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合作書き散らし場

萌えを語りただ書き殴る!ための場所。

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[345] おほしさまひとつだけ(途中経過すっとばし) 名前:まさと@ちょっとサボり中 MAIL URL 投稿日:2005年12月20日 (火) 15時06分

びっしり予定が書き込まれたカレンダーの、24の数字には、赤の極太マジックで丸がつけられている。
その左隣の数字の色は赤。更に1つ隣には既に×が書き込まれていた。
23日、天皇誕生日。明日はクリスマスイブだ。
「ったくもー、どうせだったら24日に生まれてくれれば良かったのに!」
残り1枚となってしまったカレンダーには、可愛らしいサンタクロースのイラストが描かれている。伸はカレンダーに毒づきながら冷蔵庫を開け、手早く中を整理すると、空いたスペースにプティング型をしまい込んだ。
クリスマス前を目安に冬期休暇に入る学生とは違って、社会人はクリスマスだろうとクリスマスイブだろうと平日ならば仕事がある。キリスト教圏ではない日本では、クリスマスはただの商業イベントだ。プライベートを仕事に優先させる事は許されない。
にも拘わらず、12月に入る前から街は既にクリスマス一色だった。まったく勘弁して欲しい。これじゃ祝わない訳にはいかないじゃないか。
それでも前日が祝日なのは幸いだった。今日の内に下準備を終えてしまえば、明日はなんとかなるだろう。
冷蔵庫の中には下ごしらえを終えた食材がぎっしり詰め込まれている。後はターキーを焼いてグラタンに火を入れるだけだ。ケーキは明日は朝の内に焼いていって、残業を(できるだけ)しないで帰ってくれば、なんとかなるだろう。
よし、とエプロンを外して振り返ると、部屋の隅で自己主張しているドでかいもみの木が目に入る。
天井に届きそうなそれは、どう考えても3LDKのマンションにはそぐわない。どうすんだこれ、と届いたその日、伸は同居人と大喧嘩をした。金を出したのが同居人だからいいってものではない。木は生きているのだ。成長するし世話だってしなければならない。何より場所を取る。邪魔だ。
結局、クリスマスが終わったら人に譲るから、と押し切られた。
「アリスもクリスマスはでっかいツリーの方がいいよな?」
問われた娘が天使のような笑顔で頷いてしまえば、伸はそれ以上反論できない。腹立たしい事だが、可愛い娘と同居人はとても仲良しだ。いったいどうしてなのか、親である伸にも謎である。ベビーシッター代わりとして同居する事になった当麻は、しかし怖ろしいまでにベビーシッターとしての能力が欠如していた。このままでは娘が殺されるのではないかと、同居1日目から伸は本気で心配したものだ。それなのにアリスは当麻が大好きなのだ。今日も2人仲良く、クリスマスオーナメントを買いに出かけている。せっかく父親と一緒にいられる貴重な休日だというのに。
「……血かなぁ、やっぱり……」
本人がいたら絶対に口にしない、いや、いなくても、昔の彼ならば決して声に出したりはしなかったであろう言葉が、ぽろりと零れ落ちる。僕も浮かれてるかな、と伸は苦笑を浮かべた。
娘を連れて日本に帰ってきた時は、こんな風にクリスマスを迎えようとは想像もしていなかった。クリスマスを楽しみにしているなんて。妻と暮らしていた時だって、クリスマスはただの行事で、家族サービスでしかなかったのに―――…

