「あらあら〜? これはこれは、今夜は変わったお客さんがやって来たものです」
「あら? 私のことも、ちゃんとお客として扱ってくれるのかしら?」
「もちろんです。例え深夜、突然のご来訪であったとしても、おもてなしの準備は万全ですから」
「ふ〜ん。ってことは、この屋敷のもてなしって随分と乱暴なのね」
「いえいえ、真のおもてなしとは、相手に応じて使い分ける必要があるものです。例えば、主人のご友人が、体調不良で休んだ主のためにプリントを届けてくれたなら、良質の紅茶とお茶菓子を。可愛い子猫が迷い込んできたなら、器いっぱいのミルクをサービスしますよ〜」
「で、私が相手だったら、おもてなしは落とし穴に捕縛ネットで締めは対人地雷と、トラップ祭りなわけ?」
「本当はもっと盛大に、人間花火くらいは付けたかったんですけどね〜。この前、うっかり秋葉様が踏んじゃいまして、今は残念ながら品切れです」
「それは残念。貴女の作った花火がどれだけ綺麗なものか、見てみたかったもんだわ」
「それでしたら、人間花火はなくなっちゃいましたけど、まだまだ他にも趣向を凝らした、私とっておきの芸術作品がそこかしこに眠っているんで、どうぞご覧ください」
「そうさせてもらうわ。また今度の機会にでもね。……で、そこ、どいていただけないかしら?」
「この先には志貴さんの部屋しかありませんけど?」
「わかってるわよ。そこが目的地なんだから」
「そういうことでしたら、ますますここをどくわけにはいきませんね〜」
「どうしてかしら?」
「お休みになられている志貴さんの私室に、こんな夜更けに女性が忍び込んだとあっては、秋葉様が怒り狂ってしまわれますし、私や翡翠ちゃんだって心穏やかなものではありません。況してや、その女性が志貴さんの憧れの方ともなれば尚更です。それに……」
「それに?」
「同じ魔法使いとして、一度手合わせしてみたいと思ってたんですよ〜」
「魔法使いって……貴女、ただの家政婦さんでしょう?」
「遠野邸家政婦とは世を忍ぶ仮の姿! その正体とは……」
――ババッ!
「漆黒の外套を身に纏い、世界の平和を守るため、夜な夜な悪と戦う健気な魔法少女、マジカルアンバー琥珀! ただいま参上っ!!」
――ドギャーン!
「……」
「……決まった」
「色々と突っ込みどころの多いキャラしてるのね、貴女」
「ふふ〜ん、今の私のカッコいい登場シーンに嫉妬しているんですね〜? でも、譲ってなんかあげませんよ〜。これは、私のような魔法少女にしかできないんです。わかりますか? “少女”ですよ、“しょうじょ”」
「……な〜にが言いたいのかしら?」
「さぁ〜、なんでしょう? とにかく、ここはこの私が通しません。また日を改めて、今度は日中に正門からご来訪くださいな」
「残念だけど、その提案には頷けないわね。私の用事は、今日しか済ませられないの」
「でしたら、この私のマジカルなウェポンたちの餌食になってもらうしかありませんね」
「ものすっごいケミカルな気がするけど……まぁいいわ。本当の魔法使いがどういうものなのか、特別に教えてあげる」
「そうこなくっちゃ♪ うふふ〜、今夜は魔法使いの夜ですね。楽しくなりそうです♪」
「私を遠回しに年増呼ばわりした罪は、か〜な〜り〜重いわよ〜。それなりの覚悟はできてるんでしょうね?」
「そちらこそ、今から私のジョニーに丸焼きにされるんですから、耐熱服の重ね着をオススメしますよ」
「言ってくれるじゃない。……後で泣いても知らないわよっ!」
「魔法少女に不可能はなーいっ!」
|