まだ、有名には程遠い。
メジャーデビューなんて夢のまた夢。
歌は・・・・まだ楽しい。
「ただいま、メル」
「おかえり」
「また家から出なかったのか」
「うん・・・やること無いから・・・・」
「飯食った?」
「いらない。お腹空いてないから」
どうして俺達はこうなんだ・・・・
そんな中、チャンスが訪れた。
単独ライブができることになった。
小さなライブハウス。それでも大事なステージだ。
俺の、最高のステージを。
「なあ、メル。頼みがある」
「何?」
「今度、単独ライブをやるんだ」
「うん」
「宣伝を手伝ってくれるか?」
「いいよ。何をすればいいの?」
「ライブの告知ビラを配るんだ」
「できるかな・・・」
「できるさ」
「・・・・・うん。私、一生懸命がんばるよ!」
「ねえ、ジャス。手紙は手書きが良いよ」
「て、手書きってメル・・・・」
「1枚1枚、手書きだよ」
「確かにパソコンやプリンターなんか無いけど、コピーで・・・」
「手書きの手紙は心がこもるんだよ」
「・・・・・ものすごい数になるんだが」
「うん。ジャスならできるよ」
「ハァ・・・・・」
歌の練習そっちのけで手紙を書き続け、全部書き終えるのに3日かかった。
しかし、メルはその手紙をたった一人で全部配りきったのだ。
これまで見たことが無いほど生き生きと。
今回の件は俺だけでなく、メルも変わるきっかけだったのかもしれない。
そして、その時は来た。
ステージに上がった俺は驚いた。
ライブハウス一杯、あふれんばかりの客の数が。
今までには感じなかった、心地よい熱気。
熱心に聴き、参加してくれる観客の為に俺は歌った。
「おめでとう、ジャス。大成功だったね」
「ああ。それよりメル、ミサンガって知ってるか?」
「ん?」
「客のほとんどが着けてたんだ。白黒の」
「あ、それアタシの手作り。手紙に入れておいたんだ」
「じゃああの観客達のほとんどが・・・・」
「そうだね」
「手紙だけであんなに反響が・・・・メルのお陰だな」
「ううん。ジャスの心だよ。あたしはその心を届けただけ」
「ふうん、心を届ける?」
「うん、そう思った。手紙は書き手の心を読む人に届ける。
配達はその手伝いだって」
「手紙運ぶの、好きか?」
「うん、大好き。だってすごく楽しかったんだもん」
「これは俺の思いつきだけどさ。それを仕事にしないか?」
「・・・・・・うん、そうする。そうしたい」
あれはきっとメルの特技なんだ。
心を届ける、という事が郵便という仕事において
どれほど強力な力を発揮すると思う?
<コメント>
ジャスティスのサクセスストーリーと思わせて、
実は引き籠もりメルの変化の話です。
タイトルは某漫画の言葉から。
「ジャス」という呼び方についてですが、本当は
「ジャスティ」と呼ばせたかったです。微妙なんでやめましたが。
もしかして、メルって一人称を「僕」にするとものすごく萌えるんじゃあ・・・・