「たっだいまーっ!」

元気いっぱいの声と共に娘と同居人が家に飛び込んできて、伸ははっと我に返った。
サムカッター、と大声でわめきながら、娘と買い物袋を抱えた同居人がどかどかと部屋に入ってくる。おかえり、と微笑みかけると、満面の笑顔が返ってきた。
「手洗いうがいしておいで」
「「あーい」」
歯の根が合わないのかわざとなのか、舌っ足らずの返事を唱和させて、2人は仲良く洗面所に向かう。外はよほど寒かったのだろう、2人とも頬を真っ赤に染めている。
可愛いなぁ、と伸は頬を緩めた。色合いのよく似た二対の瞳がきらきら輝いている。娘の瞳は伸のそれよりも僅かに蒼く、それはイギリスにいた頃にも時折、離れてしまった友人を伸に思い起こさせた。美しい海の色だ。
昼食は食べてきたという2人の為にココアを作る伸の横で、床に腰を下ろした2人は次々と紙袋からオーナメントを取り出していく。どでかいツリーを飾り立てる為には仕方ないとはいえ、なかなかに侮れない量だ。ツリーは引き取り手が見つかったと聞いているが、オーナメントは家で保管するしかない。意外な落とし穴だったと内心頭を抱え込んだ時だった。
「じゃーんっ!しんっ、見て見てっ!」
子供のようにはしゃいだ声を上げて、同居人が紙袋の中から取りだした物を大きく広げて見せた。
目に鮮やかな赤の布に、ふわふわの白いフェイクファーが綺麗なコントラストを描いている。それは、
「サンタ服―――っ!」
「あほかーっ!!!」
持っていたミルク鍋を取り落とさなかったのは幸いだった。
柳眉を逆立てた伸に、同居人は「だって伸ちゃーんっ」と笑い転げながら床を逃げた。
「めっちゃ可愛ええサンタドレスあってん。アリスに着せよ思てな。したら店員さんが、お父さんもお揃いでいかがですか、ってな」
お父さん言われたら買わないわけにいかないやん。
よくわからない理屈を捏ねながら、同居人はホラ見て、と同じ袋の中から別の服を取り出す。
それは幼児サイズのワンピースだった。やはり色鮮やかな赤に染められ、襟と手首、そしてふわりと広がったスカートの裾に真っ白なファーが飾られている。白いボタンには雪の結晶が銀色に描かれ、布地には一面朱金の糸で刺繍が施されていた。そこかしこに縫いつけられたリボンは小さく、上品に配置されている。子供用らしいハイウェスト切替のスカートはたっぷりと生地がとられ、綺麗なドレープを描いていた。
「そんでな、お揃いの靴がまたごっつ可愛らしくてな」
うきうきと取り出されたブーツは片手に乗るほど小さくて、それだけでほんわかとした気持ちにさせる可愛らしさだ。
「極めつけ!サンタ帽子!これがもう、アリスの髪にそりゃ綺麗に映えてなー!お店の人達みぃんな振り替えって、ため息ついとったわ。なー、アリス?」
「……試着させたのかお前」
「だって似たようなのいくつかあってん。全部買うて帰ろ思たんやけど、伸ちゃんまた怒る思てな。一番似合うのだけ買ってきた」
えへへー、と、同居人は幸せそうな顔で笑う。
そりゃ幸せだろう、と、伸は剣呑に目を細めた。自分が言うのは何だがアリスは可愛い。そんじょそこらの子タレなど目じゃないほどに可愛い。そうでなくてもサンタ服など萌えアイテムの筆頭なのだ。まだ1人で着替えのできないアリスに、嬉々として着せ替えをしている店員の姿が目に見えるようだ。
「心配せんでも、ちゃんと伸の分も買ってきたから」
「―――は?」
「だって俺とアリスだけサンタ服着てたら伸ちゃん仲間はずれで可哀想だし!」
「はい?」
「大丈夫、ちゃんと伸の分も吟味して選んできたから!ぜーったい、よく似合う!」
「―――…」

ふるふるふる。拳が震えた。頬を引きつらせながら、それでも伸は精一杯耐える。この場には娘もいる。買ってきたオーナメントを手に幸せそうに笑っている。娘はまだ幼い。この年の子供に暴力的な場面は見せるべきではない。情操発育に悪影響を与えてしまう。

