いた。他夜は、崩れてしまったおにぎりを、苦戦しながらも平らげる。

「奈紀、この前テレビでダイエットのことやってたよ」

他夜は、ヨーグルトに取り掛かった。

「ダイエットに失敗する人っていうのは、ある一定の傾向が見られるんだって。ええとね、何て言ったかな?‘たりきほんがん’で、意志が弱くって、それから太っていることを見方にしている人。自信のない人なんだって」

「………」

「痩せても男の人にもてなかったらどうしようとか、痩せてもきれいじゃなかったらどうしようとか…太っているからうまくいかないのは仕方ないって考えるような人たち」

「他人を妬んで、発散するわけね?」

「そうそう。奈紀、これおいしいよ。はい、一口あげる」

他夜は、手を伸ばして奈紀の口にヨーグルトを入れる。

「ダイエットなんて、劣等感のある馬鹿とブスがする気休めのゲームよ。失敗したって、失うものは何もないわ。温かな脂肪の海に浸かったまま、それでいいのよ」

「………奈紀、やっぱり怒ってるの……かな?」

「怒っちゃいないわ」

と、奈紀はゴミをコンビニの袋にまとめた。

「でも、人を呪えばその報いを受けるのだと、教えるべきでしょうね」

「遊びだとしても、容赦しない?」

「しないわ。お礼はすべきよ。さあ、他夜。食べ終わった?ゴミはもうないわね?」

「うん、ない♪」

「じゃ、ブランコにでも乗って、それから帰ろうか」

「うわあいっ!」

他夜は、勢い良くベンチから飛び降りた。

――――――――

「ゼルーム・アパリーシュ・スミタニル」

奈紀は、手の平ほどの黒い金属の香炉に香油を一滴落とし、その香油にマッチの火を移した。香油についた小さな炎はちらちらと揺れ、香炉の中の香草に燃え移った。

炎は次第に大きくなり、奈紀の姿を壁に映す。

「ゼルーム・アパリーシュ・スミタニル。呪いよ、戻るがよい」

彼女は、膝に座った他夜の頭を撫でた。

「………呪いよ戻れ、そして“ぶるい・どん”」

奈紀の言葉と同時に、香炉の炎は消えた。

――――――――――

「ふわあああ…っと、寝不足だと吹き出物が出るのよね」

仕事から戻った奈紀は、ポストを覗きながら欠伸をした。それを見上げ、他夜が肩を竦める。

「まったく奈紀は、品がないなあ。夜のバイトはやめときゃいいのに」

「何いってるのよ。私の仕事は夜が稼ぎ時なのよ。あんただって、ついてこなくたっていいんだからね」

「奈紀1人じゃ心配だから、付き合ってるんじゃないか。っと、エレベーターが来たよ」

他夜は、先にエレベーターのドアに駆け寄った。と同時にポン、と弾むような音がして扉が開く。降りてきたのは最近奈紀の2軒隣りに越してきた若妻だった。

「紗枝さん、おはようございます。あら、他夜くんも一緒に帰ってきたところ?」

彼女は愛想よく他夜の紙を撫でたが、可愛い顔を不安そうに曇らせている。どこかに出かけるところらしい。

「おはよー、せのーのおねえちゃん♪」

「おはようございます、瀬能さん。おでかけですか?」

奈紀の問いかけに、瀬能夫人は、他夜を気にしながら肯いた。

「うちと紗枝さんの間に住んでる、いしはらさんのお嬢さん、ご存知?」

「ああ、あのふっくらした方でしょ?」

奈紀の表現に、彼女は口元に笑みを浮かべたが、それはすぐに引っ込んだ。

「お風呂で亡くなってたんですって。御両親は旅行中で…帰ってきて気付いたそうよ。4日間も湯船に浸かってた状態だったって…うちにも警察の方が事情を聞きに見えて…って、他夜君のいるところで、こんな話ごめんなさいね」

彼女は、済まなそうに言う。

「あらいいのよ、瀬能さん。気にしないで。他夜なんて、そんな聞いてたってわからないし、テレビでも見てれば忘れちゃうわ」

奈紀は、笑顔で答え、それから眉をひそめた。

「でも、恐いわね。事故?病気?」

「事故みたいよ。ほら、太っていたでしょ?湯船から立てなくなって、溺れたらしいの。よくはわからないけど…。それより警察の方に、紗枝さんがいつ頃帰るか聞かれて、いつもなら10時頃には戻るって答えちゃったの。事情を聞きたいって言ってたけど…ごめんなさいね、私ったら気が利かないから、つい言ってしまって……」

「気にしないで、どうせ、今日中には事情をきかれちゃうでしょ。おでかけ、気を付けて行って…」

「おねーちゃん、どこ行くの?」

と、他夜が口を挟む。

「ちょっと実家にね。うちのおにーちゃん、今出張中なのよ。明後日帰るんだけど」

彼女は、他夜に答えてから奈紀に視線を戻した。

「こんなことがあって気味悪いから、ダンナが帰るまで実家に避難することにしたの」

「そうね、それがいいかも。じゃあ、気を付けてね」

「ありがと。じゃあ…」

瀬能夫人は、軽く会釈して、ホールから晴れた外へ出て行く。

「あのおねえちゃんたちも、無事だったみたいだね。とても可愛いしきちんとしてるもの。絶対、あの女に妬まれると思ったよ」

「そうね。私は、あのコのこと好きよ。可愛いから。憎めないわ」

と、その時刑事らしい3人連れの中年男性が階段から降りてきた。奈紀の姿を見つけ、会釈をすると警察手帳をだす。

「このマンションの方ですか?」

「ええ、4−901に住んでいる紗枝ですけど……?」

「ちょうどよかった。仕事から帰ったばかりのところ、すいませんが…」

彼らの1人が、メモ用紙を出す。

「お宅のお隣りに住んでいる方が、風呂場で亡くなってましてね。そこの風呂場は、お宅の風呂場と隣り合っているでしょう?何か声とか音とか、聞きませんでしたか?」

「昼間は、聞きませんでしたけど…何しろ私、夜は仕事に出てしまうものだから」

「ああ、そのようですね。まあ問題のお嬢さんは、いつも夜に風呂に入ってたみたいですからなあ。でも、朝、帰られてからはどうです?風呂場にこんなのが落ちてましてね」

と、一人の刑事が小さなビニール袋をポケットから取り出し、奈紀の前に出す。

「あ、サイコロだ♪」

他夜が、嬉しそうに声を上げた。ビニールには、赤い8面ダイスが二つ、入っている。

「もしかしたらこれを壁にぶつけて、何か助けを求めたのでは…というのは、考え過ぎかもしれませんが、こういう小さな物が壁にぶつかるような音は聞きませんでしたか?」

「少なくとも、私が入浴してるときは聞きませんでしたよ。なにしろ、この甥っ子も一緒だから、騒がしくしてるし」

「ああ、じゃあ聞こえなくても仕方ないでしょうなあ」

刑事は、サイコロを再びポケットにしまう。殺人事件じゃないせいか、テレビドラマで見るような熱心さと執拗さがない。

「お疲れのところ、すいませんでした。じゃ」

彼らは再び会釈して、外に出て行く。奈紀は、肩を竦めた。

「物騒ね。さ、他夜。おうちかえって、ごはんにしましょ」

「うんっ♪」

奈紀は他夜と、手をつないだ。

fin




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