ツララにとって貧血で倒れて保健室に運ばれるのはいつものことだった。
しかし，今日は校内ではなく登校中に倒れたはずだ。
なのに今、保健室にいる。それがなぜかわからなかった。




「あ，おはようございます。大丈夫ですか？」

起きあがった途端に声をかけられ，ツララは目を丸くして驚いた。
敵意の無い笑顔を返される。同じクラスのハヤトだ。

「ハヤト君。どうしてここに？」
「居なくちゃいけないと思って………今日，保健の先生いらっしゃらなくて…………」

言い訳っぽく説明する。
この時点でツララは何があったのか理解できた。
そういえば倒れる時、近くにハヤトが居たはずだ。

ふと時計を見ると，とっくに１時間目の授業は始まっている。
優等生のハヤトの事だ。教室に戻りたかっただろう。
「また迷惑かけちゃったなぁ……」
「え？」
「私，体が弱くていつも人に迷惑かけて……」
「僕は世話を焼いたんだと思っていますけど」
「どっちにしても」
「ストップ。僕はツララさんになら迷惑をかけられてもいいです」
「どうしてそんなこと」
「ツララさんのことが好きだから，です」
「！　………………」
「勢いで言っているんじゃないですよ。好きです」
「……………………………」
「駄目ですか？」
「……今日，一緒に帰りましょ。返事はその時に，ね」


一緒に帰る約束をしている事自体がOKの返事なのだが，ハヤトは少し落ち込んでいる。
ツララは好きですと言いたい気持ちを抑えつつベッドを降りた。
ハヤトに手をとってもらいながら………



















【コメント】
ツララは中学生で，ハヤトと同級生という設定です。
こんな優等生キャラが書きたかったんです！

（上のハヤツラとは違う話です）

私は恋してる。隣のクラスのハヤト君に。
「好き。すっごく好き」


ハヤト君は毎日公園でスケボーをしている。
私は通りがかって，ちょっと見るだけ。
近くで見るのは恥ずかしいし，私の事を知らないと思うし。
でも。いつかは話したい。
そんな事に憧れている。






今日もいる。
でもなんだか今日はいつもよりかっこいい・・・・・
早く帰らないと見つかっちゃう。でも・・・・・
あっ！


「ハヤト君。大丈夫!?」
「はい，ちょっと転んだだけです」
「て，手のひらすりむいてる。ちょっと待ってて」

かばんから水を出してハンカチを濡らした。

「しみるわよ」
「はい」
「・・・痛い？」
「いえ」

ものすごくドキドキして，震えてきた。

「血が止まるまでハンカチで押さえていて。じゃ」
「あ，あの・・・・」


私は走った。振り向かずに走り続けた。








「話しちゃった。ハヤト君と。でも，もっと話したかったなあ」

　ピンポーン

「はい」
誰かしらこんな時間に


「こんばんは。夜中にすいません」
「は，ハヤト君！」
「ハンカチお返しします。洗っておきました」
「どうして私の家を？」
「そ，それは・・・・」
「あ，ううん。怒ってるんじゃないの。それより，私の事を知ってたの？」
「はい。隣のクラスで，それに・・・・」
「それに？」
「いえ。すいません，じゃあ」
「待って！」
「え？」
「明日，公園で見てていい？」
「はい，いいですよ。じゃあ明日。おやすみなさい」


笑顔を残して帰るハヤト君の姿が，一晩中目に焼き付いていた。





















＜コメント＞
以前書いたハヤツラとは違う出会いを書いてみたくて書いてみました。
少々荒いですが，「ケガの手当」はずっと前からやらせたいと思っていました。
ハヤトはいつもと変わらずって感じです。
ツララは少し恥ずかしがり屋な乙女だけど，しっかりもの。
他の方々のハヤツラとは大きく違うようです。