「俺なー、サンタ服着た伸とクリスマスのお祝いするの夢やってん。あー、早く明日にならないかなー!」
理性の糸を99.9%切り裂くような発言をして、同居人はサンタ服を抱きしめ、すりすりと頬ずりをしている。最後の0.1%を死守すべくその光景から目を逸らし、伸は2人のマグカップにココアを注いだ。
「アリスが寝た後、覚えとけ……!」
聞こえないように小声で呟いて、同居人のカップに砂糖を追加する。せいぜい今の内に甘い夢でも見てるがいい。

……この年になってよもやサンタ服を着るハメになろうとは。

目眩がするような思いで娘を抱き上げると、娘は手にしていたオーナメントを笑顔と共に伸に差し出した。
トナカイの引くそりに乗った、白い髭のサンタクロース。
「ぱぱ、しゃんたしゃん」
苺色をした唇が弾んだ声を紡いだ。指先に触れた掌はまだ冷たい。その手をそおっと包み込んで、伸はやれやれと苦笑する。

夜になってこの子が寝たら。そうしたら、とりあえずあのふざけた同居人に蹴りを入れて。
そうして。
(―――ま、明日なら。クリスマスイブだし、ちょっと着てやるくらいは、してもいいかな…)



僕も甘くなったよなぁ、と、しみじみとため息をつく。
当麻と過ごす数年ぶりのクリスマスイブまで、カウントダウンが始まっていた。


[344] えーー!もったいない! 名前:M瓜 MAIL URL 投稿日:2005年12月20日 (火) 06時25分

本当にもったいないー!!なんか皆さんに申し訳ないです・・。
更新チェック・・・。私、普通のお勤めの人と逆の生活だからDMさんの更新と相性悪いんですよー!!平日も見てない時に限って更新してるし!ひどーいーー!!・・は、すみません。ここで叫んでどうする。も本当に連携プレイでもしないと、全部チェックすんのは無理ですよね・・。ひどいわー。


[343] そうそう 名前:まさと@やっと昼休み MAIL URL 投稿日:2005年12月19日 (月) 12時32分

御題の方の。毎日チェックしてるんだけどなぁ。
今のところ再アップの時に拝見しているのを含めると打率7割位です。……いっそメッセか携帯使って連絡網回しません?(笑)
おほしさまは公開はしないですよー。M瓜さんのネタだもん。M瓜さんが見て笑ってくれれば満足なの。


[342] DMさんの 名前:M瓜 MAIL URL 投稿日:2005年12月19日 (月) 11時17分

お題の方の?私は何とか読めました。でも殆ど逃してます・・。
ばかっぷる兼ばか親ズっていいなー。エプロンドレス、当麻やりそうですね。絶対やるよね。
これ、公開しないんですか?もったいない。早く上げて下さいよ〜。


[341] 全然関係ないけど 名前:まさと@もうすぐ出社 MAIL URL 投稿日:2005年12月19日 (月) 06時44分

だてもうりすたいる様の更新見逃したッポイ……(滂沱)22日からのクリスマス更新は頑張って見つけよう。でも私はクリスマス何も更新できないなぁ。おほしさま、クリスマスのところまで書けばいいかなぁ(M瓜さん限定クリスマス更新)
羽柴は張り切ってツリー買ってくると思います。でかいやつ。邪魔なの!そんで「こんなのどこに置くんだー!!!」とマンション住まいの伸に激怒されると良いと思います。
若い頃はそれで小さいのに交換とかさせられてたんだけど、今はアリスがいるから、毛利もちょっと弱いといいなと思います。
うわ、アリスがいると妄想の幅が広がるなあっ!
でも爛れた話に持ち込みづらいのが辛いなぁ…っ!(腐ってる)


