「ねえ,ジャック」
「ん?どうした,壱?」
「私,ずっとジャックと一緒に居たいノ」
「おおそうか。じゃあずっと,な」
いったいどっちの感覚で『ずっと』と言えば良いものやら。
壱にとっての『ずっと』は俺が生きらんねえくらいずっとだし,
俺にとっての『ずっと』は壱には一瞬だもんな…………
やめやめ。この話やめて,もう寝よう。
壱は俺より早起きだ。起きるとすぐに歌を唄う。
昔は血の涙を流す歌なんかを唄っていたが,今日は愛する男を想う歌だった。
……最近おかしいと思っていたがついにイカレたようだ。
そういえば,花に対する扱いも変わってきた。
前は花を人形に見立てて遊んでいたんだ。
「頭をモぐ,足をヘシ折る」と言いながら。
でも,だんだん花を眺めるようになってきた。
この前,花を根っこから引き抜いていた時には
「ああ,やっと壱らしくなったか」と思ったら,それを束ねて俺に渡した。
なんなんだいったい。
「おーい,壱ー。そろそろ整備でもしてやるよ」
「ううん,いい。自分でやるカら」
「そうか。ほら,道具」
「じゃあ向こうでやル,覗かないでネ」
い,今の表情は何だ?
まるで恥ずかしいみたいじゃないか。
………………………………?
「あっ」
そうか,昨日の話はそういうことだったのか。
じゃあ最近の壱の行動は…………
俺,今の壱なら好きになってもいいかも。
「私の頬を涙が伝うわ 紅の奇妙な涙,止め処なく
ああぁ,痛い 焼かれる 私の目から血の涙………」
壱の事を想うと血の涙の歌を唄いたくなった。
聞き取れない部分が多かったのに,なんだか全部唄えそうだ。
しかし,今朝の愛する男を想う歌を唄った方がよかったかもしれない。
壱が耳を劈かんばかりの大声で一緒に唄い出した。
【コメント】
某所で出した文章がウケたので,それを元にして小説を書きました。
もっと壱の妙のセリフを多くしたかった。またこんど,ね。
血の涙とかは僕が持つあさき氏のイメージです。
・・・あさきファンのみなさん、ごめんなさい。結して変な意味じゃないです。
「奇妙な味の」という部分は「奇妙な果実」という音楽からとっています。