[340] そういえば 名前:まさと@お遊び中 MAIL URL 投稿日:2005年12月17日 (土) 17時17分

髪の毛の色よりも緑がかってるな、当麻。一般的には青で通ってますけど、じゃあ、当麻の眼の色が青緑で、伸が翠、アリスが光の加減でどちらにもなる色(基本は伸と同じ色)ってどうでしょう?
呼び方。あり子なんて呼んだら、「僕の娘は昆虫じゃない!!!」と伸が怒るんじゃないかな(笑)アリ、でも多分怒るでしょう。そんな3人もかわゆいかも。
そして、アリスと言えばエプロンドレス!とエプロンドレスを大量に(ネットで)買い込んで、伸にどやされると良いと思います。
「いったいいくら使ったんだこのバカ!しかも似たようなのばっかり買いやがって!」
「いいやん!俺の金やん!それにな、これとこれはな、ここがちゃうねん!これがあーなってこーなってやな…」(関西弁わかんない…でもここは絶対関西弁で抗弁して欲しい!)
「アホかー!!!」
……でも、実際に着せてみるとめちゃめちゃ似合ってて、二人してほんわかするの。ばかっぷる兼バカ親ズ。

って、だめですか?(その前にそこまで書くのにどれくらいかかるんだろう私…)


[339] 目の色 名前:M瓜 MAIL URL 投稿日:2005年12月17日 (土) 06時53分

伸と同じってイメージでしたが、伸と当麻の・・って有りですね!来亜さん曰く当麻の目の色も緑で伸と一緒らしいですよ。資料見せてもらったら髪の毛より緑がかってました。「海の色〜v」と萌えたんですが。一般的には青で通ってますよね。
アリスの場合は呼び捨てかな。「あっちゃん」はちょっと。(自分と被るので--;)ありちゃん、あり子、じゃ変だしなー。(変で伸が怒る?)


[338] アリスちゃん 名前:まさと@崩壊寸前 MAIL URL 投稿日:2005年12月16日 (金) 23時56分

アリスなら呼び名もアリスですよね?あーちゃんとかあっちゃんとか?……は、イメージ違うかな。やっぱりアリス、またはアリスちゃん。呼び捨ての方が響きが綺麗かな。
……てか今、当麻があっちゃんとか呼んでるのを聞いて伸が死ぬ程嫌そうな顔をして蹴りを入れてる場面が思い浮かびました…。「だって仲良しはあだ名で呼びあうだろー!」とか言い訳する当麻に、「じゃあお前はこれからとんまだ、僕たち仲良しだもんな、いいよな、とんま!?」とか意地悪を言う伸ちゃん。……すいません、私壊れてます。早く寝よう。

あ、そういえば瞳、翠で良かったですか?髪は金髪だったような記憶があったんですけど……。
でも私、キャロルの影響で、アリスと言ったら金髪碧眼という気もするんですよね。緑より青の方が綺麗かな?当麻の瞳の色と同じか……或いは、伸と当麻の瞳の色を混ぜ合わせたみたいな青緑色で、光の反射角度によって色彩が変わるとか。
でも伸とお揃いの緑というのもネタ的には良いしなー。
どうしましょう?


[337] 名前 名前:M瓜 MAIL URL 投稿日:2005年12月16日 (金) 20時24分

坂井さん案で良さそうなのあったらそれでも良いですから!


[336] 当麻のベビーシッター 名前:M瓜 MAIL URL 投稿日:2005年12月16日 (金) 20時23分

それは、危険ですね。
髪の色も目の色も全然問題ないですよー。
名前はね、ベタですがアリスなのー!(・・決まってたらしい)


[335] 子持ち。 名前:まさと@現実逃避中 MAIL URL 投稿日:2005年12月15日 (木) 12時52分

伸ちゃんのお姫様、金髪(と亜麻色の混ざった髪)で良かったですか?
瞳は翠でいいかなぁ?
名前は何にしましょう?愛称でもいいんだけど…

ベビーシッター当麻を書きたくて書き始めたんだけど、そこまでいけそうもないと今頃気付いた……まぁ現実逃避中だし(ふっ)M瓜さんしか見てないし。いっか。
ベビーシッター当麻はなんかトンデモな事をいっぱいやらかしそうで怖いナーと思います。ちなみにうちの父親は、私のあせもにメンソールを塗り混んだ経歴の持ち主です。火がついたように泣いたらしいです、私(笑)


[334] きゃーー! 名前:M瓜 MAIL URL 投稿日:2005年12月15日 (木) 11時20分

ありがとうありがとう!子持ち伸だーー!わーいわーい!もう直すとこなんてないですよ!ありがとーー!


[333] お星様ひとつだけ3 名前:まさと@現実逃避中 MAIL URL 投稿日:2005年12月14日 (水) 18時02分

厨房の奥にある休憩用の和室は、その大半を、布団付きのテーブルによって占められていた。
裏返すと麻雀卓になる天板には見覚えのある傷がいくつも刻まれている。確かこれは学生時代によんきゅっぱで買ったアレの筈だ。それがなんでここに、と眉根を寄せた当麻に、ビールを運ぼうとしていた鈴恵が「伸兄がくれたの。開店記念に」と笑った。鈴恵は秀のすぐ下の妹で、兄の親友に猫可愛がりされている。
「粗大ゴミに出す金が勿体なかったんだろ」
鈴恵の好意的な意見を、しかし秀はあっさりそう切り捨てた。おそらくは秀の言葉の方が正しいんだろう、と当麻はこっそり考える。秀の親友は金持ちのくせにケチだった。女手に育てられたせいだろうか。
(それともちょっとは、思い出とか、感じてくれてたかな…)
そんな事を考えて、まさかねと苦笑する。
ぼんやりしている間に、秀はさっさと部屋に上がっていた。コタツに片手を突いて、反対側を覗き込む。
その口元が、ふわりと綻んだ。
「寝ちまってるわ」
しぃ、と秀が人差し指を立てる。当麻は足音を忍ばせてそおっと部屋に上がると、秀の肩越しにコタツの向こう側を覗き込んだ。

(―――あ…)

最初に、ふわふわと波打つ髪が見えた。亜麻色と金色が混ざり合った、淡い色合いをしている。
それから、握りしめられたぷくぷくの拳が目に入る。小さな、作り物のようなてのひら。間接の辺りがうっすらと桃色に染まっているのがやけに可愛らしい。
秀が布団で覆ってやった肩は、細くて、ちょっと力を入れて押したら折れてしまいそうだった。
赤ん坊と子供の中間にいるような、いとけない幼女。

「……伸の、姫サン」

柔らかい声音で秀が告げる。
優しい瞳をしていた。可愛くて仕方ない気持ちがそのまま伝わる、穏やかな視線。
それから秀は当麻の頭をぽんぽんと叩くと、
「じゃ、後でなんか持ってきてやっから、大人しくしてろな」
まるで小さな子供をあやすような台詞を口にして、せわしなく店へと戻っていった。
壁を2つ挟んだ向こうでは、そろそろ入り始めた客の声がざわざわと地鳴りのように響いている。もぞもぞとコタツの中に膝を突っ込んで、当麻は角の向こうの小さな頭をじいっと見つめた。
彼女は寝る前まで絵を描いていたらしい。小さな掌に握りしめられているのは、緑色のクレヨンだ。
枕元のスケッチブックには、前衛的な色とタッチで何かが描かれていた。多分人間だろう。茶色の線が髪の毛で緑の丸が瞳。彼女が世界中で一番大好きな人の姿だ。
この絵を見て伸はどんな顔をするんだろうか、と想像したら、なんだか切ないような微笑ましいような表現できない感情がこみ上げてきて、当麻はひっそりと笑った。
そろりと身体を倒して、畳に寝そべってみる。間近で覗き込むと、お姫様は健やかに寝息を立てていた。くぴ、くぴ、と鼻が鳴っている。くっきりと影を落とす長い睫は髪よりも少し濃い色をした綺麗な亜麻色だ。
どう見ても白色人種なのに、それでもやはり、伸に似ていた。
ガキは苦手だと公言して憚らない当麻から見ても、とても可愛らしい。マザコンでシスコンの伸が、その大切な母や姉を日本に置いて、それでもイギリスに留まり続けた理由がよくわかる。

大学を卒業したら帰国する筈だった同居人―――伸、を、そのままイギリスに引き止めさせたのが、目の前のこの子の存在だった。母親の胎内に細胞分裂を始めたばかりのこの子が宿り、伸は帰国を取りやめた。いわゆるできちゃった婚という奴だ。恋しい相手を手に入れる為の、普遍的且つ強力なワザである。とはいえ、たった一度の誘惑で見事大当たりを引き当てたのだから、伸の元妻は凄まじい強運と精神力の持ち主ではあった。
彼女に伸を奪われた時、当麻は心底、女は怖いと感じたものだ。欲しいものを手に入れる為ならなりふり構わない。気持ちで負けたとは思わないが、行動では完敗だった。彼女の巡らせた謀略の数々は一歩間違えば伸に嫌われかねないぎりぎりの手段だったはずだ。そうまでしても伸を手に入れようとする執念はいっそ清々しいほどで、秀をして「あれなら伸と張り合えるかもなぁ」と言わしめたほどだ。
しかし、離婚を切り出したのはその彼女の方だったというのだから、世の中はなかなか奥深い。
離婚後伸は娘を連れて日本に戻った(その連絡はメールで仲間達に伝えられているそうなのだが、メールチェックを怠っていた当麻はそのメールも見ていない)。転職先は以前に比べれば比較的時間に余裕があるらしく、家政婦を雇って何とか凌げているらしい。それでも接待で遅くなる時には、今日のように秀の店を使うのだそうだ。接待の間娘を休憩室で待たせておけば、ちょこちょこ様子を見に来る事が(伸だけでなく秀や鈴恵も)できるし、仕事が終わったらそのまま即娘の側に行く事ができる。秀としても開店したばかりで、コンスタントに客を連れてきて貰えるならば有り難い話である。
持ちつ持たれつ、という訳だった。


[332] お星様ひとつだけ2 名前:まさと@現実逃避中 MAIL URL 投稿日:2005年12月14日 (水) 18時01分

当麻はフットワークが軽い。と言えば聞こえはいいが、要はいつでもふらふらとしている。
”出かける”と”帰宅する”の区分けが非常に曖昧なのだ。自宅を倉庫か物置小屋と勘違いしている上に物に対する執着もないから、ふらりと放り出していく。出かける、という意識自体がない。そして、それをおかしいと考える常識も持ち合わせていない。
帰国しようかな、と思い立ってから24時間しない内に、当麻は日本に降り立っていた。旧友の携帯に電話を入れたのは日本に着いてからの事だ。
かけた相手はなかなか出なかった。ふと気付いて時計を見ると、午後5時に差し掛かっていた。旧友は料理人をしている。そろそろ忙しい時間に入るのかもしれない。ただ、厨房に入る時に携帯の電源を切るから、おそらくは雑用を片付けているのだろう。留守電にメッセージを入れておけば1時間以内には聞くはずだ。
電子音を聞きながら待っていると、留守録モードに切り替わったすぐ後に本人が電話に出た。
「もしもし、当麻か?」
表示を見たのだろう、名指しで問うてきた声は、相変わらず溌剌と明るかった。旧友は昔から元気いっぱいの男だ。限りなく内向系の当麻とは、本来ならば棲む世界そのものが違う。出会い方が違っていたら言葉も交わさずに一生を終えたかもしれない。
―――そういえば昔、”彼”も似たような事を言っていた。
ふと思い出して当麻は小さく笑う。
胸は、それほど痛まなかった。代わりに温かい感情が沸き上がる。あの時彼は、「君もね」と続けたのだ。
「久しぶりだな」
懐かしさにほんわりとしながら挨拶をする。久しぶりも久しぶり、実は生の声を聞くのは数年ぶりなのだが、その辺の感慨はあまりない。のほほんとした当麻に、なんだよお前、この忙しい時に。と、通話口で秀がぼやいた。
「時差考えて電話かけてこいよ」
「いや、日本にいるし。でさぁ、突然で悪いけど、泊めてくれないか?」
「は?なに、お前、帰ってきてんの?」
素っ頓狂な声で聞き返した後、秀は一拍置いて、「ホントお前って…」と呆れた声で呟いた。
「いつ帰ってきたんだ?」
「今着いた」
「今って―――空港にいんのか? まぁ、お前にしちゃ上等だな」
受話器の向こうで秀が大きなため息をついた。
当麻と秀とは長い付き合いになる。子供の頃の当麻は、来訪前に連絡をするという発想を自体持ち合わせていなかった。相変わらずズレまくってはいるが、それなりに成長したのだろう、この男も。
「今日は上がんの遅くなりそうなんだよ。店来て待っててくれっか?場所言うぞ」
「え、いや、知ってる」
「独立したんだよ!お前、またメールチェックさぼったな!」
声を張り上げた秀に、当麻は「う」と言葉を詰まらせた。
秀の言う通り、プライベート用のアドレスに届くメールを、当麻はあまりこまめにチェックしない。……昔そのアドレスに届いたある1通のメールが、今もトラウマとなっているのだ。メールの内容を理解した時の衝撃から未だに立ち直れていない。
だったらアドレスを変えればいいものを、変更連絡をするのが面倒で結局そのまま残してある。今や特定の人間しか使わなくなってしまったアドレスだ。
悪い、と口の中でもごもご言い訳をした当麻にちっと舌打ちをして、秀は少し早口で都内郊外の地番を告げた。わかった、と答えると、飯喰ったか?と聞かれる。
「いや、まだ」
「賄いもんでよけりゃ喰わせてやるよ。とっとと来な」
「おお!」
ぱあっと顔を輝かせた当麻の表情が見えたかのように、くくっと受話器の向こうで秀が笑った。そして。

「しっかし、タイミングいーなお前。も少ししたら伸がお姫様連れてうち来るぜ」

―――超弩級の爆弾をぶち込んでから、「じゃーな」と電話を切った。
後には、手の中の携帯を見つめて呆然と立ち尽くす当麻だけが残った。


[331] お星様ひとつだけ1 名前:まさと@現実逃避中 MAIL URL 投稿日:2005年12月14日 (水) 18時01分

帰国しようかな、と考えたのは、街がノエルの飾り付けできらきらと輝き出した頃だった。
祖国の11月は暦の上では秋にあたるが、クリスマス商戦が始まれば立派に冬である。
冬と言えばこたつだなぁ、と思ったら、芋蔓式に色んな事を思い出した。丁度仕事が途切れて次の契約をどうしようかと考えていた時期でもあった。
記憶にある一番最後のコタツは、学生時代に買った独身家庭用の小さい奴だ。
成人する前当麻は同じ学校に通う1つ年上の友人と同居していて、コタツは同居人を拝み倒して買った物だった。金を出したのは当麻だったのだが、暮らしていたマンションは同居人の所有で当麻はいわば居候の身だったのだ。コタツなどというでかくて邪魔な代物を勝手に買う訳にはいかなかった。
コタツが欲しいという当麻の主張に、同居人は「散らかるだろ」とこの上もなく嫌そうな顔をした(彼は綺麗好きだったが掃除は好きではなかった)が、1ヶ月に渡って拝み倒され、渋々頷いた。
同居人の懸念通り、冬中コタツの周囲には何とも気の抜けた空気が漂い、ありとあらゆるモノが散乱する結果となった。けれど同時に、コタツ目当ての来訪者も増えた。狭い箱の中に数人の男共が足先を突っ込み、だらしなく友好を深める。親しい人間にはこの上もなく甘かった同居人は、まぁこれはこれで悪くないかな、と呟いていた。
その同居人は、卒業を待たずにイギリスの大学に留学してしまい、おまけにそこで金髪美人に捕まってそのまま洋風の生活に突入してしまったから、おそらくは彼にとってもあのコタツが最後のコタツだっただろう。
そう思ったら無性にコタツが恋しくてたまらなくなって、帰国しようかな、と思ったのだ。




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